約束は揺るがない2
ラアラちゃん達が部屋から出て行くと、ここには俺と雪華、そしてマカちゃんとギルド長が残る。
これから話すのはあまり多くの人に聞かせられない内容なので、今が絶好の機会だ。
そう思っていると、マカちゃんが少し不満そうな声をあげる。
「……ギルド長、もしかして私達の要望、知ってたりします?」
「えっ!?」
その言葉に、隣にいるマカちゃんへ視線を向ける。
するとマカちゃんは、少し呆れたような表情でこちらを見返してきた。
「え、って……ギルド長がここまで分かりやすい人払いしてるし、気づこうよおにいさん……」
う、俺はラッキーだなとしか感じなかったのだが、そういう事だったのか。
「でもどうしてギルド長が知ってるんですか?」
「ふふっ、それは君と同じだよ」
「レインさん……あの時ですか」
「あの時?」
「もう、おにーさん戦闘は強いのに、こういうのダメダメなんだね。ほ、ほら……宿で私がおにーさんに向かって倒れた時だよ」
そう疑問を向けると、マカちゃんは始めは呆れながら、そして後になるほど恥ずかしそうな表情で説明してくれた。
倒れたって……あぁ、雪華の『閃光』で起きた事故のことか。
言われて気づくと同時に、あのささやかな膨らみの事も思い返してしまい、マカちゃんから少し視線を避けつつ答える。
「あ、あったね、そんな事」
「う……あんまり変な事は思い出さないでね!?」
そう言ったマカちゃんは、俺の反応から何を思い出していたのか気づいたらしく、顔を少し赤くしている……あの時は裸で密着してたもんな。小さいとは言っても女の子なんだし、恥ずかしくないわけがないか。
で、その現場を目撃したレインさんは、マカちゃんの背中にある血晶化を見つけた、と。あー、だから俺も直接叱責されたりしなかったのか。
そういえばこの部屋に入った時、レインさんがギルド長に耳打ちしてたのを見てたけど、これの事だったんだな。
こうしてみると、マカちゃんがすぐに気づいた事もあり、何だか俺だけ頭悪そうな感じだ。
……うん、これからはもう少し周りに気を配ろう。
「それで、君たちの要求は血魂かな? とは言っても、この支部にそんな貴重な物なんてないんだけどね」
「そうですか……では、吸血鬼の居場所を教えてもらえませんか?」
「9級の君たちにそれを教えてるとおもうのかい? それにさっきも言ったとおり、私は君に期待しているんだよ。そんな君にもし情報を渡して死なれでもしたら、非常に困るんだよね」
ギルド長がそう言ってくれるのは嬉しいんだが、これは逆に困ったな。
簡単に情報が得られるとは期待してなかったんだけど、どうやら思ってた以上に難しそうだ。
最悪の場合、白晶の鞘を作った余りの竜鱗を渡せば、少しくらいは交渉出来るのではないだろうかと考えていたが……この様子ではちょっと無理っぽい。
ふむ、どうするか。
正直ギルド長以外で、情報知ってそうな人知らないんだよね。というよりこの世界来てまだ日が浅いので、知り合い自体少ないんだが。
……一旦ここは諦めて、時間も無いしリスク度外視で他の冒険者から片っ端に聞いていくか? 力技になるだろうけど、もしかしたら知っている人がいるかもしれないし。
諦め気味にそう考えていると、マカちゃんは俺の手を掴み、軽く息を吸った。
「と言う事は……ギルド長は私達だけ見返りはなし、と。それなら私達も黙っておく必要はありませんよね?」
「え? あぁいや、それは私も君が血晶化している事を黙っておく事で相殺じゃないかな」
「? 別に言えばいいじゃないですか。どっちにしても、私は吸血鬼に会えなければ、すぐに居なくなるんです。……あぁでもそうですね。それなら最初だけ約束を守って、死ぬ少し前に言いふらすとしましょうか」
「それは、あんまりなんじゃないかな?」
どうやらマカちゃんはまだ諦めていないらしい。
話の内容としては、釣り合いという意味でもギルド長の方が正しいのだろう。だが後の無いマカちゃんは、ほとんど嫌がらせみたいな仮定を持ち出して揺さぶろうとしている。
「あと私達は別に、教えて貰えなくても勝手に探していきますよ? ……ふふっ、これで行く先々で触れ回ったら面白い事になりそうですね」
「う……」
「ドラゴンを従魔にした報告を伏せて、情報が伝わって招聘を掛けようとした頃にはもうおにーさんがいない。……誰の責任になっちゃうんでしょうね?」
不適な笑顔でマカちゃんはそう続けていたが、握っている手は少し震えている。
……俺はまだどこかで、多分どうにかなるさと楽観的に考えていたのかもしれない。
だがマカちゃんはそうではなく、少しでも近くにチャンスがあれば、最後まで全力で食らい付こうとしている。本来なら守ってやると言った俺がやるべきだったんだろうが、その俺がとても頼りにならないので、仕方なく彼女が矢面に立ってくれたのだろう。
だめだな、俺は。全然当事者としての覚悟が足りなかった。
軽い気持ちで引き受けたわけではないんだ。それをしっかりとマカちゃんに見せて、安心させてあげないと。
「はぁ、リューヤ君、何かいってやってよ。私も別に意地悪をしているわけじゃないんだ。分かるよね? もし討伐に向かえば、既に短くなった命をさらに縮める可能性だって考えられるんだよ。それに吸血鬼は4、5級の魔物。巻き込まれれば君だって危ないんだ」
どうやっても折れそうに無いマカちゃんへの説得を諦めたのか、ギルド長は俺に話を振ってきた。
「そうですね……」
俺は一泊置いて、マカちゃんの顔を見る。
表面上の表情は崩さないよう頑張っているが、とても不安そうで、今にも泣き出しそうな目をしていた。
大丈夫。マカちゃんを見てもう覚悟は決まったから。
俺は握っていた手を離して、マカちゃんの頭の上に乗せる。
「まぁ、なんとかしますよ。頑張ろうね、マカちゃん」
「ん、セツカもいる」
「っ! うん!」
俺や雪華がそう言うと、受けたマカちゃんは嬉しそうに大きく頷いてくれた。
その光景にギルド長は、冷ややかな視線を向けながらため息を吐く。
「はぁ、君達は分かってるの? 血晶化っていうのは他人に感染するから危ないんだ。何なら君達の事を広めて、討伐隊を組んで仕向けようか? それにもし最後までうまくいったとしても、討伐すべき魔物が1匹増えるだけだよ」
ギルド長が言った「討伐すべき魔物」という単語に、マカちゃんの嬉しそうだった表情は一気に曇る。
「それは困りますね」
「だよね?」
「えぇ……もしそうなされるのでしたら、今この場でリーフェさんの頭を、今度こそ物理的に潰さなくてはなりません」
俺の反撃に、ギルド長のいつものほんわかした雰囲気がなりを潜め、細めた視線で射抜いてきた。
当然だろう。邪魔するなら排除する、と宣言したのだから。
「……度し難いね。君たちはまだ出会って数日だろう?」
「約束しましたからね」
「約束、ね」
そのまましばらく視線を合わせていると、やがて根負けしたかの様子でギルド長は肩を竦め、普段の口調に戻った。
「やれやれ、君達2人はどうにも言うことを聞いてくれないみたいだね……じゃあこうしようか。私とリューヤ君で模擬戦をして、君が勝てば情報をあげよう。でも負けたら諦めてくれないかな? 何度も話をした通り、君はこの街の戦力として数えたいから、死なれるのも敵対されるのも困るんだ」
「模擬戦を通して、行っても大丈夫かどうかを見極めるという事ですか?」
「その辺りはどう受け取ろうと構わないよ。あと、勝負の結果については恨みっこなし。どうかな?」
「わかりました」
正直、ギルド長の実力なんて知らないので、自信はあっても勝てるかどうかは分からない。
圧倒的に対人経験が少ないので、いくら雪華の力を借りているとはいえ、どうしても不安要素があるのだ。
ただこの模擬戦を断って、自体が好転するとも思えない。
最悪の場合、本当にマカちゃんの討伐を差し向けられるかもしれないとも考えられる。さっきの数秒目を合わせて、そう感じ取れた。
そうなれば吸血鬼の居場所を聞き出すといった話しも出来なくなり、俺がもし守り通せたとしても、血晶化による時間切れが来てしまう。
つまり、ギルド長のこの提案は、半ば強制だ。
言ってもわからない阿呆は、力ずくで分からせると言う事なんだろうな。そしてそれが出来る実力が自分にあると、リーフェギルド長は思っている。
その自信が俺の事を9級の実力だと思っての事なら良いんだが……ふむ。
「それじゃ、さっさと訓練所へ行こうか」
そうして俺達は、マカちゃんを助ける第一歩として訓練所へと向かった。




