第三十七話 脅威は突然に
木の合間を縫って逃げながら迫る人影を確認した。
一班と同じくらいの人数か。
それならば白兵戦に持ち込むのも手だがまだ射撃していた敵もいることを考えると早々に逃げたほうが良さそうだ。
近づいてくる敵と最初に攻撃された射撃の武器が一致しない以上それなりの人数が待ち構えているだろう。
幸い凍らせた地面がトラップになっていた。
凄く単純だが戦い慣れていないこういった地形では効果があった。
他の人も倒れる敵を攻撃しながら駆ける。
俺は当初の予定進路を曲がり右側から樹海を抜けるつもりだが左に散っていく人もいた。
なので今回の一班はここで事実上解散だった。
ただ、見知った3人と京極寺さんが一緒の方向に進んでいるから状況が大きく変わったって感じはしない。
(思ったよりもすぐに来たな)
追手が急いでこっちに来るのが分かる。このままだとちょっとまずい。
だから、地形の凸凹と木によって視野が狭まる場所で急に踵を返す。
「え?」
「八雲君!?」
「リョーマ!!」
皆もちょっと予想外だったがそれ以上に逃げるばかりだと思っていた敵は咄嗟に反応ができなかった。
4人の内二人に最初の攻撃を当て、さらにそのまま接近して直接実剣でも攻撃する。
すぐさま左腕から水が出る。
ここまで来たら出し惜しみする理由もない。
というかそんなことしていられない。
出せるだけの水を発生させて、最大出力で凍らせる。
これが攻撃の決め手にもなるし新たな障害物にもなる。
(離脱したか・・・)
倒すことはできたが残念ながら腕輪はもうスキルが使えない。
ただ、時間を稼ぐことができればそれで十分だ。
再び向きを変えて走り出す。
そして目に入ったのは水面ちゃんが俺に向かって構えている杖。
そこから放たれるのは複数の炎の玉だった。
「なんで・・・?」
思わず声が出た。
でも違う、見逃していたことがわかった。
火の玉は体スレスレを上に向かいながら通り抜け、俺の後ろに走っていく。
木の太い枝を伝って近づいてきた敵に向かって。
視覚に頼り切っていて、というか索敵を確認している余裕が無かったから見失っていたがまだ他にも近づいてきた敵はいたんだ。
花耶もアキラちゃんも位置的に一瞬止まってしまったようだった。
彼女らに追いつくのはすぐだった。
「ありがとね。」
「もう本当にびっくりした。やるなら一言言ってよ!」
「悪い、次からそうする。」
確かに今のはワンマンプレーだったな。
結果的に倒したのは良かったものの下手したら味方を混乱させて出さなくてもいい被害を出してしまったかもしれない。
もうすぐ森を抜ける。
「ところで出た後はどうするの?」
「敵の本陣に向かうわ。もう互いに残っているのは3分の1以下。私達の方が有利だからここで一気に本陣とシンボルを叩くわ。」
「なるほど。フフッ。」
「何がおかしいのよ。」
「いや、ここからはシンプルでいいなって思って。」
さっきの攻撃もそうだ。
敵もいよいよ賭けのような作戦をせねばらない。
もうすぐ終局なのは大体わかっていた。
とりあえず腕輪はもうまともに使えないから外しておくか。
そんな事を思っていたら樹海を抜ける直前だった。
先に進んでいた人が出る直前の位置にいる。
どうやらここで追手を完全に始末するようだ。
先に行ってくれとのジェスチャーを受け取りそのまま平原に出る。
一気に日の光が広がった。
敵はいないな。
出た瞬間に実は待ち構えられていて包囲されていた!なんて展開が怖いと思っていたがどうやら大丈夫だった。
「いたぞー!!」
半分前言撤回。
敵陣方面の遠くから声がした。
さっき射撃してきた連中か!!
向こうが構えに入る。
今一斉に撃たれたら・・・
「こっちに集まってくれ!!」
一緒に森を抜けた人だ。
声のした方に咄嗟に集まる。
装備由来のシールドが張られた。
「私も!!」
さらに何人かが重ね、攻撃を受けきっている。
なるほど、この手のシールドは頑丈だし使いやすい、改めてその有用性がこの対戦で分かった気がする。
ただ、それにも時間制限はある。
「もうすぐシールドは一旦切れる。」
それ以上の言葉は出なかった。
確かにこのままだと射撃の雨にやられる。
「一旦樹海に入ってそのまま近づいて叩きたいんだけどいい?」
なので無理矢理近接戦に持ち込もうと思った。
楕円形の森・樹海の先端付近、本来は俺達が出ようとした場所の近くだ。
そこから少し離れこちらを攻撃しやすい位置に敵はいる。
俺達は敵の攻撃によって横に追い出された。
だからもう一度、樹海に入り端を沿うよにして急接近しようと思った。
「考えている暇はないわね。それで頼めるかしら。その間私達はシールドを維持する。」
「当然。俺が言い出したことだし。」
「私も行くわ。」
「じゃあとりあえず私はここからできる限り向こうに届く攻撃で支援するね。威力は期待できないけど注意を引くことくらいならできるから。」
「ああ、そうしてくれると助かる!」
「あっ、その前に・・・」
アキラちゃんが身体強化を俺と花耶にかけてくれた。
「もう残り少ないですけどここで使わないといつ使うんだって話ですから。」
「アキラちゃんもありがとう、助かる。」
シールドの持続中にラグが来た。
もちろんその時間を補うように他の射撃も来るが弾幕は薄くなる。
「今ね!!」
そして、再び木々の中に飛び込む。
俺達を追うように攻撃も迫るが急に動く標的に照準を変えたところで当たりはしない。
そして、後ろから炎の竜巻が上がった。
水面ちゃんが使う複合魔法の一つ。他の攻撃に比べたらゆったりとした移動だが炎と風の系統なのに効果が長続きする。それに当然破壊力もある。
でもこの攻撃の目的はあくまで注目を集めることだった。
俺達と入れ違うように樹海で待機していた人達が草原に出て京極寺さん達のシールドを補った。
あそこはしばらく大丈夫そうだな。
それに向こうは俺達を詳しく確認できていないはずだ。
一旦消えたと思ったらまた出てきたくらいにしか思っていないだろう。
この隙を逃してはいけない。
バランスはそれほどうまく取れないものの身体強化のおかげで次から次へと枝を足場にして進むことができた。
「おい!!近くにいるぞ!!」
気づかれたか、でも関係ないな。
もう攻撃の準備に入っていた。
しかも、相手は索敵に頼っているようで迎撃が足元より下を通り抜ける。
だから、思っていたよりも高い位置から飛び降りるように接近してきた俺達を見て驚いていた。
今まで射撃攻撃をしていた相手だ。
急な接近戦には対応できなかった。
二人だけとはいえかき乱して次々と離脱させる。
そして、つい先ほどまで防戦一方だった味方も攻撃に入る。
どっちを狙っていいかわからないようでこの場にいる敵は全員離脱するまで時間はかからなかった。
「あたりに敵はいないわね。えーと・・・」
信号弾を打ち上げた。
樹海の中で見たのとは違う赤色の弾。
近くにいる場合は誰でもいいから来てくれという合図だった。
少し時間をおいて離れたところからオレンジの弾が上がる。
確認したという合図とさらに遠くまでそのメッセージを伝える役目の弾だった。
そして京極寺さんが形勢を確認する。
「敵は180人、私達は290人。こちらの防衛線には70人以上配備しているので陥落させられる心配は無いわね。でh・・・」
「リーダー、危ない!!」
彼女がそう言いかけた瞬間、光が飛んできた。
雷撃?いや、純粋なエネルギー魔法か!?
気づいた人が前に出てシールドを使う。
俺も武器由来ではないが咄嗟に最後のシールドを使った。
反応できた他の人も似たような行動に出る。
それでも焼かれたような何か体に押し寄せる謎の痛みを伴う圧力までは防ぎきれなかった。
でもまだマシだった。
先頭に立って防御に出たその人含め防ぎきれなかった人はそのまま離脱してしまった。
この状況を悲しむ余裕はない。
先ほどの光が見えた方向を見る。
今までの敵とは明らかに雰囲気が違っていた。
「アレは・・・嘘!?」
京極寺さんが驚くのも無理はない。
俺も予想していなかった。
本陣位置にいるはずの敵。
要するに向こうのギルド幹部数人、そしてその大将を中心とした隊がこっちに向かってきたのが見えたのだった。




