第四十三話 動かない身体と決着
俺が避けている間に花耶と京極寺さんが攻撃を入れる。彼女らに狙いを変えた瞬間に次はこっちが攻撃に入る。おそらく一発でも相手の刃が当たってしまえばそこで誰かが離脱するだろう。そうなったら一気に残った人も不利になる。
するとあの長い薙刀の刃に黒いモヤが宿った。それを高く振り上げる。
「そいつから離れて!!」
次の瞬間、思いっきり地面に叩き込み、奴を中心に黒い衝撃が広がる。距離を取ったので直撃は免れたがこれは流石に防御できない。ただ、これはさっき見た攻撃だった。あの攻撃だって無限に使えるはずはない。それを相手に確実に当てるのではなくとりあえず離れさせる、あわよくば倒す程度のために使ったように思えた。
(向こうも切羽詰まってきたようだ)
だからと言って一撃一撃が強烈なことには変わりないし俺達三人でも少しずつ力の根源らしきものを放出させるのに精いっぱいだった。だから、ここからは単純にこっちか向こうのどちらかの攻撃量が上回るかの勝負になっていく。
様子をうかがうなんて悠長なことも言っていられないから、
ビュンッ!!
双剣を振るい衝撃を飛ばす。そして、すぐに斬りかかりにいく。
「この!!!」
(横向き!! ならば……)
横に構えたのを確認してジャンプするように見せかけ体を倒し脚から滑り込む。自分の少し上を刃が通り過ぎるのが分かる。
(まずは膝)
膝に攻撃。
(次は腹!!)
そして、腹部にも攻撃を当てることができた。二人も続けて攻撃する。
「そうか……ならばお前からだ!!」
(まずい、この体勢は……)
無茶な回避と攻撃をしたため、思うようにすぐに立ち上がって次の行動をすることができなかった。身体の強化を使っていれば問題ないがもうそれも使うことができない。
下方向に対する突きの構え。さらに先端に黒いモヤが。
体を起こし、すぐに逃げる姿勢になるが間に合わない……!!
ゴオオン…!!という爆音が聞こえた。そう、‟聞こえ"たんだ。残響も耳に残る。離脱していたらこの音を聞く前にすでに現実世界に戻っていただろう。でもまだ俺はここに居た。
(さっきの攻撃は確実に…… って浮いている!? ということは……)
そいて、攻撃を使ったはずの相手が炎の旋風に包まれた。これは花耶の攻撃じゃない。となると……
「嘘、これで倒れないの!?」
アキラちゃんと水面ちゃんも到着したんだ。
「はぁはぁ、ありがとう。あのままだと確実にやられていたよ」
「いえ、間に合って良かったです!」
「それにしてもあのでかい人とことんタフだね」
水面ちゃんの必殺級の炎を無理矢理振り払った相手に驚いているが十分ダメージは与えられたと思う。
「また、増えたか! あいつら一体何やってんだ!? こうもやすやすと俺への接近を許しやがって」
「来ます!!」
「ああ、いったん散開しよう。あいつの攻撃には絶対に当たらないで!」
「だろうね!」「はい!」
次の狙いはアキラちゃんだった。
「おっと!」
そう言いながら跳ぶ。というよりは飛んだ。思いっきり跳躍した後さらに浮遊を使ったんだろう。あの薙刀が空振りする。空中での落下位置を予想したんだと思うが彼女には関係のない事だった。
その隙にすかさず腰から足にかけて思いっきり斬る。
「はあ!!」「これで!!」
さらに花耶も京極寺さんも続き、俺達に当たらないように水面ちゃんが攻撃を入れてくれた。
「大分縮んだわ」
「あとちょっとのようね」
彼女達の言う通りだった。デカい事には変わりはないがもうモンスターと思えるような大きさでもない。これくらいの身長の人がいるって言われたら「そんな人もいるんだ!」って納得するくらいには縮んだ。
「ふぅ」
何やら動きを止めて少しだけ息を吐く。今がチャンスか……
ここで一気に近づこうとしたが、
「出し惜しみなんて言っていられねぇな……」
(この感じは……)
すぐに立ち止まる。このまま突っ込んでいったらまずい、そういった予感がしたら次の瞬間、全身から黒が立ち込め始めた。これはダメージを負った時に出てきたものではなく、攻撃の時に見たあれ!?
「まずはそっちだ!!」
俺と花耶と京極寺さんがいる方向を見定めた。そして、薙刀を振る。だが、もうその軌道は大体読める。今回はこっちに動けばいい。
予測通り3人とも避けたがこれで終わりではなかった。さらに振った刃からあの攻撃が来る。
(連続かよ!?)
避けれはしたが完全に当たらないなんてことは不可能だった。余波が襲い来る。避けることを考えると狭い道なのがきつい。
「なんなの一体!!」
そう言って水面ちゃんが雷撃を飛ばした。俺達に当たらないように調整したものではなくて思いっきり対象を狙う威力重視の攻撃だった。だが、それを……
「ふん!!!」
相殺させたのだ。「砕いた」って表現がしっくり来てしまう。雷撃を正拳で打ち消した。でも隙はできた。衝撃を飛ばして攻撃を試みる。
「そっちか!!」
これは当たったし相殺された感じはしない。
何となくわかったがどうやらあの黒い攻撃を全身に包んでいるようだった。ただ、鎧の様に着ているんじゃなくて攻撃をする意志に反応するみたいだった。だから、剣や体術を使った時とそうでない時では挙動が違う。
「そーれッッ!!!」
こっちに向けて拳を突き出した。すると、手から黒い塊が出てきた。
(そんなことも…… 避けきれない、ならば)
剣を交差させて構える。当たる際に少しだけ前方に向けて動かした。
「グゥゥゥ……! ハッ!!」
抵抗を感じなくなったと同時に黒い塊は拡散し、その衝撃で後ろに少し飛ばされはしたがどうやら防げたらしい。だが、ただの突き出した拳まであんな攻撃になるとは。
でも安心してなどいられない。奴が走り出して迫ってきた。しかも、武器を当たりかまわず振りながら。そこから次々に黒いモヤが出てはこっちに当たりそうになる。外れた攻撃は岩やわずかに生えている木々を粉砕していく。
(なんて無茶苦茶な…… ならばこれで!!)
剣から攻撃をしてみるが弾かれる。無茶苦茶ではあるがこっちは近づくことはできない。それにいつかは当たってしまうだろう。
花耶も防戦一方、京極寺さんもさっきまで使っていたシールドを出していないということはもう回数が上限に達してしまったのかもしれない。
あの状況がいつまで続くはずはない。その内終わりが来るだろう。ただ、それはいつかは分からないしその前に自分達がやられてしまう可能性だってある。だから持久戦なんて考えてはいられない。一旦逃げるか……!?でもどこへ、こっから先は真っ直ぐな道しかない。それこそあいつの思うツボだ。
いや、でもあいつを遠ざけることができれば……
(ちょっと危険、というかやられるかもしれないがそんなことはもう関係無いか)
「ねえ、二人とも、っと!!」
「?」「どうしたの?」
攻撃を避けながらなんとか話しかける。
「あれがさ、もしも次に崖際に寄った時は、ッ、できたらさらに崖に追い込んでくれない?」
「崖に落とすつもり?でも、ウッ、落ちてくれるような相手じゃないわ!」
「分かっている。だから接近して注意を逸らす」
「そんな無茶な……」
「分かったわ」
「水鳥川さん!?」
「何か考えがあっての事でしょ?」
「うん」
「はー、わかったわ。じゃあ武器を変えるから」
二人とも遠くから攻撃できる武器に変える。そして、相手に向かって走り出した。
「お前一人か、やられに来たのか!?」
「ああ、そうだ!!」
「何!? ゥオ!!」
花耶と京極寺さんが後ろから攻撃をしてくれた。縦横無尽に振り回しているように思える敵の攻撃も狙いがあって動かしている。さっきまでは攻撃、今この一瞬は二人からの援護を防ぐため。
避けるように移動しながら攻撃も交え相手の位置を少しずつずらす。これが今更通用するとは思えないが防がれる代わりの位置調整くらいにはなる。
(今だ!!)
「水面ちゃん、炎をお願い!!」
「……!? 分かった!!」
あの炎の旋風を再び作り出してくれた。こっちの言いたいことがあの短い言葉で伝わって良かった。迫る炎から遠ざかる。でも相手は避けるのではなく相変わらず攻撃で相殺させるがそれを待っていた。
炎の影から近づき、それが打ち砕かれるのと同時に前に出て思いっきり剣を当て、衝撃を放つ。すぐに下がる準備をする。本来ならもっと下がって避けるのが一番だが、今は少しだけ回り込むのを優先させる。自分と敵と崖が一直線になるような位置取りをした。
「こんのっ!!」
その足を地面に踏みつけ、黒い波が出る。遠ざけるためと攻撃をするためのものだろう。向こうに取っちゃ一旦間合いを取らせるために使ったようだが完全に自分が倒れない程度しか距離を取らず、再び接近する。斬撃を飛ばし、次に思いっきりぶつかるように飛び掛かる。咄嗟の事で体ががら空きだった。そのまま二つの剣を突き刺す。
よろけた。そこにすかさず花耶達の援護が来て後退させる。
(今だ!!)
剣を抜き、着地し、さらに再び体当たり交じりの突き刺し攻撃。ここまで来たらなんとか人間サイズの相手だ。竜で戦った時は重量感を感じたが体重が乗った攻撃なら後ろにずらすことくらいはできる。
(足りないか……!)
だが、それでもあと一歩分、押しが必要だった。今から追い打ちをかける余裕は無い。もう向こうは攻撃の準備に入っている。そう思っていたら……
「はああ!!」
自分の真上に影、相手の胸らへんに向かって何かが飛んできた。いや、何かではない。人、アキラちゃんだった。斜め上から浮遊を交えた跳び蹴りをしてくれたんだ。足場が無くても十分な力だった。
そのまま相手は崖に落ち始める。突き刺さったままの剣を握った俺と一緒に。
「リョーマさん!? 今助けます!」
「いや、このままでいい!!」
「そんな……」
「大丈夫!!」
まあ大丈夫なわけはない。でもここで決着をつけるにはこれが一番だと思った。落下しているのに時間がゆっくり流れている気がする。片方の剣を引き抜き相手めがけて次は斬りつける。俺が相手の上にわずかに乗っているような落下の仕方をしているため、攻撃はしやすかった。逆に向こうはこっちに手出ししにくいはずだがこちらの攻撃と同時に自分自身に向けて拳をたたきつけるように俺の背中を攻撃した。
「こうなったら道連れだ!!」
ドォォォンという圧倒的な衝撃音が自分の体から聞こえるような気がした。だが、最初っからこっちも道連れ上等だった。向こうがそう思ったのならそれで問題は無い。むしろ、狙い通りだ。
ダサッ、ドッ。
互いの攻撃が通ったのを見計らったように地面に叩きつけられた。
「まだだ、まだ俺は……」
(あれで起き上がるのかよ……!?)
ただ、もう黒いモヤは出ていない。それに体の大きさが最初に見た時と同じだった。
バシュン バシュン
直後、赤い弾丸が数発、相手の脳天を貫通するように上から放たれたのが分かった。そして、離脱。
…………
静まり返った。空間内の自然音以外は聞こえない。
あまりにもあっさりとした離脱だったのでちょっと拍子抜けしてしまった。まああの攻撃に加えてこの高さからの落下、直前にさらにこちらの斬撃による僅かな加速、それに落下中に自傷もやむなしのパンチを繰り出せばそうなるだろう。
(トドメは花耶がしてくれたのか……)
そう思って上を見上げようとしたが体が全く動かない。自分の体力はもう無くなっていた。
(俺も離脱か…… まあ倒しきれたなら十分か。あとは残った皆の応援でもしよう)
…………
…………
(おかしいな、離脱ってこんなに時間がかかるものなのか)
《WIN!!!》
《対戦終了。代表、京極寺慧香様のギルドの勝利です》
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そして、現実世界に戻る感覚、起きるのとはまたちょっと違うブラックアウトに包まれた。




