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第五話 目覚め

目覚めの前、一瞬だけ夢を見た。

懐かしい、でもモヤモヤが残る。

あの時どうしてあーできなかったのか、そういうことをしてしまったのか。

でも過去を撒き戻すことはできない。

じゃあこれから俺にできることは…

(ん……寝ているのか……)

(昨日はどこまで進んだろう 今日目指す場所は……)

(あれ、そもそも昨日はどこに泊ったっけ?)

(ビジネスクラスのカプセルホテルは…… 一昨日、いやその前か)


 ようやく自分が今まで寝ていたことを理解する。

 目は瞑っているがだんだんと意識がはっきりしてくるにつれて記憶を探り出した。


(ベンチで座りながら寝たのが一昨日)

(それで昨日は……)

(そうか アレと戦って俺は、俺は……)


 そう、意識を失ったのだった。でも今寝ているのは地面でもコンクリートでもない。布の上で寝ているのは分かる。それに自分が頭を乗せているのは……枕?

 いや、こんな温かくて柔らかい枕はあっただろうか。


 矯正反発タイプでもない。


 体の警戒心が解けているのは分かる。野宿していた時は常にピリピリしていた。目覚めも一見良かったように思えて実はほとんど休眠できていなかった。


 でも今は違う。

 ずっしりとした自分の重さを感じている。今までの疲れがそのまま解放されたようだ。これから起きるのはちょっと辛いけれども起きた後はすっきりするのがなんとなくわかる。


(じゃあそろそろ目を開けるか……)


「え?」


 横向きに寝ていたから全体像はまだ見えていないが自分の前方右下側には透き通ったような肌色が二つ少しだけ見える。

 これは何?膝?


すぐに上を向くとびっくりして目を見開いた女性の姿があった。


 その顔をよく知っている。

 けれども少しだけ違う。

 眼鏡をかけていないし髪型も見たことがない。


 ただ、そんな些細な変化で見間違う訳はない。


「花……耶??」


 幼馴染の水鳥川花耶。

 彼女自体は理解できるがどうしてここにいて、なんで自分が膝枕されているのか状況が全く理解できない。


 彼女の名前を呼んでから、多分実際はほんの少しの間だったのだろう、でも紡ぐ言葉を耳にするまでかなりの時間がかかったように思えた。


 焦ったようなびっくりしたような安心したような困ったような、そしてだんだんと照れているような表情に変化していき、出てきた言葉は、


「えっと、おはよう」




 ここは地域の人が共同で道行く人たちを寝場所を提供してくれる場所のようだ。

 本来は別の施設だがあの暴走の後に冒険者と呼ばれる人々が日に日に増えていったので急遽泊りが可能な施設に変更した。

 無駄にお金がかかるのに碌に使われていなかった建物と設備をこの際だから利用しようって話が出たとのこと。

 労働力が機械と人工知能に置き換わられてしばらく経ったので新しい建物が増える一方でこういった屋内の空き場が所様々な形で出来上がってしまった。取り壊すにも金がかかるわそもそも場所に需要が無いから今まで放ったらかし、買い手もいないので持ち主は困り果てていたようだ。


 それが今やいつまで続くかわからないにせよ一時的に需要が生まれた。なので急いである程度は人が泊まれるように改装し、宿泊費を稼ぐ建物に再利用することができた。


 今俺達がいる場所は日本の北陸の某所。


 これから黒部を突っ切ってとりあえず太平洋側に出る予定だった。

 あそこのトンネルやロープウェイを利用するのが在来線が止まってしまった今のところの最短ルートの一つだと思ったからだ。ロープウェイはおそらく動く。

 観光資源のためにメンテナンスはするが大規模な工事をしていないし今となってはアナログの技術でずっと動いているって前に紹介されていた。


 そんな道中あの大鬼にやられてしまったんだ。


 ひとまず泥だらけ、汗だらけになった服を脱ぎ捨てて近くの大浴場に行った。しばらくシャワーだったからお湯の温度が身にしみいる。それにここは源泉なのも嬉しい。筋肉痛によく効くみたいだ。


 先ほど着ていた服はもう乾いて完全に除菌も済んだだろう。夏はまだ先とはいえ、昼は汗ばむ日もたまにある。

 衣服はもう少し買っておいた方がいいかもしれないな。



 そして、待ち合わせ場所の泊っている部屋に戻ると向こうも風呂に入ってきたようで少し火照りが残っていた。


 なにから話したらいいだろう?互いに知っている仲とは言え、最近はしゃべっていない。何をしているのかもほとんど知らなかった。


 向こうは向こうでどう話を切り出していいかちょっと困っているようだ。


 このまま長い沈黙が流れるかもしれない、そう思っていたら自分の口が動いた。


「その……ありがとう」

「いろいろ思い出した 花耶がここまで連れてきてくれたんだよね」


 話の続きが言えない。

 我ながら情けないなぁって思っていたら、彼女は一言。


「ちょっといい?」


 何のことかわからずにいた次の瞬間、急に抱き着いてきた。


「よかった……本当によかった」


 いきなりの事で驚いている。

 確かに気絶していたがそこまで大事だろうか。


「私ね、ひょっとしたらもう目を覚まさないんじゃないのかって思っていた」

「思いたくないのにそんな不安が出てきちゃったの」

「あんな喧嘩したままそんなことになったら……」


 どうしよう。

 予想外過ぎてなんて言っていいのかわからない。

「いや、大丈夫……だよ」


 本当に気が利いたことが言えないと我ながら嫌になる。


「大丈夫じゃない!!」少しだけ彼女の声が大きくなった。


「私、ここまで来る間に見てしまったの」

「ダークウルフに食い散らかされた人を」

「それが私にも向かってきて何とか倒したけれどもその人はずっと生き返らなかった」


 ダークウルフはROAD内のモンスターだ。

 そこまで強くない魔獣だが群れで襲ってくると厄介で中級者でも油断してかかるとゲームオーバーになりかねない。


 だから気を付けなければならないんだが、いや、そんなことより待って!?

「人が生き返らなかった!?どういうこと?だってゲームオーバーになったら……」

 そう、ガイアを一定数払うか8時間待てばリスボーン地点で復活するのがROADだ。


「うん、私も最初はガイアを払わずに時間経過を選択したんだと思った。」

「でも気になって気になってしょうがなかったから次の日に見に行ったら……」


 それから先は思い出したくないようだった。


 どういうことだ。

 一体何が起こっている⁉

 じゃあ何か?もしもあの時俺が大鬼を倒しきれていなかったとしたら…


 急にゾッとする寒気が体中を駆け巡った。


 また沈黙。

 それから少しして彼女の頭に手を乗せて、


「うん、でも俺は何とかこうして生きている」

「ひょっとしたら あのまま倒れていたら他の敵に殺されていたかもしれないけれど花耶が助けてくれたんだよね」

「改めて、なんていうか、本当にありがとう」


 彼女に救われた。

 その意味が今になってよくわかった。


 でもまだ疑問がある。


「ところで、」


「ん?」


「どうして花耶がROADの事を知っているの?だってゲーム好きじゃなかったよね??」


 急に顔をバッと上げて少し口をパクパクさせて


「いや、それは、えーと、やっぱりみんなやっているから気になってね、、、」

「それで楽しくてはまっちゃったの」


「えーそれなら教えてくれればよかったのに」

「フレンドになったり一緒に冒険に出ることできるじゃん」


「いや、まあなんていうか、そのあれがあったし気まずかったし」

「それにさリョーマってあまり誰かと一緒に冒険するスタイルじゃないって言っていたじゃん」


「まああの時は確かに口論したけどさ、今になって思えばなんであんなことしちゃったんだろうってずっと思っていたんだ」


 そう、互いに本当はもう気にしていなかったんだ。でもきっかけがなかっただけ。変に意地をはっていただけかもしれないがそれよりも後悔の方が大きかった。


「それにソロ冒険が嫌って言っていたのはなんていうか、中途半端に気を遣うのが凄く疲れるって意味なんだ」

「でも花耶ならそのへん大丈夫だよ、今更中途半端に気を遣う事なんてないし」


 別に変なことを言ったつもりじゃないけれども彼女は少し顔を赤らめた。いや、何だこの空気!?なんか知らんがまたちょっと気まずくなったぞ⁉


 そんな空気を壊したのは俺の腹の音だった。


「ごめん、そういえば昨日から何も食べていなかった」

「うん、それは知っている」


(知っているってなんだ……?まあいい)


「だからさ、そろそろ朝ご飯を食べに行きたいんだけれども、なんか、うーん、、、一緒に食べにいかない?」


 花耶は少し驚いてでも、その後に笑顔になって一言。


「うん!」


 あぁ、懐かしい。

 この笑顔。

 いつ見ただろう。

 そういえば昔住んでいたところから少し行った場所で大規模な航空パレードが開催されるって時に彼女が一緒に行こうって誘って来た時かな。

 あの時は戦闘機ゲームにはまっていたから自分も見に行きたいって返事した時に見せたっけかなぁ。

 でも花耶って航空機なんて興味あったっけ?

 何回かそうやって一緒に出掛けたこともあったけれどもだんだんとその機会も無くなったんだよなぁ。


 少しだけさっきとは別の後悔が胸を刺す。


 でも今は彼女と一緒に食事することを考えよう。そして、少しずつ、少しずつだけどいろんな話を切り出してみよう。

(「一緒に冒険しよう」かぁ)

言われて初めてこの言葉の嬉しさを実感した。心の奥底でずっと待っていたのかもしれない。

でもずっと一緒に旅していたようなもんなんだけどねー。

途中で少しだけ寄り道もしたけど、あなたの行く場所は大体分かるからまたすぐ後を付けることができた。

気づいていないのはあなただけ。

でも今はもうそんなにコソコソしなくていいんだ。

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