第五十話 無事に帰るのが一番、でもしっかり届けたい
荷台での揺れもあまり気にならなくなってきた。荷物はしっかり固定されているし椅子も後付けだが用意されている。何より自分で歩かなくても景色が流れていく感覚が久々だったのが楽しい。
「帰りも無事ならいいわね」
「そういえば、行きはモンスターが出てきませんでしたね。この辺りって出現スポットじゃないんですか?」
「んー、本来は往復で少なくとも2、3回は遭遇するはずなんだけどね、この辺りは緩衝地帯になったから」
「緩衝地帯?」
「あー、最近そんな呼ばれ方をしているの、富川市と魚崎市の間は。もともと二つのギルドの間にあるってことで互いに優先的にプレイヤーを配置していたの。先日さらにここの専属プレイヤーが待機するようになったんだって」
話を聞いていた花耶も事情が気になったようで、
「先日って私達が来た辺りくらいですか?」
「いえ、その直後よ。というかチーム対抗戦の後。あの試合ってここから脱退者が出たんでしょ? 私達のギルドを出て向こうに入ったけれどもどうやら思うようにいかなかったようでこの辺りに配置させられたんだって」
(あー、確かあの時の……)
「それで仕方がないからここのモンスターの掃除を担当することになったらしいわ。私も名前は知っているけれども上位のプレイヤーみたいでね、討伐はきちんとするんだって。それにしてもなんであんなことしちゃったんだろうね……」
「まあ、なんていうか……、いろんな事情があったんでしょうね」
実際に戦った内の一人だと思うがあまり踏み込んでもなんだか雰囲気が暗くなりそうな気がした。だからこんな受け答えになってしまったがそうか、今あの人達はそんな状況だったのか、なんてことを思っていたら……
ドォォォォォォン
爆音がなり、すぐに自分の体が進行方向に思いっきり倒れるように動いてしまう。これが急ブレーキってやつか。
それにしても温かいし柔らかいし、っていうか倒れた先って……
いや、どういう状況かわかっているんだけれども、
「何!?」
「爆発ですか!?」
「あーー!! お兄ちゃんスケベーーー!!」
「これはしょうがないって!!」
二台の壁を背にして互いに向かい合わせのように座っていた座席。背のすぐ後ろには荷物が積まれているが乗り込むための空間は確保されている。そして、俺の隣、バスの運転席方向に座っていたのが花耶だった。座わりながら倒れ込んだ俺は彼女に思いっきりもたれかかってしまった。
「ごめん、わざとじゃないんだ、本当に」
「……うん、大丈夫よ」
すぐに座り直そうとする。
「あっ……」
「え?」
「いや、なんでもないわ」
とりあえず元の姿勢に戻って辺り見た。水面ちゃんは遥さんに俺が花耶にしたような感じでもたれかかっていた。
「アキラちゃんも無事みたいだね」
「はい、なんとか……」
固定されていた荷物につかまり、でも荷物自体は倒れないように器用にやり過ごしたらしい。
グラン!!
するとまたトラックは動きだす。
運転席と座席の間の窓を遥さんが開ける。
「どうしたんですか?」
「前の方に煙が上がってる! 遠くてよく見えないがデカい奴とデカい奴が戦っていて、まずい! こっちに来やがった」
「モンスターですか?」
「ああおそらく。頼めるか?」
「最初からそのつもりです、みんな、行ける?」
「「「「「はい」」」」
「少ししたら止める、その間に出てくれ! 無理はするな、危ないと思ったら引き返すし最悪これは乗り捨てる」
だんだんと減速していき止まろうとしているのが分かった。
「開錠したわ」
「いつでも行けます」
荷台の扉が開いたのと同時にちょうど止まった。すぐに飛び出し、再び施錠、トラックは一時後退した。
「まだ近づいてくるね」
「あっ!! でも後ろから攻撃されてますよ、あの誘導弾や射撃は……」
「えーっとあの時、見たロボットね。でもアレが当たっているのに倒れていないあのでかいモンスターは一体……」
「古代獣型よ」
「遥さん知っているんですか!?」
「たまに出るのよ。象の様な体躯と虎のような顔、そしてデカい牙を持った猛獣。アレにやられたの、昔。でもちょっと変ね、前よりもずっと大きくなっているし様相も変わっている」
まあ今更何が出てきても驚かなくはなってきた。だって散々知識外のことが起こってきたし初めて見る武器も実際に手にした。対抗戦で出てきたあのロボットは2機あったがなるほど、総合火力は流石だ。モンスターの方も抵抗してはいるがじりじり追いやられている。行きは安全だった理由がよくわかった。
ただ、追いやられたそのデカい獣は俺達の方に向ってきてしまった。
「このままだと戦いは必至、でも後ろにはトラックがある、やることは一つね。みんな、大丈夫かしら」
「ええ、いつでも」
各々の武器を出す。敵も完全にその様子が分かるくらいには近づいた。やはりでかい。ただ、大きさならこっちだって負けてはいないな。
双剣をサブに設定して竜を出す。メインには荊棘の槍斧。
「えっ、てk、…じゃない?」
「あ、これ僕の武器です」
「じゃあ、君が……」
咆哮が轟き俺達を完全にターゲットにとらえて駆け出してきた。あのモンスターにとっても後ろに下がれば武器のキメラが待っている。何が何でもここを突破したいようだ。だが、させない。
ハルバードを構え、双頭の竜は飛び立つ。
*
「パパ帰ってきたよ!!」
「よかった、無事のようね」
「お菓子あるんでしょ?」
「そうみたい、凛ちゃんの好きなチョコだって」
「本当!? 帰ったら食べて良い?」
「それが届くのはまた今度よ、その時の楽しみにしておきましょう」
夕暮れ前、隣の市からの物資を届けるためのトラックが無事に帰ってきたのを迎える人達がいた。流石これらの輸送はギルドの完全管轄ではないが護衛を果たす以上、ギルドのメンバーとして俺達を待つ者もいる。
「じゃあ遥さん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、御礼を言うのはこちらよ。本当に凄かったわね。助かったわ。」
「いや、そんな」
「じゃあ会館で今日の連絡を済ませたら後日報酬が届くはずだから」
「「はい」」「はーい」「わかりました」
「じゃあお疲れ様、また今度一緒に何かするときがあったらよろしくね」
「さようなら」
別れを済まし、帰り道を4人で歩く。遥さんはこれからギルドに今回の班の代表として報告しに行くようだ。
「じゃあねーーー!!」「うん、ばいばい!」「明日もよろしくお願いしますねー」
「あ、待って」
「どうしたの?」
「京極寺さんから連絡で3人に伝えることがあってね、三日後会館でパーティーだって」
「え? 何それ」
「まあ以前の対抗戦のお疲れ様会らしいわ。でもリョーマこういうのって」
「うーん、」
確かに俺は学生時代こういった打ち上げ的な集まりに行くのはかなり消極的だった。でも、さすがにそういうのは……
「いや、行くよ。花耶は?」
「私も参加させてください」
「私も行く行くー」
「よかった、じゃあ伝えておくね」
そうして二人と別れて俺達は帰宅する。それにしても花耶はいつの間に京極寺さんとそんな連絡を取り合うようになったんだろう。ま、二人で任務をした時もあったらしいしな。えーと明日は討伐で午後から港湾の護衛か。
「あ、そうだアキラちゃん」
「はい」
「明後日買い物に行くんだけど何か欲しいものとかある?」
「今は無いですけど……実際に見ると欲しいものとか浮かぶかもしれないのでついていっていいですか?」
「それもそうだな、じゃあ明後日買い出しね、予定は大丈夫?」
「午後なら大丈夫です」
「なら問題ないな」
「買い出しって、これからの旅のですか?」
「あ、鋭いね。そうだよ、もう予定の日は迫っているから」
*
「お疲れ様、どうだった護衛は?」
「問題無かったわ」
「そうか、変なのは出なかったか」
「ふふ、出たわよ」
「マジか、確認してもいい?」
「ええ、ちょっと待ってね、ログを出すわ」
「これは……!? 未確認じゃないか? というかこれって……」
「ギガントドン、だと一瞬思ったけれどもそれよりも大きいし、前に戦ったのよりも明らかに強かったわ」
「これは後で記録に追加しておくか、でもどうやって倒したんだ」
「戦闘映像もちゃんとあるわ」
報告を受けた男性がその映像を見た。空から竜が光線を吐き、次の瞬間、氷の雨がモンスターの脇腹を襲う。間髪入れず竜が下降し尾が槍のように前足に突き刺さり、蔓がどこからともなくまとわりついたと思ったら槍斧が巨体を貫いた。
今の弓は遥君のだな。この雷撃もおそらくはエレメンタルロッドの一撃だろうがそれにしても狙いがピンポイント過ぎる。この少女、確かアキラちゃんと言っていたか、凄いジャンプ力だ。
一通りの戦闘を観終わって緊張感から解放された。
「びっくりでしょ、あの人達。ま、これでひとまずあのルートは安全ね」
「ははは、そうだな。なるほど、彼らがリーダーが言っていた……」
「そうみたい。私達も負けたられないわ。ちょっと訓練しない?」
「いいけど遥君の武器はもうさんざん見たんだg…… それは!?」
「私もいい感じの素材をさっき手に入れたの」
「そうか、面白い! じゃあ日が暮れるまで頼む」
「ええ」
ギルドでは多くの人がそれぞれの一日を過ごし、また明日を迎える。そんな日々にだんだんと人々は慣れていった。




