第三十三話 帰還のために
互いに出方を見極めようとする。
下手に飛び込んでいってカウンターを決められたらたまったもんじゃない。
最悪そこからのコンボで離脱なんてこともありうる。
逆に出方を伺い過ぎて好機を逃すのも駄目だ。と様子を見ていると・・・
ハッとなった。
(消えた!?いや、最後に映ったのは・・・右か!)
そんな事を思っていると先に動いたのはあっちだった。
隙を見せたわけではないが向こうは急がなくてはならない事情があるらしい。
一瞬消えたかと思ったがそうではない、視界の外に動いただけだ。
目で追いきれないスピードで。
こうやって振り返って思考するよりも自分の体が先に動く。
ガチンッ、ガッ
自分の右方向から斬りかかる黒紫の刃を受け止める。
「さっきもそうだがよく防げたな。」
向こうは速度強化を使っているんだろう。
八岐大蛇は確かに振り回しやすいがそれはあくまで他の同じランク・火力の刀と比較した場合だ。
あれだけの攻撃力を持っているんだから速度だけなら高スピードが売りの剣・刀よりももちろん劣る。
だからこれだけの速さを出すには自身を強化するしかない。
ならば・・・
速度+5、斬撃+5
バフには武器スキル同様使用回数がある。
こういった長期的な戦闘ではその使いどころも重要になる。
今までは種類が豊富でバフの回数も増やしているアキラちゃんに頼りがちだったが今は温存なんて言ってられないようだ。
双剣で一気に斬りかかる。
まだ、飛ぶ斬撃は使わない。
これはブラフにしておく。
器用にも刀を最小限動かしてこっちの攻撃を防いでいる。
連続攻撃を加えてなんとしてでも体の‟空き”を作る。
埒が明かないと思ったのか向こうは後ろに一気に跳んだ、そして着地と同時に突きの構えに切り替え飛び掛かる。
だが、これは読める。
後ろに下がったらやることはだいたい決まっている。
体をひねりながら横に半歩動いて差し出された刀の上めがけて双剣を叩き込んだ。
刀の軌道は下に大きくそれたが相手の腕に力が入るのが分かった。
(まずい!!)
今度はこっちが後ろに大きく下がった。
そして、自分の体すれすれの空気が下から振り上げられた刀によって切り裂かれていった。
互いに再び距離を取った。
「はあ、参ったなぁ。」
(?)
「お前に時間を使っている場合じゃない。あの女は危険だ。あの刀、テンペストはこの八岐大蛇と同等の武器だ。そんな奴に暴れられたらこっちの被害が増えるばかりだ。」
急にしゃべりだした。
これはチャンスだと思いたいが向こうは隙を見せていない。
「だからお前を早々に始末してすぐに【ファランクス】の援護に向かわなきゃならないんだが、どうやら時間稼ぎは得意らしいな。」
【ファランクス】?あああのでかいロボの事か。
「おまけにその武器、頑丈だし速度は出るみたいだが俺の知っている双剣の中には無い。剣タイプ、特に上位の物は調べ尽くしたと思ったんだが記憶に無いってことは大した武器ではなさそうだ。」
「だからなあ、」
来るか・・・
「おとなしく倒れろ!!」
また一気に接近してきた。
急いでいる理由が分かった。
どうやら花耶達をすぐに止めたいようだ。
その前に俺を倒すってのが向こうの予定だったようだが予想外に粘られたらしい。
再び斬り合いが始まる。
少しずつだが向こうの攻撃が掠る。
あの時足を撃たれたから速度バフを使っても若干遅れる時がある。
その一時的な弱点を突かれるように攻撃をしてきた。
なるほど、攻撃の合間によく観察されてしまったらしい。
ただ、ダメージを喰らうのはこっちだけじゃない。
防御よりも攻撃を優先しているのか、こっちの攻撃も当たる。
一撃の強さは八岐大蛇の方が上だが回数はこちらの方が上だった。
相手の武器を自分の武器で防ぎ、間に合わない場合は避ける、でも当たる場合はしょうがないから代わりにこっちも攻撃を叩き込む。
そういった競り合いがしばらく続くと思ったが突如として意識を持っていかれそうな赤い光が発せられたのが分かった。
直接見たわけではないが炎によるものだろう。
「何!?」
一瞬で二人とも距離を取る。
近くから、と言ってもよく確認できない距離で火柱が上がったのだ。
あれは敵のロボットの重火器によるものではない。
おそらく花耶の・・・
「どうやら俺達にとってよくないことが起こったらしい。」
あの構え、間違いない。
「だから早々にケリを付けさせてもらう。」
八岐大蛇の武器スキル、8つの黒い影のような衝撃が敵を襲う強力な攻撃だ。
だが、この時を待っていた。
正直、向こうの様子と使用SP・回数を考えたら使わない可能性もあったが焦ったのだろう。
刀を振り、近くから影の塊が発生する。
(今だ!!)
刀を振る仕草をした瞬間に自分もすでに腕を動かしていた。
こっちも斬撃を飛ばす。
相手に近づくために走りながら、相手の体、ではなく、その影に向って。
自分から離脱してしまうような危険な行動だがこれでいい。
八岐大蛇のスキルは最初は1つの影が2つに、それが4つに、最終的に8つになって襲い来る。
その一連の分裂は分かりにくいが4つから8つになる時はある程度位置を予想できる。
その黒い影の集まりを狙いこちらも斬撃を飛ばした。
「お前も・・・!?」
どうやら驚いたようだ。
こっちが飛ばした斬撃は5つ。
2つはドンピシャで衝撃になる前の影に当たり消えた。
1つは弱まったか、そして最後の1つには当たらずに2つに分かれた。
2つの無事な黒い影が俺を狙って迫ってくる。
当たる場所は・・・ここか!!
飛ばすのではなく直接叩ききるようにそれを防ぐ。
もう一方は躱した。
そして、分裂できずに弱ったままでスピードも遅い最後の影が迫る。
これも避けようとしたが、腰らへんをかすめてしまった。
自分の知っているスピードではないので逆に変な反応をしてしまった。
だが、傷なんてこの際どうだっていい。
このまま相手に向かって斬りかかった。
スキルを使った後だというのにすぐに刀で防いでくる。
まあそれも織り込み済み。
次の攻撃も刀で防がれるがその瞬間にこちらの双剣から衝撃が出る。
刀の側面を通り抜け、そのまま敵の体に斬りかかった。
(少しずれるな、だが問題ない)
切先周辺から放たれる斬撃なので真横から防がれるとどうしても変な方向に飛んで行ってしまう。
ただ、全く当たらないわけではない。
少し当たれればいいのだ。
あとは回数でゴリ推す。
しゃべっていた時の余裕と自信が残る表情は相手にはもはや無い。
防いでも刀を通り抜けるように衝撃が次々と襲い掛かるからだ。
「しまっ・・・」
そして、ついに腕の力が落ちるのが分かった。
VRモードは痛みがそんなに伝わらないとはいえ、ダメージ分の影響は体に確実に出る。
さっきから刀を持つ腕、特に上腕二頭筋あたりに相当な攻撃が入っていた。
後は次々に攻撃を叩き込むだけだった。
「そうか、お前が、お前が例の双剣の使・・・」
言い残す前に離脱していった。
少しばかり情報が出回ってしまったようだ。
だが、完全じゃない。
もしも最初から知られていたらこの通常攻撃の切り替え戦法も危なかったかもしれないな。
それにしても八岐大蛇はちょっと羨ましかった。
あれ?でも壊れていないとこの双剣が手に入らなかったかもしれないし、うーん、なんてことを少し考えていたら、
「うわぁああ!」
「落ち着け、下がって立て直すんだよ!」
何やら声が聞こえてくる。
アレは…敵?15人くらいいるな。
来た方向はファランクスとやらがいた場所だから、なるほど。
良い所取りみたいで申し訳ないが今はそんなこと言っていられない。
走り出し、一気に斬りかかる。
「なんだお前!!」
「どっから?」
「ハヤト隊長ぉ!!」
どうやら合成兵器の素材提供者達らしい。
ハヤト隊長、ってのはひょっとしてさっき倒した人か。
多分そうだろう、あのファランクスがやられた際の保険、立て直し要員、用心棒と言ったところか。
その間に素材提供者が準備を整えて再び戦力として出撃する算段だったはずだ。
でもいくら叫んでも助けはもう来ない。
「あれ?リョーマ、倒しちゃったの?」
花耶とアキラちゃんが先ほどの敵ギルドの人達を追いかけてきた。
「ああ、うん。まずかったかな。」
「ううん、別に。取り逃がした人数が結構いたから変な準備される前にやってくれて助かったわ。」
その手には金色と朱色のあの剣を携えていた。
「ファランクス、あぁいや、あのでかいロボは残り1体みたいだね。」
「でももうそれも終わるわ。人数的にこっちが有利だし、そもそも2体のでかいのを倒した仲間が合成の武器を持っている人を直接攻撃する余裕もできたから。」
「そうか、じゃあ後は・・・」
「もうすぐ最終決戦ね。向こうは後がない。逆転するにはこっちのシンボルを壊すか攻め入って人数を減らすかしかないから。」
「あのリョーマさん、リーダーは後で本陣付近で合流って言っていました。でもその前に・・・」
「うん、わかっている。ここの突破だよね。」
気が付けば、再び敵に囲まれていた。
増援ではないな、最初にここで戦っていた残党か。
味方も巻き込む兵器、遠くの見慣れない爆炎、隊長の戦闘と敗北など。
色んな要因が重なって遠くからこっちの様子を伺っていたようだが戦う決心がついた、というよりも戦わざるを得なくなったようだ。
味方も近くには見えない。
もう先に行ってしまったのかあるいは敵とやり合って離脱してしまったのかわからないが俺達3人しかいない。
「全員倒すのはさすがにちょっとしんどいわ。」
「目標は本陣への帰還だから後退しながら倒すって感じかな。」
「そうですね、戻れば味方の援護もありますし。」
「それじゃあ、突破するか。」
大水霊の腕輪を仕舞う。
ファランクスと戦うために進んできた道を戻る。
来た方向で既に待機している相手が攻撃に移る。
後ろからの追撃も始まった。
そして、走りながら双剣をサブに変え、竜を出現させる。
背中に乗る時間はない。
だからバリケードのように立ちはだかる相手に向かって俺達、そして竜は走り、突き進んでいった。




