◆第6話 「初任務」
「依頼だ」
僕らの会話がぴたりと止まる。先ほどから銅像として待ち合わせの目印役を果たしていた男は、その役目を終えられたらしい。
「やっとか!待ちくたびれたぜ!!」
機械の腕がグワンと振られ、そのまま腕まくりのような形になる。奇跡的に誰にも当たっていないが普通に危ない。
「今回は君たちの実力と連携の確認が主だ。無理なら俺が全て終える」
「おう!連携なんてしたことねーからな!楽しみだぜ!」
「私も、実際に人とともに治療に当たるのは久しぶりですね。ワクワクします!」
「え、僕も連携なんて数えるくらいですよ…」
「……役割を言う」
幸先が思いやられる一言コメントを思いのままに残す。少なくとも会話のテンポは合うようになってきたが、戦闘でテンポ感が合うかはまた別だろう。
眉間に手をやり、考える人一歩手前のレオンは戦闘時の指示を出す。曰く、ニナとレオンが前線、僕とセシリアが後方で支援をおこなうという簡単なものだ。戦闘の際、レオンが適宜指示を出すからそれに従え、と契約書にもあった言葉を述べる。
僕はとりあえず、セシリアを守れるように、そして前線の二人がカバーできないところをカバーしていけばいい、らしい。
皆が頷いたのを確認し、レオンは話を続ける。
「1月前、1つの村から住民全てが消えた」
「まぁ、大変ですね。皆さま、大丈夫なのでしょうか」
セシリアが不安げに指を口元に寄せる。
「その村は近隣の町と交易があったが、大体1月ほど前に突然連絡が途絶えたらしい」
「今は収穫時期じゃないんだろ?交易が途絶えることくらいあるんじゃねーのか?」
「時期に関係なく定期的な交流があった」
「うーん、緊急事態ならいきなりもありえそうですけど。消えたなら他の村に避難した可能性はないんですか?」
僕も皆に倣って思ったことを口に出してみる。きっと確認はしているからこそ依頼されているのだろうが、万が一がある。
「他の村に確認をしたが、誰も来ていないそうだ」
「んじゃ、全員魔物に食われたんだろ」
「死体はない。大量の血痕や、争った形跡も確認されていない」
「……じゃあ、本当に全員いなくなっただけなんですか?」
「加えて、村は異常なほど荒廃していたらしい」
「やっぱ魔物だろ!知能の高いヤツならいける!」
「そう思われていたが、最近そこの近隣の村が連続して何者かに襲撃され始めた」
「それは盗賊ではありませんか?」
なんだかアキネーターっぽくなってきたな。もしくはウミガメのスープか。皆真面目な顔をして推理していくものだから、僕も言葉の調子が上がらないよう気持ちを落ち着かせ、レオンの乱されない説明を聞き続ける。
「いや、生き残りが襲撃者を見ている」
「消えた村の住民だそうだ」
勇者が解決する依頼はおかしなものが多いらしい。レオンはこの内容が普通だでも言うかのように口を閉ざした。しかし、僕の頭は疑問でいっぱいだ。
「んじゃ、解決だな!そいつらふん縛ってぼこせばいいな!」
「皆さま、それほどまでに困窮していらしたのでしょうか……私に出来ることがあれば良いですが」
「うーん?自分の村を捨ててまで襲うっておかしくないですか?」
「確認に行く」
*********
馬車に乗り、数時間揺られる。やけに集合時間が早いとは思っていたが、わりかし遠いらしい。外を見やる。そういえば、何日か泊まる用意をしろともいわれていたな。準備をしておいてよかった。これは確実に今日中には帰れない。
「そういえば、ニナ様は魔導鎧をお使いになるのですね」
「おう!格好良いだろ!?」
「ええ。その......鎧のデザイン、見惚れてしまいました」
「これか!オレがデザインして自分で作ったんだぜ!」
「ご自分で!それは、とても大変だったのでは?」
「そんなでもないぜ。目的は決まっていたからな」
「目的、ですか?」
「おう!闘技場では目立つ奴が勝つからな」
「まぁ。そんなお話、ここでしてもよろしいのですか?」
「?ああ、別にイカサマとかではないぜ。ただ、闘技場は目立つか実力のあるやつの方が人気でな」
「これに乗れないとなかなか儲からないんだ!」
心臓がバクバクと音を立てる。話に乗れないからと二人の会話をBGMにうたた寝をしていた意識が一気に覚醒した。ニナが、あの、鎧を、作った。それはつまり——
「ぎゃっ!」
「きゃっ!」
「うわぁっ!」
「うっ...!?」
「到着ですぜぃ」
全員で右に体を寄せる。一番下になったレオンは目を白黒させていた。ごめんね。鎧の重さには僕も耐えられないんだ。とりあえず、それぞれ距離を取り、レオンの後に続いていく。
「あの村、村人の皆さまはいらっしゃいそうですよ?」
「4日前に襲撃された村だ」
「まずは事情聴取ってわけだな!探偵のお約束だぜ!」
「ここに泊まる」
「野宿ではない、と。良かったです!」
あいかわらず報連相がないリーダーについて歩き、口々に感想を述べていく。彼の顔は見えないから、何だって言えた。にしても、今日はここで襲撃者の様子がわかればよいが。
僕らはそのまま村の中でも一等大きな家へ向かう。家人が快く迎え入れ、広間っぽいところに通される。そこにはお爺さんとお婆さん、そして包帯で腕を巻いた男がいた。彼らが依頼を出したらしい。僕らはどうやらこのまま話を聞くようだ。
「ようこそ、勇者様方」
「もてなしが出来ず申し訳ありません。襲撃のこともあるが、元々ここらはあまり余裕が無いもので」
なんだかすごく、RPGっぽい!かなり王道な雰囲気に知らず心が弾む。何度もやってきたゲームの、始まりのような言葉を耳にするとまるでここが本当にゲームの世界のように感じられた。これはきっと、話の中で新情報が出たり、実は彼らが敵だった、なんて話になってくるかもしれない。腰を据えて話を聞かなくては。自己紹介を聞き飛ばしたが、ま、ここら辺は大丈夫だろう。意識を会話に集中させる。
「お心が広い方々に助けていただけるなんて、幸いです。こちら、村で作った」
「話を」
「……そうですね、4日前」
「お話し中、申し訳ございません。そちらの方の治療をさせていただいても構いませんか?」
二度も話をぶった切られたお爺さん、推定村長は何とも言えない顔をしながら村で作られたであろう絨毯を元に戻す。
「これはもう治療を受けさせていますよ。ですから治療はお気持ちだけで十分です」
「はい。とても丁寧に処置されていますね。ですから、その治療を無駄にするようなことはいたしません。回復を少し早めるお手伝いだけ、させていただけませんか?」
「……では、お好きになされてください」
セシリアの押しに困惑をしながらも男に手を振り村長は話を戻す。二人は隣の部屋へと向かった。なんか声がするが出来る限り気にしないようにしよう。
「我々はちょうど4日前に」
「話は聞いてたぜ!その廃村までの行き方を教えてくれよ!!」
鎧を外で脱いできたニナが入室してきた。堪えきれなかったであろうため息が村長から聞こえる。僕は慌てて人差し指を口元に充てる。ニナもさすがに魔の悪さを悟ったのか、大人しくこちらへと寄ってきた。まだ話は始まってないですよ、こそこそと村長の話を遮らないように伝える。頷きを確認し、僕らはやっと本題に入る事が出来た。
話は大体、事前に聞いていたものと同じだった。新しく分かったのは、襲撃者は目測で十人にも満たなかったこと。村の外れを荒らしていったものの、作物は無事だったこと。
問題は村人の拉致だろう。襲撃後、2人の村人が連れていかれたらしい。被害者は今治療している男の家族という事で、僕らは彼が話を聞ける状態か扉に目を向ける。先ほどからセシリアの大丈夫!という声がたまに聞こえてきたが今はしない。治療は終わったのだろうか。
「おい」
レオンが扉を開けた。行動が速すぎる。ノックもせずに開けるとは、彼もニナを非難できないじゃないか。文句の代わりに村長たちへ断りを入れ、後に続く。二人は今、一体何をしているのだろうか。
「よし.......大丈夫です!ほら腕、動かしてください!」
「無理!ムリぃ!!!!やめ、やめろ!!......っあ」
「ほら、動きましたよ!初めの治療が丁寧だったおかげですね」
「これは夢、か、!?」
「夢じゃないです。現実ですよ、これは。少し、指の方を見せていただいても?」
「......天使様、おれ、ジョンだけでなく父さんも母さんもいなくなったのは、貴方様に会うため、だったんかい」
「ふふ、天使様だなんて、言いすぎですよ」
「貴方様の奇跡を皆に、伝えないと、おれ、頑張ります!」
「私はセシリア、ですよ、腕、もう少し動かしていただけませんか?」
「天使セシリア、さま!!貴方様が現れた意味を教えてくれますか」
「天使ではないです。私は今、この村で起きた襲撃の事件を解決するために参りました、聖女セシリア、です。あと腕を、」
「聖女さま!!!!」
何かが始まっていた。なんだか、目が焦点を結ばなくなっている男に対してセシリアが応答しながら熱心に腕を触診していた。今意識を向けるべきは腕でなく、目じゃないか。おそらく、肩書の訂正の前にそいつの頭を訂正してやる方が先だと思う。セシリアは腕の代わりにとんでもないものを壊してしまったようだ。ニナが後ろから二人を見る。
「おい、なんで被害者が増えてんだよ!」
「聞かない」
「え、聞かないんですか?」
「コイツのことだ」
誰か突っ込めよ!後ろからの声は当然のごとく無視。二人の世界に入っていることを言いたいのか、レオンは男を指さす。聞きたくても聞けない、ってことかな。焦れたニナがセシリアをゆすると、ハッと二人はこちらを見た。
「あら、いらっしゃってたのですね」
「話を聞きたい」
「聞かせなぁ!」
「苦しいのは十分承知です。ですが、これからのため、貴方様が襲われたときのこと、お話しくださいますか?」
「......聖女さまの頼みならば、何でもしますよぉ」
話してはくれるらしいが、話の正確性は保証されなくなってきた。男はセシリアをガン見し、もたつきながらも話し始める。
「あれは、そう、夜中のことです。おれたちはそれぞれぐっすり寝ていたんですが、ジョン、いや。犬が、うるさく吠えまして」
増えた被害者の正体は犬だったらしい。小さく解決した疑問をよそに、証言は続く。
「おかしいな、と。全員が起きたんです。それくらいうるさかった。で、いきなり、犬が静かになったんです。これはますますおかしい。んで、父さんとおれで外を見に行くことにしたんです」
きっとそこからが男の恐怖の原因なのだろう。酷く震える手を、治療でなく安堵のためにかセシリアが優しく触れなおす。男の太い手が、まるですがるかのように細く弱い手を握り返した。
「外は真っ暗で、何もないだろうかと思ったんですが。酷い匂いがするんです。なんだろな、たい肥を作る時の、なんか腐りもんみたいな匂い、です」
男がそこで一息つく。恐怖を語る、その術を知らない男は瞳を揺らす。セシリアが顔を覗き込み、背に手を回す。男は体温に安堵したのか、まるで夜闇に灯火を見つけたかのように彼女の瞳を見つめ、言葉を彼女へ届けようとする。
「で、一緒におかしいぞ、と家を父さんと手分けしてぐるりと回ったんです。家の裏手に回る、その瞬間くらいかな。父さんの来るな!って声が聞こえたんです」
来るな。その言葉は父の真似をしたのか、自身の恐怖に向けての叫びだったのか。彼の言葉は真に迫るものがあった。背筋を正し、そうしてこの、苦しみのただなかにある男を見つめた。
「その声がおれに向けたもんか、それとも相手に向けたもんか。今となってはわかりません。ただ、その時のおれは声を裏切って父さんのもとへ向かっちまったんです。あの時、家に帰れていれば、母さんは、生きて、」
「大丈夫ですよ。大丈夫。今はご自分を、責めなくていいんです。落ち着いて、お話しくださいね」
セシリアの言葉を咀嚼するように男は身をすくませる。どうしてだろうか、見た目よりもなお幼く見えてきた。やっとのことで親元へ帰れたこどものようで。僕は、かけられる言葉が、ない。
「......すんません、おれ。おれは、父さんに、大丈夫かって確か、そんなことを言ったんです。っで、あいつら、が、あの川のやつらが、父さんを引きずって、歩いてた」
「見た目を」
ばかやろう。僕が言葉を選びまくって躊躇している中、レオンは平然と傷を抉っていった。なんてひどいことをするんだこいつ。
「見た目?見た目は、そう、なんていうかな。色が無かった。聖女さまみたいなもんじゃない。本当に、白いんだ。葬式で見た爺ちゃんの顔と同じくらい......ああ、そうだ。あいつら、死んだみたいな色で、ヒョロヒョロと細長い手で父さん、を捕まえてた」
それで、と言葉を濁す。ぼんやりと周りを見上げ、そうして何かを確認し終えたのか再度口を開く。
「口だけが、赤いんだ。女の口紅とおんなじ色。で、おれはそいつらに、必死にやめろって言った。炎を近づけて、放せって。いや、でも、父さんがいないならそんなこと、していないのかもしれない」
「大丈夫です。貴方様はお父様を救おうと必死になっていた、伝わりますよ」
「そう、そうだな。必死になって、それで、でも、あいつら、早かった。頑張ったが、無理だった」
「なぜ、正体が分かった」
彼はもはやだれが自分に語り掛けているのか、わからないのかもしれない。必死に過去を見つめ、伝えてくる。
「正体?正体か。いや、炎を近づけて、驚いたんだ。顔が、全然違ったが、いや。違ってはいない。ただ、そいつっぽくなかっただけだ。でも......」
男が一度、息を詰まらせる。そうして、真実を吐く。
「知り合いだった」




