第四十二話 介入
シンボルってのは凄く大雑把に見ると八角柱の結晶のような人の身長よりも少し大きい鉱石とでも表現されるのでしょう。大きな水晶と言ったらイメージしやすいのかもしれない。平地から見て大体120m程の高さの場所にそれは置いてある。だからそこへ行くまでは登山って程ではないけれどもちょっとした高低差が激しめの移動をする。
近接武器・攻撃になればなるほどそのシンボルは壊しやすくなる。というか10メートル以上離れたところからの攻撃だとダメージは一切期待できない。だから遠くからの射撃とかではなくて近づいて剣や鈍器で壊すのが最も王道のやり方だ。
私達はそれを壊しに行く。これさえ壊せば勝負は終わるから追手もいれば進行が想定されるルートを守る敵の人員だっている。ただ、幸いなことにすでに攻撃を仕掛けた人達や至る所で戦いが起こった結果、味方はもちろん敵の戦力も下がっていた。防衛線の突破は流石に一緒に向かった人達も何人か離脱させてしまったけれども突破することができた。
だから後はそのシンボルに向かえばいい。敵の中枢メンバーはほぼいなくなった。それはすなわち強力な敵が攻撃に加わったり新たにグループを編成して立て直す余裕も無くなりつつあると思ってもいい。ただ、一つだけ懸念がある。もちろん、想定外の事態も考えられるが今ある情報だけで心配する大きな要素が1つだけ。
そう、あの敵、巨大化した向こうのギルドの長、「覚王」って名前だったかしら。まだ巨大化する前に覚王を倒しに行こうとしていた私達の仲間が一気に30人以上離脱させられた。ダメージは蓄積されたとはいえここまで生き残った手練れたちをまとめてひと振りで。それを今止めてくれるのは八雲君や水鳥川さん達の4人。緊急でギルドに入ってくれたあの人達に託すのは自分でも情けないと思ってしまうけれどもあの場ではそうするしかなかった。私達がいてもすぐにやられてしまうのは目に見えている。だから、彼らが戦ってくれている間に動ける人達でシンボルを壊しに向かった。そして、順調に進んでいったと思われたのだが……
「リーダー!! アレ!!!」
「え……? なっ!!」
示された方向、今いる位置よりも低地に目をやる。間違いない。あの時よりはだいぶ縮んでいるが覚王だ。それが私達の後を追うように駆けあがってくる。
「みんな!! 急いで!! 全力で目的地に進んでください。」
決してゆっくりここまで来たわけではないがまだどこに敵がいるのかわからない中であたりを気にせずに進むなんてことはできるわけがない。だが、覚王を見た後でそんなことも言っていられなくなった。あの大合戦の中で残った人達で編成した班。八雲君が守ってくれたとはいえ完全には奴の攻撃範囲から逃れられない人、道中で離脱していった人もいるから今は15人。そう、少なくなったが15人‟も”いるのだ。
しかし、人数差なんて関係ないことは分かり切っていた。ここで応戦するのではなく戦闘は避けるべきだ。そして、追ってきたってことは……
「じゃああの4人は……」
「慧香、まだやられたって決まったわけじゃない」
「分かっているわ。今はシンボルの破壊を最優先にします!」
だが、そう簡単に振り切れる相手ではない。それどころかどんどん距離を埋められてくる。
「クソ!! 慧香! 先に行くんだ。射撃武器持ち4人、俺と一緒に残ってくれ」
「ちょっと、お兄さん達は!?」
「このままじゃあ皆やられるかもしれない! ならば……!!」
自分の背丈よりも大きく思えるような機関砲の支えを地面に置き、狙いを定め、連続で放つ。
「効いていないわ!! 逃げて!!」
「僕達はいいから!! それにどうやら全く効いていないってわけではなさそうだ」
「え!? それって……」
どういうことか聞こうとしたら、
「リーダー、今は徹獅さんの言う通りに先に行きましょう!! あの人達の行動を無駄にしてはいけません!!」
「いい判断だ!! そのまま行ってくれ!」
「……わかりました。先を急ぎます!」
彼らを後にしてそのまま進む。マップ上ではゴール、つまりシンボルがある位置までそんなにかからないはずだがとてつもなく長く感じる。
「リーダー!! 危ない!」
「大丈夫!!」
まだ敵が残っていた。ここに居た残党なのか他の防衛線の生き残りなのかはわからないがいずれにせよ弱っていたようで不意打ちを躱しそのまま斬る。
バァァァァァァンン!!
だが安心なんてさせてはもらえない。音がする方、さっきまで自分達がいた場所を見ると凄まじい土煙が上がっていた。
「あの場所って……」
「急ぐわ!!」
足を速めながらも後ろを確認すると煙の中から現れたあの男。覚王の姿を確認してしまう。さっきの攻撃は間違いなく奴の……
最初に大きくなった時の攻撃に比べたら音は軽くなったようだがそれでもあの5人を一瞬で倒してしまった。
「そこか……」
決して叫んだような声ではないがこっちまで聞こえる。
(構えた!! 狙いはこっち……!?)
覚王が薙刀を後ろにいったん下げたのを確認し、走りながらシールドを出す。他の味方もすぐに展開した。
(こんなので防げるとは思えないけれど無いよりはマシだわ)
ショォォォォォッーーーーー
そして、音を立てながら黒い衝撃が迫ってきた。自分に向けられたそれをこうして見るのは後にも先にももう無いかもしれない。けれどもその全てを飲み込んでしまいそうな凶悪な色を忘れることはないだろう。
(このまま後ろに下がるのは危ない)
時間がゆっくりに感じられる。後ろに下がればそのまま追いかけられるように攻撃を喰らう様相が予測できてしまう。
(こういう時はできる限り横へ!!!)
進んでいる左側は崖のようになっていたがもう一方は空間がある。そこに逃げ込むように咄嗟に動いた。
「ウッ!!」
直撃は避け、スキル以上の強度のシールドも使っていたのに余波が襲い来る。そして、直後に大きな音が鳴り響き、逃げ遅れた味方がやられてしまったこと、もう覚王から逃げ切れる距離ではないことを理解する。
「おっ? どうした? まさか俺と直接戦うつもりか?」
「そのつもりよ!!」
「リーダー!!」
「あなた達は先に行って! ここは私が食い止める」
「そんな、一人じゃ……」
「いいから! あなた達のほうが早く行けるはずだから」
「分かりました、でもどうかご無事で……」
「逃がすか!!」
速度+3 剣+3
ギィィンッ!!
「行かせない!!」
質量の調整は完璧だった。でもその攻撃はあっさりと防がれる。
「邪魔すんな! ったく、てめー一人に足取られている場合じゃねぇんだ!!」
防いだまま力づくで押し返され、そのまま吹っ飛ぶ。
「まだぁぁ!!」
「チッ! そんなにやられたきゃ、まずはお前からだ!!」
避けるのに精いっぱいで攻撃が通らない。しかも、避けるたびに少しずつ相手の前進を許してしまう。それでも、
「やられるわけにはいかない! 私達の組の為に、それにあんたを止めて託してくれた人達の為にも!!」
「ああそうか!!」
次の瞬間自分が宙に浮いていることが分かった。
(えっ!? 吹っ飛ばされた!? 蹴り? そんな挙動見せなかったのにここまで飛ばされるの?)
ノーモーションのただの蹴り、しかも展開していたシールドが砕けるくらいには蹴りの勢いを殺したはずなのにこの威力……
「これでトドメd…… ウォッ!!」
「よく言った、いい啖呵!」
「でも勝手にやられたみたいに言わないで」
覚王のトドメは当たらなかった。その前にどこからともなく現れた二人が攻撃をしたのだった。
「てめぇら……、どこから……」
「どこからだっていいでしょ。問題はこれから私達があなたを倒すかあなたに倒されるかってだけ」
「それじゃあ、今度こそ最終決戦といこうか」




