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勇者一行と食い違う評判  作者: OMOMO
第1章 「パーティ結成」
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◆第10話 「洞窟」

 早朝。僕らは村の裏手にある山へと来ていた。


「あれか!」


 ニナが指をさす。その先には大きな穴が口を開いていた。山の中間に木々に隠されるようにあったそれは周囲の薄暗さも相まって中を確認できそうもない。

 ゆっくりとレオンが一人、近づいていく。僕らは近くの茂みへと身を隠した。

 見張りがいるのであれば警戒される前に倒すべき、ということで。隠密に自信があり戦闘が得意な者。ニナはその巨体に、セシリアと僕は戦闘能力に不安があったため、自然とこの役はレオンが務める事となった。

 いざという時のための連絡用笛を持ち、彼が暗闇へと消えていく。

 数分後、彼は平然と戻ってきた。知らず握りしめていた指から力を抜く。ここからが本番ではあるが。心の中で一度、彼の無事を祝った。

 来い、とでも言うように手が振られる。ニナがそちらへ向かうあとを追い、僕らは洞窟の中へと進んでいった。


 洞窟の中は暗闇が続くものかと思われたがそんなことはなかった。点々と飾られている松明を横目にランタンたちを消す。道中魔物には全く出会わなかった。ということは奥にあの大勢の魔物がいるのだろう。そう思うと身震いをしそうになるがどうにか抑えつける。

 そのまま歩けば通路の先に扉、のようなものが見えた。元は別々の家に着けられていたのだろう扉の蝶番がむりやり土に埋め込まれ、両開きのドアを気取っている。斬新な建築はあまり好評でないらしく、隣に新たに作られた穴もあった。さて、どちらから向かうか。誰も言葉を発さずに即決される。

 レオンがいち早く、穴を確認。手がこちらへ室内の状態を伝える。握られた手がパッと開き、そのまま指が順番に折られていく。一度元の位置に戻った指たちが再度順番に立ち上がる。止まった。魔物の数は13体。視認出来る限りだろうからもっといるとみて行動したほうが良いだろう。レオンが退く。ニナが扉の前に陣取っていることを確認して、僕は穴の奥へと入り思い切り香炉を部屋へ投げた。割れる音はしない。レオンにぐわりと掴まれ後方へ下がる。

 しばらく静寂が続く。ニナはしっかりと扉に手をやり出入りを塞ぎセシリアは後ろを向き僕らの背後を警戒。レオンと僕は穴の横で身構えていた。

 穴からひょこりと白い影。僕が構えた時にはレオンが真っ二つにしていた。穴の途中で崩れ落ちる体は都合が良い。

 一瞬、まるで物のように考えてしまった自分に気付く。昨夜魔物について説明した時のセシリアの顔が頭をよぎった。


……


「……もう、亡くなっているということですか」


「はい。少なくとも、僕の知っている術なら」


 これは生きている人間を操る術ではない。死体を媒体として動かす黒魔術の類だ。

 セシリアは俯き、黙る。僕はどうしようもなくて一緒に俯くしかなかった。魔物も人に戻るから大丈夫、だなんてことは嘘でも言えなかった。

 

 白い手が僕の服を掴んだ。血の色が見える。セシリアだ。僕は彼女を見上げた。彼女は笑って言った。


「では、生きている皆様のことを早くお助けできるようにしなくてはいけませんね!」


……


 ぞろぞろと姿を現す魔物をレオンがもぐらたたきの如く切り捨てていく。僕はその様子を確認して、いらなかったかな、僕。なんてナーバスになりながらもがんがんと鳴り出した扉を抑えに行く。ニナの下へもぐりこみ、必死に抑えるが、ちょっと待て。扉は今にも壊れそうだ。隙間隙間から血走った目と見つめ合う。


「危ねーから後ろいろ」


 ニナにささやかれるが首を振って共に扉の重りの役目を果たす。ここが一番煙の様子を見やすい。魔物の隙間から香炉を投げた場所を探そうとしてすぐに見つける。赤い煙はもうもうと室内を支配しようとしていた。あともう少し。必死になって扉に体重をかける。もう見つめ合っても何も思わなかった。

 そろそろだろうか。後ろの鎧に足で合図を送る。鎧から金属同士がこすれる音を聞きながら離脱して亀の甲羅を取り出す。ノックを2回。指で腹をなぞる。周りの色がうっすら青くなれば成功だ。

 ここから僕はいきなり動く事が出来ない。周りを確認しつつ、セシリアにこの甲羅を預けようとゆっくり動き出す。彼女も視界の変化で気づいたのか入り口付近から駆け出してきた。なんであんな遠くにいるんだ。こそりと彼女は隠し部屋はなさそうです、と僕にささやいた。それを探していたのか。

 どうにかこうにか合流して甲羅を渡す。いつのまにか甲羅に溜まった青い液体が揺れてセシリアは身を固くした。かつての自分を思い出し笑みがこぼれる。僕も慣れないうちは落とさないか心配でいちいち身をこわばらせていた。

 かつてを思い出しながらも今は敵地と気を引き締めなおす。


「入る」


 レオンの声に二人とも顔を上げる。なんだか何年も彼の声を聴いていなかったような新鮮な気持ちだ。僕はセシリアの後ろに着きそのまま移動する。ニナが扉をゆっくりと開きレオンが飛び込んだ。僕らは駆け足になってその後を追う。と言っても後方組は室内に突入しきらず、様子を見る。

 香炉はその役目をしっかりと果たしてくれたようで、室内はうすらと赤い煙で満たされている。ほのかな柑橘と香辛料に腐敗臭が合わさってかなり独特な匂いになっているが仕方がない。香炉を投げた方角へ手をやり、僕らは倒れている魔物から大きく距離を取りつつそちらへ移動した。

 香炉を拾い上げる。熱さを我慢して数度こすり一度囁けば香炉から出ていた煙は止まる。香炉の術には死者を退ける作用がある。正確には退けるのではなく、煙の中にいる間その活動を抑え込むものだが。

 倒れている魔物を見る限り、少なくともアンデッドに類する存在だという推測は正しかったようだ。

 この術は長く吸い続ければ気分を悪くする程度とはいえ人にも悪影響を及ぼすことがある。香炉を止めても室内に充満した煙は消えないため、セシリアは未だ甲羅を抱えてゆっくりと動かなくてはいけないままだった。

 全員でぞろぞろと移動する。部屋をぐるりと回ってわかったのは三つの扉があるという事だ。そのどれもがボロボロで、煙が入り込んでいったであろうことは明白。そのうち一つは開けられており、中が寝所だったことを確認した。

 他の二つの扉、どちらへと向かうべきか。こそりと中を覗き込んでいるニナの判断を待つ。というかあれ、見えているのだろうか。目潰しを恐れて彼女に任せたが、何もわからないから勘でいこう!でも驚かないぞ。

 彼女はゆっくりと一つの扉を開く。さて鬼が出るか蛇が出るか。

 扉の奥はこれまた薄暗い。僕らが踏み込めばざわめきが聞こえた。人だ。

 部屋の中央には、人の背丈を優に超える深い穴が掘られていた。底には何人もの人間が身を寄せ合っている。壁際には出入りに使っているらしい梯子が立て掛けられていた。

 

「ああ、そんな!今すぐお助けしますからね!少しお待ちくださいっ!」


 背後にいたセシリアが飛び出し、梯子を穴へと下ろす。すみません、待って。甲羅は!?僕は彼女がいた場所を見る。甲羅が床で寂しそうに揺れていた。ぎゃーーー!!!急いで回収。何もこぼれていないのを確認して安堵する。


「ですが、今すぐ治療をしなくては!」


「逆だ」


「オレもセシリアに賛成だ。治療を優先するべきだろ」


 僕が見ていない一瞬で仲間割れが起きていた。これは、どうなるんだろう。とりあえず、救助のために予備の道具を準備しておいた方がいいのかもしれない。


「何事にも人命は優先されます!レオン様はお好きになさってください!」


「さっさと大将やりたいのはわかるぜ。オレはこいつらの子守してっから、行きな」


「あの、香炉とか準備できましたし、ここに置いておきますね」


 皆に近づくと、穴の中がよりはっきり見えるようになる。そこにはお年寄りから子供まで様々な人が身を寄せ合っていた。大体の人がどこかを欠損しており、酷い人はほぼ全ての露出している箇所が失われている人もいた。

 簡単に包帯で巻かれていたりはするものの、もはやどうやって生きているのかわからない人たちが必死に息をしている様にめまいがする。


「行くぞ」


「っえ!?」


「気を付けろよ!」

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