TIPS5 痛みとの距離
今回は私の出番は無いようだねぇ。
「そういえばさ、」
食事も一通り終わって互いにぎこちなくも少しずつ話を広げていった。そんな折、先ほどの話題が終わって、花耶が言った。
「リョーマって体内チップまだ入れていないの?」
先の戦闘で花耶には気になったことがあった。彼が吹っ飛ばされたあの攻撃。
確かに強いが実は彼の体はそこまでのダメージを喰らっていない。いや、数値上は喰らっているのだがそれにしては体への負担に差があるように思えた。
「うん」
「あきれた」
本当にあきれたような表情をする花耶。
体内チップを入れておかないと体の異変をすぐ察知することができない。
このチップのおかげで過去には早期発見が難しいと言われていた病気もすぐに兆候を見つけ出すことができた。
「成人したら今は大抵の人は入れるはずなんだけどね」
「それに痛いのはほんの一瞬 ちょっとつねられたくらいの痛みでしょ」
「うん、まあ知っているけど……」
「知っているけれどめんどくさいから後回しにしていたんでしょ」
その通りです。
「でもよかったわね」
「何が?」
「多分、今は体内チップを入れていない方が安全よ」
どういうことか気になっていたら彼女が続けて、
「おそらく体内チップはROADでの影響を増幅させている一因だと思うの」
「あなたが倒した大鬼いたでしょ、あの時私は偶然通りかかって少しだけステータスを見たの」
もちろん、偶然ではない。
「あの物攻であのスキルを喰らったらあなたの体はただじゃすまなかったはずよ」
「いや、十分痛かったんだけど」
「ううん、そうじゃない 多分、3日は体の半分をまともに動かせないはず」
「でもあなたは回復アイテムを使ったとはいえ10時間ちょっと寝て普通に動いている」
「こういったダメージについてはまだわからないことだらけだけれどもおそらくダメージの影響が少なかったのは体内チップをまだ入れていないからだと思うの」
「実際に私はここに来る前に何回か攻撃を受けた」
「え?」
顔や首元、腕や、足はちょっとテーブルに隠れて見えない。でも傷なんてついていない。服で隠れているのだろうか。
俺の移動する視線の意味と疑問が分かっている彼女がもう少し詳しく話してくれた。
「目立つ傷はすぐにアイテムで治したし、あとが残るほどのダメージを受けたわけじゃないから」
「でも打撃は体の奥にまでダメージが来る」
「4つ手の大鬼よりもずっと弱い一つ目の鬼の攻撃くらいなら受けても問題ないだろうと思って防御せずに攻撃優先した時があったの」
「その時は足に攻撃を喰らったけれども骨折したかと思ったわ」
「幸い回復で何とかなったし骨折したなんて大げさだったけれどそれでも丸一日はまともに歩けなかった」
「ちょっと覗きみたいでごめんよ」
ISで花耶のステータスを見てみる。
「別にいいわよ」
なるほど物理防御は俺とほぼ同じくらいある。
というか相当やりこんでるな……
「前までは体内チップをすぐに入れたほうがいいみたいな風潮だったけれども今は違うみたい」
「それに大浴場近くの掲示板とチャット」
「お風呂のついでに見てきたけれども皆、チップを入れている人とそうでない人はダメージに差があるってことが大勢のプレイヤーのすでに実感していたわ」
「だからあなたは少しだけ痛みに強くなっているようね」
とても意外だけれども彼女の言葉には説得力はある。よかった、なんて思ったけれども安堵と同時に不安も来る。
じゃあもしも花耶が、いや、他の体内チップを入れているプレイヤーもだけれども、そういった人達がああいった予期せぬ敵と戦うことになったら……
最後のコーヒーの一口を飲み終えてますますとんでもない世界になってしまったんだと実感した。
八雲龍馬が深い眠りに就いているいる時、花耶は気になっていた。
彼が体内チップをまだ入れていないかも、ということに。
目覚めたら訊けばばいいんだけどその前に……
手の甲にはチップを注入した跡が無い、服をめくって背中、脇腹を確認するも無し。
二の腕にも無い。
首元にもやっぱり無い。
あーあ、変にずぼらな性格はまだ治っていないみたいね。
でも今はおめでとう、ってところかな。




