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第十七話 出迎えた人物

 そこに立っていたのは女性一人に男性二人。

 女性には見覚えがある。俺と花耶と小中一緒だった同級生の京極寺きょうごくじ慧香けいかだ。


「京極寺さん……だよね?何やってるの?」


「何やってるのは?こっちのセリフよ!あんたとあんたの家族は今までどこ行ってたの?」


 なんでこんなにまくしたてるんだ?というかこの焦り具合は……状況がいまいち飲み込めない。


「家族は海外だ。俺は別の市に住んでいた。今はこんな状況になったからとりあえず実家に戻って様子を見に来たんだ」


「別の市?それって富川市じゃないわよね!?」


「いや、違うが」


「ならいいわ。あなたってROADってゲームやってる?というかあれ以前からやっていた?」


「まあやっていたけれどもそれがどうしたんだ?」


「それなら話が早いわ。あなた、私たちに協力しなさい!!」


 まだ話が飲み込めない。早く家に帰って休みたいって気持ちがどんどん大きくなってくると、


「ねえ、京極寺さん、とりあえず端的に何をどうしたいのか説明してくださらないかしら」


「あんたは……水鳥川さん?なんでここにいるのよ?」


「それはこっちのセリフよ」


 京極寺家はこの辺り一帯に古くから影響力を持つ実業家兼資産家家系だ。俺の家も巷では資産家なんて呼ばれているが向こうの方がずっと格が上だろう。その二人兄妹の一人が京極寺慧香だった。何かと上昇志向が高くプライドが高いのは別にいいとは思うんだがどうも花耶とは相性が悪いらしい。だから小学校中学校と何かと張り合っていた、というか向こうが一方的に花耶に詰め寄っていたのは覚えている。


「あなたはまだ八雲君とべったりなわけ?」


「再会したのはほんの最近よ。しばらくは会っていなかったわ」


「あらあら、ついに愛想つかされちゃったわけ?」


「あのなぁ、」

 向かい合っている京極寺慧香と花耶の間に入る。花耶を俺の背中で隠すようにして京極寺さんに続けて、


「別に花耶のことを俺がどうこう思ったんじゃなくてたまたま二人の都合が合わない期間が長かっただけだ」

「それに話は逸れたようだが京極寺さんの目的は花耶と言い合うことじゃないだろ?」


「またそうやって、水鳥川さんをかばうのね……」


 彼女がボソって言った。

 何のことだ?


「いや、すまん、何を言いたいのかわからない」


「まあいいわ、とりあえず今日はもう日が遅いし私たちも帰るわ。明日もここに居るの?」


「しばらくは様子見でいるがそんなに長居はしないつもり」


「わかったわ。それでもしばらくはいるのね。じゃあ明日の昼頃また訪問させてもらうわ。夜分に失礼したわね」


 そう言って彼女は帰っていった。この一方的な約束にちょっとだけアキラちゃんたちは呆然としているがまあ驚くことじゃない。


「いきなり訪ねちゃってごめんね」


 眼鏡をかけた物腰柔らかく聡明そうな男性が語り掛けた。京極寺さんと一緒にいた男性のうち一人は彼女のあとをついていったがこの人はまだ歩き出していない。


「こうやって君と話すのは初めてかな。僕は京極寺きょうごくじ徹獅てつし、慧香の兄だ」

「実はちょっとこの市、というかギルドかな。それが面倒なことに巻き込まれちゃったんだよ」

「この辺りは明日話すとして慧香はそのギルドのリーダーなんだ。それで協力できる人を探しているんだ」


 そうだったのか。ギルドのリーダーねぇ。確かに京極寺さんらしいと言えばらしいが……


「兄の僕がこういうのも何だけれども今の世の中ギルドのリーダーの重圧って凄いんだ。それを慧香はこなしている。だから今回の態度も大目に見てやってくれないかな」


 そう、以前のゲームでもギルドの長は面倒ごとが多かったが今はさらに辛いだろう。俺ならまずやりたくない。


「そうだったんですね。それでちょっとピリピリしていたのか」


「うん、まあそれだけじゃないと思うけれども、今の彼女はちょっと抱えているものが多いからさ」

「だから明日は何とぞよろしくお願い」


 ここで安易に期待させるのもアレだが……


「分かりました。ただ、こちらが全く事情を把握していないのも事実なのでどういった返事ができるかわかりませんが話だけでも聞かせてください」


「うん、ありがとう」


「お兄さーん。遅いわ!!!」


「ああ、わかった!!」

「じゃあね」


 そう言って徹獅さんも帰る方向に進んでいった。


「行ったみたいね」

 後ろにいた花耶が横に来て京極寺さん達の行った方向を見た。


「それとさっきは止めてくれてありがとう。」


 ???

 あー、ひょっとしてあの仲裁、とは言えないが間に入ったことか。


「いや、別にお礼を言われることをしたわけじゃないよ。」


 実際あのまま話が続いていたらいつ家に戻れるのかわからない。


「あの……大丈夫でしたか……」

「あの人ってお兄ちゃん達の知り合い?」


 さっきまで存在感を出せずにいたアキラちゃんと水面ちゃんがようやく口を開いた。


「うーん、知り合いっていえば知り合いだけれどもなるべく出会いたくなかった女ね」


 花耶の口調から、あぁ本当にあの二人は相性が悪いんだなぁってことが伝わってくる。


「でもお兄さんは噂通りで話が分かる人って感じなのは助かったわ。それにこの市で起こっていることも何となく察することができた」


「そうだな。多分、あの宿泊施設で聞いた魚崎市と隣の市、つまりは富川市のいざこざの渦中にいるのが彼女達なんだろう」


 さっきのやり取りから何となく示唆できることを共有しながら門を開け、ドアの認証を済ませて家に入る。


「でも詳しいことは明日になってみないとわからないから今日はゆっくりしよう」


「あっ、でもしまったな。食材は無いな」


「うーん、大通りに出て食事はそこで済ませる?」

「そうだな」


 他の人の合意を得て荷物だけ置いてとりあえず大衆食堂に行こうということになった。


「あら、懐かしい」

 さゆりさんが昔住んでいたマンションを指さしてそういった。


「あー、あそこ!前に住んでいたところですね」


「そうなのよ、あそこの7階。今も変わりないわねぇ」


「そういえばお兄ちゃんの家もそうだけれどもこの辺ってモンスターに壊されていないんだね」


 そうなんだ。

 どうやらナノマシンの影響のようだがゲームの破壊は最悪現実世界に影響を与えてしまう。

 だから、ここに来る途中も廃墟のような建物をいくつも見てきた。


 でもこの辺り、いや、ここに来てからは確かに壊れている場所もあったがほとんどの建物が無事だった。


「運が良い場所なのかな?」


 そんなことを言っているうちに食堂についた。


 ここは地元で採れた海産物も近くの名産の肉も野菜も扱っている食堂だ。店名に食堂ってついているからこう呼ばれているだけで俺からしたら素晴らしいレストランだと思う。


 運ばれていく料理を見て、

「うわー、おいしそうですね」


 他の団体さんには聞こえないくらいの声量でアキラちゃんが話した。


「うん、ここはどの料理も本当においしいんだ」

「だから好きなのを頼むといいよ」


 幸いここでもガイアは使える。


「えっでも……」


「あー支払いの事なら気にしないで。せっかくこの市に来てくれたんだから今日は僕がおごる」


「……ありがとうございます!じゃあ……ご馳走になります!」


「うん」


「あっさすがに水面ちゃんの分と私の分は自分で払うわよ」


 さゆりさんはそう言った。確かに俺が彼女たちに払うとそれはそれで向こうも気まずいだろう。


 それで互いに合意だった。



 そして注文を済ませて運ばれてくる料理。


「うわー、凄いですねー!!」

「相変わらずメニューの写真よりも豪華って思っちゃうわね」

「刺身の盛り合わせも種類豊富ねぇ」

「このステーキも久しぶりだ」

「肉ーー!!」


 目の前の料理にテンションが上がる俺達を見て気さくな女性店員さんが、


「嬉しい反応ね。調理した人も喜ぶと思うわ」


「だってこんなにたくさんの食材久しぶりに私見た!!」

 水面ちゃんがそう言うと、


「確かに今は食材を手に入れるのも一苦労。だけれどもこの流通を守ってくれている人がいるの。あの人たちには頭が上がらないわ」


「それってギルドのことですか」


「そうそう。そうやって呼ばれているけれども私たちは京極寺組って呼んでいるの」


「京極寺さんのギルドか……」


「あら、ご存知?」


「昔の同級生です」


「そうなの!あの人達って昔から頑張り屋さんって聞いていたけどやっぱりそうなの?」


 確かにそうだったな。


「えぇ、僕もそう思います。ただ、中学まで一緒だっただけですし、しばらくは地元を離れていたので……」


「あら、じゃあお帰りなさい。市もそのままで安心したでしょう。でも……あっいけない、料理冷めちゃうわね。ではごゆっくりどうぞ」


 その後は豊富で美味しいな料理に舌鼓しながらもどうしてもあのギルドの事が頭を離れなかった。


 そして家に帰る。


「あーおいしかった!!あっそうだ、お兄ちゃん、あの・・・お風呂かシャワーって借りても良い?」


「あぁいいよ!先にその辺について説明しておくか」

「お風呂は2階と1階にひとつづつあるけれど客室は1階だから1階の方を使って」

「寝る用意も5人分までならあるから大丈夫だと思う」


 風呂の様子を見に行ってちゃんと動作するか確認した。


「大丈夫そうだね。タオルは洗面台の下の引き出し、洗濯機はここ……」

などなどとりあえずざっくり説明した。


「分からないことがあったらまた聞いてね」


「さゆりさんと水面ちゃんは1階だとしてアキラちゃんと花耶も1階でいい?」


「はい!」

「アキラちゃん一緒に入る?」

 水面ちゃんがそう言うとアキラちゃんは顔を赤くして、

「ごめんなさい、私は最後でいいので、その、お二人ともごゆっくりどうぞ!」


 どうやら恥ずかしいらしい。


「えー。まあいいよ。今度機会があったら一緒に入ろうね!じゃあお兄ちゃん借りるねー、ママ行こう!」

「龍馬君ありがとうね」


「えぇ」

 そして二人は脱衣所に向かっていった。


「アキラちゃんが最後ってなると花耶は二人が入った後かな」

 そういえば彼女の同意を得ずに風呂の事を決めてしまった。


「2階……」


「?」


「私も2階でいい……?」


 最初は何のことかさっぱりだったが


「それって風呂の事?」


「うん」


「いや、でも2階の方は小さいし」


「でもアキラちゃんを待たせるわけにはいかないでしょ」


確かにそうだ。


「んー、それもそうだね。じゃあついてきて」

階段を上って風呂の前に来た。


「1階と大体つくりは一緒だけど脱いだ服は後で1階に持って行って洗濯してね」


「分かった」


「じゃあ風呂から上がったら教えて」


「私は後でいいわ」


「え、でも先に入った方が気持ちいいよ」


「それならなおさらこの家の一家のあなたが先よ。それになんか私が入った後にリョーマが入るのは……その……恥ずかしいって言うか……」


 あまり意識していなかったがそういえばそうだ。確かに除菌装置は取りつけてあるがそういわれるとなんだか急に俺も恥ずかしくなってくる。


ちょっと沈黙。


「分かった。じゃあ先に入るよ。ありがとね」


 精一杯平静さを装って花耶に客室で待ってもらうことにした。





 全員が風呂から上がると各々が自分の時間を過ごす。


 俺は久しぶりに自分の部屋でくつろいでいた。昔好きだった音楽を聴き椅子に座りながらあれこれ整理していると・・・


 ギューーー!!!


 誰が後ろから急に抱き着いてきた。他の音が聞こえにくかったのと多分忍び足で来たんだろう。抱き着かれるまでわからなかったがその犯人は水面ちゃんだった。


「えへへ、久々にお兄ちゃんの部屋に来たくなっちゃって。あの時(再開時)の続き」


 寝るための服装をしているためか体温も柔らかさも匂いも必要以上に伝わってしまう、そんな場面だった。

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