第二十九話 敵防衛線を制圧せよ
気が付けばここに居た敵はほぼ倒しきっていた。
ただ一人を除いて。
元十二班の副班長と京極寺さんが戦っている。
一対一でだ。
他の人はもう手が空いていた。
でも誰一人として京極寺さんに手を貸そうとしない。
手を貸せないのだ。
これはあくまで彼女にとってのけじめ。
彼女が倒さなければならないことをここに居る人全員は理解したようだ。
相手はもう味方がここにはいないことを察知しているのだろう。
そしてこの勝負を投げ出して逃げた瞬間、総攻撃を受けることも。
もちろん、俺もそうするつもりだ。
だから向こうも後に引くに引けない。
勝ったから見逃してくれるなんて甘い状況ではないことも知っているはずだ。
それでも戦わなくてはならない。
これが裏切りを失敗した人の末路だった。
上には防衛線を司る人達が監視を兼ねて周囲に敵が近づいてこないか見張っている。
それに加えて俺もあたりを警戒する。でも勝負の行方からは目が離せなかった。
京極寺さんの剣はちょっと特殊だ。
質量を1/20~100倍までの間(と言われている)で自由に調整することができる。
他に系統魔法付与などの特殊な能力は付いていない。
その代わり完璧なタイミングで質量の調整をすることができたら自分の筋力をはるかに超える攻撃を繰り出すことができる。
ただ、その分扱いが難しい。
調整を誤れば自分の腕では到底持てない質量にもなってしまうし、相手にとっては軽い一撃にもなり得る。
それをかなりの練度で扱っているところを見ると相当演習をこなしたのだろう。
(来るか)
相手が大振りに入った。
それにアレは・・・伸びるタイプの鎌か。
俺の武器と少し似ているがあちらは実体がそのまま伸びて間合いの外から攻撃する。
二人の様子を見ると互いにかなり消耗している。
ここで勝負を決めにかかるようだ。
すると避けるのではなく攻撃が来る方向に向かって剣を地面に突き刺すようにおろす。
後ろに下がっても横に避けても攻撃圏内かもしれないからだ、そしてこの対処は正解だったようだ。
重い二つの金属がぶつかる音が鳴る
だから、剣で防いだのだ。
防ぐ瞬間に質量を最大まで上げてまるで重たい鉄筋が出現して守ったような状況になった。
相手が狙ったのは腰付近。普通だったらさばきにくい位置だが攻撃方向を読んで剣を突っ立てれば問題ない。
そして、二つの武器が反発した瞬間にさっと地面に突き立てた剣を翻し、そのまま攻撃に移る。
初動は早く、遠心力も利用するように質量を上げていき、インパクトの瞬間に絶大な火力を得るために最大質量、そして当たり終われば腕の負担にならぬように軽くする。
どうやらほぼ完璧なタイミングだったようだ。
剣を扱っているのか、剣に扱われているのか分からないような人間離れした動きを見せて、相手は離脱寸前になった。
何やら唇が動いているが聞き取れない。
一瞬京極寺さんは表情を崩すがすぐに冷静な目に戻り、とどめを刺した。
勝利の余韻はほんの僅かだった。
そして、防衛線にいる人を一部呼び、
「皆さん、話があります。」
ちょっとした作戦会議が開かれた。
「私達はこれから敵陣に進攻するわ。しばらくは向こうの戦力もこちらを狙ってこないでしょうし陣形の立て直しをする必要があるもの。」
そうだ。
敵を倒すことで精一杯だったが振り返ってみれば一班が関わった戦闘だけでもかなりの敵が離脱したはずだ。
向こうも予定が相当狂っただろう。
「ただ、問題が少なくとも2つあるの。」
皆が聞き入る。
続けて、
「一つはどうやら内偵者はあの二人だけではないということ。
それもかなりの手練れが向こうについてしまった可能性があるわ。」
さっき小声で言っていたのはこのことか!?
「もう一つは敵の防衛線。攻め入ろうにもここを何とかしないとただでやられに行くような進軍になってしまうわ。それでちょっと確認したいんだけど・・・」
先ほど降りてきた防衛線担当の人に視線を移す。
「あなた達の持っている遠距離武器を教えてくれないかしら。」
まさか遠距離射撃同士の戦いに持ち込むつもりか。
確かに成功すれば一気に突破口は開けるが、失敗したらこっちの防衛線の火力が著しく低下する。戦力低下だってただじゃすまない可能性もある。
それは彼女だってわかっているはずだ。
でもこう切り出したということはそれだけ敵に攻撃を仕掛けるのが難しいのだろう。
「えっと・・・私達の長距離武器は確かスナイパーライフル系統が16丁、大砲が2台、迫撃砲が3台、誘導弾発射装置が1台です。」
「それだと全部持って行ってもこちらの火力が劣るわね。それにここから動かすリスクを考えると危険だわ。やはり敵はまだ多いかもしれないけど逆側から進行するしかないのかしら・・・」
皆で少し考える。
だが、正直この手の戦いはやったことが無いので俺にはさっぱりだ。
そもそも火力の差がどういった戦局を招くかもあまりイメージできない。
この沈黙を破るのは徹獅さんだった。
「ねえ、特殊弾とかはないかな。」
「爆裂弾頭、煙幕、誘導弾くらいですかね。ただ、爆裂弾は射程が少々短いです。基本的に迎撃に使うものですから。」
爆裂弾を打ち込めばなんとかなると思ったがどうやらそれも難しい。
(ん?待てよ・・・)
「ねえ、花耶?」
「ん?どうしたの?」
「あのライフルって今持っている?」
「持ってるわよ。ほら。」
さっきまで装備していなかったが付け替えて見せてくれた。
このライフルの連射性能と射程はかなり上がったはずだ。
となると・・・
「あの・・・すみません。煙幕の射程ってどれくらいですか?」
「煙幕は大砲に装填することができるので距離は長いですよ。でもあれは攻撃用ではないので・・・」
「いや、いけるかもしれない。京極寺さん、ちょっと聞いてもらってもいい?」
正直かなり無理もありそうだが一瞬思い浮かんだ作戦を伝える。
「あなた・・・そんな無茶な。第一速度だって・・・」
「速度については問題ないと思う。むしろ、大事なのはタイミングかな。」
今度もジッと考える。
もしも、これが失敗したら少なくとも俺と花耶と水面ちゃん、そしてアキラちゃんと大砲を使う人まで無駄に離脱することになる。
「いいわ。やってみましょう。」
「慧香本気か!?リスクが高いぞ。」
「いや、徹獅待ってくれ。これは案外うまくいくかもしれない。」
「あなた達、大砲を一台、そして煙幕弾・ノーマルの砲弾をいくつか下さらないかしら。」
「あっはい!少々お待ちください。」
どうやら防衛線の班長に尋ねに行ったようだ。
そして、答えは・・・
「大丈夫です!持ってきました!!」
「ありがとう。助かるわ。」
大砲と煙幕弾と通常の弾頭を受け取る。
「今回は6人で行動します。まず、ここにいる八雲君、水鳥川さん、佐伯さん。あなた達はそれでいいわね。」
二人が頷く。
「そして、私と春夏秋冬さん、そして大砲を扱うためにお兄さんも一緒に来て。どっちみち運ぶためには3つに分離して所定位置までもっていかなければならないですし。」
徹獅さんは射撃が得意だった。
だから一緒に作戦に出るのだが彼女もいっしょなのは驚きだ。
「あら、なにかおかしい?もともと私が前線に立つ予定だったのよ。」
隠したつもりだが俺の心配そうな顔を見破られたのか微笑みながらそう言った。
「いや、おかしくないよ。そうこなくちゃ。」
他に準備があるため少々時間が経過したがまだ戦局は大きく動いていない。
聖慈さんは残念ながら先ほどの傷がひどく、上手く動けない。
だから防衛線の番人としてここで別れることになった。
彼もそれを了承し、
「ここは任せておけ」
と言って俺達は分かれた。
それぞれの所定位置に着く。
周りには敵がいない。
あらかじめ先行組が見てきてくれて俺達がその後に続いた。
どうやらここは今は主戦場じゃないようだ。
先行組と入れ替わるように俺と花耶と水面ちゃんの組、そして京極寺兄妹とアキラちゃんの組が別々の離れた位置で準備に入る。
俺達はマップの端、崖の上の方。
京極寺さん達は岩場の影だ。
敵にバレないギリギリの位置。
うまいこと最初に登場した岩場の影が役に立った。
向こうにとっての死角も大体わかる。
こちらの攻撃などが届き、なおかつ見つからないギリギリの場所だ。
そして、いよいよ作戦に移る。
「水面ちゃん、敵は何人いる?」
「えーっと、40人ちょっとかな。」
例のステータスを見る装置の望遠機能を用いる。
「今から射角と方角、現時点の敵の配置位置とかを送るね。」
水面ちゃんの得たデータが花耶に送られる。
「受け取ったわ。いつでも大丈夫。」
深呼吸。
「よし、じゃあ、3、2、1・・・発射!!」
花耶がライフルの一撃目を敵防衛線に向けて放つ。
そして、2発目を放つ前に俺の双剣をサブに変更。
竜をすぐ後ろ出現させる。
2発目が放たれる。
「気づいた!こっちを狙っているよ!」
そして、3発目を放った瞬間に、俺達は竜の後ろに移動し、
スキル発動、【防壁の翼】。
防壁の翼はどうやら空間に干渉する防御スキルのようだ。
この壁を挟んで外と内側は物理的・魔法的な影響を通過させない。
だからこちらの攻撃をこれ以上向こうに向けることはできないが敵の攻撃も一切通じない。
「へー、音は凄いのに全く振動とかないね。」
「これは・・・相変わらず規格外ね。」
まさにその通りだった。
正直言うとほんの少しだけ一か八かな部分もあったがこれほどの防御とは。
・・・10秒経つな。
ドォォォォォン
その時、大砲の音がした。
敵の物・・・ではなくて京極寺さん達が待機している位置からだ。
3発目のライフルの射出の10秒後に離れた位置で待機している彼女達が大砲を放つ。
狙いは防衛線、最初に使った弾頭は「煙幕」だった。
さらに、煙幕をもう一度、あとは砲弾を一撃。
敵は煙幕と砲弾の飛んできた位置がライフルとは別で混乱しているだろう。
それに視界を奪った。
ただ、向こうに見つからず、大砲を届かせる位置は見えなくても絞り込み・予想できる。
それが得意な人物はおそらくあの中にいる。
だからこれ以上の欲張りはしない。
アキラちゃんが岩を盛り上げて天然の大きな壁を作った。
これがバリケードになっている隙に彼女達は後退する。
この作戦を決行した時点で別行動は決まったのだ。
45秒が経過した。3人はすでに竜の背中に乗っていた。
敵は俺達が離脱したと思っているのだろう。
煙幕が晴れるまでの間に勝負を決める。
防壁の翼の効果が切れるのと同時に飛び立つ。
さっきよりも早く、多少ブレは酷いがそれでもスピードを優先する。
ーーーーーーーーー敵の防衛線にてーーーーーーーーーー
「何だったんださっきの攻撃は?」
「どうしようもないから無理矢理攻撃を決めたんだろう?」
「煙幕はびっくりしたが位置を割り出すのは問題ない、もう攻撃されないことを考えると今頃全員返り討ちにあったはずだ。」
「あっ、もうすぐ煙幕が晴れるわ!!」
そう思った瞬間、煙幕を切り裂く風の中から現れた巨大なそれ。
絶句するしかない。
何が起こったのか理解できない。
二つの首を持つ白銀の竜が目の前に現れた。
飛行ができるのなら防衛線の高台の位置は関係なかった。
その竜を見た瞬間に口が開き、光に包まれる。
他のみんなが一斉に離脱してしまう中でそれを耐えきり残った人達も突如消えた竜の代わりに現れた3人の攻撃を喰らい、散っていった。




