第四十一話 刻一刻と
別に相手のギルドのやり方を否定するつもりはない。曲がりなりにもそれでここまで勢力を拡大してきたのだし付いてくる人もいるようだ。それに勢いをつけてきた理由もこの戦いを通して分かったしそれだけの執念も感じられた。無理矢理とも言える手段を取るように至った過程に俺が想像できないような事情があるのかもしれない。
だが、それによってこっちが巻き込まれるとなると話が大きく変わる。ここで負ける、つまりは傘下になるとはどういうことかというのがあのとき意図的に離脱させられた敵のギルドの構成員の様子から連想してしまう。新参な上に負けたことによって参加したとなればどういった扱いになるのかは分かったもんじゃない。
ま、あくまでこの辺りは予想の範疇でしかない。ただ、俺はこの後またちょっと目指したい場所があるから再びこの市を旅立つ。そうなった時に帰る場所を託したいと思えるのは奴か京極寺さんかと聞かれたら答えは言うまでもない。
だから、俺が今ここでやれることはただ一つ。ここで奴を食い止める。そうすれば後はシンボルを壊す作戦でも消化不良って感じはするが人数差による勝敗決定でも京極寺さん達の勝ちだ。逆に倒しきれなかったら形勢が一気に覆るかもしれない。
一瞬の事だが考えが駆け巡った。
「おおおおおおお!!」
雄たけびを上げながら近づいてくる。でかい相手とはなんだかんだ言って何回も戦ってきた。今の向こうのリーダーの身長は4mほど。いつかの大鬼くらいの大きさにまで小さくなっていた。だが、動きがある程度決まったモンスターと考えることができる人間、それも状況分析に慣れているような相手とは勝手が全く違うしやりにくい。
ただ、もうこの後の事とかを考えなくていいし考えている余裕もないって吹っ切れているので俺も全力で戦うことができる。地面をたたき割りそうなパンチを避け、すぐに懐に飛び込んで斬りつける。その時にはすでに重心を横にずらし、次の攻撃を避けながら背後を取る。そして連撃。剣の実体部分も衝撃も当たるたびにやはり黒いものが空中に放出されていく。
背後を取ったのでてっきり振り返ると思ったが予想に反してそのまま走り出した。
(敗走? いや、違う。あの位置は……)
さらに追いかけながら二つの剣を振るい衝撃を与える。だがそれもお構いなしに相手は横たわっていた薙刀を手にした。一旦は手放したあの武器だ。持った瞬間に長くなったところを見るとあの体に合わせて武器も縮尺を変えるのだろう。そして、すかさずこっちに向けて振る。向こうも同じような攻撃をしてきた。だが、相殺できる威力ではない。黒い波に飲み込まれないように横方向に一気に跳ぶ。
ドォォォン ガッチィィィン!!
後ろでは標的を失った黒い斬撃が地面に当たったのか途中で空で爆発を起こしたのかわからないが凄い音がした。でも気にしてなどいられない。すぐに薙刀の刃が迫ってきたのでそれを双剣で受け止める。
「ック、ッツツゥ……!!!」
強化バフを使っているとはいえ力押しだと普通に競り負けする。だから、あまり長い間刃を合わせるのではなくすぐに弾き後ろに下がる。そして、下がり際に斬撃を飛ばし、それを防いだ隙を見て再び接近して攻撃を試みる。
「ちょこまかとお!!」
(まずい!)
刃の先に黒いエネルギーのようなものが蓄えられているのが分かった。その状態で思いっきり地面に叩きつける。俺を直接狙うんじゃなくてどこへ避けてもダメージを与えられるような攻撃。思惑が当たるように拡散された衝撃を喰らってしまう。
だが、ここでびっくりしてはいけない。どっちに行けばいい?さっきから後ろに避けていることが多かった。
(ならば……)
思い切って着地と同時に前に出た。そして後ろから薙刀の振るう音が聞こえる。後ろに回られていたんだ。もしも、咄嗟にあっちに逃げていたら今頃は……
その音の位置を頼りに振り返る前に刃から攻撃を放つ。
バシッ! 「ヌォッ!」
手ごたえあり。1回だけだが攻撃は通った。このまま少しずつでも攻撃を与えまずはあいつの強さの源になっているであろうあの黒い霧を出し切る。そう思っていたが……
ダダーーン!!!
「チィィ!! 役立たず共が!!」
大砲の音? でもなんで今になって?
「荻野ォ!! 高河ァ!!いるか!?」
「荻野はやられました!!」
「クソが!! まあいい、高河、こっちの援護しろ! こいつの足止めだ!!」
「了解!」
「あっ! リョーマ!!」
花耶の声がした。最低限の注意を奴に向けつつ、花耶の声のした方をチラッと見ると俺をめがけて距離を詰めてくる人物がいる。
(まずい! 今挟み撃ちを喰らったら……)
するとその人物、おそらくタカカワなのだろう。タカカワから黒い腕、聖慈さんが使っていたアレが出てきた。これに捕まると厄介だ。一つ一つの腕の動きを見ながら来ないであろう方向に後退する。そして、その間にタカカワめがけて斬撃を放つ。
(避けない?)
こっちの攻撃は状況からかなり限られた方向にしか当たらない。だから予想できるはずだが避ける気配を見せずに俺を掴み取ろうとするだけだった。
一番考えられるのは俺の自由を縛ってそこめがけてあの薙刀で攻撃をするというコンビネーションだ。だから、いま注意するべきなのはあの腕。そして、敵のリーダーの位置も常に確認しなければならない。そっちにも視線をしっかり向けようとしたら……
(な……!?)
黒い腕、というのは俗称で実際はかなり変幻自在の形(ただし、チューニングは必須)をとることができる。それが俺と敵のリーダーの間に割り込み一気に広がったのだ。まるで目くらましをするかのように。さらに、煙幕のようなものも発生した。もう一つの射撃武器によるものなんだろう。この視界の悪さであれを突っ切って敵に接近するのは危なすぎる。ただ、こっちはこっちで距離を取ればいいだけだ。そうすれば挟撃される心配もない。
シュッ、シュッ
だから黒い腕から離れながら敵本体に向けて衝撃を飛ばす。そして、大きく旋回しながら敵のお頭の位置を確認しようとしたが……
(あれ? 嘘……?)
いないのだ。見当たらない。後ろか、それとも俺が回った方向とは逆?だが、辺りを確認しても見当たらない。煙幕が完全には晴れていないからといってもまだまだ3mはあるあの巨体が見当たらないわけがない。
(クッ!!)
射撃が飛んでくる。色んなタイプの弾丸を扱える武器を持っているようで状況に合わせて攪乱も攻撃もしてくる。
(とりあえずあいつの気配が無いうちに……)
こっちに迫る腕をかいくぐりながら近づく。まだバフが続いているうえに狙いが一人なので避けるのはたやすい。距離を詰めながら剣から飛び出す攻撃が当たる。今度はある程度避けているようだがその際に少しだけ黒の腕の動きが無くなるか単調になるのでさらに近づいて直接斬りつけた。
だが、近づいたことで足を取られてしまう。
「うぉっ!!」
てっきりさっきの攻撃で倒しきったと思ったから意外だった。体力がかなり高いのが想定外だったがそれ以上に焦っていた。見えなくなった敵がチラついてしまう。動けなくなったからと言っても腕が掴まれているわけではない。向けられた万能銃めがけて実態部分が当たらなくとも攻撃をする。射出する、あるいはさらに黒の腕を動かして俺の狙いをずらす前に攻撃が放たれたのが幸いだった。銃はあらぬ方向に弾を放ち追撃の隙を作ることができた。
そして、敵の離脱とともに足に絡んでいた感触も消える。
花耶達の方を見るとまだ敵と戦っている。残りは二人か。やはりあいつの姿が見当たらないのは気になるがそのまま援護に向かう。敵にとっては予想外の攻撃が来たことでそのまま畳み込むことができた。
1時間ほど前には多くの人がいて声も攻撃の音も鳴り響いていたこの場所は静寂に包まれている。
「やっぱりいない」
「向こうのリーダー?」
「うん」
「途中で見失ったんだ」
「あの…… 戦闘中だったので少し視界に入っただけなんですがその人は陣地に戻っていくのを見ました」
「どういうこ……」
その時、ふと引っかかった言葉を思い出す。あいつは俺を「倒せ」ではなくて「足止めしろ」って指示していた。よく考えたらタカカワも時間稼ぎのような攻撃だった気がする。
「ねぇ、ひょっとして京極寺さん達が何かしらの敵の護るべきラインを突破したのかもしれないわ」
「じゃあ、あの大砲って攻撃じゃなくて……」
「防衛線突破されたって連絡なのかも」
「それならあいつが向かっていった場所にいるのは京極寺さん!?」
「それなら急ぎましょう!! まだまだあの人は普通のプレイヤーよりもずっと強いはずです」
「アキラちゃんの言うとおりだね」
「お兄ちゃん、ドラゴンって出せる?」
「いや、実は……」
そう言いながらサブにセットしようとすると……
《戦闘が終了するまで大型召喚獣形態にできませんよろしいですか?》
「多分、ダメージが一定以上超過しちゃうとあのモードにはできないみたい」
「なら、走るしかないわね」
「だな」「うん」「そうしましょう」
俺含めてみんなのHPとかを見るとかなり消耗してしまったのが分かる。だからと言ってここで休んだり戦闘を回避するわけにはいかない。敵が行ったであろう位置めがけ、本来なら俺達も一緒に進むはずだったルートを先回りするように駆け出した。




