第四十九話 日々のギルド活動
《勝者、如月》
「次、いるか? そっちは連戦可能だな?」
「はい、問題ないです」
対戦をする人、観戦する人、組み合わせを仕切り審判のように立ち回る人。
それがこの「訓練」だった。訓練と言っても大げさに考える必要はなく、参加も自由、サークルや部活の形式に近かった。対戦ルールについてもVRモードで互いに様々な状況を設定して同意のもとに行われる。
「私達三人でもいいですか」
俺が次に戦うのは同じくらいの年の男女3人組。
「ええ、大丈夫です、ただそうすると……」
「では審判だが私が参加する。ただし手出し無用、でいいかな?」
「はい、お願いします!」
この市を旅立つまでの短い間、少しでも双剣の使い方に慣れるために荒療治とまではいかないが自分一人対複数人でも戦うことがあるしむしろ1対1よりもその方が多い。ただ、複数対戦はこっちも二人以上必要なため、誰かに形だけでも入ってもらっている。また、自分も審判をすることで他の人がどういった武器をどのように扱ったりするのか学ばせてもらっていた。
「では所定位置について」
「「お願いします」」
挨拶から始まり、訓練が開始される。
戦闘をこなしていくごとに双剣【アークアナイラレーター】の特性や使い方がだんだんと分かってきた。
双剣モードの時はあの時とあまり変わらない。イメージを頭の中で描き、斬撃を射出したい場面で力を入れる。剣で風を起こすような感じだ。
変化があるとすればメインモードとサブモードの切り替えとそれ以外の武器の取り出しの早さが前よりも上がった気がする、という点だろうか。一応、ゲーム内の基本的な動作だが切り替えスピードなんて考えたことが無かった。ただ、この武器の特性上切り替えと取り出しを素早く行わないとどうしてもこの武器一つで戦わなければならないことになる。それにモードの変更の利点を十分に活かせない。
そして、サブに設定して双竜になる時。複数対戦を中心にする一番の理由はこの双竜モードがあるからだ。なにぶん大型のモンスターのような武器だから相手も集団で戦いたいようだった。
帰ってから落ち着くことができ、その次の日に訓練、などと一定時間ごとに反復できたおかげで特性と操作も分かってきた。
まずは特性だがこれはどうやら対戦での全体人数に依存するらしい。つまり1対1や普通のモンスターと戦うような場面では4mほどの高さ。これがおそらく最小であり基準なのだろう。
そして、1000人対1000人の時の20mはあろうかというあの巨体。それこそがこの竜の最大なんだとわかった。ただ、あの規模の対戦をすることは滅多にないから基本的には4mくらいの高さだと思って戦った方がいい。
同時にロックオンできる数もあの時は50だがそれもあくまで最大値だ。基準の同時ロックオン数は5だった。
色々とスペックダウンしてしまった気がするがそれでも分散した光一つ一つの威力は対抗戦の時とも変わらないし素の馬力も平均的なカテゴリ4のモンスターよりもずっと上だと思う。だから強力なことには変わらない……はず。
それとARモードだと少し体に当たる感触はあるし一瞬何故か登ることも出来たがVRモードの時のように背中に乗って空を自由に飛ぶなんてことはできない。一方で竜単独なら飛ぶことはできるから上手い事操作することができたら地上からは自分が、竜は立体的に、といった感じでゆくゆくは戦うこともできるだろう。ただ、これについては日に日に精度は上がっているはずだががまだイメージとのズレが大きかった。
戦い方に関してだがこれももう少しちゃんと操作できるようになった。【防壁の翼】の発生源だからかどうかは置いておいてとりあえず他の部位に比べて意外なことに翼の耐久性が高いことが分かった。だから防御の際は翼を盾にするように竜と自分を守る。契約武器だから壊れてそのまま使用不可なんて状況は無いがダメージが一定に達すると双剣に強制的に戻るし、そもそも次に使うまでラグもあるから防御を工夫して少しでも被害を抑えるに越したことはない。
攻撃する時は腕や脚を使ってコンボのように攻撃することもできた。物を掴み取る動作も伝達しやすくなった。尻尾による攻撃が一番進歩したかもしれない。前までは振り払うことしかできなかったが今は鞭のようにしならせ先端に力を溜めこみ斬るような動き、突き刺すような攻撃など距離感が合致すれば思わぬ方向から強大な一撃を当てることができるようになった。
こういった物珍しい武器を持っているためか訓練でも様々な人と戦うことになった。基本的にギルドの活動の終わりか合間に訓練をすることになる。だからここに集まるのは毎回同じ人じゃないがそれが逆に幅広い相手との戦闘想定につながった。相手からすれば特別なモンスターと戦っているようなものだし俺からしたら操作に慣れることができる。互いに経験値を積むことが訓練の目的だがどうやらこういうことらしい。そして、訓練の時間は毎回あっという間に過ぎていった。
《勝者、Aチーム》
「じゃあ次審判やります!」
「おう、頼んだ」
「では両者位置について、始め!」
*
「じゃあ今日は5人だな。これから富川市に生活用品を届け、帰りに1週間分の足りない食料を受け取る。行きと帰りの両方でそれらの物資を守る必要があるからお前さん達はその護衛だ。よろしく!」
「よろしくお願いします」×5
「これがトラック?なのよね……」
「うん、この状況で動かすことができるタイプらしい」
「あまり、っていうか初めて見るんだけど」
「はっはっは、骨とう品だからな、まあ後ろに乗ってくれや。娘達も菓子を待ち望んでいるからしっかり守ってくれよ~」
このトラックの運転手、恰幅の良い40歳くらいの男性、前嶋さんがトラックの荷台に誘導してくれた。あまり居心地がいい場所ではないがそれでも衝撃を抑える座席は用意してくれている。そこから運転席を見ることができた。
「えっ!? ハンドル以外もなんか触っているよ」
ハンドルは緊急時の操作のために必要だがそれ以外は何が何やらさっぱりだった。
「なんだか棒みたいなのをごちゃごちゃ動かしていますね」
「あ、なんか音がする……」
「エンジンがかかったのかしら」
「やっぱりみんな最初は驚くわねぇ」
今日はたまたま普段一緒にいる4人と行動することになったがもう一人同行する。花耶のお姉さんの同級生だとか。
「だって自動じゃないんですよ、ちょっと怖くて……」
水面ちゃんはどうやら初めて飛行機に乗るとかそんな心境でいるみたいだ。かという俺も同じようなものだが。
「あはは、問題ないわよ。メンテナンスもちゃんとやっているし大型輸送機の知識がある人もこのギルドにはいるんだから。それよりも一番嫌なのは変なモンスターに遭遇することね。前に荷物を置き去りにしてなんとか帰ってきた人達もいたから、っていうかそのうちの一人が私なんだけどね」
「えっ上尾さんがですか!?」
「下の名前、「遥」でいいわよ、花耶ちゃん。そう、もちろん生き延びることが最優先だけどやっぱりその時は本当に悔しくてね。でもそれ以上に皆に申し訳なかったわ。だから今回は、いえ今回も頑張りましょうね」
ただ、富川市の指定場所に着くまでこれといってモンスターの被害は無かった。道中見かけはしたが向こうから襲ってくるタイプではなかった。
「重っ……」
二台を降ろした後は箱を抱えてはトラックに乗せ、再び箱を持って……という作業を繰り返す。トラックと積み上げられた箱の距離は離れていないが単純に持ち運びするのがきつかった
「あーそりゃちょっと重いわな、どうだ? 替わるか?」
「いえ……、大丈夫です。なんとかいけます」
「そうか、まあ無理すんなよ」
「はい!」
と言ってもやっぱりきついな。
「大変そうですね」
「アキラちゃんか。うん、どうやら筋トレが足りなかったみたいだな」
「ふふふ、なんですかそれ。あ! そうだ、これなら……」
「あれ? 軽い……」
「あっ、良かった。身体強化もちゃんと影響あるみたいですね」
「うん、凄いよこれ。助かった、ありがとう」
「どういたしまして、じゃあ他の人にもかけてきますね」
「でも、今日の使用回数は……」
「うーん、道中も安全でしたし今日はギルドの活動はこれだけなので多分大丈夫ですよ、では!」
まあそうだな。それより今は作業効率を上げたほうがいいか。「みなさーん、ちょっといいですかー」と走り去る水面ちゃんから再び手に持った半分以下の重さになった錯覚を覚える箱に視線を移し、作業を再開する。
(それにしてもゲームの要素がここまで日常に影響を与えてくるなんて、どういう……)
ふと感じた疑問は荷揚げをしていくうちに薄れていく。そして、作業は終わった。
「お嬢ちゃん助かったよ、これでいつもよりも早く帰れる」
前嶋さんも上機嫌だった。
「お疲れ様、と言いたいところだが俺達のギルドの倉庫に着くまで安心はできない。帰りも頼むな」
そして、再び行きと同じ席に着き、俺達を乗せたトラックは発進した。




