第十話 称賛は慣れていない
その後も出てくるモンスター。
でも出てきては消える。
消えなければとどめを刺す。
呆然としながらもだんだんと我に返る。まだモンスターが少しばかり出てくるからそうならざるを得ない。
それは二人も同じだった。
ただ、あまり集中せずに倒せてしまう。そもそもまだスピカの自動射出が残っている。流石の特大容量だ。
だから、今俺たちがいるこの場所に近づけばどんどん削れて倒れていく。倒しきれなければ直接倒すのみだ。
しかし、まいったな。
今回の戦闘でそのスピカも大分消耗してしまった。武器は寿命が早いものとずっと使えるんじゃないのか、と思えるようなものまで耐久性は様々だ。スピカは平均よりも少し短い印象だ。本来はまだ持つはずだが俺の戦い方は無茶が多いから消耗が激しかったんだろう。
獲得素材のイベントが再登場するか補修しなければならないが今は補修素材は無い。あったら八岐大蛇に使っていた。一定時間経過すると壊れたものはそのままだ。補修はできない。だからスピカはしばらく使えないな。
そんなことを思いながら……
「よしっ!!!」
ようやく立ち上がった。
他の2人も続いてゆっくり立ち上がる。
「私たち、勝ったんですよね……」
まだ現実味が無いらしい。
その気持ちは分かる。だがアナウンスは流れたし何より手に入れた素材が勝利の証だ。
「二人ともドロップアイテムは何だったの?」
花耶がそう言った。彼女も落ち着いているが内心はまだ勝利を確信しきれていないのかもしれない。だからドロップアイテム(素材)の話になったのだろう。
「えっと私は、万能の杖と叡智の実でした。凄い!! この合成候補の武器は見たこと無いです!えーと、森羅万象の杖……?」
俺も聞いたことが無い。どうやらアンテーアのドロップ素材も新しい物なんだろう。
「合成自体はまだできませんがこういうアイテムって持っているだけでなんだかとっても嬉しいですよね!!」
アキラちゃんはよっぽど嬉しかったのか今までの不安や恐怖から解放されたのか眩しい笑顔を見せてくれた。
「なんか特別感あるよね。素材の名前を見ているだけでもワクワクする」
その気持ちもゲーマーなら分かってしまう。
「カーヤさんは何がドロップしましたか?」
「あっごめん、言い出しっぺなのにね。ちょっと待って、確認する」
「えーっと私もアキラちゃんと同じで万能の杖と叡智の実と神緑の冠」
「ちょっと変わってるけど盾も合成武器候補にあるわ」
「3つも!!??」「凄いな……」
ドロップアイテムは確実に全て落ちるわけではない。
最低1つは落ちるが3つも、それもこれだけのカテゴリーの敵から落ちるのは運がいい。
というか昔彼女にゲーム貸した時やたら運が良かったんだよなぁ。
今もその才能というか豪運を持っているとは…恐るべし。
「リョーマは?」
二人の注目が俺に移った。
「えーと、俺は……」
ズゥゥゥゥゥゥゥン……
「どうしたんですかっ!?」
「えっ何? なんでそんなにテンション下がってるの?」
俺の戦闘履歴のステータスを指さした。
アンテーアの項目に書き出されているドロップアイテムは
神域の花瓶×1
これだけ。
これだけなのだ。
しかも合成武具候補無し。
いや、別にいいんだけどさ。でもあんなに戦ったのに……なんというか10回ランダムに強い武器とかキャラが排出されるゲームのシステムってあるんだけれどもそれで知っている人が新しいピックアップの最高レアを出したり複数の最高レアリティ枠を出して喜んでいるときに自分の結果はどう使ったらいいのかわからない確定枠が1つだけ出た。
そんな感覚に近い。
「あー…えーっと、ほら説明! 説明見てからじゃないと何かわからないですよ!」
「とりあえずアキラちゃんの言うように説明を見てみたら?」
二人が絶妙なフォローを入れてくれる。
「そうだね」
確認するために項目の詳細を表示する。
〈とある神が持っているとされる高級家具。高額売却可能。〉
「どうやら売却専用のアイテムみたい。とりあえず売却額も確認するか」
ギーーーー!!!
バシュッ!
そんなやりとりをしている間に食虫植物型のモンスターが現れたが花耶が一払いして消滅した。
「売却額は1000ガイア……」
「1000ガイア!!それってRMTで数か月は遊んで暮らせますよ!!今ならひょっとしたらもっと価値があるんじゃ…、それによく見たらそれランク6の素材じゃないですか⁉大当たりかもですよ!」
大抵はカテゴリーと同じ位のランクのドロップアイテムが出る。現に二人が持っている素材は全てランク5だ。だからこれは当たりと言えば当たりなのだが……
「いや、でもガイアはもうすでに持ってるから」
「まあリョーマにとってはあまり売却アイテムは意味ないのかもね」
「へ?そうなんですか?」
きょとんとしているアキラちゃん。
あまり手持ちのガイアは教えるべきじゃない。ただ、ここまでやってくれたのに無理に隠すのもなんか違う。
だから、
「まあ、正直このアイテムの売却額より桁がいくつか違うから……」
これくらいにぼかして答えた。
「あぁ……そうなんですか……ハハッ」
乾いた笑いが少し漏れた。まあそれくらいの反応がちょうどいいのかも。俺も彼女と同い年で普通の金銭感覚だったらそうなっていただろう。
「ところでリョーマ……」
花耶が何か言いたいけれども言いにくそうだった。
いや、「何か」ってのはもうわかる。
「あー、なんていうかありがとね。助けてくれて。」
「いや、そうじゃなくて、その……」
また、彼女の話が途切れた。このままだと長い沈黙が続きそうだったから俺はあの時思ったことを伝える。こういうのは自分の中で納得することが多いんだけどここはちゃんと言葉にしなくてはいけない、そんな気がした。
「そのレーヴァテイン、β版の獲得アイテムだよね?」
「ってことは花耶があの時の1位だったんだね。」
「うん。今まで、それも長い間、黙っていてだましているようで、その…」
「正直驚いたし一瞬とてつもない混乱があったよ。
でも、花耶は悪気があってそんなことをしていたんじゃないってことは分かってる。
β版をやっていた時にいろんな質問していた意味も今、やっとつながった」
「楽しみたいだけじゃなかったの、もしもあなた以外の誰かが1位を取ったら少しはゲームから離れてくれるかもってちょっとした黒い気持ちもあった」
それは意外だった。でもあのイベントでトップになるのは並大抵のセンスと努力じゃできない。それを彼女は成し遂げた。
俺の注意をそらしたかったって理由も言葉通りだったらあったのかもしれない。でもそれは無理矢理俺をゲームから引きはがすのではなくてあくまでそうなるように俺に賭けたんだ。
だから思ったことをまた話す。
「そのために花耶は自分の好きな物、好きな事に俺を引き込むんじゃなくて俺の領域に踏み込んでくれた」
「今は楽しみも覚えているかもしれないけれども当時の花耶はゲームは疎い方だったのも知っているよ。
そこからここまで来ることも、そもそもレーヴァテインを取ることもとんでもなく難しい」
「でも花耶はそこまでやったんだ。よくよく思い出せば誘ってくれた場所も俺の趣味や好みに関係があるところが多かった」
そうなんだ。自分の好きなことに相手を引き込むことは難しくない。でもその逆となると話は違ってくる。
彼女のさっきまでのどうしていいかわからないような表情が少しずつ変わる。
続けて、
「それなのに俺はその想いもよく考えずに応えられなかった。だから、なんていうか、俺こそどういっていいかわからないけれど、今となっては花耶のその行動がとっても嬉しい。さっきは助けてくれたからお礼もしたけれど、こっちの方も改めてありがとね」
予想していなかったのか、それとも……
でも彼女は憑き物が落ちたように穏やかな表情になった。
「それじゃあ……その……」
「ん?」
「もう少し、一緒に旅をしてくれる?」
「ここに来る前も言ったじゃん。もちろんだよ。」
そんなやりとりをしていて不意に我に返った。
花耶もだ。
アキラちゃんがどうすればいいのかわからないような表情でこっちを見ていた。そうだ、彼女がいた。俺は急に自分の言ったことの恥ずかしさやらぶっちゃけ具合を再確認してしまった。
「その、お二人とも仲が良いんですね!!」
アキラちゃん渾身の一連の流れのまとめだった。
今度はこっちが乾いた笑いが出そうになる。
すると
〈ボタニカルパニックの終了まで5、4、3、2、1、ゼローーーー!!プレイヤーのみなさん、お疲れさまでした〉
周りの景色が変わる。今まで深い森だと思っていた場所は実はそうではなかった。木々は生い茂るが、密度が低い。どうやら認識を変化させられていたようだ。
さらに、周りにはプレイヤーが何人もいたのが分かる。
「あれ? 俺たちはあの化け物にやられたんじゃ……」
「私は胸と腹を貫かれて……」
「俺は大量のモンスターに一気に囲まれてそれからの記憶が無い、はずだが……」
どうやらアンテーアと戦ったプレイヤーは相当多いようだ。そして、みんなやられてしまったようだが、
「嘘!? 生存している?」
花耶が驚いている。
だがもっと驚いているのは生存しているプレイヤー本人だ。
なぜなら暴走以降、ゲーム内で死んだ場合はそのまま……
「うーん、みんなの様子を見る限り死んでいてもおかしくないって事かな? 倒れたプレイヤーは終了時刻までそう思い込まされていた? 緊急イベントは例外?」
次々と疑問が湧きおこるが、
「理不尽だからじゃないですか?」
アキラちゃんがちょっと冷静な声で言った。そんなに話したわけではないが珍しいトーンだ。
「あっ! 理不尽って言うのは事前情報も無しにいきなり強敵に襲われて倒れてそのまま死亡なんてゲームとしてあっては良いのかなーって思ったんです」
確かに。
そう言われてみればこのゲームは無茶苦茶なことが起こってしまったがどこか超えてはいけないラインはしっかり守っているように思える。
「ひょっとしたらその通りなのかもね。でも言われて初めて腑に落ちたよ。良い考察」
「えへへ///」
〈今回のボタニカルパニックの結果発表!!〉
アナウンスが再び流れた。
〈総合獲得ポイント1位は如月様、カーヤ様、アキラ様のパーティーで162ポイント獲得です!!!〉
「162???」
「嘘!? あの三人が?ってか一人はまだ女子高生、中学生くらいじゃないか!?」
あたりからどよめきが沸き上がる。
〈景品は10ガイア、武晶石10個、万能素材3個、称号【緊急イベントチャンピオン】、……〉
初めての緊急イベント1位だから景品ってこんな感じでもらえるのかーって思っていたら、
「ねえ、あなたたちどうやってあの化け物を倒したの?」
「武器は何を使ってるんですか?」
「お嬢ちゃん、凄いな!」
囲まれてしまった。まずい、こういうのは慣れていない。
すると「緊急脱出!!」
花耶が三人分の緊急脱出を使ってくれた。VRモードなら制限はあるが指定したリスボーン地点に戻ることができる。ただ、ARモードは瞬間移動なんてできないので他のプレイヤーやモンスターからの認識から消す、ダメージや索敵などあらゆる影響を一定時間受けないという効果になっている。今はARモードの延長なので実際は瞬間移動していないが周りは俺達を目視・感知できない。
「今の内よ!」
そう言って俺達はその場を離れた。
はー!びっくりしました!!
あんなに大勢の人に囲まれることなんて今までなかったので。
でも照れくさくもちょっと誇らしいですね!!




