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第十二話 振り向く前に奴がいた

ここ数日は穏やかな日々だった。

俺一人じゃ得られなかった安心感もある。

でもこれは嵐の前の前触れなのかもしれない。

 寝ながらでも感じるひんやりした空気とだんだんと大きくなる外の生活音や人々が行きかう声で目が覚める。

 この時期は窓を少しだけ開けていると目覚めが気持ちいい。


 明日になれば昔住んでいた場所にたどり着くだろう。


 今は宿泊施設にいる。部屋は二つ分空いていた。俺は一人で小さい部屋、花耶とアキラちゃんは二人でここよりももう少し大きい部屋に泊まっている。


 目が覚めてもしばらくは起きずにぼーっとしている。

 やがてそれも退屈になってきてようやく起き上がった。


 二人と合流するまであと1時間か。


 とりあえずシャワーを浴びる。

 それから歯を洗浄し、着替えた。


 昨日着ていた服も新品同様、ってわけでもないが清潔さをしっかり取り戻した。ここは新しめの洗濯機が置いてあって助かる。昨日のうちに乾燥も終わって朝に着替えることができた。


(あとやることは……)


 とりあえず荷物やアイテムパックを整理しておくか。



 次の目的地は人口が約10万人の市だ。人数については多くもなく少なくもない。市内の面積は広いがあの地域については北側は海が広がり南側を山々で囲まれていて平地は意外と少ない。

 なので人口が集まるところとそうでないところの差が激しい。俺や花耶はそのどっちでもないちょうど過ごしやすい場所に住んでいた。


 まあ他にも腐れ縁じみた顔も思い浮かぶが地元を去ってからは会っていないな。だから花耶と再会した時は懐かしさを覚えた。


 この場所からなら旧国道をまっすぐ進むことで市内に入ることができる。だから人通りも多いしここからは安心して進むことができる。


 その道路をさらに進むとこの辺りではかなり大きい地方都市に入る。最初は俺もそっちを目指そうとしたがまずは太平洋側に出たかったから逆方向に進んだ。


 どうやらあのおばあさんが言うにはその地方都市と前に住んでいた市でいざこざがあるんだそうだ。と言っても産業的にも行政的にも互いに持ちつ持たれつなところがあるのは知っている。市長同士にも何か問題があるってわけではないはずだが……そもそも地元はベッドタウンとしての機能も備えているからこの二つの市は一心同体なはずだ。


 だが、それも暴走が起きる前の話。正直、俺が住んでいた場所は市全体で言ったら人口密度は低い。その分、冒険者一人当たりの負担も多いのだろう。ギルドが互いの市内にいくつもあるのは予想できる。元々、プレイヤー同士でつながったりその仲介を行う人物・組織が出来上がるのはゲームの文化として顕著だったから。その発展形というか今の世情に合わせたのが通称ギルドとして認知されたのだ。


 ただ、気になるのはその活性具合だった。ギルドには強さというか格がある。より強いプレイヤーが多く利用していてかつ組合の依頼をスムーズにこなせるギルドは格が高い。一方でそこまでのプレイヤーが集まり、うまい事依頼のマッチングも行われなければそれは大したことがないギルドという扱いになってしまう。


 暴走後、世の中は大きく変わったがまだ変化してからは日が浅い。なので格というものはそこまで決定づけられていないと思うが時間が経てば経つほど格差は広がるだろう。


 そして、そういった高位のギルドが多いのは人口が多い地域だ。俺の地元も人口が少ないというわけではないがギルドの格については期待できないだろう。


 そんな事を考えていたら合流の時間が来た。


(さあ行くか)


 部屋を出て、彼女たちが泊まる部屋のドアの近くに来た。


「来たよ」

 ドアの前で声を出すのではなく、メッセージを送った。


 すると、すぐにドアが開いて花耶が顔を見せた。身だしなみを整えているが少し眠そうだった。寝足りなかったのかな?


「おはよ」


 眠そうだがなんだか心なしかいつもとは違う恥ずかしそうな表情を見せた。


 続いて、


「おはようございます!」


 アキラちゃんは声は元気そうだがこちらも昨日よりはなんだかクマが目立つような……確か昨日はこの宿泊施設で募集されている依頼をいくつかこなした。でも夜遅くまでかかったわけではない。むしろ、早く終わらせて宿の人も驚いていた。


「二人ともおはよう」


 昨日は眠れた?と訊こうと思ったが多分、返ってくる言葉と本当の事は食い違ってるんだろうなぁなんてことが容易に想像できたから挨拶だけですました。これについては彼女達のみが知る事なんだろう。


 3人で朝食を食べて宿を出た。今日も晴天で助かる。


「じゃあこの道を真っ直ぐだね」

「えぇ」

 花耶が返事してアキラちゃんも頷いた。


「そういえばお二人が過ごしていた魚崎市ってどういう場所なんですか?」


「うーん、改めてどういう場所?って訊かれると難しいなぁ。市内でも場所によって様子はずいぶん違うし。とりあえず山と海に囲まれた場所だね。自然が豊かって言葉が似あうと思う。でも生活は不便じゃないし大きな都市にも割とすぐに行けるから便利だし過ごしやすかったよ」

「それと食べ物がおいしいかな。特に海産物」


「へー、良いところなんですね」


「まあね。ただ、夏が暑いのと冬は豪雪なのがなぁ」


「えっ?そうなんですか……、夏が暑いのは困りますね。あっ、でも雪が多いのって楽しそうじゃないですか?」


「あはは、そんなことないわ」

「まあ確かに観光資源として成り立っている面もあるわ。でも住んでいる側からすれば大変よ。今年も冬は実家にいったん戻ったんだけれども朝と晩は雪かきと屋根に上って雪をおろすの」


「1日2回もですか……」


「ええ。日によっては半日で1メートルくらい積もっちゃうもん。お姉ちゃんなんて屋根から落っこちちゃって大変だったし」


 そういえば花耶って実家じゃなかったらどこに住んでいたんだろう、そんなことを思っていると彼女は続けて、


「おかげで全身筋肉痛。ヒートルーフが普及してきたけれどもうちは旧式なの。でも悪い所ばかりじゃなくて雪解け水がいいのか農産物はみずみずしいし陸の栄養を海に運ぶみたいで他の地域よりも大きな魚がたくさん取れるのよ」


 その後もしばらくは地元について説明やら思い出話をしていた。


???「あれは!?」

 曖昧な予想を確信に変えるために近づく。


「そういえばアキラちゃんってその、記憶が無いって言っていたけれど、好きな食べ物とかはあるの?」

「もしも、海の幸とかならおいしい店や魚市場を知っているけれど」


???「間違いない、あの女の子は知らないけれども、あの二人は!」

 さらにゆっくり、でも確実に前との距離を詰めるために近づく。


「んー、そうですねぇ。刺身とかは全般的に好きですけれども特にアジとかイワシの刺身が好きです」


「イワシはもう旬がすぎちゃったかもなぁ。でもアジはこれからだよ!」


「本当ですか!?」


「うん。それにアジは確か特産品の一つだから…」


???「りょーまー……!!」タッタッタッタ

 後ろから大きな声と足音がする。

 あれ? これってデジャブ?


???「お兄ぃーちゃぁぁぁぁんっ!!!!」ドサッ

 デジャブじゃない、こんな衝撃は無かった!!


 完全に振り返るより先に腰らへんに飛び掛かられた。

 誰?

 女の子?

 でもさっき聞いた声は確か……


 完全に油断していた。話に夢中になっていたし攻撃を喰らうならオートシールドが発動する。でもゲームの攻撃に関係ないものには一切通用しない。ましてや生身の人間に飛び掛かかられるなんて予想しているだろうか。


 そのまま体勢を崩して倒れこむ。

受身はかろうじて取れたがそれでも体が痛い……でも擦り傷はほとんどない。服が高耐久衝撃吸収繊維でできているから。買っておいて本当に良かった・・・


「リョーマさん!!」


「リョーマ!!! ゲッ……!!!」


 アキラちゃんは驚きと心配、花耶も驚きと心配してくれたんだろうが、俺の上に跨ったその子を見てちょっと引いていた。


???「「ゲッ」なんて酷いね、せっかくの再会なのに。ネッ、かやお姉ちゃん、そしてりょーまお兄ちゃん!」


 笑顔。

 でもその笑顔には小悪魔的ないたずら心が隠れていた。

そろそろ寝よう、そう思っていたら

「そういえばカーヤさん」

「ん?」

「ごめんなさい、ちょっと気になることがあって。あのもしも話したくなければ忘れてください!」

「んー、とりあえず訊きたいことを聞かせて欲しいな。」

「あっ、はい、その……リョーマさんの事、どう思っているんですか?」

「あぁ、リョーマね、幼馴染でちょっと人づきあいが悪い所があって、自分の世界に入りがちで、あっでも好きなことをやっているときはすっごく楽しそうでやりこみも凄くて……」

「あの……ごめんなさい、そうじゃなくて…… その……恋人同士とかそういう関係なんですか?」

「え!? 恋人? 私とリョーマが? いや、そんなことはないわ?付き合ったこともないし。そもそもあいつが私に恋愛感情を抱いているなんて……」

彼女はどんどん焦っていくのがしゃべる速さと声のトーンで分かっていった。

こんなこと改めて気にしていなかったがいざ訊かれるとなると……

その後はあきらも彼女の自分で出せない答えや堂々巡りの発言を長い間聞くことになった。

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