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龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


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第38話 空を奪い返す三日間

転生八十三日目。左翼は七割まで開いた。


残り三割は、開くたびに根元が焼けるように痛む。ミーナは飛行禁止と言った。俺は「長距離飛行はしない」と答えた。互いに同じ意味だと思ってはいない。


夜明け前、卵殻城の地図台へ十二本の対圧杭が並んだ。


岩鎧猪の皮を巻き、晶殻の先端をつけ、内部に風袋を仕込んだ杭だ。一本で黒旗の風圧を三息だけ逸らせる。三拠点の備蓄は三日分。刻印遅延薬は十八回分。応急弁ではなく正規の風路弁が六枚。


足りるものは一つもない。だから、三日で決める。


「目的を復唱する」


グラウが地図の空環城へ爪を置いた。


「A級中継個体を倒し、帰還路を開く。S級本体は遠隔残響。追わない。空環城の完全奪還も今日の目的ではない」


「余が中継個体を押さえる」


「一人で倒す、とは言うな」


「言っておらん」


言おうとは思っていた。


ミーナが俺の左翼を見た。


「痛みは?」


「ない」


「尾が右へ曲がってる」


「少しある」


「どのくらい」


「……七」


「十段階で?」


「百段階でだ」


ミーナの爪が添え木の跡を押し、俺は声を上げた。


「十段階で六だ!」


「最初から言いなさい」


飛行は短い上昇と滑空のみ。痛みが八になれば降りる。彼女に約束させられた。


三拠点は一本の道では結ばない。卵殻城から地下水路、外部狩場から尾根道、仮治療所から旧運搬路。三方向で空環城外環を囲み、敵が一ヶ所へ向けば別の設備が働く。


一日目、俺たちは風で敵を落とすつもりだった。


空環城南の峡谷へ、対圧杭四本を打つ。ガンツの工房班が杭を岩へ固定し、グラウと狩猟班が風袋を一つずつ溜めた。セラの観測どおり、中継個体は北へ高度を上げ、胸核の光が弱まっている。


「補給穴、始まります」


セラが青い個体印を掲げた。


俺たちは空環城へ近づいた。黒い竜旗はまだ雲を覆うが、圧は昨日より薄い。外環塔には鎖冠翼竜。周囲の黒翼兵は八体。残りは巡回へ出ている。


敵がこちらを見た。


『再服従を受理する』


「誰が服従するか! 余は城を返せと言いに来た!」


『下位血統に所有権はない』


腹が立つ。だが挑発へ乗らず、俺は峡谷へ低く逃げた。


中継個体が追う。前回と同じように、俺だけを群れから切り離すつもりだ。黒翼兵四体も左右から回り込む。


「第一杭!」


グラウの合図。


工房班が綱を切る。岩鎧猪の皮が開き、溜めた風を峡谷の中央へ噴いた。俺は上昇し、敵は風の壁へ入る。


鎖冠翼竜の前翼が大きく開いた。


風壁が割れた。


こちらへ返ってくる。第一杭が根元から抜け、工房班の頭上へ飛んだ。ガンツが盾で受けるが、二人ごと斜面を転がる。


「第二、第三をずらして開け!」


グラウが修正する。同時ではなく左右から時間差。二つの風が敵の翼をねじる。


一瞬だけ高度が落ちた。


俺は胸核へ突進する。爪が結晶の縁へ当たり、薄い欠片が飛んだ。前回より深い。


だが敵は落ちなかった。後翼だけで身体を支え、前翼を畳んで風の抵抗を消す。俺の背後へ潜り、裂けた左翼へ嘴を向けた。


ミーナの風刃が嘴を横へ逸らす。一撃目。敵は回転し、尾で彼女を払う。ミーナは岩壁へ当たり、息を失った。


「ミーナ!」


俺が振り向いた瞬間、黒翼兵の刻印が対圧杭へ落ちた。紫の鎖が風袋を縛り、第四杭が味方へ向きを変える。


「伏せろ!」


逆向きの風が峡谷を薙ぐ。罠に使った石片と縄が、こちらへ飛んだ。工房班の皮盾は一撃を受けたが、縫い目が裂ける。二撃目で三人が転倒した。


俺は第四杭を壊そうと降りる。中継個体が上から落下し、進路を塞いだ。


「撤退線へ!」


グラウが叫ぶ。


「まだ胸核に傷をつけた!」


「杭四本を失った! 同じ罠はもうこちらを殺す!」


悔しかった。だが地上ではガンツが肩を押さえ、ミーナが立ち上がれずにいる。


「一日目終了! 卵殻城へ戻る!」


俺たちは煙筒を焚き、三路へ分かれた。敵は一隊を追おうとしたが、どれが本隊か分からず空環城へ戻る。


損失は杭四本、皮盾三枚。ガンツの肩打撲、ミーナの肋を痛めた。敵の胸核に浅い欠け一つ。


「失敗の理由は風量不足ではない」


戦後、ガンツが折れた杭を置いた。


「敵は風を受けるだけでなく、切って返す。強くすれば、もっと強く返される」


「なら明日は水だ」


ポロが水路図を広げる。


「上昇水路へ圧力を溜め、敵が補給穴へ入った時に三方向から噴きます。風は返せても、水の重さは消せません」


ミーナは横腹へ薬布を巻かれながら首を振った。


「一度見せた正面誘導は、もう警戒される」


「余が別方向から引く」


「左翼で?」


「短い上昇だけだ」


グラウは俺を見た。


「明日は水路班の射線が主役だ。アルドは敵を線へ入れるだけ。追わない」


「分かっている」


二日目、敵は最初から水路を見ていた。


上昇水路の噴出口三つへ、ポロが残量板を掲げる。一射一桶、全六射。外せばその分、今夜の調理水が減る。


俺は外環の低い橋を走り、中継個体へ竜圧を放った。敵は追わない。空に留まり、黒翼兵二体だけを寄越す。


一体目の爪を橋の柱で避け、二体目へ尾を当てる。一撃では止まらない。敵は左右を入れ替え、片方が俺を押し、片方が水路の弁へ刻印を投げた。


「肉声確認! 弁二、閉じろ!」


ポロが叫ぶ。水路班は命令札ではなく、本人の声と青い個体印を確認してから動く。偽命令の鎖が板へ「全開」と浮かんでも、誰も触れない。


第一射が黒翼兵を横から打った。敵は一度落ち、すぐ翼を開く。第二射を上へ避け、避けた先で中継個体が待っていた。


敵は第一射で水の角度を学んだ。


「射線を変えます!」


ポロが第三弁を半分閉じる。次の水は高くではなく、橋の下を通って噴き上がる。黒翼兵の腹へ当たり、石壁へ叩きつけた。


俺は倒れた個体へ近づかず、中継個体を射線へ誘うため外へ飛んだ。


鎖冠翼竜がようやく動く。前翼で風路を切り、後翼で加速。俺は約束どおり水路側へ戻る。


胸核の欠けが見えた。


あと一撃、そこへ入れれば。昨日の傷を広げられる。


「アルド、線へ戻れ!」


グラウの声が聞こえた。


俺は戻らなかった。


水路の射線より一段上へ昇り、敵の正面から胸核を狙う。左翼の痛みが八へ跳ねた。構わず羽ばたく。


敵は俺の突進を避けず、胸核を光らせた。


欠けは罠だった。紫の鎖が傷口から扇状に広がり、俺の四肢と翼へ絡みつく。


伏せろ。


二度目の命令。刻印遅延薬を首へ塗っていたため、身体が止まるまで一息あった。


その一息で爪を振るう。胸核へ届かず、鎖を一本切った。


次の瞬間、左翼が閉じた。


俺は落ちた。


「射て!」


落下しながら叫ぶ。ポロが第四射を放つ。水柱が中継個体へ向かうが、敵は俺の身体を爪で掴み、盾にした。


水路班の手が止まる。


『王命に従え。射撃を継続せよ』


俺の声を真似た命令が響く。


「撃つな!」


本物の俺が叫ぶ。だが中継音が重なり、どちらが本物か分からない。


グラウが黒い個体印を高く上げた。


「作戦停止! 射撃中止! 全班、肉声復唱!」


水路班が一人ずつ自分の名と担当を叫ぶ。偽命令は名前へ答えない。


中継個体は俺を地面へ投げた。背から石床へ落ち、息が消える。起き上がろうとしたところへ急降下。敵の爪が肩へ迫る。


グラウの風弾が一撃。敵の頭がずれる。ミーナの風刃が二撃目、前翼へ浅い傷。ガンツが残った対圧杭を横向きに開き、三息の風壁を作る。


敵は壁を切るが、その間に空牙狼二頭が俺を橋の陰へ引いた。


「離せ、まだ――」


ミーナが俺の頬を叩いた。


「また一人で行った!」


黄色い目から涙が落ちる。怒りで身体が震えていた。


「傷が見えたから……」


「私たちが見えてなかった!」


言い返せない。


二日目の損失は水四桶、杭二本、俺の左翼再出血、空牙狼一頭の脚傷。敵は黒翼兵一体が飛行不能、中継個体の前翼に浅傷。胸核の欠けは広がっていない。


グラウは全員の前で言った。


「今の作戦は終わりだ。三日目はアルドを囮にしない。風罠と水射線を別々に置くのもやめる」


「では何をする」


俺は治療布を噛みながら問う。


「三拠点を一つの戦場にする」


地図の三本の道へ、一本の輪が描かれた。


外部狩場の尾根で敵の高度を下げる。卵殻城の風路で横移動を縛る。仮治療所の水路で下を塞ぐ。最後に空環城工房の噴射具で回避先を狭める。どれか一つで倒そうとせず、逃げるたび次の班へ渡す。


「余の役目は」


「各班が作った隙へ一撃ずつ。次の線へ追い込んだら離れる」


「決着は?」


「誰が決めてもいい。お前でなくても」


胸が痛んだ。王である俺が倒さなければ、敗北を取り返したことにならない。そんな考えがまだ残っている。


俺はミーナを見た。彼女の翼膜にも、一日目の打撃で細い裂け目がある。ポロの水は残り二射。ガンツの杭は六本。グラウは二日ほとんど眠っていない。


「分かった。余は一撃で倒そうとしない。皆の次の一撃が届く位置へ送る」


三日目の朝、敵は勝ったつもりで外環塔へ降りていた。


俺たちは正面から姿を見せない。最初に動いたのは狩猟班だった。岩鎧猪の肉を積んだ偽荷車を尾根へ走らせる。黒翼兵三体が荷へ降りる。


空牙狼が左右の岩陰から飛び、個体印を見せながら一体ずつ別方向へ誘う。敵が偽命令を流す。


『全員、中央へ集結』


誰も従わない。各班は肉声で自分の目的を復唱する。


「尾根班、敵高度を下げる!」


「水路班、二射を保持!」


「工房班、射線三を維持!」


中継個体が異常に気づき、空環城から飛び出した。


尾根の第一班が縄矢を放つ。一矢目は前翼に弾かれる。二矢目は敵ではなく、上空の風袋へ。袋が破れ、重い灰が降る。中継個体の翼へ灰がまとわり、高度が五歩落ちた。


俺は岩陰から短く上昇し、前翼の昨日の傷へ爪を入れる。一撃だけ。敵の尾が返る前に降りる。


「次へ!」


敵は怒って追う。卵殻城の風路へ入った。


ガンツが杭二本を開く。正面ではなく左右から。敵は前翼で一方を切るが、もう一方の風が後翼を持ち上げ、身体が横へ流れる。


ミーナの風刃が同じ前翼へ一撃、二撃。二撃目で膜が裂ける。黒翼兵が彼女を守るように割り込み、刻印を投げた。


ミーナの身体が一瞬止まる。刻印遅延薬が光り、完全な命令まで一息を作る。


「私はミーナ! 前翼を裂く!」


自分の名と目的を叫び、彼女は三撃目を放った。敵の前翼が大きく裂ける。


中継個体は高度を下げ、治療所の水路へ逃げる。


ポロが第一射を撃つ。敵は二日目の角度を覚え、右へ避けた。そこには水柱ではなく、ガンツの工房射線が待っている。接着液が後翼へ当たり、動きを鈍らせた。


敵は水路班へ急降下した。ポロたちを盾にするつもりだ。


俺は間へ入る。正面衝突はしない。竜圧を胸核ではなく、敵の左目へ絞る。視界を奪われた中継個体が爪を振る。俺の肩を掠めたが、進路が半歩ずれた。


空牙狼班がポロたちを左右へ引く。盾にする相手が消えた。


「第二射!」


最後の水が下から後翼を打つ。接着液が水を吸って重くなり、後翼が閉じた。


敵はまだ落ちない。二対のうち残る翼で空環城へ戻ろうとする。


グラウが上空で待っていた。


彼は二日分溜めた風を、一発の大風弾にしなかった。小さな風弾を六つ、裂けた前翼、重い後翼、胸核の欠けへ順番に打つ。


一撃目、姿勢が崩れる。


二撃目、前翼が折れる。


三撃目、後翼の接着膜が裂ける。


敵は反撃に紫の鎖を放つ。グラウは避けず、個体印を前へ出した。


「俺はグラウ。指揮を続ける!」


刻印遅延薬が一息を作る。その一息で四撃目が胸核へ入った。


セラの警戒矢が五撃目。胸核の欠けが亀裂になる。


ガンツの対圧杭が最後の一本を射出し、六撃目として亀裂へ突き刺さった。


それでも敵は杭を引き抜こうとする。A級上位は、ここまで傷ついても終わらない。


俺の出番だ。


翼を開く。左の痛みは九。ミーナの「降りて」という声が頭をよぎる。


俺は高く飛ばない。空環城の外壁を蹴、落ちる敵と同じ高さへ一瞬だけ並ぶ。


敵の爪が来る。最初の一撃を右前脚で受け、鱗が裂ける。二撃目の尾を身体を沈めて避ける。胸核へまっすぐ行けば、また読まれる。


俺は杭を押さず、尾で横へ叩いた。


杭が亀裂の中で捻れた。


胸核が砕ける。


紫の鎖が空中でほどけ、黒い竜旗が大きく揺らいだ。


中継個体はまだ俺へ噛みつこうとした。ミーナの風刃が顎を逸らし、グラウの小風弾が首を押す。ガンツの地上網が脚へ絡み、空牙狼班が左右から引く。俺は最後に竜圧を胸へ当て、巨体を石床へ伏せさせた。


動かなくなるまで、誰も近づかなかった。


黒翼兵たちは首の鎖印が薄れると、戦うのをやめた。倒れた仲間を抱え、北へ逃げる者。地面へ伏せたまま動けない者。俺たちは追わない。


勝鬨より先に、負傷者を数えた。


俺は全身打撲、左翼再出血。ミーナは翼膜裂傷。空牙狼三頭、工房班二名、水路班一名が軽傷。対圧杭は十二本から二本。備蓄は残り一日半。


空環城への帰還路は開いた。だがS級の黒旗本体は北方に残り、雲上の圧も完全には消えない。


「余が倒した、とは言えんな」


俺は砕けた胸核を見た。


「最後に触ったのはお前だ」


グラウが言う。


「最後に触っただけだ。一日目の傷、二日目の学び、尾根の灰、ミーナの三撃、水二射、工房射線、お前の六撃、セラの矢、ガンツの杭。どれが欠けても届かなかった」


口にして、悔しくない自分に気づいた。


むしろ胸の奥が熱い。俺の命令どおりに動いたからではない。皆が目的を復唱し、偽命令を拒み、失敗を直し、自分の一撃を次へ渡した。


「反省は」


ミーナが傷ついた翼で俺を小突く。


「二日目に単独突入した。胸核の傷しか見ず、水路班も退路も見失った。敵に余を盾にされ、貴重な射線を止めた」


「次は?」


「攻撃前に、次の班の位置を声に出す。一撃で離れる。痛みが八なら本当に降りる」


「今日は九だった」


「最後だけは必要だった」


「そうやって例外を増やすのよ」


叱られながら、俺は笑った。涙も出ていた。敗北した空で、今度は皆と勝ったのだ。


三拠点の設備時計を同じ鐘へ合わせ、肉声復唱と個体印を共通の通信規則にした。戦争が終わっても、物資は同じ時刻表で運べる。戦いのために繋いだ道が、明日から生活の道になる。


その時、胸の奥で何かが弾けた。


鱗の隙間から白い光が漏れる。翼の傷が治ったのではない。身体の奥から、今の形を脱ぎ捨てろと迫る熱だ。


俺は鑑定を自分へ向けた。


【鑑定結果】

名前:アルド

種族:翼竜(個体ランクA)

Lv:40

進化条件:格上との敗北、準備、再戦辛勝、決定的経験を達成

進化候補:若き天空竜

必要状態:安全区画、四日分の栄養、継続給水、外部防衛、長時間の無防備


「待って。四日分は、共同体全体の四日分じゃない」


ポロが在庫板を抱えて走ってきた。若き天空竜一頭の進化食へ換算した必要量だという。手元の高栄養食は一・五日分。不足は二・五日分だった。


セラが、奪還した補給路の先に旧外環の封鎖倉があると報告した。俺たちは眠気が深くなる前に回収班を三つへ分けた。グラウとポロが封鎖倉から乾燥獣肉と蜜樹脂を一日分回収する。人間支援班は交易用の穀肉餅を〇・七五日分、空牙狼班は次の狩りに備えた燻製肉を〇・七五日分、共同備蓄へ移す。これで既存在庫一・五日分と合わせ、ちょうど四日分になる。


ただし、無償ではない。健康な成体の配給を二日間だけ通常の四分の三へ落とし、工房は弁と医療具以外の製造を停止する。空牙狼班へは次回狩猟の優先分を返し、人間支援班へは医薬品と安全な交易路情報で返済する。その条件を木札に刻んでから、俺は配給板へ爪印を押した。


喜びが込み上げた直後、猛烈な眠気が身体を沈めた。


「今は寝ている場合ではない!」


俺は石床へ爪を立てた。


「空環城を取り戻し、負傷者を運び、黒翼兵の――」


前脚から力が抜ける。


グラウが俺の肩を支えた。


「今度は俺たちが決める。進化を先にする」


「王命だ、余は寝な――」


言い終える前に、視界が白く閉じた。


挿絵(By みてみん)


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