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第三十九話 巨人vs巨竜

 少し引っかかっていることがあった。さっきから敵ギルドのやけに弱気というか戦闘をうやむやにしようとしている動きもそうだがそれ以前の行動だ。

 

 そもそも人数差がついているはずなのにどうしてこんな無秩序な作戦を取ろうと思ったのか。もちろん、攻めてこなければタイムオーバーデス(TOD)で負ける可能性の方が高い。ただ、こっちは正攻法で戦うスタイルってことはわかったはずだ。だからTODも狙わないことも予想できそうだった

 

 なので防御重視の戦略だってとれる。戦略級の武器が複数ない限りは攻める方が負担が大きいのだからその方が安全だし逆転の機会だって掴めるかもしれない。なのにあえて俺達の目の前に現れたあげく互いのギルドの大部分の人数が入り乱れた戦闘に持ち込んだ。いたずらに人数差で有利不利が決まるような戦い方をしておまけにそのリーダーは後ろの方で待機。


 もちろんこっちも被害は受けたが人数差がそのまま加速度的に消耗数に影響する。こうやって肩が動かしくにくくなり、さらに周りの様子を確認していても敵を倒すことができた。といっても俺一人でできているわけではない。これは花耶達との協力があってのもだった。こっちはコンビネーションやサポートをする余裕がある。だから結局は互いに残っているプレイヤーについてはさらに差が広がった。


 「残っている二班、五班、九班は逃げる敵を追撃、そのまま向こうのリーダーを倒してください!」

 

 だから京極寺さんが近くにいるメンバーにそう言うのも分かる。だって向こうのトップを倒してしまえさえすれば敵を全員離脱させるのも時間の問題、隠れているのならそれで結構、シンボルを破壊すればいいだけ。そんな状況が生まれる。


 「残りは私と一緒にあちらの方から迂回してシンボルを壊しにいきます」

 

 集まってきてくれた人たちのおかげもあってこの場の戦闘も穏やかになった。強力なプレイヤーでも手持ち無沙汰になりつつあったのでここで役割を大きく二つに分けるようだ。


 こうなったらもうアレの出番は無さそうだな。ここから先は待ち受けているであろう敵を人数差を以て倒していくだけ。不意打ち、待ち構えなどを考えたら辛い状況は想定されるが敵が潜んでいない場所も遊撃班の調査である程度把握できているはずだ。


 味方にどこか余裕ムードが流れた。引っかかるところはあるとはいえその空気に流されそうになる。だが、


 カアアアアアアアン!!!


「うわ、眩しっ!」


 音とともに激しい光を感じた。でも攻撃じゃない。フラッシュグレネードの類のようだ。


「え!?何?」

「向こうからです!」


 その閃光と音響の源は敵のリーダーがいた場所。そこめがけて今まで逃げはしていたがそれでも足止めするような、こっちに少しでもダメージを与えようとしていた敵もすかさずそっちに向けて走り出す。


(なんだ、この雰囲気……)


 咄嗟に双剣を可能な限り振って逃げていく敵を追撃する。


「射撃ができる方は攻撃を!」


 京極寺さんも何かを感じたらしい。その指示の前に攻撃した人もいるがさらに他の人も続いた。これでさらに離脱させる人数が増えたがシールドも使われてしまう。想定内だがもう少し倒したほうがよさそうだった。すでに敵のリーダーを倒しに向かっている班の人達も急いでとどめを刺しに行くが逃げることに力を振り切っているようでなかなか攻撃が当たらない。


「追いかける!」


「待って!!」


「なんで? なんか様子がおかしいって。このままだと何かされそうだよ」


「八雲君、落ち着いて! 私達はこのままシンボルを壊しに行くわ。それにおかしいならなおさら行ってはダメ、あれを見て!」


「え?」


 なんだろう。黒いモヤが発生している。なんかヤバそうだ。出どころは……


「真っ黒な霧? 流体みたいな粉みたいなものが出ているね。あれは……向こうのリーダーから…?、出ているみたい。」


「人から……?」


「うん。というか鎧からだね。あんなの見たことない。知っている?」


「光学的に干渉する鎧はあるけどそんなのは聞いたことない。花耶は?」


「私も知らない。ひょっとしてあなたのそれと同じような未知の……」


 そう言いかけた時、彼女はそれ以上言葉を発することができなかった。いや、声が頭に入ってこなかっただけなのかもしれない。それ以上に遠目に見えても異様な光景が映ったから。


 黒い霧は集まった向こうのギルドの人達をたちまち飲み込んだ。そして離脱していく。


「自滅……?」


「違うわ! なんか大きくなっている!!」


 そう、敵のリーダーがどんどん巨大化していったのだ。最初は目が疲れているのかと思ったがそんなわけない。現実世界じゃないんだから。それが3m、5mと伸びていく中で異様さが際立つ。


 とうとう20m近くになった。あの竜と同じくらいの高さだが体の各部分の比率は実物大の人間と同じ。でもその大きさよりも気になるのがこのプレッシャー……


「多少やられはしたがまあこんなものか。どれ……」


 太く遠くまで響くような声がこちらまで聞こえる。対抗戦が始まった時にはあちらのリーダーの声を少し耳にしたがその時よりもずっと低い声だった。そして、本来なら2mいかないはず、だが今は体の拡大に合わせたように大きくなった薙刀を構え、振る動作に入る。


(何をするつもりだ……)


「退避して!!!二班、五班、九……」


 ヒュンッ!!

 

 ブゥゥゥゥゥゥン、ズドーーーーン


 彼女の撤退指示虚しく攻撃は無慈悲に行われる。

 振り下ろされた薙刀から出る黒い、八岐大蛇の物よりもずっと漆黒という言葉がぴったりの伸びる影のような衝撃。それが二班や五班、九班の人達に襲い掛かる。


「嘘……」


「こんなのって……」


 一気に味方が離脱してしまった。この破壊的な攻撃を免れた人もいるが問題はそこではない。一振りでこの規格外の攻撃をされた。このまま一方的に倒される光景が頭をよぎってしまう。


「フフフ そっちか」


(こっちを見た!!まずい、間に合ってくれ!)

 前に出ながら双剣をサブに切り替える。

 

 巨体がこっちに近づいてくる。さっきの薙刀を振る構えをしながら、


「この勝負、俺の勝ちだな」


 勝利宣言も納得とさえ思ってしまう。


「フンッッッッ!!」

 漆黒の濁流のような衝撃が放たれるのを目の当たりにする。爆撃をされたような音が鳴り響き、粉塵が舞い上がった。


「フフフ……

フッフッフ……

ハーハッハッハッハ!!!

一時はどうなるかと思ったがこの力さえあれば俺の勝ちはすぐだ。さてと、お前たちの拠点とシンボルをたたかせてもらうぞ。

ん??」



【防壁の翼】

 

 なんとか展開できた。後ろを少し見る。この竜の後ろは衝撃を受けた場所とそうでない場所がくっきり別れている。前に出たおかげで安全だった範囲は広がったがそれでもまた離脱者を出してしまった。


「なるほど。お前が例の……よく見てみればギルドの長と一緒にいたな」


 すると今度はさらにこっちに近づき、袈裟斬りをしようとした。


 ガジッッ!!!


「ほう」


(痛ッ 今までで一番きつい)


 だが、その頭痛と引き換えに薙刀を掴むことができた。片方の竜の腕は刃の部分ではないがもう片方は刃をもろに受けていた。傷がつく様子はないとはいえ痛いのは変わりない。


 でも攻撃を掴んで防いだことには変わりない。こんな動きはアークアナイラレーターを手にした時は考えられなかった。もちろん、戦闘を通して操作に慣れてコツを掴んだってのも大きな理由だがそもそも巨大なものを動かす時は等身大で動かす時と比べてイメージにズレが生じる。どうしてもゆったり動くように感じられてしまうのだ。だからまだこの大きさに慣れていないであろう目の前の巨体の攻撃、その薙刀を掴むことができた。それと竜の背中に乗った方が操作はしやすいのも分かった。


「京極寺さん!!!みんなを連れてシンボルを壊しに行って!!」


「でも……!!!」

 

「このままじゃ遅かれ早かれみんなやられるかもしれない!だから少しでも勝つ可能性を取りたい!!」


「クッ……分かったわ!!」



「させるか!お前ら全員ここで俺が倒す!ん!?」


 再び武器を動かそうがあまり動かない。ガタガタやってはいるが構えに入ることはできない、というか構えに入らすわけにはいかない。竜の腕に力を入れる。


「うちのリーダー達を攻撃させるわけにはいかない!!」


「生意気な!!まあいい、どっちみちお前にはずいぶん被害を与えられた。ここでたっぷり仕返しをさせてもらう」


(まずい!このままだと振りほどかれる!!)

 

 相手の力がさらに強まるのを感じる。一瞬の事だが色んな反省が頭に浮かぶ。もっと早く竜のモードに変えて飛んでいってシンボルをたたきに行けばよかったのではないか。そうすれば今頃は勝てたかもしれない。それかまだ巨大化していない時に奴を打ち取りに行くべきだったか。いや、そもそもこの巨大化は明らかに味方の離脱、というよりは生贄だな。それによって力を得ている。だからあの時に出し惜しみせずにちゃんと他の相手を倒していれば……


「リョーマ!!私達もいるわ!!」


 彼女の声でハッとなる。花耶達は今度も残ってくれていた。だが、だからと言って今までの敵とは違う。最悪、というよりもそれが一番予想できるが俺達が全員この場でやられるなんてこともありえる。


 水面ちゃんもアキラちゃんも花耶も攻撃を仕掛ける。だが、効いてはいない。

 ん?本当に効いていないかか。いや、なんだあの黒いモヤは……さっきみたような……見間違いかもしれない小さな変化だったが気になってしまった。


「鬱陶しい!!」


 そう言いながら彼女達を蹴ろうとする。刃を掴んでいる方の腕を離し、体を回転させ、その蹴りを尾の振り回しで防ぐ。

 どういうことだ……この状況で足の踏ん張りを犠牲にしてわざわざ花耶達を攻撃する?もしかして……!?


「そうだったな、まずはお前からだ!!」


 片手で持っている分、薙刀は動かしやすくなった刃がガチガチと体に当たり掴んだ手から外されやすくなっていたがすでに秘蔵のアイテムを使用していた。


【スキル回復+1】


 アキラちゃんがくれたアイテムだ。これは名前の通りスキルの使用回数を1つだけ回復することができる。ずっと使う機会を悩んでいて出し惜しみしていたがここしかない。ここで負けたら意味がない。


 ロックオン目標は「1」。


 今まで拡散させて使っていた光が1つの対象めがけて解き放たれた。

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