第二十五話 殿の孤独の果てに
「どういうことだ!!!」
対抗戦では互いの残り人数をリアルタイムで知ることができる。
だから京極寺組と戦っているギルドのトップ陣は味方が一斉に減ったことが分かってしまった。
「今やられたのって全員向こうの頭を叩きに行った人達じゃない!?」
「おい、まさかお前ら!嘘の情報渡したんじゃないだろうなぁ?」
「いや、そんなはずはない!これは俺も予想外だ・・・」
「あの班にこんな攻撃ができる人はいないはずだわ!」
「じゃあこの状況は何だってんだ!」
「まさか、新しく入ったっていう4人組なんじゃ・・・」
混乱からさっきまで見せていた余裕は無くなりつつある。
「ボス!現場からの情報が伝わりました!巨大な竜が現れてそれが攻撃してきたとのことです。」
「竜?モンスターか何かか、ありえん!これはチーム対抗戦だぞ!!それに竜種って言ったら上位以上のモンスターじゃねぇか!?あたりかまわず破壊をする、ならなんだってうちの連中ばっかりやられてるんだ!」
「いえ、詳細は不明ですがどうやらその竜は・・・」
「敵の武器らしいです。」
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一気に30人は離脱しただろうか。
体力的に耐えた者、防御をうまく使った者もいるがただでは済んでいない。
かなりの消耗をしている。
被害を受けたのは全て敵陣営。
この破壊をもたらした竜はゆっくりと再び地面に降りる。
敵味方入り乱れた戦闘は一時中断していた。
あの竜、アークアナイラレーターが次に何をするのか分からない、下手に動いたら次は自分がやられるのかもしれないと思ってしまうのだろう。
ただ、静寂はいつまでも続かない。
「こっのおおおお!よくもぉぉぉっ!!」
「隊長!!逃げましょう!」
「ダメだ!ここで逃げたら後でどうなるかわかったもんじゃない!」
どうやら平原に待機していた敵のトップらしい。あの攻撃を防いだうちの一人だ。
相手の部隊は最初の頃と比べて半分近くなっている。
いわゆる、「全滅」、つまり作戦続行は不可能な損耗率だ。
本来は撤退するのが筋だろう。
ただ、向こうは自棄を起こしたのか事情があるのかわからないがそれでも攻撃しようとする。
俺達ではなく、この被害をもたらした根本に。
さっきまで俺達に向けていた攻撃を竜に向ける。
続けて他の敵ギルドのメンバーもだ。
(あれが俺の武器なら、集中して狙われるとまずい。)
壊れた八岐大蛇がよぎる。
契約武器はその入手コストから壊れたとしても直すことができる期間は無期限だ。
だから、一度壊れたとしても素材とガイアが集まればまた復活することができる。それに対抗戦が終わればそもそも武器の損害は無かったことになる。
ただ、あの竜、アークアナイラレーターは材料があったところで対抗戦の間に修復できるのかわからない。それ以前に修復素材も知らない。
(もう一度あの光線を撃てば・・・!)
先ほどの攻撃は武器スキルだ。
まだ使用回数があるはずだから次こそはここに居る敵を残らず殲滅する。
あのブレーザーレイ、だったか、それを使えば・・・
〈SPが足りません〉
だが、撃つことができなかった。
SPが足りないのだ。
よく見たら必要なSPは一般的な武器の20倍はある。
それ以上の戦果をもたらすのはさっきの一撃でよくわかった。
ただ、次に撃つための分はまだ貯まっていない。
なおも続く攻撃。
このままじゃまずい。
それに俺の近くの降りてきたからこっちにも流れ弾が飛んでくる。
シールドで何とか防ぐには防ぐがまだ新しい武器の操作に慣れていないからそっちにどうしても気を取られてしまう。
この操作はちょっと、いや、かなり複雑だ。
一旦戻すか、ん、これは・・・これなら・・・!
アークアナイラレーターのもう一つのスキルは防御スキルのようだ。
SPも今あるだけで十分。
(使ってみるか。)
【防壁の翼】
すると自身と俺を守るように翼が展開した。
さっきまでの攻撃の音は鳴りやまない。
でもそれらはまるでテレビの向こうのような出来事だ。
防壁の翼はその翼から何やら壁のようなものが発生しているらしい。
シールドとはまた根本的に違うような防御だ。
シールドなら攻撃が当たれば壊れることもあるし、振動が伝わる。
でもこれには全くその気配はない。
これは残り時間か。
最大45秒間この防御は展開できるらしい。
アークアナイラレーターの通常攻撃は普通とはかなり違うやり方だ。
物理系よりは魔法を発動する際の攻撃に近い。
脳内でのイメージで操作する。
※BEBWICON(TIPS1参照)の応用
外の攻撃は次第に静かになっていく。
何をやっても意味がない事を察していったのだろう。
様子見に入らざるを得ない。
防壁の翼はもう少しで解除される。
その瞬間に攻撃に移る。
そして、解除。
と、同時に・・・
(こうか!!)
アークアナイラレーターは敵が集まっている方に向かっていく。
そして、尻尾で薙ぎ払った。
突進に危険を感じたのかすぐに逃げる者もいた。
だが、逃げ遅れた相手ももちろんいてそういった者には容赦なく攻撃が入る。
通常攻撃でもかなりの範囲、そして火力だった。
シールドを展開しようものならそれごと砕け散る。
すると、
「あいつだ!あいつを狙え!!」
俺に向かって攻撃が飛んできた。なんとか躱そうとするが少し掠る。
どうやらようやく俺がこの武器の所有者ってことを理解したようだ。
普通はそれどころではないはずだが敵にも冷静な人物はいた。
まずいな、まだ操作は完全とは程遠い。
夢の中で至る部分に鉛がへばりついた体を流れがある水の中で動かすような感じだ。
だからさっきの通常攻撃もイメージとはかなりのずれがあった。
今、集中的に狙われたら対処しきれない。
アークアナイラレーターの操作をやめるか、でもそうしたら次はそっちが狙われるかもしれない。
両スキルを使う分のSPはまだ貯まっていない。
ただ、これはギルド全体で言ったらチャンスだ。
京極寺さんが今は狙われていない。
「京極寺さん、今のうちに皆を連れて逃げて!!」
「でもあなたは・・・!?」
向こうも薄々とこの竜と俺の関係が分かったんだろう。
こっちを狙う敵に対して攻撃をする味方が増えてきた。
「京極寺さんが倒れたら立て直せなくなる!他の班も心配だ!急いで!!」
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「慧香、行くよ!彼の覚悟を無駄にするんじゃない!」
「でも、でも・・・」
京極寺徹獅が妹の腕を引っ張る。
その意味を理解しているがどうしても踏みとどまろうとする葛藤が生まれてしまう。
ならばせめて、
「水鳥川さん、ッ!、お願いをしてもいいかしら?」
「言わなくても分かってるわ。」
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攻撃は強力だがその精度、そして自分への防御はどちらも中途半端になっている。
だが、すこし安心した。
一班が撤退したのが分かったからだ。
少しずつ操作は慣れてきた。
一人、また一人と倒す。
尻尾を大きく振り、巨大な足で踏みつぶし、空間を切り裂くような爪が敵に襲い掛かる。
だが、攻撃パターンは単純だ。
説明も読まずにいきなり格闘ゲームを始めた時、或いはそれ以下の稚拙さだった。
おまけに通常攻撃によるSP回復も少ない。逆転の一手は使えないか。
俺自身はもっぱら回避とシールドのみしている。
それでも少しずつこちらに当たる攻撃は増していく。
殿を自ら引き受けた。
この選択に後悔はない。
今までもこうして一人で戦ってきた。
前と違うのはこの戦闘が仲間にとって意味を成すこと。
最初の光線と合わせてもう40人は倒しただろうか、例えやられたとしてもそれだけで初めて味わう満足感はある。
勲章があるなら最高の物をもらいたいところだ。
でも、やっぱりまだ残っていたい。
これは純粋にして沸々と湧き上がる競争心、さらにこの戦局を招いた敵の中枢にどうしても一発入れてやりたい、でもそれができないというやるせなさからくる諦めの悪さだった。
それにまだ皆と・・・
次の瞬間足がとらえられる。
敵の束縛系のスキルだった。
後ろには炎の魔法の壁。
目の前にはこの隙にと3人の敵が迫る。
ここで俺を仕留めなくてはならない、相手はそう思っているんだろう。
もしも、逆の立場だったら俺もそうするかもしれない。
「こんな、こんなところで!!!」
向かってくる一人が鋭い爪の餌食になる。
だが、後の2人は・・・
咄嗟に水の壁を張り凍らせるがタイミングが遅れる。
(やば、やられたわ・・・)
そう思った。
やられる時はあっさりと受け入れるもんなんだな。
意外だった。
悔しさは最後の最後まで残ると思っていたんだが。
妙に冷静にあきらめの気持ちが自然に湧いてしまった。
・・・
・・・だが倒れたのは敵だった。
目の前には見知った3人の影。
「私達も残るわ。あなたを一人で残してなんて行けない。」
「リーダーからそう言われましたから。」
「まあ言われなくても残るけどね。」
殿は一人ではなかったようだ。
「その竜、あなたのよね。」
「うん。多分、操作できているし。」
「間違いなくお兄ちゃんのだね。しかも凄いステータス。」
「でもちょっと使いにくそうですね。いつもの武器に一旦戻したほうがいいんじゃ・・・」
予期せぬ、でも嬉しさを感じざるを得ない3人の姿に少しだけ余裕が生まれる。
確かにその通りだ。
ここは一旦仕舞うか。
(ん?いや、待てよ)
これはあくまでサブ形態の武器だ。
今までは疑問に感じなかったがメインにしたらどうなるのだろうか。
ひょっとして使いやすくなるんじゃ・・・
メインの大水霊の腕輪の代わりにアークアナイラレーターを装備する。
と、次の瞬間変化が起こる。
アークアナイラレーターが消える!?いや、縮んでいく。
一瞬の出来事だがとてもゆっくりに見える。
縮んでいるんじゃない、両手に集まってくる。
変化が終わった。
俺の両手には銀白色の双剣が宿る。
【機殲双竜アークアナイラレーター】
形状:双剣(メイン形態)
スキル:無し
なんだこれ!?
メインにしたら普通の武器かよ、しかもスキルが無い!
「なんだぁ、竜が消えたぞ。」
「おい、これチャンスじゃねぇか!」
「ああ、一斉にかかれ!」
武器を変えている暇はない。
敵が一斉に迫ってくる。
応戦するしかないか。
双剣を構えて向ってくる敵の剣の攻撃をクロスさせて防ぐ。
「はあああ!!」
そのまま、押し返すようにクロスさせた双剣を斬り払う。
変な力が入ってしまった。
双剣なんて久しぶりに使うからだろう。
でもそんな自分の武器の扱いの違和感を追い去っていく光景を目の当たりにする。
ザッッ!!!!
斬り払った軌跡に沿うような衝撃が敵を襲った。
まるで斬撃が飛んだかの如く。
!?
今の感じ、もう一度・・・
吹っ飛んでいく敵を咄嗟に追いかけ、さっきと同じようにそう剣を振るう。
明らかに剣の長さじゃ届かない、つまりは間合いの外の敵に対して。
4回振るった。
その内、2回の斬撃が先ほどと同じように飛び出し、まだ体勢も立て直せない敵に当たって、離脱させた。
【機殲双竜アークアナイラレーター】
形状:双剣(メイン形態)
備考:通常攻撃は中距離斬撃に切り替え可能。




