↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/61

第51話 建国鐘を裂く黒い空

建国の鐘が、途中で死んだ。


祝宴のざわめきが残る空環王国の中央広場で、俺は空になった杯を高く掲げていた。干し果実を煮た祝い酒は甘いくせに、喉の奥だけを妙に熱くする。


「民よ、安心せよ! この空環王国の王がいるかぎり、宴の火は消えぬ!」


言い切った直後、北水門の方角から鳴っていた鐘が、二打目の途中で途切れた。


ごん、と鈍い余韻だけが夜空を転がる。


俺の足元が、ほんの少しだけ揺れた。酔いではない。都市核を通じて伝わった衝撃だ。


隣で杯を取り上げたミーナが、獣の耳をぴんと立てた。


「その口上、あとにして。アルド、北よ」


「分かっている。今のは民を落ち着かせるための王者の――」


「声が裏返ってたわよ」


「酒のせいだ」


「一杯で?」


言い返す前に、黒い矢が広場の上を走った。


矢は人を狙わず、建国旗をつるした綱を射抜いた。白い環を描いた旗が落ち、焚き火のすぐ脇へ沈む。悲鳴が上がったが、ミーナが踏み込み、燃え移る寸前の旗を蹴り上げて俺へ寄越した。


俺は翼で風を起こし、火の粉を払う。


「宴を中止する! 子どもと負傷者は地下広間へ。走るな、隣の者の手を取れ!」


「聞いたでしょう!」


ミーナの声が俺の命令を支えた。さっきまで笑っていた者たちが、訓練どおり二列に分かれる。恐怖は消えない。それでも恐怖の向きをそろえることはできる。


夜空を見上げる。


星を隠す黒い塊が、北から滑ってきていた。翼の長い魔物が十二、短い翼が二十以上。その背に結びつけられた細長い旗は、夜よりも濃い黒だ。旗の縁だけが紫色の魔力を帯び、飛ぶたびに空気を薄く鳴らす。


北の水路と二本の空路は、昼のうちに氷で塞がれた。今度は夜襲。だが矢は祝宴の旗を落としただけだ。


殺すためではない。


見せるためだ。


「全員に告ぐ。先に殴るな」


俺が言うと、門へ駆けようとしていた若い兵が踏みとどまった。


「しかし陛下、鐘が!」


「鐘より命だ。北の畑と水上工房に、まだ帰っていない者がいる。ガンツ、北水門の受けを固めろ。グラウ、外の作業班を数えろ。セラは敵の目的を読む。俺は空を見る」


「王が一番危ない場所を見るって意味じゃないでしょうね」


ミーナが低く言う。


治療班から受けた前線制限は、三日後まで続く。彼女を飛ばすつもりはない。俺も胸を張った。


「当然だ。俺は賢い王だからな」


「賢い王は今、杯を靴で踏んでる」


足元で木杯が割れた。


誰も笑わなかった。だから俺は、わざと鼻を鳴らした。


「国費で新しいのを作る。行け!」


号令と同時に、広場が動いた。


俺は都市核へ意識を沈める。北の輪郭が、冷たい痛みとして頭に浮かぶ。北水門の鐘楼は上半分を削られ、鐘を打つ横木が落ちている。門外には七つの小さな反応。帰還途中の水上工房班だ。そのさらに北、氷に閉ざされた水路沿いに、黒旗の魔力が網のように広がっていた。


敵の先頭へ鑑定を向ける。


【鑑定結果】


対象:黒旗翼獣


種族:翼獣


個体ランク:A


技能:高所射撃、進路封鎖


状態:遠隔命令受信中


二列目で、ひときわ旗の長い個体を読む。


【鑑定結果】


対象:黒旗翼将


種族:翼獣


個体ランク:S


技能:編隊指揮、魔力反射


状態:遠隔命令受信中


その旗の向こうに、姿のない重さがある。鑑定は像を結ばず、ただ額の奥を焼いた。


【鑑定結果】


対象:遠隔圧力源


個体ランク:SS相当


状態:鑑定遮断


「主力はA、指揮個体がS。その背後にSS相当の遠隔圧力。来ているのは軍の爪先だけだ」


セラが落ちた旗を拾い、灰を払った。祝宴用の白い上着の裾が汚れても、目は北から離れない。


「なら目的は占領ではありません。今夜のうちに恐怖を植え、退路を断ち、明日の降伏を容易にする。威圧と封鎖準備です」


「作業班を見殺しにすれば、奴らの勝ちだな」


「救えば追撃されます」


「それでも救う」


言葉が早すぎたかと思った。けれどセラは一度だけうなずいた。


「では、救う順序を決めてください。全軍を出せば城内が空になります」


そこへグラウが走ってくる。酒は飲んでいなかったらしく、足取りに乱れはない。


「門外七名。水上工房班五名、警備二名。北畑の班はすでに南地下口へ入った。敵編隊は三層。上の十二が射撃、中の九が旗、下の群れは見せ札だ」


「どうして分かる?」


「下の群れは翼音がそろいすぎている。攻撃隊なら互いの風を食う配置だ。こちらの目を下へ向けたい」


俺も領域知覚を絞り直した。黒い影の下ではなく、その後ろ。北水門から城内へ戻る道の両側に、小さな反応が伏せている。


「退路側に別働隊か」


「おそらく。外班を走らせ、門前で挟む」


胸の奥に熱が湧く。敵の策を読めた喜びではない。俺たちの七人を、恐怖を見せる道具にしようとしていることへの怒りだ。


「俺が飛んで上を散らす」


「翼を狙われる」


「なら竜圧で落とす」


「旗が魔力反射だと、さっき自分で鑑定しただろ」


グラウの返事には遠慮がなかった。


俺は牙を見せかけ、引っ込めた。王が腹を立てる場面ではない。


「代案は」


「二段階で退く。外班は鐘楼跡まで走る。ガンツが盾壁を出す。敵が門前へ寄ったら、俺の隊が偽の退路を西へ開く。本当の退路は鐘楼の床下だ」


北水門の鐘楼には、修理用の細い通路がある。人間なら通れるが、翼獣は入れない。


「門はいつ閉じる」


「七人が床下へ入った後。陛下は閉門まで上を抑えてくれ。ただし旗へ圧を撃つな」


「俺に我慢しろと言うのか」


「王ならできる」


卑怯な言い方だ。


「できるに決まっている」


俺は北水門へ駆けた。


飛べば早い。だが黒旗はそれを待っている。屋根から屋根へ跳び、低い位置を進む。追ってくるミーナが、俺の右側から離れない。


「お前は広場に残れ」


「前線制限は飛行と突撃。走って王の無茶を止めるのは治療よ」


「そんな治療法は聞いたことがない」


「今できたの」


北水門では、ガンツが鉄板と荷車を積み上げていた。完成した壁ではない。外側へ倒せば盾になり、内側へ倒せば門の補強になる角度だ。


門外から七つの灯りが揺れてくる。


「帰還班、鐘楼跡まであと百二十!」


見張りが叫ぶ。


同時に空から矢が降った。


黒い雨は灯りの前後へ刺さり、七人の足を細い道へ追い込む。直接狙わず、進路を作っている。道の先には伏兵がいる。


「右へ寄れ! 青灯を追え!」


グラウの隊が、鐘楼の西に青い灯りを三つ掲げた。敵に見せる偽の退路だ。七人は一瞬迷ったが、先頭の警備兵が青灯へ向かう。


「違う、床下は東――」


俺が声を上げる前に、青灯が一斉に西へ走り出した。帰還班はその場で地へ伏せる。ガンツが荷車の留め具を斧で切った。


鉄板の壁が轟音とともに外へ倒れ、七人を矢から隠す。


その音に釣られ、道の両側から伏兵が飛び出した。毛の抜けた四足獣が八。首に黒い札を打ち込まれている。奴らは動く青灯を追い、西へ曲がった。


「今だ! 床板を上げろ!」


グラウが叫ぶ。


伏せていた七人の下で板が開く。一人、二人、三人。工房の職人が警備兵に押され、地下へ滑り込む。


上空の翼将が甲高く鳴いた。


黒旗の縁が紫に光る。反射の準備だ。


俺は喉に溜めていた竜圧を、あえて旗ではなく北の空へ放った。圧の壁が矢の軌道を押し曲げる。何本かは落ち、残りは鉄板へ突き刺さった。


翼将が旗をひねる。


俺の圧が空中で折れた。


見えない刃になって、北水門へ戻ってくる。


「アルド!」


ミーナの声より先に、俺は右の翼を広げた。門前には、最後の一人が残っている。翼を盾にして圧を受け流す。


膜が裂ける音は、濡れた布を乱暴に破ったときに似ていた。


熱い痛みが肩から翼端まで走る。足が石畳を削り、爪が一本割れた。それでも圧の向きはわずかに上へ逸れた。


逸れた先で鐘楼の残骸が吹き飛ぶ。


鐘は二度と鳴らなくなった。


「全員、入った!」


地下から声が上がる。


「門を閉じろ!」


俺は叫んだ。


ガンツが鉄板を引き戻し、兵たちが鎖を巻く。重い北水門が閉まり始める。敵は追わない。黒旗の編隊は高度を保ったまま、俺たちが門を閉じる様子を見下ろしていた。


逃げ道を一つ奪った、と見せつけるように。


最後の隙間が閉じる寸前、翼将の旗から低い声が響いた。


人の言葉ではない。


俺の骨の内側が、その意味を勝手に理解した。


『逃亡王家の卵は、孵ったか』


門が閉じた。


誰も死ななかった。


だが勝った気はしなかった。


ミーナが俺の裂けた翼へ手を伸ばし、触れる直前で止める。


「痛む?」


「王の翼だ。この程度――」


「痛むのね」


「少しだけだ」


彼女の眉が寄った。叱る顔なのに、指先は震えている。


「次に同じことをしたら、左も殴るわ」


「左右をそろえる必要はないだろう」


「冗談を言えるなら歩ける。治療班へ」


俺は閉じた門を見た。北水門は使えない。鐘楼も失った。氷で塞がれた本流から汲み置いた水は、一日分しかない。


救った七人が地下口から上がり、俺を見る。水上工房の老職人が帽子を胸へ押し当てた。


「陛下、助かりました」


「礼はガンツとグラウに言え。俺は門を壊されただけだ」


「それでも最後まで門の外を見ていたのは、陛下です」


胸を張りたくなった。けれど俺の翼から落ちた血が、石畳に小さな輪を作っている。


今夜の敵は、俺たちを殺しに来たのではない。


何を守れば苦しむのか、確かめに来たのだ。


「セラ。明けるまでに警報を三つに分ける。空からの敵は色旗、門の破損は鐘、地下からの接近は振動術式だ。一つを止められても、残りで伝わるようにする」


「鐘は壊されました」


「南と東の鐘を使う。北には打音板を置け。音の種類を変えればいい」


「承知しました」


「ガンツは門の仮補強。グラウは今夜の退避を全隊へ教えろ。七人が生きた理由を、明日には全員が再現できるようにする」


「陛下は?」


グラウの問いに、俺は裂けた右翼をたたもうとした。痛みで顔が引きつる。


「治療だ」


「珍しく正しい」


「王はいつも正しい」


その声がまた少し裏返り、今度だけは皆が笑った。


◇


国境砦の人間兵は、遠眼鏡から目を離せなかった。


北の空に黒旗が並んだとき、彼は新しい魔物の国が一夜で潰れると思った。竜の王なら、怒りに任せて飛び上がり、敵と地上の者をまとめて焼くだろうとも。


だが若い竜は門前へ残り、人間の職人たちが地下へ消えるまで翼を広げていた。


黒旗が去ったあと、砦の副官が尋ねた。


「連中は何を守った?」


兵は遠眼鏡を下ろす。


「人です。魔物も人も、区別なく」


「竜の国が?」


北水門は壊れ、鐘も止まっている。それでも城内では、新しい色旗が上がり始めていた。


「はい。だから、まだ国なんだと思います」


◇


治療布で翼を固定されながら、俺は黒旗の言葉を何度も思い返した。


逃亡王家の卵。


それは、俺のことなのか。


問いに答える者は、敵陣の向こうにいる。


都市核から、水位低下を知らせる震えが届いた。


王家の謎を追う前に、明日の水を守らなければならない。


国は、待ってくれない。


治療室を出るころには、夜が白み始めていた。俺は飛べないまま、三つの警報を確かめて歩いた。南塔では赤、黄、青の布を昼夜で見分けられるよう、縁へ異なる数の切れ込みを入れている。東鐘楼では一打を空、二打を門、連打を避難と決めた。北の地下では、振動板を踏むたび石床の別々の場所が震える。


「目の見えない者には色旗が分からん。耳の聞こえない者には鐘が分からん。地下にいる者には両方届かん」


俺が言うと、セラは三種の札を一本の紐へ結んだ。


「だから同じ危険を三つの方法で伝えます。誰か一人へ伝われば、その者が隣へ伝える」


避難した子どもたちにも試してもらった。鐘の数を間違えた子には、叱る代わりに旗を上げさせる。足の悪い老人は、振動板の合図が速すぎると教えてくれた。戦う者だけで決めれば、逃げる者が使えない制度になる。


北門へ戻ると、救出された七人が壊れた鐘の破片を拾っていた。


「捨てるのか」と尋ねると、老職人は首を振る。


「溶かして、地下の打音板にします。止められた鐘が、次の警報になる」


敵に壊されたものが、別の形で国を守る。その考えは、俺の傷よりずっと強い。


夜明けの最初の光が、裂けた右翼の治療布を照らした。黒旗は北の雲へ退いている。去ったのではない。こちらが眠り、渇き、互いを責め始めるのを待っている。


俺は三つの警報を同時に鳴らさせた。


赤旗が上がる。鐘が響く。足元が三度震える。


驚いた民が戸口から顔を出し、すぐ訓練だと気づいて所定の場所へ動いた。昨夜より速い。完璧ではない。それでも誰も一人ではない。


「聞こえるか、北の軍」


俺は黒い空へ呟いた。


「お前たちが一つ裂くたび、俺たちは三つ作るぞ」


返事はなかった。だが三つの合図は朝の城壁を越え、凍った水路の向こうまで響いた。俺はその余韻が消えるまで、空から目を逸らさなかった。



主人公ステータス


【鑑定結果】


名前:アルド


種族:若き天空竜(個体ランクA)


Lv:50


HP:590/最大590(最大値ランクA)


MP:725/最大725(最大値ランクA)


攻撃:192(ランクC)


防御:198(ランクC)


速度:157(ランクC)


総合:700(個体ランクA)


技能:鑑定:ランクD Lv2(ランクD Lv2)/竜圧制御:ランクD Lv4(ランクD Lv4)/天空飛行:ランクD Lv3(ランクD Lv3)/領域知覚:ランクE Lv4(ランクE Lv4)/小隊指揮:ランクD Lv5(ランクD Lv5)/都市核接続:ランクF Lv2(ランクF Lv2)/合意接続:ランクE Lv3(ランクE Lv3)/合意制ダンジョン管理:ランクD Lv2(ランクD Lv2)


状態:右翼膜裂傷、飛行禁止で治療中、北水門と鐘楼は使用不能、飲料水備蓄は残り一日分


【鑑定終了】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。