着飾る以上の準備はない
俺達が冒険者ギルドから出れば、既に日は傾いており夕方に差し掛かっていた。
雪華を抱えながら歩いて周りを見渡していると、露天や屋台などは店じまいを始めているところがちらほらと見えた。
そんな中、俺達はある店を目指して歩いていたのだが……お、良かった。まだやってる。
「こんにちわ」
「あら、また来てくれたんですね! 今日はお買い物で?」
「はい、この子の服を見繕って欲しくて」
「ん」
ここは以前姿見を借りた時に入った服屋。
というのも、これまでずっと雪華には俺の上着だけの姿で我慢して貰っていたので、常々なにか着るものを与えようと考えていたんだ。
だが財政状況厳しく、加えて機会も無くて泣く泣く見送っていたのだが……お金が入った今なら、ようやく買ってあげられる!
……冒険者としてそれはどうなのかと思われそうなのだが、俺にとってはこちらの方が優先事項だ。異論は認めない。
そして店内では、丁度あの時に驚かせてしまった店員さんを見つけたので、俺は抱えている雪華を見せながら話しかける。
「まぁ、とても可愛らしい子」
「ですよね! ただ、着るものが手持ちに無かったので、良ければ見繕ってもらえませんか?」
「えぇ! お任せ下さい!」
店員さんは張り切ってそう言うと、スキップしそうな足取りで店内を回り始める。
それを俺は眺めつつ、マカちゃんへも聞いておく。
「マカちゃんは服大丈夫? もし良かったら、何か買ってあげるよ」
「おにーさん、私達明日から旅に出るんだよ? 服よりも先に、良い装備とかを揃えた方が良いんじゃないかな……」
……まさかここに異論を挟むものがいるとは。
けど装備にしたって俺には白晶があるし、雪華には魔法を使ってもらおうと思っているので必要ない。あとは怪我した時の治療についても、白色魔法がその性質を持っているって話なので、多分不要だと思う。見た事はないけど。
それ以外では食料やテントなど必要になると思うけど、今から買い集めるのも大変だ。ギルド長の方で準備している可能性もあるので、明日ギルド長室に行って必要なら買おうと考えている。
その事をマカちゃんへ説明すると、彼女も納得してくれた様子を見せる。
そして「じゃあ1着だけ、良いかな」と遠慮がちに聞いてきたので、俺は笑顔で頷いてやった。
「ん、マカ楽しそう」
「雪華も自分で服見る?」
「ん? んー……」
「じゃあセツカちゃん、一緒に見て回ろうよ!」
「…………ん」
あら、雪華も服には興味があるようだ。人じゃないとは言っても、やっぱり女の子なんだな。
俺は雪華をゆっくり下ろしてやると、てててっとマカちゃんの方へと寄って行き、二人楽しそうな雰囲気で店を回りだした。
さて、こういう時って男は手持ち無沙汰だな。
多分あの様子を見ると時間が掛かりそうだし、催促するのもかわいそうだ。なら俺は俺で、別の用事を済ませておくか。
俺はそう決めると、鼻歌交じりに店内を探し回る店員さんを捕まえ、すぐに戻る事を伝えてから一人別の場所へと向かった。
歩き続ける事しばらく、ようやく目的地が見えてくる。
そこには2匹の魔物と、凶悪な顔をした男が静かに佇んでいた。
「グラン師匠、お久しぶりです」
「あん? おぉ、お前か」
俺にテイマーの心得を唱えてくれた、グラン師匠だ。
あまり師事して貰ったとは言い辛いが、数少ない顔見知りに挨拶と報告くらいはしておきたかったので、すぐに見つかって良かった。
「師匠、私にも相棒が見つかりました」
「そうか、それは良かった! 俺が教えた甲斐があったな!」
俺がそう言うと、すぐに自分の事のようにして喜んでくれた。
そんな反応をしてもらえると、俺もすごく嬉しく感じる。……けど、テイムした子がドラゴンだなんて知ったら、きっと驚くだろうなぁ。
そんな風にして考えていると、ふと師匠が従魔にしているフェンリルが目に入り、ある事に気づく。
「そういえば、師匠の従魔も首輪なしなんですね」
「まぁな……って、ん? 待て、もって事はお前もか?」
「はい、カードで貰いました」
「ほぉ……」
グラン師匠は少しの間驚いていたが、すぐに笑みを深めて嬉しそうに話始める。
「お前、やっぱ分かってるじゃねぇか! 首輪なんてつけてるヤツは、本当のモンスターテイマーじゃねぇ。あんなのは奴隷扱いしてるのと一緒だしな。けど、あれは簡単に承認が降りるもんじゃねぇし……どうやって手に入れたんだ?」
え、そうなの? 俺は簡単に貰ったんだが。
「あまり特別な事をした覚えはありませんが……」
「何もなくてカードを渡したりしねぇよ、ほら、何かあるだろ? 俺の場合はいろいろと脅すような事を言ったら貰えたぜ。柄じゃないから疲れたけどな」
いや、めっちゃキャラに合ってますよ。言わないけど。
うーん、でもどうやってと言われても、本当に思い当たる節が無いな。強いて言えば、ギルド長にアイアンクローしたからか?
「もしかしたら……」
「お? やっぱ何かあるじゃねぇか、もったいぶらずに言えよ」
「関係ないかもしれませんけど……ギルド長の言葉に少し腹が立ちまして、その、頭を強く掴んで……謝らせました」
「…………は?」
俺の言葉に、グラン師匠はほうけた表情で固まった。
あー、やっぱまずかったか。でも今日合ったときはそこまで気にしてた様子無かったし、大丈夫だと思ったんだけど……。
「……お前、思った以上の大物だったんだな」
「えぇと、ありがとうございます?」
この場合の大物って、どっちの意味なんだろうか。相変わらず師匠の言葉は判断が難しい。
と、そろそろ戻るか。移動にも時間が掛かったので、雪華達も服を選び終えていてもおかしくないし、あんまり待たせても悪いからな。
「さて、今日は報告だけでしたので、これで……あ、そうそう、私は明日からまた街の外へ出ますので、また戻ってきた時にでもゆっくり話しましょう」
「忙しないヤツだな。あぁ、わかった。その時はお前の相棒も紹介してくれよ」
「わかりました。それでは」
そうして簡単な報告を終えると、楽しく着飾っているだろう彼女達を迎えに、服屋へと足を向けて師匠と別れた。
「ん、リューヤ!」
「戻りました――っと」
店に戻ると、俺を見つけた雪華はすぐさま飛びついてきたので、優しく抱きとめてやる。
その後ろから少し送れて、マカちゃんと店員さんもやって来た。
「二人とも決まった? って、雪華はもう着てるのか」
「ん」
「店員さんとも話して、一緒に選んだんだよ~。あ、そうそう。セツカちゃん下着も無かったから併せて選んでおいたけど、良かったかな?」
あぁ、そういえば雪華って俺の上着のみだったもんな。
そういう意味では女の子が一緒にいてくれて助かったよ。多分俺も気づく事は出来ただろうけど、さすがに一緒に下着選びまではしたくない……。
「大丈夫どころか、助かったよ。よし雪華、新しい服をよく見せてくれない?」
「ん、わかった」
快く了承を返してくれたので、慎重に床へとおろす。
そして改めて着飾った雪華の全体像を視界に収めると……おぉう、すっごい可愛い。
雪華が着ているのは少し丈の長いワンピースで、真っ白な生地に、ワンポイントの可愛らしい花のようなものの刺繍が入ったものだ。そのまま足元に目をやると、赤い靴もチャーミングに履きこなしており、素材の良さを引き立てている。
元より整った顔立ちに加え、透き通るように白い髪や肌と相まって、まるでいつかマカちゃんの言っていたように、本当にお人形さんのようだ。
あぁぁあああぁああああっ! 可愛いなぁもう!
ショーケースに入れて、大事にしまっておきたい!
「うん、雪華にすっごく似合ってる、とても可愛いよ」
「ん……」
俺が猛烈に叫びだしたくなる衝動を全力で抑えながら感想を言ってやると、少し俯き気味に一言そう返してくれた。
見れば頬に薄っすらと朱が差していて、どことなく恥ずかしそうにしている……っく、そんな反応されると抱きしめたくなってしまうが、ここは店員さんもいるし我慢しよう。
そう考え何とか自制していると、突然雪華がとんでも無い事をし始めた。
「ん、これも選んだ」
――ピラ
雪華はそう言いながら、自らのスカートをたくし上げて下着を見せ始めたのだ。
「ちょっ、セツカちゃん!?」
「ん、マカびっくり?」
「そりゃびっくりしてるよ! えぇ? 急になにしてるの!?」
「リューヤに服見せてる」
「いや、下着は服じゃないからね!? ほら、早く下ろして!」
「むぅ……」
……はっ!?
危ない危ない。まったく、雪華の奇行には困ったものだな。
少し驚きすぎて、一瞬記憶がとんでしまったよ。…………白か。
と、いけない。マカちゃんが半目になってこっちを見てる。
「こほん……そうだ、マカちゃんはどれを選んだの?」
「あ、私? えへへ、実は私も戦闘に関係ない服を買うのは初めてで、今こっちのスカートと、セツカちゃんみたいにワンピースで悩んでるんだよね」
マカちゃんはそう言って、膝下くらいまであるスカートと、袖の無いワンピースを見せてくる。両方とも彼女の髪色に近い、水色のものだ。
普段の冒険者ルックではショートパンツのような格好なので、多分スカートに憧れてたんだろうな。うん、想像してみたけど、どっちも彼女に似合いそうだ。
「悩んでるなら両方とも買おっか、きっと似合いそうだしね」
「えっ!? でも、悪いよ……1着買ってくれるのだって、今更だけど少し申し訳ない気分になってるんだよ?」
ふむ、結構そういう所を気にする子みたいだな。
確かにマカちゃんは雪華と違い、俺の従魔だとかパーティというわけでもないし、遠慮してしまう気持ちも分かる。
「マカちゃんにはお世話になってるし、旅の途中でまた色々と教えて欲しいからね。その前報酬だと思っても良いよ」
「うーん、けど情報自体一般知識で、そんなに良いものってわけでもないし……」
「あはは、じゃあ宿でのお礼……じゃなくて、お詫びとしてで良いから、受け取ってよ」
「へ? 宿って……あ、ぁあう」
何とか気を和らげさせようと言ってみたが、思い出した彼女は、両肩を抱きながら唸り始めた。
あ、あれ? もしかして地雷を踏んじゃった……?
「……うぅ、もうお嫁にいけない……ん? いや、ちょっと待って。逆に考えたらこれはチャンス……? おにーさんが相手なら私も別に……あぅ……」
ぼそぼそと言っていて聞き取れないが、沈んだり恥ずかしがったりと百面相を始めたので、この隙にお会計をしてしまおう。
「店員さん、彼女が持ってる2着と、雪華が着てるもの一式……それとそこにあるシャツを2枚をお願いします」
「はーい! けど、あなたの服はちゃんと選ばなくて良いんですか?」
「えぇ、私は別に着飾る必要もありませんし……でも雪華の服と下着はもう2着ずつくらい欲しいですね」
「そうですか……勿体無い」
「あ、あはは」
この店員さんは心底人の服を選ぶのが好きなようだ。
だがまぁ、女の子が着飾るのは良いとしても、男は普段の装備やらで問題ないだろう。別に着飾ったところで華もないし、適当に変えの服があればそれで充分だ。
「……わかりました。他の候補も4つくらいあったので、その内2着分もってきますね」
「へぇ、そんなに選んでくれてたんですか」
「はい、もう楽しくって! あ、そうそう、そっちの子の分も私の方で1着分選んでみたんですけど……本人が選んでるのでしたら、こっちは不要ですか」
「うーん……いや、それらも全て纏めて買いましょう。併せてお会計お願いします」
「あとアナタにも2着ほど……」
「いえ、そちらは結構です」
いつの間に俺の服まで選んだんだ? 寸法とか教えてないはず……というより、俺自身も知らないんだが。
そんな疑問を胸の中にしまったままにして、店員さんへ俺の服以外は全て買うことを伝え、会計をして貰う。着飾る服は、多くても困らないだろうしね。
あ、けど雪華の体って成長したりするのかな? そしたら服とか大きさが合わなくなりそうだ。
うぅむ、女の子はお金が掛かるものだって言うし、その時はその時でまた頑張って依頼でもこなして、何か買ってあげることにしよう。
「では合計で金貨1枚と、銀貨6枚――ですが、金貨1枚で良いですよ」
「えっ? 良いんですか?」
「はい! その代わり、今後とも贔屓にして下さいね?」
「それは勿論」
うはぁ、何だかすごく得した気分だ。
これは今後とも贔屓にさせてもらおう。色々選んでもらったりもしてくれそうだし、接客態度も凄く良く気に入った。
となるといつまでも店員さんって訳にもいかないし、名前も覚えておこう。
「ありがとうございました。あ、遅れましたが私はリューヤって言います。それでこっちの可愛い子は雪華で、あっちで少し自分を見失ってるのがマカちゃんです」
「リューヤさんですね、覚えました! 私はアンって言います。今後とも私のお店をよろしくお願いしますね」
「……はい!」
そうしてお会計も済ませると、天使度がさらに上がった雪華を抱え上げ、未だ呟き続けているマカちゃんの手を引いてお店から出る。
ふぅ、最後にまた驚きがあったな。てっきり店員だと思ってたアンさんがお店のオーナーさんだったとは。そういうことならなお更、これからも色々と利用させてもらうことにしよう。
さって、準備も出来ましたし、明日に備えて宿でゆっくり休むとしますかね。




