第三十八話 嵐の前の静けさ
平原よりも高い位置。
でも、本来はいるべき場所よりは前線に出ている。その姿を確認できるほどに。
予想外の人物達を前に自然に立ち尽くしてしまう俺達をよそに向こうがまばらに駆け出し近づいてくる。
そして、敵味方含め様々な色が飛び交う。
ヤバい、こういった時ってどうすればいいんだ…
一旦距離を取る?
それか応戦?
今は考えをまとめるために避けるので精いっぱいだった。
これまでの敵とは攻撃の規模が違う。
一人一人の強さはここに至るまでに戦った幹部らしき人物や元12班の双剣使いと変わらない。
ただ、それらが複数いるとまた話が違ってくる。
強そうなのは6、7人か。もう少しいるかもしれない。
でも他の相手も互いにサポートをしあっているし何よりもその強いのが戦いやすいように行動しているのが分かる。
向こうとの距離を見計らってこっちも攻撃した人がいた。
長距離、中距離攻撃での牽制。
当たりはするが決定打にはならないしお返しとばかりにやり返される。
先行して接近する味方もいたがやられてしまった。
だがもう様子見なんてしていられない。
逃げる余裕もなければもう数秒後には互いに触れることができる距離に一人いるのが分かった。
避けながらもそれは理解できてしまう。
だから直前まで避けるばかりと見せかけて、もっと離れた位置から飛んでくる攻撃をかいくぐりながらまずは近づいてくる内の一人に狙いを定める。
(捕えた!!いや、あの服・・・)
攻撃目標に当たったと思ったが一瞬で消えた。
あの時のように早い動きで視界の外に出られたわけではない。
(どっちだ。あの状況なら・・・後ろか!?)
咄嗟に振り返ると先ほどの相手が後ろにいた。
これは少々賭けだったが予想が当たる。
【立体光学迷彩タイプ】のスーツ。
身に纏いはするが鎧のような硬さはあまり期待できない。物理的に身を守るのではないからだ。
仮想の空間を歪ませて相手の視覚情報を惑わす。
目標との距離と見える景色を予想して使わなければならないので相当面倒ではあるが使いこなせば消えるように錯覚させることもできる武器の一つだった。
俺も昔似たような服を装備してはみたが対人戦をあまりやらなかったのと制御の割に恩恵が少ないと思ってすぐに使うのをやめた。
だが人間の認知に対してだとこうも便利なのか、そう思ってしまう。
だから、空を切ったのも俺の見間違いだった。
もうすでに回り込んでいた。
だが、問題ない。
振り返る瞬間にもう攻撃の構えに入っていた。
そのスーツは攻撃する時、錯覚の制御がおろそかになる。
双剣のような小回りが利く相手に真横から攻めても防がれたり反撃される可能性がある。
だから真後ろを狙うべきなんだ。
後ろにあるはずの姿を、それも回り込みながら真っ直ぐ迫ってくるように見せかける時点でかなりの手練れのようだ。
中途半端な使い手なら横からの攻撃の可能性もあったから賭けみたい予測だがあの状況で先行してやってくるんだ。
自信があるか鉄砲玉のどっちかでしかない。
持っているもう一つの武器も上等な剣だから前者なんだろう。
振り返りながら同時に振った剣から攻撃が飛び出る。
さらに一気に詰め寄る。
相手が持っている長めの太刀は破壊力抜群だが少々隙が大きくなる。
だから敵の死角、というよりは防御不可能な状況を作り出して一撃で決める。
あるいは一撃で決めずとも当てた攻撃のダメージによって動きにくくするスタイルなのかもしれない。
ただ、位置が分かってしまえば問題ない。
できる限り攻撃を加えた。
そしてまた剣に手ごたえが無くなる、だが・・・
「そっち!!」
別に見えなくなるからと言って実際に消えるわけではない。
移動スピードはあくまで理論値までだし実態もある。
直前に向こうが寄れたのは右。
だから移動したのはその逆方向。
同じ方向ならまぐれ当たりする場合があるから相手に見せる錯覚とは違う位置に自分の幻を映す。
ただ、いったん後ろに下がるのはできない。
他の俺達のギルドのメンバーに攻撃される可能性もある。
あくまで俺に対して見せた錯覚なので他の人から見たら多少見えにくくなっているだろうが違和感はすぐわかる。
あの連撃のさ中、踏み込むのもできないだろう。
だから寄れたのと逆方向を適当に、でも素早く切ればいい。
(当たったか)
次は感触があった。
その位置めがけて次は突き刺す。
突きの場合の衝撃の出し方も大体分かってきた。
先に飛んだ刃が当たりそのまま本体が実態を捕え刺さる。
こうすればもう変な動きをすることができない。
移動したように見せても感触があれば意味はない。
そして、もう片方の剣で斬る。
剣の本体を当てればそのまま2回攻撃になる。
さっきもこのような攻撃、それも双剣で行ったのでもうすぐ離脱させることができるだろう。
観念したのかやみくもに向こうも剣を振ってくる。
(この程度なら・・・)
避けて続けて攻撃をする、と思ったら斬られた感触。
(しまった!!)
そう思いながらもこっちは攻撃を続行し突き刺した剣もそのまま敵の体を引き裂くように思いっきり動かして離脱させた。
だが、参った。
避けたと思った攻撃。
あれが肩に当たってしまった。
思いっきり当たったわけではないが他の剣と比べて威力が高い分ダメージも大きい。
あの状況で向こうは冷静だったんだ。
攻撃の位置を錯覚させて避けたと思ったら避けきれていなかった。
「もらった!!!」
「っと!」
休んでなどいられない。
他からも狙われている。
(さっきの光の攻撃はあいつか)
最初程の大技ではないがある程度事前に動きを調整できるようで10数メートル離れたところから何本もの光の線が色んな曲がり方をして迫ってくる。
でもなんとか避けることはできた。
(今だ!!)
横に思いっきり動きながらこっちも攻撃を届かせようとするが、
(ッツ!マジか・・・)
さっき攻撃を喰らった左肩からの振りが遅い。
最初の一撃を牽制で本命をこっちにしようとして思っていたのであっさり避けられる。
「おっと、次はこれだぁぁぁあ!!」
攻撃をしかけたように見えた矢先に爆炎に包まれた。
新手の向こうの攻撃ではないのは分かったのでそのまま接近してとどめを刺す。
「その肩・・・大丈夫?」
「ありがとう。ちょっと振りにくくなったけどまだ何とかなる。」
「そう・・・ならいいけどッっと!」
会話している余裕なんてない。
次から次に敵が迫る。
よく見ると敵が増えたようだ。
でもそれ以上に味方も増えている。
信号弾を確認した味方が駆けつけて向こうもその流れを察知して集まったんだろう。
互いの防衛以外の大部分の戦力が集結しているようだ。
まさに合戦と呼ぶにふさわしい敵味方入り乱れた今までで一番大規模な戦闘になりつつあった。
そんな中だから迫る相手は多いが花耶との交互の攻撃であっさり倒すことができた。
というか立体光学迷彩スーツや光攻撃の人物がおそらく向こうのでかい戦力なんだろう。
片腕をかばいながらなんとか戦い続けた。
最初の攻撃でバラバラに散開した花耶、あとは水面ちゃんやアキラちゃんともじりじりと合流して連携できるようになってきたのが幸いだった。
大きな声・音は未だに鳴りやまないが少しずつ互いのギルドのメンバーが減っていた。
でもここにきて動きがちょっと変になった気がする。
向こうは攻撃してくるがこの戦いが始まってからの戦闘スタイルとちょっと違う。
相手がもう少しで離脱だって思ったら急に消極的な戦いになる。
良く言えば慎重な戦い方だが悪く言えば踏み込むことができていない。
確かにリスクも負うがここぞという場面で決めに来なければ相手を倒すことはできない。
ここまで残っているのならそのことを十分理解しているはずだが急に防御や回避を重要視しているように思えた。
ただ、全く倒せないわけではない。
他の人が隙を与えて味方が倒す。
そうして戦えば今までと比べてペースが遅くはなっているがなんとか倒しきることができる。
「ねえ、なんか変じゃない?」
「っと!!・・・変って何が?」
「体力もギリギリでまともに戦えそうじゃない相手でもやけに生存を優先させている。」
「それは思う。だから何人がかかりで、はあっ!!・・・倒さなきゃだよね。」
「それだけじゃないの。本来なら私達を、・・・えい!!突破してでも防衛線に行く相手も出てきていいはずなのにむしろ後退している敵もいる。」
「確かに。」
よく見ると俺達が戦っている周りには敵が少ない事に気が付く。
もちろん、味方も減っているが向こうの減り方はちょっとおかしいと思っていたら後退しているんだ。
すると京極寺さんとも合流する。
「お互いに無事・・・だったと言っていいかわからないけれど何とか残ったわね。」
俺の肩を一瞬見た。
ちょっと痛々しい姿を晒してしまったが彼女もかなりダメージを受けてしまったようだ。
「ねえ、それよりも気が付いた。向こうのリーダー、まだ動いていないわ。だから今度はこっちから仕掛ける。」
そういえばそうだ。
幹部らしき敵とは何度も一戦交えたが肝心の向こうの頭は参戦する様子はない。
どういうことだ・・・?
しゃべっている途中でも敵の攻撃は割り込むが基本ヒットアンドアウェイ主体で当たったとしてもそこまで脅威ではない。
だが、ちょろちょろと逃げて避けられる。
めんどくさいな。
いっそのこと竜に変身させてまとめて・・・
いや、でもあとちょっとで倒せるんだからここで使うのは・・・
そんな迷いをこの後、後悔することになってしまう。




