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勇者一行と食い違う評判  作者: OMOMO
第1章 「パーティ結成」
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◆第11話 「術者」

 返事も聞かずレオンが踵を返したので、僕はニナに煙を漂わせ始めた香炉と甲羅を譲りこの部屋を立ち去った。

 怒っているのかな……レオンの後を慌ててついていく。すぐ横の扉に手をかけたレオンがこちらを見やった。鞄の中身を触り、頷く。

 彼の姿が消えた。僕も急いで室内に入る。室内は血にまみれ、いくつか人のようなものが飛び散っていた。

 様々な形のテーブルがいくつか連続して並べられており、そこに椅子が付けられている。テーブルの上にはいくつかの食器類。食事をする場所のようだ。

 誰もいない部屋を早足に進む。人の様な部位たちは見ないように目をそらし、奥にある扉だけを一心に見つめた。

 未だ脳裏にこびりついて離れない拉致された人々の姿。ここで、何か、されたのだろうか。あの物体たちは彼らのものなのか。想像して視界がまわる。

 だからこそ、いち早く異変に気が付けたのだろう。奥の扉がずれた。鞄から杖を取り出し赤い石をなぞった。

 レオンを見れば彼も気が付いたようで剣を抜いていた。そのまま僕は後ろをちらりと見る。誰もいない。敵も、応援も、来ない。

 扉のいびつな音に意識を向けた。

 一人の女性が現れる。


「何が、目的ですか」


 女性の身なりは整えられており、泊まった村の村長たちと服の特徴が似ていた。おそらくこのあたりの村の人、か?

 地下でしばらく暮らしていたせいか、元からか。肌の白さが松明の光を受け止めていて尚目につく。

 彼女が拉致された人物であれば、なぜ他の人同様の場所にいなかったのか。傷や縛られているような様子はない。

 この洞窟内には迎撃用の罠はなく、僕の魔術に反応した様子もなかった。術者の能力はそれほど高くない。少なくとも、洗脳のような高度な術まで警戒する必要はなさそうだ。

 彼女こそが魔術師。そう考えて動こう。


「きゃぁっ!」


 レオンはどう判断したのか。敵と見たのは間違いないだろう。女性の腕を引き、僕の方へ倒す。そのまま入れ替わるようにして開いた扉の奥へと駆けて行った。

 駆けて行った!?


「っええ!?う、おりゃっ!」


 何をすればいいのか、考える前に女性に馬乗りになる。そのまま杖を突きつける。大丈夫。既に魔術はいつでも発動できる。荒い息の中で言葉をなんとかひねり出す。


「動かないで!」


 強盗みたいなことを言ってしまった。女性に、より強く銃、いや、杖を突きつける。しかし彼女はお構いなしなのか暴れてくるので僕も必死だ。なんか、力強くないか。いや僕が弱いだけか。


「どいて!!」


「いや、む、うわっ!」


 暴れる彼女を抑え込めずに転がされる。杖は握りしめたまま。どうしても人に術は打てなかった。


「長様!」


「ま、まって!!」


 女性は出てきた扉へと走って戻る。そこにはレオンもいたはずだ。彼が危ない!僕は半ば四つん這いになりながらも女性を追いかけた。先ほどまでの争いでただでさえない体力は限界だ。それでも最後の力を振り絞って追いかけた先。


「レオン!」


「無事か」


 レオンが女性を縛っていた。全然彼は余裕そうだ。危ないのは女性の方だった、てことか。

 心臓を落ち着かせながら部屋を見回す。ここは他の部屋よりも家具に気を使っているようだ。絨毯にベッド、布張りの二人用椅子といったものが置かれており、そのどれにも血痕の様子は見られない。

 魔物が一体、倒れ伏しているのを見つける。他の魔物たちとは違い、しっかりとした衣服を身にまとっていた。かなり良い生地に見えるそれはしかしかすかに薄汚れている。


「長様!長様っ!お返事をっ!!」


「落ち着いて!あなたが彼らをこんな姿にしたんですか?」


「長様!」


 女性は倒れている魔物を一心に見つめている。僕の声は彼女に届かないようだ。


「死んでる」


「……ひっ!」


 レオンが焦れたのか剣の先を向ける。向けられた彼女は一度体をすくませたが、それでも気丈に彼を睨みつけた。


「なぜ殺した」


「はぁっ!?それは、こっちの台詞だ!」


 レオンの疑問は火に油を注ぐ。常々彼はコミュニケーションでやらかすと予感していたがそれは今じゃなくても良いだろう。


「落ち着いてください。あなたは魔術師ですね」


「そうよ!それがどうかした!?」


「では、ここの人々に魔術をかけたのは貴方ですね」


「……?だから殺したの!?私じゃなくて、長様を!?」


 女性は落ち着くどころかますます怒り心頭、といった様子だ。レオンに抑えられていなければ僕は殺されていただろう。それくらいには気が立っている。僕はレオンと二人きりな事に後悔した。この場にいない二人の方が話を聞くのは余程上手だろう。村での男との会話を思い出す。あの時のことは参考に出来なさそうだったので諦める。


「……彼らは僕らが殺す前からとっくにもう死んでいました」


「?何を、言ってるの?いつ殺したの!!」


「僕らは、殺していないです。そして他の人たちも。殺したのは、村にあった儀式」


「は?あれは、私が作ったものよ!あれで死んだ人なんていなかった!」


「ああ、やっぱりそうだったんですね。あの儀式場。随分高くついたでしょう。よくあそこまで組み立てられましたね」


「何が言いたいのよ!確かに儀式場は作ったけど、供物はそこで殺してない!」


 供物?媒介のことだろうか。


「何を供物にしたんですか」


「それを聞いたら長様は治るの?治らないでしょう!ここまでお喋りに付き合ってあげたのだからさっさと」


「治るかもしれません」


「!」


「おい」


 女性の目つきが変わる。未だ目が血走ってはいたがそれでもほっとしたかのように、まるで暖かい日でも見つけたかのように。その表情がセシリアに向けるあの包帯の男に似ていた。顔かたち何もかもが違うのに、どうしてかその時の僕はそう感じた。

 詐欺にかかった瞬間の表情はこういうものなのかもしれない。胃の中身が喉元までせりあがるのを感じる。大丈夫。これは嘘じゃないから。

 女性の真偽を確かめる声には応じず供物の正体を尋ねる。


「わ、私は、魔術の生贄に死んだ赤子と幾つかの死体を使ったの。それで、部屋に行商人から買ってもらった砂漠の砂を混ぜた」


 儀式の手順を聞きながら何をおこなおうとしていたのか目途を付けていく。


「でも、これだけだとダメだから、犬を入れて、」


 犬!?予想もしていなかった単語に頭が止まる。なんで今、犬が出るんだ。

 僕のデータに無いぞ、そんな儀式。


「術のために皆を呼んで。怖がらせちゃいけないから目隠しをして儀式場に入れたの」


 ショートしている頭を置いて、話は続いていく。待ってくれ。データに無さすぎる。検索結果:ゼロすぎる。なんだこれなんだこれ!


「それで私は魔術を使った。皆、力が強くなったって喜んでたわ。日の光が眩しいから嫌だって言うようになったからこっちに移り住んだの」


「近隣への襲撃は?」


 僕が混乱しているからか、レオンが疑問を投げつけた。


「……ご飯、人が良いらしいの。多分、私の術が元にした特徴を引き継いたんだと思う」


 ああ!改造したのか。少し安堵する。僕の記憶にない儀式方法にも納得だ。となると、犬は除外して、砂漠に死体。異常な乾燥に赤子。そして保たれた暗闇。おそらく屍喰人だ。これに犬を足す。と、できる、ものは。


「でも!皆生きてたわ!確かに少しおかしくなってしまったけど、普通に暮らして、嬉しそうに、笑ってた!」


 改めて女性をじっくり観察する。いやに目についた肌の白さ、強い力、血走った目。


「あなたは儀式の場で、煙を、焚いたね」


「目隠しの術よ。あなた、魔術師なら知っているでしょう」


 術の併用は禁忌だ。術師が初めに習うものの1つ。理由は様々だが、術の混線が一番大きい。


「そこに……その術の中に、貴方もいた」


「?術者は入れない」


 そうだ。入れない。いや、普通は入らない。入れば術の指揮を執る者がいなくなり暴走するかもしれないから。術の確認が出来なくなるから。

 術者自身を対象に組み直した術なら別だが、今回の術はそうじゃない。


「貴方も魔術師なら、自分が今どうなっているか、わかっているはずだ」


「……は」


「貴方まで、術式に巻き込まれている。失敗しているんです」


 女性が指輪をいじる。簡単な呪文。術者が自身の状態を確かめるためによく使うものだ。


「え、あ。」


「今までのお話を聞いて、わかりました。僕は村人を直せます」


「……私、身体、」


「といっても、日のもとを歩くことは出来ない。貴方の術式を僕は解けない」


 解いたとしても、そこに残るのは死体だから。


「え」


「お話し、ありがとうございました」


「まって!貴方、治せないの?」


「直せは、しますよ」


 少し、意地が悪い言い方をした。魔術師がするべきでないことをした彼女に、僕は少し怒っていたのかもしれない。いや。僕は、初めに治せると言ったから、その理由を付けようとしているのだ。

 ぐちゃぐちゃな頭のまま、彼女の言う村長を見やる。白い肌。まだ引き裂かれていない唇。血が廻っていないのかもしれない。僕も、彼女も。あれも。


「でも人を食べるのでしょう」


「はい」


「そんなの......長様じゃない」


「……はい」


「なら、どうして、わたしは、」


 僕は、彼女の絶望がよくわからなかった。悲しいのだろうという事はわかる。大切な人を自分が手にかけていた。その苦しみを、しっかりとは理解できなかった。

 僕ならしない。そんなこと。どうして、彼女はそんなことをしたのだろう。どこか、彼女を責めたくなって、おかしな気持ちになる。なんでだろう。

 拉致された村人たちはあんな目にあわされていたのに、彼女の心を揺さぶることは出来なかった。なのに、なんで。

 大切な人の死を悔やむことと、遠くの人を踏みにじること。乖離した彼女の心に寄り添えない、それがただ苦しい。この気持ちだけは確証を持てた。苦しかった。


 ガタン!大きな音に僕らは扉を見やる。

 そこには大きな鎧がいた。ニナだ。僕はなんだかほっとした。


「邪魔しちまったか?救助者、とりあえず全員外に出したぜ!」


「帰れ」


「丁度オレらが帰ってこないのを心配して村のやつらが来ててな!そいつらに任せた!」


「帰れ」


「ま礼はいらないぜ!オマエらはのんびり帰ってきな!」

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