第六話 花耶の怒りと新たな仲間⁉春夏秋冬全
このゲームは自由度が高い。
だからとてつもなく面白いんだけどたまにその自由を悪用するプレイヤーも出てきてしまう。
宿初施設の食堂には俺たち以外にも老若男女問わず様々な人がいる。冒険者以外は利用しないはずだから彼らは皆俺たちとやっていることは同じなんだろう。
正直、正直だ。あの暴走が起きてから困っていたけれどもワクワクもしている。
一部の技術は急速に発展しているようだが自分たちの身の回りについては変化が乏しいようなことを母は言っていた。
母がまだ子供時代だった頃は目まぐるしく日常が変わっていってそれはもうついていくのが大変、祖父母世代に至ってはほとんどの人が時代に取り残されている気分を味わったそうだ。
それが今は技術の閉塞状態を迎えている気がするとのこと。
確かに、ここ10年で一番でかいニュースといったらまさに今やっているこのゲームと宇宙移民だ。
自動化が進んで時間の余裕も安全も確保されたのが今この国にいる大部分の人だろう。富の再配分の法整備も30年前から進んでいる。
だから趣味や娯楽の産業が著しく発展したんだがやっぱりそれだけでは物足りない。これは俺も思っていたし多分、他にもいるのだろうというのは何となくわかる。
なので暴走の後、冒険者という名目で各地を放浪する人々が出てきてもおかしくないし旅の途中でそういった人たちとも何人も出会った。
この非日常は危険もあるが楽しい。いつか終わるかもしれないが今はそれを楽しんだっていいんじゃないか、そう思いながらここまで来た。
ここ数日は周りを意識する余裕もなかったが改めて周りを見回してみると若い世代もいるが50代、60代に見える人も珍しくない。
荷物を見るに近場の人もいるみたいだがそうではない、長旅仕様のものを携えている人もいる。
異世界に転生する人々がその境遇に困惑しながらも自由もあり、苦難もある、そして科学では説明がつかない能力を使って敵を倒す、昔そんな小説を読んだことがあるが今はそれに近いんじゃないだろうか。
食事が終わってそんなことを少しの間考えていると目の前に座っている花耶が、
「あーおいしかった」
「ところでさ、リョーマはこれからどうするの?」
「ん、とりあえずこれから南へ進むつもり」
「南? 確かに向こうは都市圏が多いけど何か目的はあるの?」
「いや、特にないよ」
「でもとりあえず人が大勢いるところに行って情報を掴むのが良さそうだと思っただけ」
「あれ以来世の中がどういう風になっているのか一気に分かりにくくなったことだし」
「実家に戻るとかは? 私たちが住んでいたとこ」
「ああ、家族は皆親父と一緒に海外に出ているから特に戻る理由は無いんだ」
「あっでも花耶は戻った方がいいんじゃ……」
「実はちょっと気がかりなの。別にここからそう離れているわけじゃないんだけどさ…… お母さんやお父さんやお姉ちゃんが今何やっているのかな~どうなっているのかな~って心配になって」
「お姉ちゃんもROADをやっていて、えぇっと、ちょっと待って」
「このプレイヤーがお姉ちゃんなんだけど今は無事みたい。でもこの目でどうなっているのか確かめたいって気持ちもあるの」
少しだけ花耶の表情が暗くなった。
「じゃあさ、まずはそっちに向かってみない?」
「やっぱり俺も地元がどうなっているのか少なからず気になっているし」
「えっ でもあなたの目的地と方向は違うよ」
「別に気にする距離じゃないよ。それに少しくらい遠回りしたところでそれはそれで面白い」
「それにやっぱり向こうが大変なことになっていた!、ってことが後になってわかったら嫌だしね」
「じゃあ、その、…… 一緒についてきてくれる?」
「もちろん!!」
再び彼女の笑顔を見た。
そして最初の目的地が決まった。
目指すはここから北東の位置。日本海と山脈の挟まれ、地域の都市から少しだけ離れた住宅街だ。
「じゃあまずはここを出よっか」
チェックアウトをするために受付に向かうと
「1泊おひとり様8ガイア、お客様は2名なので16ガイアになります」
驚いた、ガイアで支払い可能なのか。確かにガイア→基軸の仮想通貨→法定通貨と間接的に換金が可能だが少し手間がかかる。
前々から疑似的なリアルマネートレードができていたが今はもっと拡大しているようだ。まあ少しだけ法定通貨よりも割高のようだが(大体1.4倍くらいの値段)
16ガイア分を払おうとすると…
「私の分は私が払うわよ」
、と遮ろうとしたが最初から自分が払うつもりだったから意外だった。
「いや、ここまで運んで安全を確保してくれたじゃん。こんなのでお礼になるとは思えないけれどもせめてこれくらいはさせてよ」
そう言うと何か言いたげだったが了承してくれた。
宿泊施設を出てると花耶が口を開いた。
「さっきはありがとう」
「気にしないで。むしろこっちこそありがとうなんだから」
「でも、その大丈夫なの? お金とか。これから長いんでしょ?」
「うーん、実は訳あってさ、まあ見せたほうが早いか」
プレイヤーの所持金は他のプレイヤーには見れないようになっている。
ステータスは確認可能だが所持金や貴重なアイテムが他のプレイヤーにバレると荒らしの被害、最悪はPKにつながるからだ。
だから所持金を見せるってことは信用した相手じゃないといけない。
「え?見せてくれるの?」
「じゃないと心配するでしょ」
そう言って、ガイアのステータスを表示すると
(一、十、百…… 6桁⁉)
「嘘!!?? なんで?? 確かにリョーマ投資とかやっていたらしいけれども、あー、これはあなたのお母さんから聞いたの!でもいつの間にこんな、というか大学卒業したのこの前よね?ありえなくない?」
花耶にしては珍しく動揺しているが無理もない。一応その理由を簡単に説明した。
「これはまあ、なんていうか親父からこの前何種類かの仮想通貨が送られてきたからそれをガイアに変えたんだ」
確かに、リョーマの家は半世紀前から続く資産家って聞いたことがある。黎明期に出現した仮想通貨を価格が高騰したところで売り払ってそれで財を成したらしい。
全て売り払ったわけでもなく一部は残っているみたいなのが風の噂。
でも彼自身は関係ないはずだった。いろんなしがらみが面倒で資産なら自分で築こう、それに加えて多くを学ぼうって考えに至ったのはずだが…
「まあ親父の気まぐれってやつなのかな」
「ただ、現実でこれを使う気にならなかったらゲームの通貨に換金して思いっきり遊び倒してやろうう!って思っただけ」「でも今はそれに助けられているからなぁ。ちょっと複雑かも」
次につなげる言葉が出てこない、いや、多分色々考えが巡っているんだけど何を言ったらいいのかわからないであろう花耶の為に一旦、ここで会話を区切る。
「そんなわけだからさ、あまりお金のことは気にしないで」
「…うん、わかった」
「でも私が出せる分は私で出すからね」
「あまり貸し借りとかは無しでね!」
「分かっているよ」
まあ花耶の性格ならこう言うだろうな。昔から変わっていなくて安心した。
しばらく、雑談をしながら歩いていると市街地の外れに来た。
すると、
〈ババーン!!!! イベント開催!!〉
ROADの緊急イベント告知だ。もともとは時間は決まっておらず各地で突発的に起こるイベントだ。
でもなぜ?
暴走が起きてからはこの通知はなかった。
運営はまだ行われている!?そんなことを考えているとイベント詳細が説明された。
〈ボタニカルパニック!!〉
〈今日一日様々な植物モンスターを討伐してもらいます〉
〈ドロップアイテムは回復薬や強化薬の素材はもちろん、武器の素材になりますよ~〉
〈そして、強敵も出現!これに打ち勝つことができるプレイヤーは現れるか!?〉
〈なお参加条件は3人パーティーなのでフレンドやランダムで出会う人と一緒にぜひ攻略してください〉
ボタニカルパニックの登場モンスターは確かカテゴリー4が最高だったかな。
まあ3人なら何とかなる強さだが……
「3人パーティーなら今回は不参加ね」
同意。
俺達は今二人パーティーを組んでいる状況だ。新たに一人加えるって手もあるが正直、そこまでして参加するイベントでもない。
すると、
「ねえそこのお嬢さん、俺たちと一緒にイベントしない?」
軽そうな声のした方に目をやると5人のパーティーらしき集団がいた。どうやら3:2でパーティーを分けるみたいだ。
それで男二人組が余ったから花耶に目を付けたようだ。
「ねぇ無視して行こう」
花耶がそういった。
「あぁ」
「ねぇねぇ、君に話しているんだけどさあ」
しつこいな。
「悪いが彼女は俺とパーティーを組んでいる、他のソロプレイヤーでも誘ってくれ」
「いや、お前に話していないんだけどさa」
「こっちもお前らに用はない」
「空気くらい読んだらどうだ」
めんどくさいから食い気味で一蹴した。
どうやら相手は沸点が低いようで小型ナイフを取り出しすぐに切りかかる態勢に入った。
荒らしに近いな。というか装備とステータスを見るに対人特化の人物があのパーティーにいる。PK常連の可能性がある。
「今なら見逃してあげるよ」と構えたナイフをちらつかせてこっちを煽っている。
と、次の瞬間、大きく低い鳴き声が近くに出現した。たまに出るカテゴリー2最上位のレッドワイバーンだ。
それを見て向こうのパーティーが一斉にそちらに注意を向ける。
レッドワイバーンは対峙しているこっちめがけて迫ってきた。
「……次から次へとうっさいな……」
声をした方、隣を見ると花耶の目が据わっている。いつか見た怒り、というかキレたときの表情だ。取り出した水風属性混合・最上位の一振りの一角「海王ーテンペストー」。
それを振るうと無数の水の弾丸が翼を尻尾を体中を貫く。
速度+3、連撃+5
続けてバフを使った花耶がワイバーンめがけて切りかかり、そのまま倒してしまった。
「次はあんた達」
まだ怒りは収まっていないようだった。
「パーティーの人数が足りなくて困ってるんでしょ」
「・余った二人が倒れる
・全員倒れる
・一人だけギリギリで倒れないままかろうじて頭数合わせとしてこっちのパーティーに参加させてあげる
好きなのを選びなさい」
そして、再び剣を構える。先ほどの翼竜への攻撃でSPは十分回収した。今の彼女なら強力なスキルを複数回使うことができる。
「強制脱出×5!!」
向こうの一人が叫ぶと同時に彼らは光となって放物線を描き視界から消えていった。
どうやらあれがリーダーみたいだ。今の花耶の様子を見て瞬時に状況を理解したらしい。
彼女の方に振り向くと怒りは収まったようだ。
「また助けられちゃったね……」
「ううん、今回はあなた一人でどうにでもなったはず」
「……はずだけどこれは私がどうしても押さえきれなかったから勝手にやっただけ」
「ああいうのがいると楽しめるものも楽しめなくなるから」
なんと言っていいのか。やっぱりこういう時に気が利くことが言えない自分は相変わらずだ。
「そうか」
「うん、そう。」
でもこの返事で良かったみたいだ。
「なんか慣れないことに巻き込まれて疲れちゃったな、あそこで休もっか」
そう言って道の駅のような場所で休憩を提案し、快諾してくれた。
〈エントリーまで残り時間3分です まだエントリーしていないプレイヤーの方々!ラストチャンスですよー〉
最終エントリーを促すアナウンスだが俺達には関係無いか。
ねぇ。
でもキングマンドラゴラの毒袋はあった方がいいんだよなぁ。
「ねぇってば!」
「あっ、ごめん。ちょっと考え事していた。どうしたの?」
「そこの女の子が話があるって」
「えっ」
目をやると15、16歳くらいか。その子が何やら言いたいらしい。
でもさっきまで気配を感じなかった。
気を抜きすぎたな。周辺索敵機能をプレイヤー範囲までonにしておくか。
「ああごめんよ。」
そう言いながらonにすると少しノイズが走る。あまり使っていなかったからな。
そして、その子が
「あの!私、「春夏秋冬 全((あきら)」って言います!!」
「先ほどの2人の戦い見ていました!!」
「本当に突然のことで申し訳ないんですが、その、、、一緒にパーティーを組んでください!!」
「どうしても欲しいアイテムがあるんです」
そんなこといきなり言われても……と思っていたら
〈パーティーを確認しました〉
〈如月様 カーヤ様 アキラ様がボタニカルパニックにエントリーをしました〉
は!?
なんで!?
俺は操作をしていない。
花耶の方を見ても俺と同じような反応だ。
じゃあこの子?
いや、アキラちゃんだっけ、アキラちゃんも目を見開いてただ驚いている。
こうして、どういうわけかこの緊急イベントに急遽参加することになってしまった。
ツインテールで少し前の制服を模したファッションに身を包むのは春夏秋冬 全。
出会いではちょっと困ったような顔をしていたが根は活発なようだ。
どういう訳か彼女もこれから一緒に攻略することになってしまったようだが・・・




