第三十五話 深緑のゲリラ戦
戻るとすぐに作戦が告げられる。
作戦と言っても要は編成し直した班ごとに順番に攻めていくというものだった。
ここまで来たらあとは力押しするのが手っ取り早いのだろう。変に作戦を組むよりはシンプルに行くのが一番だと判断したらしい。
実際に敵もマップ中央にかなりの人数を割いているようで先に進んでいった班はすでに交戦しているようだ。
一応それ以外のルートから進行される場合も想定して両脇にも一定人数味方を配置している。
そちらで戦闘が起これば中央から進んでいる人員が駆けつけるだけだった。
「では私達も行きましょうか。」
そして、俺達の出番。
新しく編成され直した班は元一班を中心に他の班の人達を合わせた30人ほどの小隊となった。
この状況ならわざわざ京極寺さん自ら前線に赴く必要はないはずだがそうはいかないのはなんとなくわかっていた。
俺達の出発を見送るように聖慈さんが手を振っている。
治癒は期待できないから機動力も大幅に失ってしまった。
でもここ一帯は必ず守るって言ってくれたから安心して進むことができる。
「じゃあ私達のルートはここからね。ゲリラ戦になりかねないから互いに援護し合うように。」
中央から進むと言ってもその地形には多様性がある。
平原のような見晴らしが良い所もあれば軽い盆地のような場所、そして、木々が生い茂り起伏もある樹海のような場所などだ。
これから進むのはその森林・樹海方面。
池周辺と平原の間に楕円上に広がっている。
決してだだっ広いわけではないがここに敵が潜伏していると思わぬ奇襲を喰らいかねない。
それに一部の人が確認できる敵と味方の人数状況と実際の戦場で確認できる敵の人数にはどうも誤差にしては大きすぎる違いがあるのが気になっていたらしい。
隠れ家があるとすれば岩場、池の中など。
ただ、岩場はもうすでに交戦が終わりこちらがルートを開拓しそのまま敵を寄せ付けていない。
池の中ならここに来る途中に襲われていたのだろう。
そうすると怪しい場所はここしかないという結論になった。
あくまで潜んでいるかもしれない、という可能性の話をしているだけで実際に誰もいない場合だってあり得る。
でもそれならそうでそのまま進めばいいし、何人か味方を待機させればこちらから奇襲の準備をすることもできる。
いずれにせよ対抗戦での不確定な要素を減らすためにはここは避けて通ることができない、そう判断したんだろう。
「この樹海の中央に辿り着いたら信号弾を複数回上げる予定よ。もしも、1時間経ってもその信号弾が無い場合は私達が誰もいないという意味の全滅、もしくは連絡をする余裕がない状況にあるということ、その場合は別ルートから攻略することとその樹海には近づかない、警戒することと味方に伝えてあるわ。もしも信号弾が上がればこのルートを通って後続の班が進む手はずになっている。」
つまり俺達は遊撃班でありつつ探索・中継役も担う。
その際にどこからともなく敵が現れたら困るのでなるべく連携しやすい人達でこの班は編成されている。
なので俺と花耶、水面ちゃん、アキラちゃんも必然的に同じ班になった。
元一班や元十二班、それに池周辺で一緒に戦った人達もちらほらいる。
そして、段々と目の前が木で見えなくなってきた。
あと20mも進めば樹海の中に入る。
後方の防衛線の援護射撃のギリギリ圏内ってこともあって接敵してもなんとかなるとは思っていたがここまでは恐ろしいくらい静かに来ることができた。
「では準備をお願いします。」
京極寺さんの指令とともに他の人が武器を準備する。
ただ、やみくもに攻め入るってわけではない。
入っていきなり待ち伏せ攻撃なんてされたら困るからそんなことはさせない。
VR空間で良かった。
これからやるのは環境破壊上等の殲滅戦だ。
それぞれが魔法のような範囲攻撃可能な武器や遠くまで届く射撃武器を構える。
そして俺も準備に取り掛かる。
と言っても双剣を竜の形態に変えるだけだが。
未だに近くでこの変化を見るのを慣れていないようで味方からも小さく驚きの声が何回か上がる。
と、その時樹海の中から射撃攻撃がこちらに向けられた。
バシン!
それをはじくのは京極寺さん含め3人の防御武器によるシールドだった。
シールドと言ってもバフの一種とみなされる俺が使うシールドとは違って武器由来の物だ。
盾を3つまで自由に発生させることができる物珍しい防御武器。
ただ、剣と一緒に使うのは戦闘時にラグが発生しやすい。
だから今までの激戦のような場面では使いにくかったがあらかじめ向こうの攻撃がある程度予想できる場合なら問題ない。
「やはりいたわね。」
こっちの攻撃の準備に気づいた敵が先手を打とうとしたのだろう。
一応確認できた攻撃を考えると少なくとも4人はいるな。
しかも、俺達の様子を確認できてなおかつ攻撃を届けることができるくらいまで自分達の本陣付近で待ち構えられていたようだ。
でも、それなら一層ここを先ずは攻略しなければならない。
だから、
「ではお願いします!!」
彼女の合図とともに様々な射撃が放たれる。
人間が何とか持てるくらいの徹獅さんの機関砲もようやく日の目を浴びた。
先ほど攻撃してきた位置を中心に反撃とばかりに弾の横雨が降り注ぐ。
魔法武器を持っている人が射線に入らないように樹海に近づき一斉に炎の攻撃を向ける。
じわじわとその攻撃範囲も広がっていく。
「やっぱりね。今の攻撃で敵の離脱者が増えたわ。」
どうやら先兵を何人か倒したようだ。
「それじゃあ八雲君、お願い。でも大丈夫?」
「了解。まあ多少痛いかもしれないけど何とかなると思う。」
まさに機械でできた竜と思わざるを得ないのはその装甲部分だけではなく移動、特に飛行時の推進だった。
足や翼、腰(と言っていいかわからないが)らへんに備え付けられたバーニアが青白い光を湛えて静かに音を立てる。
そして発進。
超低空飛行で森の中に一気に向かう。操作性は気にしなくてもいい。
まっすぐ飛ぶだけだから。
その分スピードを最重視する。
木々なんて関係なしにそのままどんどん突っ込んでいく完全なる特攻攻撃だ。
目の前に使用回数残りわずかとなったシールドを展開しても崩れていく木の破片や葉、そして空気の重さを全て防ぐことはできない。
それに森を構成するオブジェが竜に当たるたびにやっぱり痛さも感じる。
だが、それももう終わりだ。
(もうそろそろか)
着地可能なスピードまで減速したと思ったらすぐにメインに切り替えた。
光が両手に集まる代わりに竜は消えていく。
完全に何かに乗っている感覚が失われた。
さっきまで掴まっていたものがだんだんと、そしてついにはふっと消えたことで不安感が増すがなんとか慣性に従いながら着地することができた。
竜による攪乱後、俺が通ってきた後をすぐに同じ班の人達が追ってくる算段になっている。
本当なら水面ちゃんのような索敵もうまいメンバーが一緒にいれば安心なんだがあのスピードで他の人を乗せるのは気が引ける。
(近くに一人か、この位置は・・・)
だから最低限備え付けられている索敵の仕様のみで他の人と合流するまでここで戦う。
向こうも俺に気が付いたようで襲い掛かってくる。俺の頭上から。
ただ、避けることはできた。
位置が近すぎるのに敵が見えなかったからな。木の上というのは予想できた。
敵が使っているのはナイフ形の武器。
こういった地形ではかなり戦いやすいだろう。
木々は移動中に砕いたが俺が着地したのは竜が消えた後の場所だ。
だから障害物が多い。
対してこの双剣は剣の中では短めだがここで振るうにはちょっと刃渡りが長いな。
でもやることはいつも通りだ。
向こうが再び距離を詰めて迫ってくる。
最小限の動き。
あの時、八岐大蛇使いと戦った敵のようにあらかじめ構えた位置からわずかに動かして防御に回る。
喉元、と見せかけて狙いは腹部か。
すぐさま相手の攻撃の軌道に乗せるように剣を動かし防ぐ。
それでもう片方を攻撃に回す。
避けようとして刃はギリギリ躱したがそこから放たれた衝撃には対応できなかった。
続けて障害物に阻まれないように突きで攻撃する。
反撃しようとナイフを振る直前の腕、というか肩を先に攻撃する。
後はいつも通り連続攻撃で畳みかけるだけだった。
離脱を確認。
すると俺の頭上少し上を何かが一瞬で駆け抜ける感触を感じた。
「あーあ、外しちまった。」
「だから焦って撃つなって言ったんだ。」
「しょうがねーだろ?あいつがやられそうだったんだから。」
「もう離脱したけどな。」
他の敵か。
まあここに来るまで音はだいぶ立てたから集まるのも時間の問題だろう。
銃を持っていた方がそれを仕舞う。
あのグローブは近接肉弾戦タイプ、もう一人は魔法攻撃か。
すぐに衝撃を向こうに向けて放つ。
「痛ってー!!」
離脱させるには攻撃回数が足りないが魔法の奴には当たった。
だが、もう一人には避けられた。
そして近づかれ、拳や蹴り迫ってくる。
まずいな、こうデコボコした地形なのに相手はバランスを崩さない。
一方俺は防いでも少しずつだが後退させられる。
連続ジャブを仕掛けられ少し喰らってしまった。
すぐに後ろに下がるがそこを狙って風の刃が飛んできた。
「お前・・・よくも!!」
さっきの魔法の奴は無視していたわけではないがそれどころではなかった。
(クソ!)
咄嗟にシールドを張るがこれで使えるのはあと1回だけ。
そして迫ってくる横からの蹴り。
どうやらこの波状攻撃がこの二人の戦い方らしい。
ただ、こういった大振りを待っていた。
さっきまでは剣の表か裏で防いでいた。
剣タイプ相手に肉弾戦を仕掛けるなんてリスクもある。
こちらの防ぎ方を見て戦い方を変えるつもりだったんだろう。
だから大振りが出てくるまで悟らせなかった。
刃が足に当たるように構える。
すぐにこっちの狙いを理解して蹴りをやめようとした。
おそらく体表面に何かしらの保護をしているだろうが見たことが無い剣だと何をされるかわからない。
だから狙ったのか経験上の癖なのかわからないが無理矢理攻撃を自分で止めた。
その瞬間を狙って向こうの体を支えているもう片方の足めがけ、すぐにしゃがむというか体勢を低くし、今度はこっちが相手のバランスを崩すように蹴りを入れる。ついでに俺を再び狙ってきた風の刃も避けることができた。
向こうから見たら下に消えたようなこの攻撃は予想外だったようだ。
少しだけ時間ができた。
後は蹴りの回転をそのまま利用して本命の剣での攻撃を叩き込んだ。
さっきのナイフ使いとは違って刃本体と衝撃の両方を当てる。
それを三回。すべて足に向かって。
まだ離脱しないがこいつは一旦後だ。
向きを変える。
狙いはさっきから魔法を使ってくるもう一方の相手。
向こうも迎撃しよう攻撃の準備に入るが一気に駆け寄りながら先にこっちが斬撃を飛ばす。
攻撃もしてくるが狙いがなかなか定まらないようだ。
そのまま接近して胸部分を二つの双剣で貫いた。
でもまだ敵はいる。
足を攻撃して鈍くなったはずだが驚くような跳躍で無理矢理迫ってきた。
が、その体は横からの彼女の斬りかかりとともに爆炎に包まれ離脱した。
ジャンプしている相手に正確に攻撃を当てたのは流石だった。
「あれ?ひょっとして私余計なことしちゃった?」
「いや、そうでもないよ。助かった。」
どうやら後続が駆けつけてくれていたようだ。
少し班が減ったように思えたが先に前線、つまりは俺がいたところに向かうメンバーとゆっくり進む掃討担当に分かれたらしい。
敵の攻撃の規模から二手に分かれても問題ないと判断したようだ。
「気を付けて、まだいるよ!」
さらに駆けつけた水面ちゃんが索敵の様子を教えてくれた。
さっきまでは慣れない地形で複数を相手にして大変だったがもうこうなってしまえば問題は無かった。
木ごと燃やし尽くす花耶の刃や敵の位置の把握と魔法による範囲攻撃もできる水面ちゃん、他にも頼もしいメンバーが集まっている。
5人減ってしまったが後ろにいた掃討担当とも合流し、敵を倒しながらも樹海の中央に到達。
「では信号弾をお願いします。」
「はい!!」
そして、安全は確保した、私達に続け!の合図が空に上がる。




