第十八話 ギルド試験の前に恩返し
「ちょっと、どうしたの!? 皆といたんじゃ……っていうか一旦離れて」
「トイレに行くって言って抜けてきちゃったの。」「あの時もう少しこうしていたかったからその続き」
いかん、あの時の続きって言われても今の方が密着感がある。
「あのね、確かに魚崎市付近に行こうとした理由はおばあちゃんちがある方向だからだよ。でももしかしたら、お兄ちゃんもいるかもって思って。ずっとどこかで会いたかったのに会えなかったから今こうするの!」
さらに水面ちゃんがぐっと体重を乗せてきた。懐かしみとかが溢れたんだろうってことは何となくわかる。
でも今の水面ちゃんは昔と違って、その、色んな部分が成長しているんだ。だから罪悪感がありつつもどうしても意識してしまうものは意識してしまう。
「俺も会いたいと思っていたし水面ちゃんがそう思っていてくれて嬉しいよ。でもちょっと苦しくなってきちゃったから解いてくれたら助かるんだけど……」
「嬉しいってホントかな~? あんまりそんな感じしないけど。まあいいよ、いったん離れるね」
そう言って肩や背中らへんから離れたと思ったら……
「じゃあ代わりにここ!」
膝の上に座ってきた。
「え!?」
「これなら苦しくないし私がちょっと左右によればそのまま作業できるでしょ」
「うーん、そうだけど……」
「なにその返事~? やっぱり嬉しくないの?昔はよくこうしてくれたじゃん」
少しだけ振りむいてこっちを見つめる。そうだけど、そうだけど……
これはこれでなんかまずい事になっている気がする。でも水面ちゃんが再会して喜んでいるのは事実だ。それは何となくわかる。その気持ちを蔑ろにするのも良くない、でも状況もまずい、そんな板挟みの気持ちの中での精一杯の行動が、
「会えたことも今もこうして昔のように接してくれるのも俺は嬉しいよ。
でも、その、水面ちゃんが大きくなってちょっと戸惑っちゃっただけなんだ」
そう言いながら少し髪を撫でた。
すると部屋のドアが急に開く。
「あんた達何やってんの?」
花耶が立っていたのだった。
「いや、これは……」
この状況を第三者に見られるのはちょっと、いや、かなりまずい気がする。
「お兄ちゃんの部屋に久々に遊びに行きたくなったの。」
「遊ぶのにわざわざ膝の上に乗る必要がある?」
「よくこうしていたよ」
「は?」
「いや、この子が小さい時の話だよ。」
「あんた達そんなことしていたの?」
「うん!!」
これ以上何も言えないが、
「ごめん、水面ちゃん。やっぱりまだやることがあるから降りて」
「えー。またいいところだったのに。それにしてもよく私がここに居るってわかったね」
「戻ってくるのも遅いしそもそも1階にもトイレはあるわ」
「ふーん、でも理由はそれだけ?」
水面ちゃんが何かを察したようで花耶が少し焦ったような気がした。
「そ、そうよ。とりあえず、明日も早いからもう寝なさい」
「リョーマも!!」
俺もか……でもそうだな。疲れはまだ溜まっているしやっぱり眠さがどうしようもなくなってきた。
「あの部屋にも寝る準備はあるから今から説明するね」
「お兄ちゃんはどこで寝るの?」
「俺は自分の部屋だよ」
「へーそうなんだ」
「ねぇ、あの部屋って5人まで寝れるのよね」
「うん」
「じゃあリョーマもそこで寝て」
「えっ!?」
「皆でいたほうが安全でしょ」
「まあそれもそうだけど。でも……」
寝る場所はどうしたもんか。流石に男の俺が一人だけって状況だと寝る位置も考えてしまう。
「悪いけどリョーマは壁際で寝てくれない?」
まあその方が俺も気が楽だしそうだね、って返事しようと思ったら
「その隣は私でいい?」
「えーーー!?」
水面ちゃんが驚くというか不満じみたの声を上げる。
「だってそうでしょ。誰かが必ず隣になるわけだし。あなたとアキラちゃんはまだ小さいし、さゆりさんは奥さんだし、そうなると消去法で私が隣になるわ」
まあそうなんだ。確かに、花耶の言っていることは正しいしそのことを水面ちゃんは理解している。でもそれだけはどうしても言いたかったようで、
「寝ながらお兄ちゃんにくっついたりするつもりなの?」
「ちょっ、ちょっと、そんなわけないでしょ」
「本当ぉ? それならいいけど」
そして、客室に戻った。
さゆりさんとアキラちゃんは何やら楽しく談笑していたようだ。何があったのか2人は知らないが俺達の微妙な空気からあえて触れないでいてくれた。
就寝時間。
俺がこの部屋で寝ることは意外だったようだがさゆりさんもアキラちゃんも了承してくれた。予定通り俺が一番隅で隣に花耶が横たわる。ある程度距離は取ってくれているがどうしても入浴後の髪の匂いが伝わってくる。
そういえば花耶と一緒に行動してからはこうやって寝るのは初めてだよな。いや、最初の膝枕は別として……
これはこれでどうしても胸が高鳴ってしまう。ただ、ここまでの疲れによる睡魔には勝てずにやがて意識は落ちる。
*
……
…………
朝か……
起きる直前に朝ってことが何となくわかった。
目を開けると「お兄ちゃん起きたー!!」「こら、まだ龍馬君は起きたばかりなのに大声出さないの」
水面ちゃんの声がした。
「おはようございます」「おはよう」
どうやら皆起きていたようだ。
そうか、昨日は自分の部屋で寝たんじゃなかったんだな。すぐには起き上がれないので「もうすぐ起き上がるね」って言いつつ5分くらいこのままでいようと思った。さっきまで顔を置いていたであろう場所からほんの少しずれたりしてごろごろしていると、
ん?
なんかこの場所だけ匂いが違う?自分の寝ていた位置のすぐ近くからなんだかいい匂いがする。
うーん、どこかで嗅いだことがあるんだが……まあいいか。以前に泊まった人の跡が除菌消臭され切っていなかったんだろう、と勝手に納得してようやく目覚める。
昨日の食堂とは違うが今朝も近くの飲食店が開いていたのでそこで食べることにした。
「あ、私はこの後、一旦お母さんたちに会うわね。昼にはまた合流するわ。京極寺さんの話も聞いておきたいし」
「ああ、そういえばまだ戻っていなかったか。俺はちょっとまだ整理が終わっていないし気になることもあったからまた昨日の続きをするよ。あっ、でも後で挨拶だけしに行っていい?」
「もちろんよ。皆、あなたがどうなっているのか気になっていたと思うし」
「さゆりさん達はこの先の実家に行くんですよね?」
「ええ、ここまでありがとうね」
「いえ、どういたしまして」
「やっぱり、行くのぉ?」
「当たり前でしょう。そのためにこのルートを選んだんだから」
「もう一日ここにいない?」
「ダメよ。それにあまり長居したら困らせちゃうでしょ」
「あはは」
別に困ることはないけれども実家の安全は気になるよな。
「あのリョーマさん、私もギルドについて話を伺いたいのでお昼からご一緒させてもらっていいでしょうか?」
「うん、実は俺もギルドっていうか京極寺組についてよくわからないからそうしてくれると心強いよ」
「ありがとうございます!」
そんな感じで話を進めていると……
「さゆり? みなちゃん?」
俺達が食べている机に誰かが近づいてきた。
「あら、お母さん! どうして?」
そうさゆりさんが言った。
「おばあちゃんだ!!」
どうやら水面ちゃんの母方の祖母、つまりはさゆりさんのお母さんらしい。まあ見なくても分かる。この家系はどうやら実年齢よりもおそらく20歳以上若く見えるんだろう。
「前住んでいたところね、ちょっと大変なことになっちゃって」
「変な生き物が出てくるは家の一部もボロボロになっちゃうわってことでこの近くに仮設宿泊施設に避難しているのよ。この辺りは治安が良くてある程度の人数も受け入れることができるってことで魚崎市周辺で生活に困った人は何人か私達と同じように暮らしているの」
「私ね、向こうの方で宿泊施設の職員をやることになったの。冒険者の人達が泊まるための場所ね。要するに住み込みで働かせてもらっているのよ」
人が多い場所ほどさらに人が増える。このような変化はある意味当然だった。理由は単純にその方が安全だからだ。今は労働力も必要だからそうやって受け入れた人が何かしらの作業をする代わりに避難先として安全な地域に住むことができる。
「そうだったの。私達ちょうど実家に戻ろうとしていたところだったけれどまさかお母さんに会うなんて」
「ってことはもう私達の旅は終わり?」
「うーん、そういうことになるわね」
「じゃあさ、私もそのギルドの話っての聞いてきていい?面白そう!」
「別にそれはいいけれども、」
ちょっと間をおいて、
「龍馬君大丈夫かしら?」
「大丈夫ですよ。京極寺さんも人数は多い方がいいかもしれないので。あ、でも何かあったらすぐに戻るんだよ」
「うん!」
そのやりとりを見て花耶が微妙な顔をしていた。
「何、おねーちゃん?」
「別に、なんでもないわよ」
「もう、変なことしないから安心していいよ♪」
「変なことって何ですか……?」
「水面ちゃん、昨日何かやったの?」
「あぁいえ、なんでもないと思います」
「ふふふ。なーいしょ」
不信感は持たれてしまったかもしれないが何とかこの場を切り抜けた。
そして、それぞれ午前の予定を済ませながら京極寺さんが来る時間となった。
「あなた以外に4人いるのね」
どうやら今日は京極寺兄妹の二人だけのようだ。
「あら、ごめんなさい、私はこの子の保護者です。冒険者と言える者ではないのでお気遣いなく」
「承知いたしましたわ。じゃあ、4人かしら。あなた達は冒険者ってことでいいのよね?というか水鳥川さんは冒険者ってイメージは無いんだけどいかがなものかしら」
「一応冒険者よ。でも私もどういうものか気になって来たみたいなものだから気にしなくていいわよ」
「まあいいわ。歩きながら説明するわね。ちょっと向こうの広場、魚崎東公園まで来てくださらない?」
「分かった」
一行が移動し始めると、
「私達の市は現在5つのギルドがあるの。そして京極寺組って呼ばれているギルドは一応市内でトップの勢力よ」
「トップか……凄いな。」
「お世辞でもありがたく受け取っておくわ。ただ、面倒なことがあって隣の富川市のナンバー2のギルドと揉め事があってね」
話を整理するとこうだ。京極寺組の勢力範囲とその富川市のギルドの勢力は隣接している。それだけならいいが、向こうが同盟を持ち掛けてきたというのだ。確かに、ギルド同士が手を結べばその分、人々の安全は確保できるし事業の幅も広がるだろう。
ただ、相手側のギルドが結構厄介な性質で同盟というよりは配下になれ、ということらしい。こういった動き自体は暴走以前のROADでもあったがあくまでそれはゲームの勢力争いの一つだ。ただ、人々の安全がかかっている今は人間同士で内輪もめしている場合ではない。
それでも相手側はその力に増長しているのか、国取りゲームごっこをしたいのかはたまたこの混乱を機会に一気に成り上がりたいのかわからないが不利な条件を突き付けてきた。もちろん突っぱねてもいいが、その場合は今までは少なからずあった協力関係を全て解消するとのことだ。
正直、今の状況でそれをされるときつい。妥協する点を探り合うべきなんだが京極寺さんはその話に嫌悪感全開で言い返し、とうとう収集が付かなくなってしまったらしい。
それで近々、大規模な対戦をすることになった。俺と水面ちゃんがやったあの対戦の延長だ。ただ、延長と言ってもその規模はかなり大きいし特殊なルールもある。なので少しでも有志を募りたいというのが京極寺さん達の考えだった。
そして、今から広場に行く理由はその適正、もっと言うとちゃんと力があるかどうか確かめるためとのことだ。要するにギルドに入るに値するかどうかの試験をしたいらしい。
こんな会話を続けていると、目的地の広場から何やら悲鳴が聞こえてくる。
なんだろう。
「どうしたのかしら。とりあえず急ぎましょう!」
一斉に走り出して様子を見にいくと悲鳴の元凶が分かった。
ミドルオーガとジャイアントオーガ。それぞれカテゴリー3と4のモンスターだ。
それらが出現して暴れているんだ。
「もしもし、魚崎東公園周辺に冒険者はいる? いらしたら返事を下さい!」
何やら小さな箱のような物に京極寺さんは語り掛ける。おそらく今でも使うことができるアナログの通信機器だろう。
「××にいます。ただ、現在戦闘中です」
「こちら○○。すぐに向かいますがあと10分必要です」
この近くに冒険者はいないようだ。ただ、どちらにせよあのモンスターは一筋縄ではいかない。
「まずいな」
徹獅さんが武器を取り出そうとすると、
「僕が出ますよ」
「え?あなたが?」
「ダメだ、僕が足止めする。君達は逃げるんだ」
「それ、私も一緒に出ていい?」
「水鳥川さん?」
「うん、というか今からお願いしようと思っていた」
「別にお願いする必要なんてないわ」
「京極寺さん、あなた達がこの地域一帯を守っていたのよね。今日お母さん達から聞いた」
「これで恩返しになるかわからないけれどせめて何かの役には立たせて」
そう言って取り出したのは【海王テンペスト】。
「テンペスト、そんな上級武器を……」
徹獅さんが驚いている。
「誰も住んでいない俺の家を守ってくれたのも京極寺さんってのはこの短い間によくわかった」
荊棘ノ槍斧を取り出す。
「だから次は俺達の番だ」
「お二人さん、ご一緒させてもらってもよろしいですか」
アキラちゃんがそう言った。
「ええ、助かるわ」「ありがとう」
「お兄ちゃん、私も」
水面ちゃんもおばあさんから話を聞いてこの辺りの事情が分かったようだった。
「水面ちゃんは後方にいてくれないかな。ここを突破されるとすぐに住宅地だ。その最終ラインを守ってほしい」
「うん!!」
どうやら2体のオーガがこちらを発見したらしい。
「じゃあ行くか!!」「ええ!」「はい!!」




