第十一話 飛び込んだ勇気は救うために
私には救いたい人がいた。
そのためには可能性が薄いとわかっていても…
はぁはぁ……
ここまで逃げ切れば大丈夫かな。
そして、緊急脱出の効果も切れる。
「びっくりしました!」
「あぁ、凄い熱気というか興奮というか」
「それだけあのアンテーアってモンスターがとんでもない奴だったって事ね」
そうなんだ。カテゴリーも高いがそれだけでは計れないのがあの召喚能力だった。おそらくほとんどのプレイヤーが敵の数に圧倒されてしまったんだろう。
ただ、プレイし終わって生還したプレイヤーは恐怖だけではない未知との遭遇の好奇心も刺激されたのは反応を見れば何となくわかる。実際に俺もそうだ。ゾッとしたが何が来るのか気になってしまう自分もいた。
「ところでアキラちゃん? 万能蘇生の新芽は手に入れられた?」
花耶がアキラちゃんに聞いた。
そういえば彼女の目的は万能蘇生の新芽だったな。
アキラちゃんはさっきから妙にそわそわしてステータスなどを確認している。
これは合成の準備?
「はい、獲得アイテムを確認した時にあったんですが、えーっと……ありました」
「これとこれを合成して……【万能蘇生の秘薬】」
【万能蘇生の秘薬】が5つ作成できたようだ。この秘薬はあらゆる状態異常とHPを回復できるという。めったに見ることができない上位の回復アイテムだ。
「これを届けたい人がいるんです!」
そういって先ほどいた街の方へ向かって走り出した。目的地とは逆方向だけれども……
「ねえ付いていってみない?」
そう花耶に提案した。
「うん、私も気になる。ボタニカルパニックは決して初心者が乗り越えられるようなイベントじゃない。あの子はセンスは良いけれど見ず知らずの私たちと組むのは一種の賭けのはずなのに……」
二人の意見は一致した。
おせっかいかもしれないけれどもそれならそれで言われたら去ればいい。
彼女の走っていった方に向かって俺達も走り出す。やがてアキラちゃんの後ろ姿も見えた。
「アキラちゃん!」
「カーヤさん!! はぁはぁ、なんで?」
アキラちゃんはさっきから結構走っているためか息が荒い。
それはこっちも同じだった。
でも会話を続ける。
「ごめん、どうしても気になっちゃって。迷惑だったら去るわ」
少しだけアキラちゃんは考えて。
「いえ、お二人がいたほうが心強いです。またご一緒していただけますか?」
「ああ」「そのつもりよ」
そして、街の中心……ではなく端と中心の間くらい。少しだけ寂れた住宅街と宿泊施設が入り乱れた場所にたどり着いた。
そのうちの一つ、民家に入っていったアキラちゃん。
入って良いのだろうか。とりあえず、扉のギリギリ外側で待機した。
「おじいさん!!」
アキラちゃんが大きな声で言った。
家の中の様子が目に入った。今は珍しい布団だ。そこで一人のおじいさんが寝込んでいた。奥さんと思える人が看病している。
風邪? それならすぐ直るはずだが。何かもっと重い病気か。
医療インフラはそこまで暴走の影響を受けていないはずだ。病院など重要施設の周りには冒険者も多いからモンスターも近寄れない。だから大抵の病気は今でも問題なく治療できる。それでもアキラちゃんのあの焦りようは……
アキラちゃんがおばあさんと何か話しているとこちらに気が付いたようで。
「あなたたち、この子のお知り合い?」
「えぇ。一応知り合いです」
「外にいては何ですから、どうぞ上がってください」
少しだけ戸惑ったが今はお言葉に甘えさせてもらう。
「すみません。では、お邪魔します」
そう言って花耶と一緒に家に上げてもらうことにした。
「あの、アキラちゃんはお孫さんですが?」
花耶が尋ねる。
「いえ、そうじゃないんです。あなたたち旅人、あ、今は冒険者って言うのよね、冒険者でしょ?
あの子もそうなの」
あの年で冒険者というのは驚きだった。
「でもその時は泊るところもなくて。一応泊まれるには泊まれるんだけれどもあの子くらいの年齢の女の子が大人の男性が多い宿泊施設で一人で泊るのは万が一ってことがあるかもしれないからね。だから私たちみたいな民間の家が泊まり場所を提供しているの」
おばあさんは続けた。
「宿泊期間は1週間くらいかしらねぇ。周りで必要なものを集めながら討伐をしたいって言っていたの。おじいさんもゲームはやっているんだけどそれだけじゃ心細くてね。モンスターが近くに現れると嫌だから冒険者さんがいると私たちも安心できるのよ」
「ウチは離れたところに孫はいるけれども男ばかりで、女の子の孫ができたようだとおじいさんは張り切ってアキラちゃんと一緒に郊外に出かけたのよ。そうしたらモンスターって言うの?、モンスターから変な毒を喰らってしまったようで……」
そう言って布団をめくると、
ウッ……!!
思わず声が出そうになった。
足が変色している。中心部分は……壊死しているのか……!?まだ広がっていないようだがこの毒はゲーム内では処理が遅いと大変なことになる。
状態異常まで再現されてしまうのか。使うモンスターは極僅かだから運が悪いとしか……
「この毒を使われたのは……!?」
「確か4日前かねぇ。病院にも行って一番有用そうな薬を使ってもらったんだけれども症状は少しずつ広がっていってしまって。
本当は入院したほうが良いんだけれどももっと大きなけがをした人で治療室はいっぱいのようなの」
寂しそうに、そう教えてくれた。確かに今の世の中は見た目が激しい傷を負うだろう。でもこの毒は危険だ。ゲーム内よりはずっと進行は遅いがいずれ体中を蝕む。
「短い間ですけれどもこのお二人にはお世話になったんです」
アキラちゃんが口を開けた。
「だから私にできることをしたいんです!」
そして万能蘇生の秘薬をおじいさんの足元に半分たらし、もう半分は口に含ませた。
パァァァァァァ、という擬音がまさにふさわしい様子だ。
体全体が少し、毒を負った足部分はそれよりもずっと明るく光り出した。
みるみる変色した部分がいかにも血の巡りの良さそうな肌色に変わる。
回復している。
凄い。
それに腐って少し抉れた肉も綺麗になっている。
光がやむのと同時におじいさんがハッと目を覚ます。
「おお。これは……」
さっきから意識はあったようだがなかなか起きられずにいたおじいさん。
おそらく本人がその回復に一番驚いているのだろう。
「あなた、アキラちゃんが凄い薬を持ってきてくれたようですよ」
「いえ、私は、そんな…… このお二人のおかげです」
「そんなことはないよ。アキラちゃんがいなければ攻略できなかったどころか参加できなかったわけだし」
「えーと、とりあえずおじいさんが元気になって本当に良かったです。それにリョーマさん、カーヤさん、ありがとうございます!!」
照れくさそうにもじもじした後、元気いっぱいにアキラちゃんが言った。
フンッ!!
急におじいさんが立ち上がった。
「なんだか体に力がみなぎっているようだ。これもアキラちゃんの薬のおかげかねぇ」
これが万能蘇生の秘薬?
人の生命力まで向上させるのか⁉
この場にいる人は分からなかったが実際におじいさんが言ったようにナノマシンタイプBが秘薬のデータに反応して活性化、身体能力を向上、というよりは機能低下した内臓や筋肉、血管など各部分を回復させたのだ。
しばらくは元気になったおじいさんを目の前に三人は笑顔に包まれていた。俺達は水を差してはいけないと何となく察して外に出ようとしたが一緒に話そう、ということになって談笑に参加させてもらった。
お昼はここでお世話になった。
そして、また談笑する。
「あら、あなたたちは北東に向かうの?」
「はい、そこが私たちの故郷で暴走以降どうなっているのか気になって。まだ一度も戻っていないんです」
「そうなの、あそこはまだ安全みたいだけれども気を付けて。何やら隣に大きい都市があるでしょ、あそことなんだかひと悶着あるようなの」
「え、そうなんですか?」
「えぇ、もともと政治的にも産業的にもあのあたりは一致団結している良い地域だったんだけど暴走以降はこのゲーム内のモンスターやギルドっていうのかしら、冒険者をまとめ上げる組織、他にもあったかもしれないけれどもゲームの影響をめぐって今までに無い話し合いが行われているらしいわ」
冒険者が泊まる民家はこのような生きた情報が集まる。そして、それを俺たちは聞くことができる。
「こりゃ、戻る方針で正解みたいだったようだね」
「うん、なんだか心配になってきた」
やがて食後からある程度時間が経って、
「では、お邪魔しました。お昼ご飯とってもおいしかったです。あ、ランチ代は……」
大抵こういう民家は宿泊または食事の利用を選ぶことができる。
俺達はお昼をお世話になったのでその料金を払おうとしたんだが、
「いーの、いーの、これはあの人を助けてくれたお礼だから」
これにさらに「いいえ」って言ってしまうのは無粋だろう。
「じゃあまたお言葉に甘えさせて頂きます。お食事に誘っていただきありがとうございました」
「えぇ、どういたしました」
アキラちゃんはおじいさんと何か話している。
そして俺達はこの家を出てきた道を戻ることにした。
「なんていうか、良かったね」
タッタッタ、
「うん、最初はあの傷を見て怖くなったけれども元気になって凄くホッとしたわ」
タッタッタッタッタ、
「あの薬も凄かったなぁ後で作っておくか」
薬も凄かったがやっぱりアキラちゃんの信念とか救いたいって気持ちも凄い。そうやって短い間だったが一緒に行動した彼女の明るさとひたむきさの余韻に浸っていると、
「リョーマさん、カーヤさん!!」
この声は……
「アキラちゃん!?」
「あの……私、実はあそこでの宿泊は今日までだったんです。おじいさんが心配だったので延長も考えたんですが、おかげで元気になった、私のことは心配せずに君も冒険を続けなさいって」
「それで、実は私、記憶が無いんです、3年当たり前から」
「だから帰る場所も無くて」
!!
記憶が無いってなんだ!?じゃあ故郷とか家族は……次々と疑問は湧いてくる。あまり詮索するのは気が引けるががこれだけは聞いておこう。
「えっと……ちょっと衝撃なんだけど…… とりあえず目的の場所とかあるの?」
「それが実は無くて、それで、その……」
「じゃあ私たちと一緒に来る?」
花耶がそう言った。
彼女がそんなことを言うとは思わなかったからちょっとびっくりだ。
「あなたのことはどういったら良いのかな、気に入ったの。一人で旅するよりも3人の方が安全でしょ」
「私たちはとりあえず故郷に戻るけれどもその後は遠くまで出る。その過程でもしかするとゆかりのある場所に行ったり、何か思い出すかもよ?」
「いいでしょ」
俺の方を向いて尋ねた。
「まあ俺は全然問題ないけれど、アキラちゃんはそれでいい?」
「はい!!!実はお二人としばらく一緒に行けないか聞こうと思っていたんです。でも図々しい気がして……その……」
「あはは、遠慮しなくていいよ。じゃあ改めてパーティーに追加するね」
アキラちゃんを俺達のパーティーに追加した。
「あ……あの、本当にありがとうございます!!それと、これからよろしくお願いします!!!」
「こちらこそよろしく」
花耶が彼女の頭を撫でた。
「俺からも改めてよろしく」
こうして、二人で戻ると思っていた故郷へのちょっとした移動だがもう一人、加わった。あの街について不穏な話を聞いて不安だったがその心の曇りが少しだけ明るくなった気がした。
ここから歩いてざっと3日くらい。
それくらいの距離。
でもこの距離が長く感じる。
一体、地元はどうなっているんだろうか。




