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龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


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第4話 岩角トカゲの荷台

泥に刻まれた二本の車輪跡は、水路の奥へ続いていた。


幅はミーナが翼を畳んで二人並べるほど。片方の溝だけが深く、ところどころ木屑が落ちている。古い跡に見えたが、ポロが鼻を近づけると、急に顔を上げた。


「新しい土の匂いがする。昨日か、今日、誰か通った」


「荷車を使う者なら、俺を運ぶ方法を知っているかもしれぬ」


「襲って奪うつもり?」


ミーナが冷たい目を向けた。


「なぜそうなる。交渉するに決まっておろう」


「洞鼠を落石で潰した話を、嬉しそうに三回もしたから」


「あれは交渉できぬ相手だった」


「三回もしたの?」


ポロが尋ねる。


「細部を変えて話しただけだ」


「同じ話じゃない」


二人の視線が痛い。


俺たちは水場をすぐ離れず、遠出の準備をした。飲用の窪みに平たい石で蓋をし、洗浄用の水を乾かした胃袋袋へ入れる。洞鼠肉は朝のうちに食べ、残りを一包みだけ携帯した。ポロは群れへ渡す半分を岩陰へ隠し、匂いの強い葉で覆った。


ミーナの左前脚は、洗浄したおかげで腫れが引いていた。それでも深く踏み込めば痛む。今日は俺を引かず、ポロと二人で押すことにした。斜面では蔓を前後へ張り、転がりすぎないよう交互に止める。


昨日より遅いが、安全だった。


「最初からこうすればよかったのよ」


「三人になったからできるのだ」


「二人でも、後ろの蔓を岩へ結べた」


「……次からそうする」


失敗を認めると、ミーナは満足そうに尾を立てた。


車輪跡の先は、乾いた支流から旧採掘支路へ入っていた。壁には四角く削った跡が残り、一定間隔で錆びた金具が打ち込まれている。天井は高いが、崩落した石柱が道を狭めていた。昔は誰かが鉱石を運んでいたのだろう。


進むにつれ、こん、こん、と硬い音が聞こえ始めた。


一定ではない。二度叩き、間を置き、三度叩く。何かを壊す音ではなく、形を確かめながら直す音だ。


「一人」


ミーナが囁く。


「大きい。金属と油の匂いがする」


「怖い音じゃない」


ポロは耳を床へ当てた。


「怒ってる音」


「音で怒りが分かるのか?」


「叩いた後、いつも石を蹴ってる」


直後、奥で硬いものが壁へ飛び、低い罵声が響いた。


ポロの言うとおりだった。


曲がり角から様子をうかがうと、広い作業場の中央に壊れた荷台があった。片輪は外れ、車軸が中央から裂けている。荷台の下へ潜り込んでいるのは、ミーナより頭二つ大きな蜥蜴だった。


灰褐色の鱗。額から後ろへ岩のような角が二本伸び、太い尾が床を叩いている。前脚は短いが、指は節くれ立ち、一本ずつに金属片を巻いた道具が固定されていた。背中には革袋がいくつも下がり、その一つから木釘がこぼれている。


彼は裂けた車軸へ石の楔を打ち込み、体重をかけた。木が耐えきれず、ぱきりと割れる。


「くそっ! 繊維が死んでやがる!」


尾が飛んできた石を弾き、こちらの壁へ当てた。


「機嫌が悪そうね」


「だからこそ、解決策を持つ者の話は聞く」


俺は堂々と声を張った。


「そこの職人。王の御前である。姿勢を正せ」


蜥蜴の頭が荷台の下で、ごん、と板へぶつかった。


「いてえ! 誰だ!」


彼は這い出し、俺たちを見回した。黄色い目がミーナ、ポロを通り、最後に俺で止まる。


「卵?」


「アルドだ」


「卵が喋った」


「龍王家の正統血統である」


「腐食苔の胞子でも吸ったか、俺は」


また信じられなかった。


「私はミーナ。こっちはポロ。あなたは?」


ミーナが割って入る。


蜥蜴は俺への警戒を残したまま、工具を一つ握った。


「ガンツ。荷運びと修理で食ってる。近づくなら、両方の前脚を見えるようにしろ」


「卵に前脚はない」


「お前は黙ってろ」


王に向かって大変な言い草である。だが、工具を持つ指は震えていない。俺たちが三人いても、すぐ逃げようとはしなかった。


「その荷台を直したいのだろう。俺たちは運搬手段が要る。条件を出せ」


「お前らに直せるなら、とっくに自分のを作ってるだろ」


「ガンツが直すの。私たちは必要なものを探す」


ミーナが言い直すと、ガンツは少しだけ工具を下げた。


「硬い蔓が三束、乾いた獣皮、真っ直ぐな骨か木が二本。あと車軸に使える芯材だ。最後のがない」


「車輪跡に木片が落ちていた。あれでは駄目か」


「腐ってる。拾わなかったのか?」


「拾っておらん」


「見ただけで役に立たないと分かったの?」


ミーナが俺を見る。


「……王の勘だ」


本当は荷台を見つけることで頭がいっぱいだった。


ガンツは鼻から息を吐いた。


「素材をそろえたら荷台は直す。ただし俺の荷だ。お前らを運ぶなら、その分の食料か工具素材をもらう」


「王の専用車とする。修理した後は俺に仕えよ」


「断る」


間髪入れず返された。


「なぜだ!」


「会ったばかりの卵に、荷台も仕事も渡す馬鹿がいるか。そもそも、お前は何ができる」


「鑑定ができる。鼠も倒した」


「荷台を直せるか?」


「それはお前の役目だ」


「じゃあ命令するな」


ぐうの音も出ない。


ポロが不安そうに俺を見た。ミーナは口元を隠している。笑っている場合か。


「……では契約だ。荷台へ俺を固定する枠と、水を運ぶ容器を追加せよ。荷台の所有はガンツのままでよい。俺たちは素材集めと、修理中の見張りをする。運搬は水と獲物を優先し、余裕があるとき俺を乗せる」


「水と獲物が卵より先でいいのか?」


「仲間が生きなければ、俺を運ぶ者がいなくなる」


ガンツは黄色い目を細めた。


「工具素材は?」


「見つけた金属片の半分を渡す。ただし、共同設備の修理へ使う場合は先に申告せよ」


「共同設備って何だ」


「これから作るものだ」


ガンツはミーナへ顔を向けた。


「こいつ、いつもこうか?」


「だいたい」


「もっと敬意ある答えをせぬか」


「もっと信じられることを言って」


二人の返事に、ガンツが初めて喉を鳴らして笑った。


「いい。素材がそろうまで同行する。その後は荷台を試して、報酬を決める。臣下にはならん」


「いずれ考えを改めさせる」


「勝手にしろ」


交渉は成立した。


俺はガンツ自身と荷台を鑑定する許可を求めた。彼は「工具を盗める技能じゃないなら」と条件をつけ、右前脚を殻へ置いた。


【鑑定結果】

名前:ガンツ

種族:岩角トカゲ(個体ランクE)

レベル:3

HP:46(ランクE)

MP:31(ランクE)

攻撃:11(ランクF)

防御:18(ランクF)

速度:7(ランクG)

技能:運搬:ランクF Lv4、石工:ランクF Lv3、接合:ランクF Lv5

観察:荷重変化と素材の癖を読む反応が強い。


腕力はミーナより高いが、驚くほどではない。それより、荷重と接合への反応が際立っている。


「お前は引く力より、壊れない形を考える力が強い」


「見りゃ分かるだろ。俺は職人だ」


「なぜ一人で荷運びをしていた」


ガンツの目が険しくなった。


「契約に関係あるか?」


「今はない。答えたくなければよい」


俺が引くと、彼は少し意外そうな顔をした。


荷台も鑑定した。


【鑑定結果】

名称:旧採掘荷台

状態:左車輪脱落、車軸破断、底板腐食、制動具欠損

耐荷重:現状12、修理後見込み58

必要素材:芯材、結束材、補強板、固定具


「耐荷重が分かるのか」


ガンツが初めて身を乗り出した。


「見込みだ。修理方法で変わる」


「底板を二枚抜いたら?」


鑑定の文字が揺れ、見込みが六十一へ変わる。


「増えた。だが中央へ重みが集中する」


「なら支えを斜めに入れる」


見込みが六十九へ上がった。


ガンツの尾が興奮したように床を叩く。


「使えるじゃねえか、卵」


「アルドだ」


「荷台が完成したら呼んでやる」


敬意は足りないが、契約への熱意は増したらしい。


素材集めは二組に分かれた。ミーナとポロは乾いた獣皮と蔓を探し、ガンツと俺は旧採掘場の廃材を調べる。俺を運ぶ手段がないため、ガンツは背中の工具袋を前へ移し、俺を太い蔓で背負った。


「角に当てるな。亀裂は左だ」


「注文が多い荷物だな」


「落とせば報酬はないぞ」


「割れたら中身を確認できる」


「冗談でも言うな!」


ガンツの背は硬く、一歩ごとに殻が鱗へ当たる。それでも地面を引きずられるより速かった。


旧採掘場には、折れた支柱、錆びた軌道、砕けた鉱石箱が散乱していた。俺は素材を順に鑑定し、腐食の少ないものを選ぶ。ガンツは俺の指示どおりには拾わず、爪で叩き、曲げ、匂いを嗅いでから決めた。


「鑑定を信じぬのか」


「数が同じでも、木目の向きで折れ方が違う。お前の鑑定はそこまで言うか?」


「言わぬ」


「なら両方見る」


筋が通っていた。俺は見える数値を答え、ガンツは手触りを確かめる。二人で選ぶと、一人より早く不良材を外せた。


問題は車軸の芯材だった。真っ直ぐで、荷重に耐え、車輪の穴へ入る太さが要る。木の支柱は腐り、獣骨は短い。


作業場の奥で、錆びた鉄管を見つけた。長さも太さも足りる。


「これだ」


俺が言うと、ガンツは首を振った。


「硬すぎる。車輪の穴を削るし、曲がったら戻せない」


「耐荷重は高いぞ」


「荷台は重さだけで壊れるんじゃない。揺れを逃がせなきゃ、板から裂ける」


俺は鉄管を鑑定し直した。単体の強度しか見ていなかった。荷台へ組み込む想像をすると、接合部の負荷が赤く浮かび、修理後見込みが四十二まで下がる。


「……お前が正しい」


「素直に言えるんだな」


「王は事実を曲げぬ」


「最初から聞けばもっと早い」


それは言わなくてよい。


結局、芯材は旧軌道の下から見つかった。硬木の棒が油を塗られて保存され、半分だけ無事だった。短いため二本を斜めに継ぐ必要がある。


ガンツは継ぎ目を見つめ、何度も角度を変えた。


「真っ直ぐつなぐより、互い違いに削って重ねろ」


俺が言う。


「分かってる。ただ、木釘を打つ位置が決まらん」


鑑定で負荷を見ながら、位置を一つずつ変えた。中央へ二本では割れやすい。左右へ三本なら耐えるが、穴が近すぎる。最終的に、太い木釘二本と皮紐の巻き締めを組み合わせる形になった。


ミーナたちも戻ってきた。蔓は三束、皮は古い寝床から二枚。さらにポロが水気のある場所で、弾力の強い白い根を見つけていた。


「これ、結ぶと縮む」


ガンツが根を引き、目を輝かせた。


「乾けばもっと締まる。車輪留めに使えるぞ」


「ぼく、役に立つ?」


「使える。どこに生えてた」


ポロは一瞬怯んだが、場所と周囲の土を説明した。ガンツは質問を重ねる。何本あったか。太さは同じか。水へ浸せば柔らかくなるか。ポロは分からないことを分からないと答えた。


「明日、残りも見よう。全部抜くなよ。根が増える分を残す」


ガンツが言うと、ポロは何度もうなずいた。


修理は翌日までかかった。


最初に車軸を組み、車輪をはめる。次に腐った底板を二枚外し、斜めの支えへ作り替える。俺の固定枠は皮を三重にし、亀裂側へ柔らかな苔を当てた。水桶は木箱の内側へ胃袋袋を張り、揺れても半分以上こぼれないよう蓋をつける。


一度目の組み立てでは、俺を載せた瞬間に固定枠が傾いた。


「設計どおりではないぞ」


「お前の重心が思ったより高い!」


「王は高みにあるものだ」


「卵の形の問題だ!」


皮紐を下へ追加し、枠を底板へ直接固定する。


二度目は動いたが、車輪が一回転するたび荷台が左右へ振れた。短い芯材を継いだ部分がわずかに曲がっている。


「失敗?」


ポロが心配そうに尋ねる。


「調整前だ」


ガンツは即答した。俺とよく似た言い訳だが、彼はすぐ車軸を外し、継ぎ目を削り直した。


ミーナは水桶へ半分だけ水を入れ、揺れ方を見た。ポロは床へ白い粉をまき、左右の車輪跡がどれだけずれるか測る。俺は荷台全体を鑑定し、負荷が一方へ偏るたび知らせた。


三度目で、ようやく荷台は真っ直ぐ進んだ。


「完成だ!」


ガンツが太い前脚を車台へ叩きつける。ミーナとポロが声を上げ、俺も枠の中で胸を張った。


「よくやった。褒めてつかわす」


「お前も働いただろ。なんで他人事なんだ」


「王だからだ」


「車軸の左が少し高いって、一晩中騒いでたくせに」


ミーナの余計な証言で威厳が崩れた。


試走は水場までの帰路で行った。ガンツが前を引き、ミーナが左、ポロが右で押す。俺は中央の枠、水桶は後ろ。空の荷室には回収した金属片と予備の蔓を積んだ。


車輪が回るたび、床の凹凸が殻へ伝わる。それでも引きずられていた頃とは比べものにならない。速度は歩くミーナと同じほどあり、途中で止まっても俺が転がらない。


「見よ! これぞ龍王の戦車――」


「共有荷台」


ガンツが訂正した。


「王の座を備えた共有荷台だ」


「固定枠だ」


「少しくらい夢を持たせよ!」


旧採掘支路の下り斜面へ入ったとき、ガンツの歩みが遅くなった。


「後ろから押すな。重さが乗る」


ミーナとポロが荷台の横へ回る。ガンツは蔓を角へかけ、四肢を踏ん張って下った。


斜面の中ほどで、右車輪が小石を踏んだ。


がくん、と荷台が傾く。


ガンツが進行方向を戻そうとした瞬間、斜面の端が崩れた。昨日までの水が土の下へ染み、表面だけ乾いていたのだ。


右車輪が沈む。荷台の重みで亀裂が走り、斜面ごと谷側へ滑り始めた。


「離れろ!」


ガンツが叫ぶ。


「離れたらアルドが落ちる!」


ミーナは左の蔓へ噛みついた。ポロも後ろから押すが、小さな体が土の上を滑る。


荷台は止まらない。谷底までは十数歩。落ちれば俺の殻だけでなく、全員が巻き込まれる。


「左へ向けろ! 壁へ当てて止める!」


俺が叫ぶ。


「曲がらん! 車軸が回ってる!」


ガンツは車台の下へ前脚を伸ばし、制動具を引いた。木片が車輪へ食い込むが、湿った土の上を滑るだけだ。


右の地面がさらに崩れた。荷台が谷へ半回転し、ミーナの体が持ち上がる。彼女は左前脚をつき、痛みに声を上げた。


最初の案は失敗した。壁へ向ける余裕がない。


「荷を捨てろ!」


「工具素材が!」


「命より先ではない!」


ポロが後部の結び目へ飛びつき、歯で蔓を切る。荷室の底板が外れ、金属片と予備材が斜面へ散った。軽くなった荷台が一瞬浮く。


だが水桶は固定されている。半分の水が谷側へ偏り、再び右へ傾いた。


「水も捨てる?」


ポロが振り返る。


水は命だ。せっかく見つけ、運んできた。だが今は全員の命を奪う重りになっている。


「捨てろ!」


ミーナが蓋を蹴り開ける。水が斜面へ流れ、土をさらに滑りやすくした。


「逆効果だ!」


ガンツが叫んだ。


荷台が加速する。


「車輪を止めるな、外せ!」


俺は気づいた。回転する車輪があるから、斜面を下り続ける。壊すことを恐れていては止まらない。


ガンツも同じ結論へ達したらしい。工具を車軸の継ぎ目へ差し込み、全体重をかけた。


「せっかく直したのによ!」


木釘が折れ、車軸が中央から外れる。右車輪が先に飛び、左車輪も横を向いた。荷台の底が土へ食い込み、激しい衝撃が俺の殻を揺らした。


それでも勢いは消えない。


「左へ!」


ミーナが右翼を大きく開き、空気を受けた。ポロは左後方の岩へ蔓を回し、自分の体ごと引く。ガンツは前から車台を壁側へ押した。


俺も枠の中で体を左へ揺らす。


四人分の力で、荷台の先が少しずつ壁へ向いた。


底板の角が岩壁へぶつかる。木が裂け、固定枠が軋む。俺の亀裂へ衝撃が走ったが、苔の当て物が受け止めた。


荷台は壁を三歩削り、谷の縁ぎりぎりで止まった。


誰もすぐには動かなかった。


ミーナの荒い呼吸。ポロのすすり泣き。ガンツの爪が岩を引っかく音。水が斜面を流れ落ちる音。


「全員、返事をせよ」


俺の声も震えていた。


「いる」


ミーナが答える。


「ぼくも……いる」


「ガンツ」


「右腕を打った。動く」


「俺も割れておらぬ」


安堵が押し寄せ、枠の中で力が抜けた。


俺たちは一人ずつ安全な場所へ移った。最初にポロ、次にミーナ。ガンツは痛めた右腕をかばいながら、最後まで荷台を支えた。俺は固定枠ごと蔓で引き上げられた。


安全な平地へ着くと、ガンツは壊れた車軸を見下ろした。


「半日どころか、作り直しだ」


悔しさで声が低い。


「すまぬ。俺が壁へ向けろと命じるのが遅れた」


「違う」


ガンツは首を振った。


「下りへ入る前に、荷台の重さを測らなかった。制動具も平地でしか試してない。俺の失敗だ」


「ぼく、水を捨てるの、もっと早くできた」


ポロも俯いた。


「私は右の地面が濡れてるって、匂いで分かったはず」


ミーナが傷ついた脚を舐めようとして止める。


誰か一人の失敗ではない。完成を喜び、平地で動いたから大丈夫だと思い込んだ。積載時、下り、濡れた地面。条件が変わるたび試すべきだった。


「次は、試走を三つに分ける。空荷、満載、斜面だ。斜面では先に綱を岩へかける。荷室と水桶は、一息で切り離せるようにする」


「車軸を壊さず止める仕組みも要る」


ガンツが続けた。


「車輪へ別々の楔を入れる。片方が沈んでも、もう片方で向きを変えられるように」


「水桶は小さく二つ」


ポロが言う。


「片方を捨てても、片方が残る」


「地面の匂いは、斜面へ入る前に私が確かめる」


ミーナも加わった。


失敗は痛かった。水と金属片の多くを失い、車軸も壊れた。だが次に変えることが四つ決まった。


ガンツは俺たちを見回し、壊れた車軸を拾い上げた。


「修理素材を集め直すまで、同行する。契約どおりだ」


「臣下ではなく?」


「まだ言うか」


「確認だ」


「共同作業者だ。それ以上は、働きを見て決める」


拒絶ではなかった。


翌日の昼までかけ、荷台を修理した。失った金属片の代わりに、ガンツは自分の予備工具を一つ潰して車軸を補強した。ポロは白い根を追加で集めたが、言われたとおり半分を土へ残した。ミーナは道沿いへ小石を積み、危険な斜面の目印にした。


俺は固定枠から荷台全体を鑑定し、重みの偏りを何度も確かめた。今度は数字がよくても、ガンツが手で確かめるまで完成と言わなかった。


帰路の斜面では、上の岩へ二本の綱をかけた。一歩進むごとに片方を締め、もう片方を送り出す。時間は三倍かかったが、荷台は傾かなかった。


水場へ戻ったとき、俺たちはもう一つ規則を決めた。


荷台はガンツの所有物だ。だが水、獲物、負傷者を運ぶときは共同で使う。誰か一人が勝手に持ち出さず、使った者が損傷を報告する。緊急時は荷物を捨ててもよい。命を守るために壊した者へ、弁償を求めない。


「俺の座は常に確保する、と加えよ」


「負傷者がいなければな」


ガンツが譲らない。


「王より負傷者を優先するのか」


「お前が言ったんだ。仲間が生きなきゃ運ぶ者がいなくなるって」


自分の言葉で封じられた。


「……よかろう。王は歩けぬ民を見捨てぬ」


「あんたも歩けないけどね」


ミーナが笑う。


荷台ができたことで、水を一度に運べるようになった。ポロは水質確認と採水、ガンツは荷台整備、ミーナは道の警戒。俺は振動を探り、素材を鑑定する。


四人の仕事が、初めて一つの流れになった。


だが、その日の帰りだった。


旧採掘支路の狭い場所へ入ると、前方から石を転がす音が近づいた。ガンツが荷台を止め、ミーナが翼を半分開く。ポロは水桶の陰へ隠れた。


闇から、黒い影が飛び出した。


片方の翼を引きずり、地面すれすれを滑る。痩せた四肢。灰黒い羽。ぎらつく目は俺たちではなく、荷台に積んだ最後の肉だけを見ていた。


「敵襲!」


ミーナが前へ出る。


黒い影は折れた翼を風で膨らませ、荷台へまっすぐ突っ込んできた。


挿絵(By みてみん)


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