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第十五話 佐伯水面 その3

そして、今に至る。

「水面ちゃんだよね、久しぶり。実際にこうやって会ってみると大きくなってびっくりしたよ」


 小学校3年生からもう中学に上がったんだ。

 彼女はだいぶ大きくなった。

 でも肩まで下したクセ毛は昔から変わっていない。それに俺を見る表情も、いや、でもなんかあの時とは違ってちょっと悪戯娘っぽい雰囲気になっているか……?

 久々に再会して嬉しい。一方で自分の知らない変化をしたんじゃないのかと少し不安も覚える。


「ねぇ、お兄ちゃんも冒険者なの?」

「私もそうなの。この騒動が起きる前からROADを遊んでいて、あっ、そういえばお兄ちゃんもゲーム好きだったよね! ひょっとして結構強かったりするの?」


 そんな不安は杞憂だったか?

 話しかけてくる様子はあの頃と変わりない。


「あぁ、騒動前から遊んでるよ」

「それと、ちょっとごめん、いったんどいてくれないかな。これじゃあ立ち上がれないよ」


「えー、せっかくまた会ったんだからもう少しこのままでいいでしょー」

 すると跨ったまま抱き着く姿勢に入ったが……


「ちょっと水面ちゃん、リョーマが苦しがってるんだけど」


「またそうやっていい所で止めるんだから」

 水面ちゃんがわざとらしくほっぽたを膨らませて花耶を見る。

 

「そういえばお兄ちゃんと花耶お姉ちゃんって付き合ったりしているの?」

 またこの話題か、ということを知らないのは龍馬と水面ちゃんだけだった。


「別に、そんな関係じゃないわよ」


「じゃあいーじゃん、ちょっとくらい」

「今までずっと会えていなかったんだから」


「それを言ったら私だってしばらくリョーマに会っていなくて最近こうやってまた一緒になったのよ」


 この話は長くなりそうだな、そう思って足と腹筋と腕に力を入れて無理矢理起きようとする。だが、水面ちゃんは俺の胴体を挟んでいる膝に力を入れて妨害する。


「え、どうしたの?私と再会したの嬉しくない?」

 悲しそうな顔をして見つめてくる。


「いや、そういうわけじゃないんだ。もちろんすごく嬉しい。

でもこの体勢じゃ満足に話せないからとりあえず起き上がらせて」


「ふーん、嬉しいんだ。私もうれしい!!」

 すぐににっこりしてそう言った。

 さらに膝以外にも力を入れて再び地面に俺の背中がつきそうになる。


 多分、というか当たり前だが筋力的には俺の方が上だ。それでもこの姿勢・体勢的に無理に起き上がるにはどうしても筋力が足りない。


 あと再会した時の違和感が何となくわかった。確かに昔っからその気は少しあったがこの子はけっこう悪戯好きだ。一緒に遊んでいた時も何回かそういうことはあった。彼女のお母さんは心を開いた人にはそういうことするのよ~なんてことを言っていたが今はさらにその悪戯好きさに磨きがかかっているというか痛い所を突いてくる。


 そのまま水面ちゃんは顔を近づけジーっと見る。

 思わず背けてしまうと、


「ふふふ、最初に出会った時と反応はあまり変わらないんだね、よかった」

最初に出会った時?ああ、確かあの時……、って思い出そうとすると、


「こらー、水面ちゃん、あんた何やってるの!?」

 彼女が来た後ろの方から声がした。


 この声の人物は……


「あんたいきなり人を押し倒して……本当にごめんなさい、ってあれ?ひょっとして龍馬君?」

「それにえーっと、そっちの子は花耶ちゃん?」


 水面ちゃんを無理矢理俺からはがしたのは彼女のお母さん、佐伯さゆりさんだった。びっくりした。あの時から見た目が変わっていない。ますます水面ちゃんと姉妹のように思えてしまう。



 それから水面ちゃんとさゆりさんも俺達と目的地は同じということで一緒に歩くことにした。


「いやーでもよかったわ、二人とそれにアキラちゃんだっけ、に連れて行ってもらうことになって、ごめんなさいね、お邪魔しちゃって」


「いえ、別に向かう場所は一緒なわけですしもうすぐ着くので」


「途中までギルドの団体とご一緒させてもらったんだけどここから先は予定地じゃないってことで困っていたの。それでも近いからこのまま行こうってことになって二人で歩いていたんだけど心細くてね」


「ママは心配性だねー。これくらいなら問題ないよ」


 まあそうだと思うけど最近は変なモンスターもいきなり出てくるからやっぱり人数は多い方、欲を言えば特に戦いなれている人が一緒にいたほうが安心だ。ギルドの団体と言っていたのは冒険者分隊の事だろう。主要な場所同士を定期的に行き来する冒険者の集まりで戦闘能力がまだ低い冒険者やそもそも暴走前からROADをやっていなかった上にその後も満足にレベルを上げられないでいる人たちが一定のガイアを分隊に払うことで同行・護衛してもらえる。いわば交通インフラで人数が多いギルドでは急成長しつつあるビジネスという噂だ。


 その分隊も魚崎市に向かうこともあるがどうしても隣の大きな市に向かう頻度の方が多くなってしまう。なので次に魚崎氏に向かうのは1週間後、ギルドの人数次第ではもっとかかるだろう。


 聞けば佐伯家のお父さんは暴走の直前に海外に行くことが決まったらしい。残されたさゆりさんと水面ちゃんそのまま住んでいた場所に居続けるはずだった。ただ、学校が春休みだったので魚崎市に遊びに行きたいって言っていた水面ちゃんの提案から少しだけ旅行に行くことになった。

 

 そして魚崎市に向かっている途中にあの暴走が起こったのだ。


 元居た家に戻るか、道中の一番大きな市でしばらく様子を見るかが普通の選択肢だ。実際に彼女たちはしばらくギルドも冒険者も多い場所に滞在していた。だが、さゆりさんの実家が魚崎市から少し行ったところにあるのでそこを目指すといいのでは?ということになり移動、そして今に至るのだ。


「そういえばりょーまお兄ちゃんとかやお姉ちゃんって何か珍しいアイテムとか持ってる?」


「珍しいって言われても何が珍しくて何が普通かなんて自分じゃ判断できないわよ、何か気になるアイテムでもあるわけ?」

「まあ確かにこのゲームのアイテムの珍しさなんてキリがないからなぁ」


「ふふふ」


「何がおかしいのよ」


「いや、なんか二人とも懐かしいなぁって思って。あ、質問ね。欲しいものは無いんだけれどもどんなの持っているかなぁって気になったの」


「まあ見せたほうが早いか」


ガイア以外のステータスならすぐに表示することができる。


「えー、何これぇ!!」

 びっくりしていた。まるであの時、プログラミングを見せたときのような表情だ。


「えっ、すごい、こんなものまで。相当やりこんでいるんだね」

「ん?この神域の花瓶って何?」


「あー、それね。見ない素材だけれども今のところは使い道を特に考えていないんだ」


「それ頂戴!!」


「は??」


「頂戴よ!使わないんだからいいでしょー」


「いや、今は使わないけれどもその内使う時があるかもしれないから、それにさ、これって手に入れるまでかなり大変だったんだから」


「えーーーー」

「じゃあさ、勝負しない?」

「私が勝ったらそれ頂戴」


 勝負っていうのはフレンドバトルの事だ。フレンド同士になるか特定の対戦コードを入力することで両者合意の元で対人対戦ができる。一時的に傷は負うが勝負が終わればすべての負傷やステータスは元通りになる。また、新しく登場した武器の性能や効果を調べる際にも利用されることがある。


 その提案を聞いて、それも嫌、って言おうとすると、


「りょーまお兄ちゃんが勝ったら、どうしようかな、あ、そうだ私をあげる!!」


 次に言おうとした言葉が出なかった。完全に予想外の発言だった。ますますどう返せばいいって言うんだよ……


「あんたねぇ……」

 昔の話に置いていかれがちなアキラちゃんの話し相手になっていた花耶もあきれている。


「水面ちゃん、龍馬君を困らせちゃダメでしょ」


「だってー……」

 ちょっと寂しそうな顔をした。跨っていた時の表情は作った物という印象だったがこれは違うような。


「龍馬君、対戦だけしてあげてくれない?」


「へ?」

 情けない返事が漏れる。これも予想外だ。てっきり止めると思っていたんだが。


「もちろん罰ゲームみたいなのは無しで。勝ったらアイテムをもらうなんて言われても、って感じよね。でもこの子、多分久々に龍馬君に出会って嬉しかったんだと思う。だから遊んであげてくれないかな」

「ね、水面ちゃん、それでいいでしょ」


「うーん、しょうがないなー。じゃあお兄ちゃん、対戦しよ!!」

 しょうがないって言いつつまんざらでもない様子だ。


 だが、スピカはもうボロボロだし、クラウソラスは……なんかここで使うのもなぁ。他にも魔法武器や大型のマシンガンなどもあるが……


「あっそういえば……」


ボタニカルパニックで入手した素材と他の場所で手に入れた素材で作れる武器があったな。ちょうどいい、スピカを使えない分、長物に事欠いていたんだ。


「ちょっと待ってね」

 合成の準備をする。


・翠カミナリ竜の角

・棘獣の毛皮×複数

・ドラグーンランス

etc

を素材にして……


【荊棘ノ槍斧ブランボルスハルバード

 斧と槍の混合武器。

 ハルバード自体はプレイングスキルというか練度が必要な玄人向けの武器だが刺突・斬り・振り払いなど様々な戦い方が可能でブランボルスハルバードの場合はさらに硬度が高いが重くはない。この手の武器では扱いやすい方だ。


 サブには魔法系の杖でもセットしておくか。属性はえーっと、ハルバードが火に弱いから水冷系統でいいか。


 制限が多いサブだがここぞというタイミングで使えばメイン武器よりも活躍することがある。


「準備できた!?」

「ああ。ちょっと皆ごめん、少しだけ対戦していいかな」


「ハイ!私は大丈夫です」

「まあいいわ」

「じゃあ始めるよ!!」「うん」



 対戦モードに入った。

 水面ちゃんはどうやら魔法主体の戦闘スタイルのようだ。


 あの杖はかなり強いな。4属性系統の魔法が使え、それぞれの系統を組み合わせることができる。


 だから身体強化で接近戦に持ち込む必要がある。この荊棘ノ斧槍なら幸いスピード戦闘も可能だ。


 身構え、接近戦に持ち込むために距離を詰める。


 魔法を使ってこない?


 ISでこっちを確認している。目的が分からないが……これなら……!!


 本来は痛いと思うがフレンド対戦では痛みを感じない仕様らしい。だからまずは振り払いで……っ!!??


 避けた!?


 ならば3回の刺突!!


「当たらないよ~」


 だが、そのどれもが躱される!

 嘘だろ……!?


 確かにハルバードは扱いなれているとは言えないがそれでも全部躱すなんて……

 動きが読まれている……?だがそんなことはできないはず。


 距離を取って観察しようとすると炎系統の魔法が飛んできた。


「慎重だね。じゃあこれはどう!?」


 連続フレア弾か。避けることはできるが……これもおかしい。

 俺が躱そうとする方向、それも嫌な位置に新しい炎の球が飛んでくる。

 属性は不利だが性能的にハルバードで振り払える。ただ、これを何回も続けるのはまずい……


 そんな中で水面ちゃんを観察していると違和感を覚えた。ISを起動したまま?その攻撃をするときにISは必要か?しまい忘れたのか?何となく望遠レンズで彼女のIS発生機器を見る。

 攻撃を避けながらだときついがどうしても気になっていた。


 あれは……

 発生装置に似ているが、あれはISではない、もしかしてあの子は……!?


 彼女が二ッっと笑って次の攻撃の準備をした。

このままあの時みたいに抱き着きたいんだよねー。

でもそうすると花耶お姉ちゃん怒っちゃんだろうなぁ。

それはそれで嫌だな。

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