第五十二話 気持ちに触れる朝日
祝賀会・打ち上げと言っても最初から飲み食いするわけではなかった。対抗戦の時のように会館内の壇上に何人かが入れ替わりながら話をしていく。改めてギルドとして貢献してくれたメンバーに感謝を伝えた京極寺さんから始まり、各地区の代表のあいさつや市の関係者まで簡単に話をする。内容については形式的な挨拶以外は興味深いもので暴走が起こってから今に至るまで混乱のさ中、どうやってこのギルドがまとまってきたのか、その間に起こった問題などが語られちょっとした歴史に触れることができた。市の方もギルドを法人のように扱っていること、ギルドに依頼を通す件数がどんどん増えていること、魚崎市だけではなく全国区でそのような動きが広まっていることが分かった。
「ではみなさん、長らくお待たせしました。後の時間はご自由に交流を楽しんでください」
京極寺さんの最後の締めとともに飲み物と料理が運ばれてきた。ホテルで行われるわけでもなければ食材だって流通に制限があるはずだが地元でとれた魚介類を始め、果物、肉料理まで用意されている。さながら立食パーティーのような雰囲気になった。
「佐伯水面ちゃんだっけ、ちょっといいかな。リーダーが呼んでいたよ」
「あ、そうかそうか。わかりました!」
「あと水鳥川花耶さんは……」
「私です」
「水鳥川さんも一緒に来てもらっていいかな」
「わかりました」
どうやら水面ちゃんと花耶が京極寺さんに呼ばれているようだった。この二人が直接呼ばれるなんてかなり気になるが、聞いていいものだろうか、聞くとしても何気なく軽い感じで「どうしたの?」とでも言ってみるものか、などと考えていたら、
「多分大丈夫だから。せっかくのパーティーだしリョーマは楽しんでて」
「あ、ああ。そうするよ。またあとで」
「うん」
「あの二人が一緒に……ですか。同じ日に任務とかあるんでしょうか」
アキラちゃんも少しだけ気になっていたようだ
「でも京極寺さんに直接呼ばれるってことは普通の任務じゃないような…… それなら直接の所属会館で話をすればいいだけだし」
「そうですよねぇ。あっ!!」
「えっ? 何!?」
「あ、いえ、なんでもないです。おそらく……、はい」
なんだろう、勝手に一人で納得してしまったがそんな意味深なこと言いかけられたら余計に気になってしまう。でも、ここで追及するのもなんかなぁなどと思っていた。それに今はみんなで楽しむべき時、できたら新しく誰かと話しておくべき時間だから、
「よし! いったん忘れよう。とりあえずまずは料理を少し食べる、そして挨拶でも言っていたようににギルドの人達と少しでも交流を深めよう」
「おお! なんだかやる気ですね」
「まあね」
そうだ。せっかくこの祝賀会に呼んでもらったのに必要以上に考え事していてももったいない。
「あの~……」
「ん? あっ先日はどうも」
「いえいえ、っていうか敬語なんてよそよそしいよ、ですよ?」
「いや、お前喋り方変になってるって」
「じゃあ健二が見本見せてよ」
「見本の意味おかしくない?」
前に訓練で戦った3人組だ。確か二人は違う学区の同い年でもう一人は後輩だとか。せっかく話しかけてくれたのに向こうはどう切り出していいかってところでちょっとしたコントを始めてしまった。だから、
「えっと…… じゃあ俺から改めて自己紹介」
あまり話したことが無い相手に対してはどうしても敬語の方が話しやすいが多分今はこういった話し方の方いいのだろう。自己紹介を済ませ、アキラちゃんも続いてくれた。
「……というわけで礼奈と健二と私はずっと腐れ縁みたいな感じでね、一緒にROADもやっていてそれであの日を迎えて今に至るってわけ。まさかギルドでも一緒だとわね~、あっそうだギルドの登録は済んだ?」
「登録?」
いかん、普通だった頃のROADでもギルドに入っていたのはほんの最初だけでその後、何回もアップデートしたから使い方があやふやだった。
「一応ゲーム内のギルドの登録と京極寺組での登録はリンクされているからな。確認しておいたほうが便利だと思うぞ」
「アキラちゃん、ギルドの確認の仕方分かる?」
「私もちょっとそういうシステムは疎くて……」
「えーと、端末はある?」
ポケットからゲームの各情報をすぐに見ることができる端末を取り出す。自分視点のみならそんなことをする必要はないが複数の人に見せる時はこれがあった方が便利だ。
「このメニューのプロフィール欄の下から3番目の……」
なるほど、普段全く見ないような場所に所属ギルドとそこでの成績などが表示されるようだ。
「あー、まだ承認していないようだね、そっちは……そっちも未承認だね」
「この承認を選択するとどうなるの?」
「一応八雲君も全ちゃんもギルドの一覧には載っているからこれでギルド・プレイヤー相互から所属を確認したことになる」
まあ、今更だけどここに来てからずっと京極寺組には所属している気でいたから問題ないな。
「じゃあ一緒に承認しようか」
「そうですね」
承認を選択する。するとギルドでの成績が表示された。
『チーム対抗戦参加(1000):1
戦闘勝利回数:184
チーム対抗戦参加(7):3
戦闘勝利回数……』
「嘘、対抗戦のとこ……」
「マジか、でも噂だと俺達が戦った時よりもずっと召喚獣がデカかったようだぞ」
「っていうかそれ映像で見たし」
「あら、どうやらちゃんと楽しんでくれているようね」
「あ、リーダー!! お疲れ様です」
「そういうのはここではいいわよ。じゃあね、水鳥川さん、佐伯さん。あなた達も楽しんでいってね」
「ではお言葉に甘えて」「はーい、ありがとうございました!」
花耶と水面ちゃんを連れてきてくれた京極寺さんはいろんな人と軽い会話をしに行った。突然現れた二人に改めてどう接したらいいか3人が模索しそうなのを感じ取ったからとりあえず、
「えーと、俺の隣にいるのが水鳥川花耶でその隣が佐伯水面ちゃん」
「はじめまして、水鳥川花耶です」「佐伯水面です! よろしくお願いします!」
「あー、そんなにかしこまらなくても」
「八雲君達と一緒にこの市に戻ってきたんでしょ? ここに来る前にどんな冒険していたの?」
「俺もそれ気になる」
どこから話そうか。とりあえずまずは南に向っている最中にあの大鬼に出会ってそこで花耶に介抱されて……ってところから話し始めた。
「えーー!! ってことはここの変わりようにびっくりしたでしょ?」
「あはは、そうそう。少しだけ知らない場所に来たような感覚になったわね」
ちょっと酔っているのか花耶はいつもよりも饒舌になっているようだった。
気づけばかなり話が盛り上がり時間が経つのを忘れていた。それに3人が少しずつ他の人も紹介してくれて軽い談笑を重ねていったのでお開きの合図は本当に突然だった。
「じゃあまたな」
「うん、今日は楽しかったよ」
「こっちこそ。あ、そうだ。さっきのギルドのシステムはよく確認しておいた方がいいぞ、便利な機能もあるから」
「わかった。帰ったらじっくり見ておくよ」
「じゃあねー」
「あーん、まだこの子とおしゃべりしていたーい」
「ちょっと礼奈さん、ほっぺ伸ばさないでー」
集まった人はそれぞれのペースで帰宅をし始め、会館内の人影は徐々に少なくなる。さっきの盛り上がりが静まり返った建物を後に俺達4人も帰宅を開始する。
「ねえ、リョーマ」
「ん?」
「おぶって」
「(……)」
「聞こえなかった? おぶってよ。ちょっと飲みすぎちゃったみたい」
「ん、ああ。わかった」
「あれ、花耶おねーちゃんってお酒弱いの?」
「うーん、ちょっとね」
夜も少しだが暑さが残る。ただ、背中に伝わる熱はそれどころではなかった。
「ねえ、」
俺の首から胸辺りに賭けて腕を組んだ花耶が耳元でささやく。
「ん、どうしたの?」
「今日楽しかったね?」
「ああ、最初は少し不安だったけれどあんなに盛り上がるなんてね」
「あのさ、これからも、」
「え、何?」
ぐぅぅぅ……
「あれ? カーヤさん寝てません?」
「マジか……」
まあ徐々に力が抜けていく感触は背中にあったが、こうなったらしょうがないな。花耶の家まで負ぶっていくか。
「それにしてもさっきまであんなに騒いでいたのに静かなもんだね」
「そうだな。それに騒いでいた分、ちょっと寂しくなるね」
「あーそれわかります」
シンとした夜道、雲が限りなく少ない空をふと見上げて何とも言えない気分になる。別れ際に何か訊こうとしていたがまあいいや、と済ませた水面ちゃんと別れて花耶の家の前に着いた。誤解をされると嫌なのでアキラちゃんにも同行してもらう。
(頼む、あのどちらかが出てくれ)
「あら、竜馬君、って花耶!? どうしたのよ」
ホッと胸をなでおろしながら状況を説明した。
「あ、今寝ているので……」
「そう、ここまで連れてきてくれたのね」
「んぁ……、ここは……、あれ、お母さん? っていうか私……」
ちょうど目が覚めたようだ。まだちょっと寝ぼけているというかアルコールの影響があるようだが支えが無くても自分で普通に歩くことができた。
「じゃあ龍馬君ありがとうね」
「どういたしまして、おやすみなさい。じゃあね」
「おやすみなさーい」
帰宅後、アキラちゃんが寝静まった間にギルド情報の機能を確認した。なるほど、これなら冒険に出た後でも互いの動向などを把握することもできるし連絡も可能か。
そう、もうすぐ旅に出る。別に俺が自分で決めたことだから引き伸ばそうと思えばいくらでも引き伸ばすことができる。今日みたいな経験があるとどうしてもここにもう少しいたくなってしまうが、でも同時に変わりつつある世界を見てみたい気持ちもある。だからここは予定通りにいこう、そんなことを考えていると遂には眠気が限界まで来たので俺も寝ることにした。
*
それからは家事、ギルドの任務、残りの買い出し、訓練。あとは旅の計画と何かあった場合はどうするかなどの代案を考えた。そんなことをしていると日が過ぎるのはあっという間だった。
*
「おはようございます」
「おはよう」
毎日のあいさつのはずだが今日はなんだか特別な気がしてしまう。
「行くんですね」
「うん、アキラちゃんは大丈夫そう?」
「はい、最初から今日まで気持ちは変わりません」
「そうか、まあ何かあったら全力で守るから」
「そんな水臭い事いまさら言わないで下さいよ。私も一緒になんとかします」
本日も晴天。でも活気があるというよりはちょっと切なさを感じてしまう天気。
この日、俺達はこの市を旅立つことになっていた。




