第四十四話 試合終了と乱入者
歓声が聞こえる。岩や草木があった先ほどまでの空間とは比べて人工的な感触に包まれているが会場に満ちている熱気は本物だとわかった。
(戻ってきたん……んだよな)
横を見ると花耶、さらに向こうには水面ちゃんもいる。二人とも俺と同じように状況を受け入れられていないみたいだった。クエスト関連だとあの敵のボスを倒したらクリア、なんてパターンも十分あり得るがこれはチーム対抗戦。誰々を倒したらクリアするようなものじゃない。いや、待てよ。クリア条件は確か……
「ねえ、ひょっとして相手のシンボルが壊れたってこと?」
多分、俺と同時に花耶も察したんだろう。
「でもあの時、私達はまだシンボルとは距離があったよ」
「だよね、皆まだ向こうのリーダーと戦っていた場所にいたタイミングだったし」
会場の声の大きさで会話しにくいがこれくらい近くにいる人となら何とか話ができる。
「いいえ、もうすでにシンボル破壊に向かっていたわよ」
???
京極寺さんだった。
「えっ? 誰のこと? 京極寺さんじゃないよね?」
「もちろん私もあなた達も違うわ。すでに向かっていたの、シンボルを破壊しに。私と一緒に行動していた人たちが先に行って。」
「えっ!? じゃああの時リーダーが一人が残って皆を行かせたってこと!?」
水面ちゃんがびっくりしているが俺もそうだった。だっててっきり他の人はもういなくなって彼女が最後に残っていたと思っていたから。
「そうよ。ま、最初は時間稼ぎにもならないと思っていたけどね。あなた達が来てくれて本当に良かったわ」
「でも凄い決断だよ。結果的にそれが一番の選択だったみたいだし」
「あら、嬉しい言葉に思えて遠回しに自慢のように聞こえるけど?」
「え?」
「八雲君だって何回もそういう行動をしたじゃない? それか自分ならできて私だと不安ってこと?」
「あ、いや、そういう訳じゃなくて…… 俺も同じようなことやったのは事実だけどさ、やっぱり孤独って言うか精神的にきつかったんだ。そのたびに花耶達が残ってくれたり。作戦上後から来ることが分かっていたけど京極寺さんはそんな状況じゃなかったと思うし、それで……」
そこからうまいことが言えなくなった。
「ふふふ、まあいいわ。私もあなたの真似をちょっとしたくなってみたってのもあるかもしれないし。あら?」
話の途中だったが彼女が何かに気づいたようだ。その方向を見ると向かい合った相手のギルドの集団だった。何やら立ち上がってごそごそしだした。
「なんか殺気出てない?」
「対抗戦でもそうだけど普段のギルド活動もあまり良い噂を聞かないわ。警戒して」
対抗戦が終了してこれで円満!ってわけじゃないのか。そういえばトイレに行った時も襲われそうになったよな。思わず身構えてしまう。
「ちょっと、ちょっと!! 君!! 何してるのっ! ここは関係者以外は入れないから!」
なんだ、さっそく動き出したのがいるのか? いや、でも‟関係者以外”って言っていたよな。向こうのギルドの人達は皆、今回の対抗戦のモロ関係者だ。じゃあどういうことだ……
こんなことを考えながら辺りを見回すと騒ぎのあった人が誰だかわかった。
「ねえ、あの人って……」
「うん、助けてくれた人だ」
あの時どこからともなく現れて俺への不意打ちを止めてくれた人だ。何やら紙を警備員やジャッジに見せている。それを見た瞬間制止しようとしていた人達の動きが止まる。注意の声も聞こえなくなった。
「え? 嘘? あの人は……」
俺達の反応とはまた違った反応を京極寺さんが見せたと思ったら、
「あー、審判さん、その人は大丈夫だよ。通してあげて。私の許可証も持たせてある」
マイクから声がする。声を発している人は誰だ? ジャッジや警備員の人も辺りを見回して誰が声の持ち主かを探っていた。
「私だよ、私。富川市の市長って言えば分かるかな」
黄色い声と熱気に包まれていた会場が途端にどよめきだす。その市長は続けて、
「彼はね、うちの市で頑張ってくれているギルド、って言うのかな、その互助会のリーダーだ。何、悪い事をするような男じゃない、安心してくれ」
とは言っても警戒を解くわけにはいかない。ただ、ごそごそしていた向こうのギルドが急におとなしくなって座り直したところを見るとどうやら本物のようだ。でもそんな人が一体なんでこんなタイミングで。
すると、こっちに歩み寄ってきた。というよりも京極寺さんの方に。
「やあ、また会ったね」
「あ、さっきはありがとうございました」
「だから礼なんていいって。それよりも少し、ほんの数分彼女を借りるよ」
そう言うと京極寺さんに近づいて耳打ちした。
「え?」「何?」「リーダー!!」「ちょっと!!」
俺も花耶も水面ちゃんも、というか他のメンバーも一斉に何が起こっているのか把握しようとした。
「皆さん、静かに! 大丈夫です。少し離れたところで話をしてきます。」
「そう言っていただけるとありがたいよ。皆さんもご安心を、彼女を危険な目に合わせるつもりはない。だからこうやって僕も身一つで来たんだから」
京極寺さんと二人で他の人から少しだけ離れて何か話をした。そして、とある書類を渡す。どうしていいかわからないのは俺だけじゃなくてこの場にいる観客含めて全員だろう。でもそのイレギュラーな事態はすぐに終わった。紙を受け取り二人は戻ってきて、京極寺さんは元居た席に、あの男性はその後、向こうのギルドのリーダーに向かっていって何か言葉を交わした後にまた紙を渡し、試合場の出口から消えていった。
その内容をさっと見るや否や相手のリーダーはへたり込むように再び席に着く。
「リーダー、大丈夫でしたか?」「何かされたんですか?」
すぐに京極寺さんに何があったのか心配したメンバーが声をかけた。
「ええ、問題ないわ。今回のことは今後皆さんに説明します。」
「えーと、少々アクシデントがありましたがこれにて試合は終了です。両陣営の皆さま、そしてドームに来てくださったお客様、本日はありがとうございました。また、対戦の様子は128の視点で全時間通して録画しております。1週間は保管してありますので気になる方はダウンロードをしていってください。また、本日は24時までドームは開場いたしております。会場にて録画閲覧も可能ですしスクリーンにもハイライトを投影致しますのでどうぞ楽しんでいってください。なお出口1、出口2には食品販売店、出口3には……」
アナウンスが流れた。今の時間は…うおっ!?21時10分。かなりの時間が経っていたのが分かった。でもすぐに動くのは嫌だな。思ったよりもドーム内に残っている人はいるがそれでも入り口付近は込み入っているだろうし。それに肉体は疲れていないのに疲労感が押し寄せてきた。
「録画とか見てみない?」
「そうだな。ちょっと他の場所で何があったのか気になるし。えーと、これか、このカメラ3?、から見てみるか」
カメラが多すぎてどれから見ていいかわからないが16画面まで表示可能なのと好きな倍速・指定時間で閲覧できるのでとりあえず気になる場所から優先的に観てみよう。
(あれ? この動画だけやけに閲覧数が多いな)
その動画を見るとすぐにどの場面かわかった。初めて竜、アークアナイラレーターが登場した場面だ。三人称視点で見るとこういった感じだったのか。あ、俺はここか、面白いけどちょっと恥ずかしいな。飛んだ!!この後、確か…… そうそう、ロックオンをしてこの攻撃が通ったんだ。
この動画を見てハッと思った。
(そうだ! 武器は……)
確認してみると確かに自分の装備として登録してあった。対抗戦で獲得できた武器は所有できるというのは本当だったんだ。なんかホッとした。これがあの場限りの力だったらちょっと寂しいからな。と言っても分からないことが多いからしばらくはどういったものか確認する必要があるな。
(じゃあ他の動画も見るか)
ゲームの終了直前、敵のシンボル付近を見てみる。何人か近づいている。でも敵とも戦っていた。あ、援軍だ。どうやら別方向から進んでいた味方がいたみたいだ。敵を倒しきった。シンボルに攻撃を各々が加えている。そして、動画が終了した。なるほど、これが結末だったのか。
直前には何があったんだろう。近くのカメラを少し前から見てみる。俺達が登場した。その前は…、京極寺さんが皆を行かせた。さらに前を見ると徹獅さん達がいた。あの人も同じように皆を先に行かせたのか。
時間を遡って別カメラを見てみる。次はこちらのシンボルや防衛線だ。ずいぶん敵を倒したと思ったがまだ十分残っていたのが分かる。その証拠に防衛線は近接戦闘に持ち込まれていた。でもなかなか進めない。守っている人達の徹底抗戦の気迫が伝わってくる。その中に聖慈さんもいた。
あの時、自分は凄い力を手に入れた。それは戦況を一瞬で変えてしまうようなもの。だから、この力を存分に使わなければならないって気がしていた。でも、そうじゃない。一人一人がこうやって戦っていたこと、言葉で言われれば分かる一方で実感は薄かったがこうやって見ると皆がそれぞれの役割を果たしていた。
京極寺さんの方を見てみると最後に敵のシンボルを壊した人達と楽しそうに話している。さらに徹獅さんも加わった。
「お疲れさん。23時にはうちのギルドも完全に出るらしいからそれまではゆっくりしていってだってさ」
聖慈さんだ。彼女のギルドは最後まで残らないようだ。まあそれもそうか。ここから俺達が住む場所に着くまでそれなりに移動するし。
「あ、お疲れ様です。わかりました」「じゃあとりあえずダウンロードだけ済ませよっと」「そうね、あ、容量足りないかも」
「それと、一応また明日に会議があるから来てくれないかな? 今日は遅いから明日の午後からなんだけど」
「はい、僕は大丈夫ですけど……」「私も予定なし!」「ええ、私も行けます」
「なら良かった。それとありがとうね」
???
「あ、いえ、むしろ色々助けてもらった側ですし」
「ふふふ、そう返したか。じゃあ他の人にも伝えてくるから」
そう言ってメンバーに連絡をしに行った。いや、連絡が目的ではないな、どちらかというと労いみたいだった。あの試合の後なのに……いや、俺もすることがあった。ゲーム内のチャット機能を使う。カメラを起動して、
「リョーマさんですか? お疲れ様です」
「もしもし、よかったつながった。調子は大丈夫?」
「はい! もう大丈夫ですよ」
「多分、そっちに着くのはもう少し後だと思うけど眠くなったら先に寝ていてね」
「それと何か水回りとか食事で困ったことがあればすぐに連絡してね」
「わかりました! 今のところこれといって困ったことはないですけど何かあったらまた連絡しますね」
「うん、じゃあ今日はお疲れ様。あとはゆっくりしててね、じゃあね」
「は~い」
通話は終了。
「さてと、」
「あ、もう行く?」
「うん、さすがに夜遅いし、俺や花耶は大丈夫だと思うけど水面ちゃんは送っていかなきゃ」
「そうね、京極寺さーん……」
花耶が京極寺さんの方に近づいていった。
「もう帰るの?」
「まあね、っていうかもう眠いでしょ?」
それにやっぱりアキラちゃんの様子も心配だ。
「あーあ、バレちゃった。昼寝すればもう少し起きていられるんだけどね」
「今日はずっと寝ているようで起きていたからな。正直俺も疲れた」
「あはは、何それ~」
「じゃあ帰るわよ、今日はもう大丈夫、お疲れ様、ありがとう、また明日だって」
「うん」「はーい」
そして、俺達は挨拶を済ませて会場を出ていった。




