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出発するにもすんなりとはいかない

 

 日が明けて朝食を済ませた俺達は、昨日に引き続き冒険者ギルドへと向かっていた。

 

「はぁ、次街に戻った時には、宿じゃないとこで食べよっか」

「ん、賛成。でも肉チップは欲しい」

「そんなに口に合わなかったの? 私は別に不満なかったけどなぁ」

 

 というのも、昨晩の夕餉に出たご飯に理由があった。

 量はまぁまぁあったのだが、味は素材を生かした……とも言いづらいほど、微妙な感じだったからだ。

 

 メニューは、何かの肉とキャベツっぽいものを炒めたものに、昨日の朝食で出たような薄いスープ、そしてパン。

 炒め物もほとんど塩コショウといった味がせず、不味くはないが美味しくもない。といった感じだったのだ。

 

 ちなみにマカちゃんは、おいしそうにもぐもぐと俺の2倍くらいの量は食べていた。

 

「もうちょっと味が欲しいんだよね……」

「ん……」

「えー? お肉の味とかしっかりしてたじゃんー。スープも出汁が良い味出してたよ?」

「そうかな? ほとんど温い水に油が浮いているだけ……ごほんっ、けど肉チップは相変わらず塩辛いんだよなぁ。はい、雪華」

「あむ……ん、美味」

 

 マカちゃんの味覚は鋭いのかな? あれで味があるって言えるのはすごいと思う。

 そんな話をしつつ、たまに雪華に肉チップを食べさせたりして歩いていると、すぐに目的地へと到着した。

 

 俺は雪華を抱えたまま入っていき、マカちゃんはその後ろに続いてくる。

 

 さてと……おぉ、朝は結構人いるんだな。依頼が張ってあるところは冒険者っぽい格好の人がひしめいている。

 受付のところもいつもとは様子が違い、3列に並んで順番待ちをしているようだ。

 

 急ぎでもないし、俺もゆっくり並んで順番が来るのを待つとしよう。

 えぇとレインさんの列は……あれ、いない?

 

「レインさんいないみたいだね」

「ふーん、お休みかな?」

 

 マカちゃん言われて納得した。まぁそれもそうか、毎日休みなく働かなければいけないって、ブラックすぎるもんな。

 となれば仕方ない、他だと誰に受付して貰っても同じなので適当に並ぶとしよう。出来れば話の伝わっているレインさんが良かったけど、いないもんはしょうがないしな。

 

 そうして並んで待つこと数分、雪華がそわそわとし始める。

 ……どうしたんだろ? お手洗い我慢してるのかな?

 

「雪華? どうかしたの?」

「ん……こっち見てる」

「へ?」

 

 雪華の言葉に、失礼な想像をとっぱらってそちらへと視線を向けてみてると、併設されている酒場のカウンターから、じっとこちらを見ている女性が見えた。

 

「何だろ?」

「おにーさんの知り合い?」

「うーん、初めて見る顔だと思うけど……」

 

 首を傾げつつ見返していると、女性も視線に気づいたようで、グラスに残っていた飲み物を一気に煽り、席を立つ。

 そしてそのままこちらを見据えながら、真っ直ぐ近づいてきた。

 

「どうもー、リューヤさんっすか?」

「えぇ、そうですけど……」

「あ、やっぱり! 小さな女の子を抱えている冒険者っていう話だったんで、間違いじゃないみたいっすね」

 

 えーと、誰だ? 俺の事を知っているみたいだけど……でもこちらとしては、全く心当たりが無い。

 

 笑顔で話しかけてきた女性は、俺の特徴と名前を言って声をかけてきたので、何か用があるのは間違いないのだろう。

 正直言って警戒心が募るばかりだが、このままでは他の並んでいる人たちにも迷惑になるので、とりあえず用件を聞いてみるか。

 

「それで、どういったご用件でしょうか?」

「ギルド長に呼ばれてるんすよね?」

「え? あっ、はい」

 

 あぁなんだ、ギルドの人だったのか。

 それなら俺の事を知っているのは理解できるし、こちらをじっと見ていた事にも納得だ。

 

「リューヤさん来たらつれて来るよう言われてるんで、とりあえず詳しい話は向こうで」

「分かりました」

 

 俺はあっさり警戒を解き素直に頷くと、楽しそうに歩く彼女の後ろについて行った。

 

 

 

 

 

「ギルド長ー、リューヤさん達来たっすよー」

「ん? あぁアイシャ君か、いいよ入って」

「うぃっすー」

 

 そんな軽い挨拶と共に入っていく彼女に続き、俺達も入室する。

 するとそこには、大量の食料や水筒と思われるもの、そして寝袋のようなものがあった。

 

「リューヤ君、待ってたよ。取り急ぎこちらでは食料類と寝具を用意してみたけど、足りそうかな?」

「ありがとうございます! ……どうかな、マカちゃん」

「うん、大丈夫だと思うよ!」

 

 ギルド長からの確認に、マカちゃんに答えてもらう。

 俺自身旅なんてした事ないので、正直どの程度のものが必要なのかわからなかったからだ。

 とりあえずマカちゃんが問題ないと判断したのであれば、適切な量なのだろう。

 

「あとは回復剤だけど、ここに瓶入りで5つほど用意したから、一緒に持っていくといいよ」

「わぁ、5つも! 回復剤って高いんだよね」

「そうなの?」

 

 そこには試験管のような透明な入れ物に栓がしてあるものが5つ並んでおり、中の液体は少し青っぽくて透けている綺麗なものだった。

 おぉ、これがポー○ョンか。治癒については雪華に頼ろうと思っていたが、既に準備してあるのならもらっておこう。高いらしいし。

 

「色々とありがとうございます、リーフェギルド長」

「うんうん、もう君と私の仲だし、私の事はリーフェって呼んでくれても良いよ。セツカ君もそう呼んでくれるしね」

「そうですか? ではリーフェさん、ご準備いただきとても助かりました」

「……本当は敬語も要らないんだけどね。うん、また魔具の開発の時にでも、その辺は話すとしようか」

 

 なんだか昨日ものをあげてからというものの、態度がすごい軟化してる気がする……なかなかに現金な人だ。

 早速ギルド長に準備してもらったものを大容量収まるくん4号へと収納を済ませ、次の話に移る。

 

「……それで、案内人なんですけど」

「うん、紹介するよ。ここに君たちを連れてきた、アイシャ君だ」

「どもっすー! ソロ5級の冒険者で、名をアイシャっていうっす」

 

 まぁここまでつれてきてくれた時点で薄々感づいてはいたが、やっぱりこの人が案内人だったか。

 

 せっかくなので、彼女を改めて眺めてみる。

 小柄な体系に、まだ少し幼さの残る顔つきをしており、多分年齢で言うと14か5くらいの子供に見える。まぁ今の俺も、不本意ながら見た目年齢はそのくらいなんだけど。

 そして常時にこにこしていて目を細めているが、そのせいで瞳の奥まで伺えない。明るそうな性格にも見えるけど、それはどこか意図してやってるように感じてしまう。

 ……なんとなく腹に一物抱えてそうで恐いな。

 

「聞けばリューヤさん達って9級らしいじゃないっすか。吸血鬼退治へ行くって聞いてるんすけど、大丈夫っすか?」

「何がです?」

「あ、自分にその言葉遣いやめましょ。ほら、自分こんな身なりや性格なんで、丁寧に話されるとむずむずするんすよ」

 

 どうやら敬語崩れはお気に召さなかったらしい。

 ……というか身なりは分かるが、性格については初対面で分かりようもないだろ。

 

 それはさておき、口調かぁ。

 一応今回案内してもらう人な訳だし、加えて自分達よりも等級が上な相手なので相応の態度を取ろうと思ってたんだけどな。

 まぁ良いや、本人が望むのならそうするか。彼女の軽い雰囲気も手伝ってか、何となく素の喋り方でもそこまで抵抗は感じ無い。

 

「分かった。それでアイシャ……さんは、何を心配してるんだ?」

「んー、そこは可愛らしくちゃん付けか、格好良く呼び捨てが良いっすね」

 

 ぐいぐい来るね、きみ。

 不自然な距離の詰め方は気になるが、異世界では普通なのか? うぅむ、わからん。

 

 はぁ、仕方がない。案内人として来てくれるらしいし、このくらいの希望は聞いてやるべきだろう。

 となるとどっちが良いのか。ちゃん付け……確かに見た目からすれば似合いそうだけど、下に見てるようにも聞こえて、どことなく対等以下に感じてしまうかな。よし、呼び捨てで行こう。

 

「……じゃあアイシャで」

「あらら、そっちをとりましたか、少し残念っす……あ、心配してる事なんすけど、吸血鬼相手に9級だと荷が重いんじゃないっすか?」

「えっ?」

 

 どういう事だ? てっきりギルド長は、その辺も言含めていると思っていたんだが……もしかして、まだだったのか?

 そんな思いでリーフェさんへ視線を送ると、任せろ、といった視線を返してきた。

 

「アイシャ君、それは心配ないと思うよ。彼らは模擬戦で、その……一応は私に勝ってるからね」

「えっ!? ギルド長にっすか? 9級なのに?」

「まぁうん、私も本気を出したわけじゃないんだけど、それでも『六色の魔宝玉(シックス・ジュエリーズ)』」を使って負けてるから、問題ないよ。……本気じゃなかったけど」

「へー、ギルド長って元3級冒険者だった筈っすよね? 腕が訛った……あいや、なんでもないっす! それを聞いて安心しました!」

「……ならよかった」

 

 言葉の途中に、リーフェさんは笑顔で魔法を使おうとし始め、気づいたアイシャは慌てて掌を返していた。

 そんなやり取りの後、アイシャは取り繕うようにコホンと咳払いし、視線を俺に向けてきた。

 

「ふぅ、じゃあ案内はしますけど、道中の露払いとかは依頼に入ってないんで、そのあたりは任せても問題無いっすかね?」

「それは大丈夫だ」

「ん」

「へ?」

 

 俺と雪華がそう答えると、アイシャは驚きの表情を浮かべ声を上げた。

 その様子に、またかと感じつつ、出てくるであろう質問を待つ。

 

「えっと、その子も行くんすか?」

「……リーフェさん」

 

 うん、聞いてないんだもんね、その疑問は良く分かるよ。

 確かに雪華は見た目だけ見ると、ただの可憐で美しい普通の女の子なので、説明がなければわからないと思う。

 だがそれを説明しようにも、リーフェさんがドラゴンでについて隠したいと考えている手前、どこまで話すべきかの確認を取っておかなければならない……のだが、これもさっきの事と併せて事前に説明しておくべきだろう。

 

 俺は思いっきり呆れの感情を混ぜて視線を送ってやると、リーフェさんは改めて、任せろ! といった視線を返してくる。

 

 いや、任せはするけどさ。俺の思ってること絶対分かってないだろ……。

 

「あー、その子はセツカ君と言うんだけど、強い魔物だから安心すると良いよ」

「え!? この子魔物なんすか? ほー、ということは、リューヤさんはモンスターテイマーっすか」

 

 アイシャは今の説明で納得したようで、雪華を珍しそうに眺め始める。

 今の説明から考えるとアイシャにも雪華の正体を隠したいようなので、道中はドラゴン形態になるのは不味そうだな。場所さえ分かれば移動時間短縮のため雪華に乗せて行って貰う事も考えていたんだが、実行するわけにはいかないか。

 

 さて、これで話すべきことは終わったかな。

 貰う物も貰ったし、お互いの自己紹介も終わった。旅の目的や役割も皆理解しているだろうから、後は出発するだけだ。

 

「他は大丈夫かな? だったらもう行ってもらっても構わないんだけど」

「あ、私からも話がありました。えっと、そこの子……」

「え? 私?」

 

 最終確認に思い出したように声をあげたアイシャは、マカちゃんへと視線を向ける。

 それまで会話に入っていなかった所へいきなり話を振られたからか、マカちゃんはびくっとしていた。

 

「そう、君っす。いやまぁなんというか、血晶化にかかるのはツイてなかったっすね。私もかわいそうだとは思ってるんすよ」

「う、うん……」

「でも……いや、だからこそ私がこの依頼を受けるに当たって、3つほど条件があるっす。そしてもしこれが呑まれないなら、案内するっていう話も無しで頼みます」

 

 アイシャは突然、笑顔でそんな事を言い出した。

 条件? どういうことだ? そんなの昨日は聞いていなかったが……いや待て、内容を確認してみて、もし無理そうならリーフェさんを問い詰めよう。

 

「ひとつ、基本的に私は戦闘に参加しない。私の仕事はあくまで案内だけっすから、もし自分の身に危険があるようなら、容赦なく逃げるっす」

「それはさっきも聞いたが構わない。基本は俺だけで戦うから、場所の指示さえあれば問題ない」

 

 俺は答えながら、彼女の言葉について考える。

 

 条件といのは仕事の線引きの話か。

 確かに報酬と労力が見合わなければ、彼女のメリットが減ってしまう。当然と言えば当然の条件だな。

 

「ひとつ、君は私に絶対触れない事。当然っすよね、うつるかもしれないんすから」

「……うん、そうだね」

 

 その内容にマカちゃんは寂しそうな笑顔になり、顔を俯けて答える。

 内容としては腹立だしく思うが、リスクを回避したい人にとっては当たり前の話なので、口に出かかった言葉をぐっと飲み込む。

 

「それで、最後のひとつなんすけど、もし討伐が成功したとして……」

 

 アイシャはそこで言葉を区切ると、それまでの笑顔をさらに深めて言い放った。

 

「血魂でその子が吸血鬼化したら、自分に討伐させてくれないっすか?」

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