魔物になる代償は優しくない2
ギルド長は、俺達が話を聞く姿勢になるのを待って、続きを口にする。
「よく考えてみたの? これは君だけじゃなくレイン君にも言えるんだけど、人が一人魔物になるんだよ。それも、吸血鬼だ」
今更何を言っているんだろうか?
勿論俺だって、マカちゃんが人のまま助かるのであればそうしたいと思っている。
けどそれが無理だからこそ、さきほど模擬戦までして情報を勝ち取ったのだ。
「それは既に承知してもらえてるはずでは?」
「……まぁ、勝負の後に文句は言わない約束だから、私が何か邪魔をしてやろうと考えてるわけではないよ」
そう言ってギルド長はまず自分の立場をハッキリさせるように言うと、ようやく本題を話し始める。
「もし事が万事うまく進めば、確かに君達の目的通り、マカ君は人を止めて生きながらえる事が出来ると思う。でも、その後はどうするんだい?」
「どうする、とは?」
「吸血鬼はいくら人と似た見た目でも、人を含めた生物を糧にして生きる魔物なんだよ。当然、人やその他の知的生物からは忌避されている存在だ。――つまりマカ君のそこから先、周りは敵しかおらず、独りで孤独に耐え続けなければならなくなってしまうんだ」
確かにギルド長の言っている事はわからないでもない。
つまりギルド長はギルド長で、マカちゃんを気遣って反対をしていたという事か。
「きっとマカ君なら大丈夫だとは思うけど、もし人を襲うような事があれば、気は進まないけど私達も討伐に出ないといけなくなるんだよね」
「そんな事、しません」
「それは信じてるよ。けど君も本当に良いのかな? 残り短くなったとは言え、人として満足に終わりを迎える事だってまだ出来るんだよ? 多分吸血鬼になったって、辛い時間が増えるだけじゃないかな」
「……大丈夫です。覚悟の上ですから」
「そうか。うん、分かったよ」
マカちゃんの言葉に、ギルド長は笑顔で頷く。
どうやら今のこの話は、マカちゃんの意思の確認は勿論だが、さらに俺やレインさんへ「目先の助けは、余計に苦しめる行為な事もある」という事を伝えたかったらしい。
もしかしたら最初から協力してくれる気だったのかもしれないな。今なら模擬戦もそういった筋を通すためのポーズだったという事がわかる。
はぁ、やれやれ。
このギルド長は言葉を選ばないが、それでもきちんとした考えを持っているんだな。言動は人の感情を逆撫でするものが多いのに、それでも憎めないのは、芯の部分が悪人で無いからだろう。
俺は今の事柄について理解できた事を示すよう、ギルド長の目を見て頷いてみせる。
「よし、じゃあ準備と案内人の方はこっちで何とかする。その後の運びは、リューヤ君に任せるよ」
「えぇ、大丈夫です」
「……セツカ君にそこまで好かれてる君なら、あるいは――ふふっ、終わったらきちんと皆で帰ってくるんだよ?」
「はい!」
俺がそう答えると、ギルド長は満足そうな表情になった。
皆、か。それはどこまで含めて言っているんだろうな。何にせよ、こういう言葉を使ったからには、俺のやろうとしている事はバレているだろう。
「……後は吸血鬼を倒した後の、マカちゃんの答え次第か」
「ふぇ? おにーさん何かいった?」
「うぅん、なんでもないよ」
おっと、リーフェギルド長に釣られて、変な事を口走ってしまった。
それはそうと、ここまでギルド長には色々とお世話になってしまったし、お礼にアレを渡してもいいかもしれない。
当初は交渉にでも使おうと思っていたが、なんだか今のギルド長を見ていると、それも恥ずかしい事に思えてくるな。
「……ギルド長」
「うん? 他に何かあったかい?」
「いえ、今回は色々とお手数おかけするので、お礼という訳ではないのですが――」
「――っ! これは!?」
俺は荷物をごそごそと漁り、白晶を作った余りとして残っている、雪華の竜鱗を取り出して見せる。
「これは竜鱗です。……雪華、これをギルド長へあげても良いかな?」
「ん、リューヤがそうしたいなら、良い」
「ありがとう。ギルド長、これを受け取ってもらえませんか?」
「良いのかい!?」
雪華に許可を取ると、そのままギルド長へ差し出すが、ギルド長はすぐに受け取らず、真っ白な竜鱗に視線を釘付けにしながらそう返してきた。
……喜ぶとは思ってたけど、予想以上の反応だな。なんというか、呼吸を荒くしてまで興奮している様子を見ていると、少しだけ心配になってくる。
「えぇ、その代わりと言ってはなんですが、案内人の手配と準備は、しっかりとお願いしますね」
「勿論! 安心して任せてくれていいよ! あっ、そうだ」
ギルド長は声を張りながらそう快諾してくれると、何かを思い出したように立ち上がり、自分の机へと向かう。
普段仕事机として利用しているのであろうその机の上には、様々な資料が散乱していたが、ギルド長はそこへは目もくれず引き出しを探る。
そうして1つ、ナップサックのような袋を取り出すと、軽快な足取りでこちらに来て手渡してきた。
「君達も準備があるだろうし、その荷造りにはこれを使うと良い」
「これは?」
「ふふっ、実は私の趣味は、面白そうなものをつくる事なんだ。その趣味で作ったものなんだけど、これは大容量収まるくん4号だ」
「大容量収まるくん?」
「そう、4号だ。これはこの袋の見た目以上にものを収納出来る優れものでね、魔法の道具で同じようなものがあるんだが、これはそれよりも遥かに多くのものを収納出来るようにしたものなんだよ」
おぉ……すごいな。
これは異世界ものでよく聞く、アイテムボックスとかインベントリみたいなものだろうか?
確かにこれがあれば、普段の荷物の持ち運びに困らないし、旅もすごく楽になるだろう。
「ギルド長は魔法の道具まで作れるんですか……凄いですね」
「いやいや、そんな大したことではないよ」
とか言いつつも、自分の趣味を褒められてとても嬉しそうだ。
見た目が子供なので、嬉しがっているのを隠している様子は、とても可愛らしく見える。
「なら、こういったものも興味あったりしますか?」
「なんだい? 他にもなにかあるのかな?」
「えぇと……これです」
「っ!?」
俺は続けて洞窟にあった水晶を取り出すと、ギルド長は息を呑んだ。
「純度の高い透明な水晶……これはどこにあったんだい?」
……困ったな。
俺としてはこれの相場を聞いて、もし売れそうならもう少し取って来て、お金を作ろうと思ってたんだけど。
そうして悩んでいると、ギルド長は俺のそういった状況を把握して、声をかけてきた。
「君と私の仲だし、話してくれてもいいよね? あっ、そうそう、この大容量収まるくん4号の中には、金貨が50枚納まってるんだった」
「金貨50枚!?」
えぇと、こっちの世界の通貨は確か、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だ。
宿代や食事代から考えて見ると、銅貨1枚が大体10円くらい、か? つまり金貨50枚って事は……500万円!?
うぅむ、ぶっ飛んでる額というほどではないが、これなら目先の旅費含め、貯金するにしても充分賄えるだろう。
「……雪華、あそこにあった水晶って、雪華にとって大切なものだったりする?」
「ん? んー、勝手に生えてきた。ハクショウにくっつくし、狭くなって邪魔」
「邪魔って……」
念のため雪華にも確認してみるが、重要なものどころか邪魔だったらしい。
じゃあ良いか、欲しがってる人にあげよう。
「どうかな、リューヤ君」
「はい、街の外に出た森の中に洞窟がありまして、その中にある雪華の住みかだった場所にたくさんありました」
「へぇ……街の近くに洞窟なんてあったっけ?」
俺の言葉に、ギルド長はすぐさまレインさんへと振り向き確認を取る。
「えぇと、複数ある事は報告を受けておりますが、そういった貴重なものがあったという話は聞いたことないですね」
「ふむふむ、じゃあリューヤ君、今回の件が終わって帰ってきてからで良いから、そこへの案内を頼めないかな?」
「わかりました。あっ、出来ればその石で何かを作るんでしたら、出来たの見せてもらっても良いですか?」
「ふふっ、勿論だよ。はい、じゃあこれ、大事に使ってね」
「ありがとうございます」
帰還後の約束を取り付けられてしまったが、まぁ特に問題は無いだろう。
これもギルド長なりの気の使い方なのかもしれない。勿論約束するまでもなく無事に戻ってくる予定だが、何となく嬉しくなるな。
そうして俺が竜鱗と水晶を手渡すと、ギルド長も大容量収まるくん4号を俺に手渡してくれた。
「さて、他にまだ何か用事はあるかな?」
「いえ、以上ですね」
「じゃあまた明日、準備したものと案内人紹介するからこの部屋にきてね」
「はい」
「ありがとうございました」
「ん、リーフェ、ばいばい」
途中険悪になったりとどうなるかと思っていたが、最後は良い感じになって本当に良かったな。
色々な問題も一気に片付いたし、明日からは本格的に、マカちゃんの手伝いを進めていこう。




