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第三十四話 いかなる時でも警戒を

立ちはだかる相手に関係なく突き進む。


幸い敵は防衛が優先だったようで敵陣の方に向かうにつれて邪魔が多くなるが俺達は逆方向に行けばよかった。

それでも多少は相手をしなければならない。


俺達3人は足を止めないようにしながらも攻撃を仕掛ける。

最初に双竜の形態にした時は向こうもビビっていたようだがすぐに俺達もろとも竜を攻撃しようとする。


ただ、そんな妨害はお構いなしにその巨体で突進すればよかった。

時には尻尾で振り払い、時には踏みつぶす。

俺もダメージが蓄積していたがそれは相手も同じだった。

明らかにダメージを負った際の動きの鈍さを隠しきれていない。


だから正面の突破は容易だった。


味方の陣地に進みやすくなっていく。


「まだ追ってくるな。」


それでも後ろから追いかけてくる人数はあまり減っていない。ざっと30人くらいか。

てっきり自陣に近づけば深追いはしないと思っていたが見逃してはくれないようだ。


というよりは竜を見せたのがまずかったのかもしれない。

これが狙われている気がする。


「ッ!!」


「どうしたの?」


「いや、ちょっと、なんでもない。」


向こうの射撃が竜の背中に当たった。

俺達の後ろに配置しながら走っているからこの巨体が盾になってくれている。


双剣時同様かなり頑丈だから少々強引だけどこうしていた。

ただ、薄々気が付いていたが一般的な召喚獣型武器よろしく、ダメージは持ち主にリンクしてしまうようだ。

もちろんそのままダメージを受けるわけではなく、かなり減少された痛み・行動の不自由さが伝わるだけだが俺の場合は一定量のダメージを受けると頭がズキンとする。


どうしたものか。

いっそのこと逆走してまとめて可能な限り蹴散らしてみるか、そんな事を思っていたら、



ドーーーン、ドン、ババン


着弾音!?


だが狙われていたのは俺達ではない。

追手に対してだ。


「あそこからよ!」


花耶が指さしたのは池方面に一番近かった防衛線だった。


そういうことか。

俺達はもう味方の射程圏内に入っていたんだ。


しかも戦況の有利さを知って本来の位置よりも前進していたようだ。

相手も事前の情報とは違った位置から攻撃を受けて戸惑ったことだろう。


彼らが俺達の支援、というよりは防衛線に近づかないように迎撃してくれた。


これなら進むことができる。

というよりは、


「二人とも乗って!」

「分かった!」

「はい!」


竜の背中に乗る余裕ができた。

そのまま、上昇し約束の本陣を目指す。


味方には十分情報が伝わっていたようで一見モンスターと思われてもしょうがない俺達に向けて攻撃はされてこない。

それどころか先の進軍していた班みたいに手を振ってくれる人もちらほら。


下の様子を見る。

俺は水面ちゃんと違って高性能な測定装備を持っていないからよく見えはしないが味方防衛線ラインで戦闘は行われていないようだった。


ということはこのまま時間制限いっぱいまで待てば勝つことができる?

まあそれはそれで面倒だが。

睡眠は我慢するとして食事、も大丈夫か。

ただ、いつ催すかは分からない。


それでも勝ちパターンが増えるってのは安心だ。


「見えたな。」


本陣が見えた。


防衛ラインとシンボルの中間地点。

※TIPS9の9B付近


マップの広い範囲を見渡すことができる場所だ。


人のいない場所を見定め、着地する。

すると駆け寄ってきてくれる人がいた。


「無事で何よりです。あなた達の班は確か…」


「あ、3人とも一班です。」


「やっぱり!リーダー達がお待ちです。こちらへ。」


そうやって案内されて見えたのは京極寺さんとその前に座っている多くの同じギルドのメンバーだ。

どうやら作戦会議直前らしい。


「みなさん、よくぞご無事で。でも申し訳ないわ、帰還を喜んでいる時間はちょっと無いの。そちらへおかけになって。」


手で示された付近の位置に行くと、


「あっ、おっかえりー!!」


先に戻っていた水面ちゃんが体操座りをしていた。


「ただいま。良かった、水面ちゃんも無事だったんだね。」


「まーねー!戻ってくるまで少し大変だったけどそこは流石私って感じかな。」


「コホン」

まずい。京極寺さんが何か話すようだ。

再会のあいさつはそこそこにしてすぐに彼女に注目した。


「えー、現在の両陣営の状況ですが、私達は380人、対してあちらは305人になりました。」


「おお!」

「やったぞ!」

「これはいけるな。」


周りから歓喜のどよめきが沸き上がる。


「はい、人数的には逆転です。それに幹部を倒した報告も何例か上がっています。また、奥の手と思われる合成兵器も沈黙しました。」


「それに敵がいると思われる場所にはこちらの遊撃班がすでに向かっています。戦力を考えると彼らが制圧し、こちらの新たな攻撃拠点とするまで時間はかからないでしょう。」


形勢は明らかにこっちが有利だった。

だから後はTODを狙う方針でもいいが、


「ただ、それに甘んじるつもりはありません。私達は敵を全滅させるかシンボルを壊します。」


「え!?」

「このままでも勝ちなのでは!?」


困惑の声が少し上がる。

まあ効率と確実性を考えればそうだろう。

ただ、それだけではいけないことも薄々と分かっている。


「皆さんの気持ちも十分わかりますし勝ちに徹するなら制限時間までの消耗戦を狙うべきでしょう。

ただ、このチーム対抗戦は今後の私達のギルドが単独でやっていけること、それだけの戦力と人員を有していることを示さなければならない、そういう試合でもあります。」


今回の対抗戦には出撃しなかった相手のギルドはもちろんのこと、他のギルドの人や住民も観客として見ている。

中には行政関連の人もいる。


だから有利になったから時間制限ギリギリまで生き延びて勝ちました、なんてのは示しがつかない。


「なのでお願いします。もう少し皆さんの力をお貸しください。」


そう言って頭を下げた。少し静寂があったが次第に拍手が沸き上がった。

彼女の覚悟と意思が伝わったようだ。


「ではこの後、防衛線の戦力はそのままでそれ以外のメンバーは班を編成し直します。それまでに少しばかり時間があるのでお手洗いや水分・栄養補給をしたい方はどうぞ。」


ここにきてリアルな体の為の休憩の時間がわずかだが手に入った。

そう言われるとちょっと膀胱らへんに違和感があることを実感する。

これがもやもやするなぁ。一旦、戻るか。

この離脱は戦闘離脱ではなく任意の離脱として扱われるので再びVR装置を付ければ対抗戦に復帰することができる。


「俺ちょっと休憩してくるわ。」

「私も!」


「あ、私は大丈夫です。」

「そうか、体調は大丈夫?」

「はい、リョーマさんが用意してくれた栄養補給剤のおかげか今朝よりも良くなりました。」

「それは良かった。」


「花耶はどうする?」


少し考えたが、


「私もちょっと離脱するわ。」


そんなわけで3人は任意離脱した。

すると、


わぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!


これは驚いた。

VR空間では聞こえなかった観客の声が一気に耳に入る。

興奮がずっと続いているようだ。


トイレに向かうための出口にそそくさと走っていくがその間にも「おーい!」などと言う声が俺達に向けられたのが分かった。


「凄い熱気ね。」

「マジでびっくりした。」

「あんなに注目されていたんだね。」


トイレは互いのチームの控え室の近くに設置されている。



だから、油断していたんだ。

ここは関係者以外立ち入り禁止ってわけではないのに。

後ろから迫るその人物に。


気配に気づいて振り返ると誰かが俺に向かって迫ってくる。

俺を、それか二人かもしれないが明確な敵意を持っているのは嫌というほど伝わる。


敵か!?

嘘だろ!?そんなのって・・・


花耶が何か叫んだが耳に残らない。


相手の腕が迫る、とその瞬間に、


ガシッ


その腕が掴まれた。


俺じゃない。


花耶でも水面ちゃんでもなくその腕をつかんだ優男風の人物は、

「いけないな、こういうことをしちゃあ。この試合は正々堂々とやらなくちゃ。」

と諭すように言う。


「クッ、離せ!こいつらは、・・・あんたは!?」


彼の顔を確認したと同時に表情が一気に変わる。


「これ、映像として撮ったから。こういう機器は今でもちゃんと使えるしこれが出回ったら君達のギルドはどうなるか、分かるよね?とっとと消えたほうが君達のためになるよ。」


掴んだ腕を離した瞬間、一目散に逃げていった。


何だったんだ。でも助けられたのは事実だ。

突然のことで不規則になった息を整えて、


「あの、助かりました。なんとお礼を言っていい事やら。」


「お礼なんていいさ。こんなエキサイティングな試合を見せてくれたお返しだよ。じゃあ。」


「あなたは?」


「ただの観客さ。でもこういうこともあるから気を付けなよ。」


そういって、その人は観客席に戻る階段から消えていった。


少し呆然としたが、


「あ、ヤバイ、トイレ!」


「私も!」


そして、再び合流。急いで水分補給をし、栄養剤を飲んだ。

観客席のモニターを見る限りまだ戦況は大きく動いていないようだ。

状況を確認してホッとするが完全に安心するのは試合が終わるまでだ。トイレに行くときでさえ気を抜いてはいけない。

そうして三人ともVR空間に戻っていった。

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