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龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


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第20話 昨日の怪物、今日の獲物

赤尾の飛行魔獣は、人間を空から追い立てていた。


転生三十三日目。卵殻城の前哨は、地上へ向かって口を開けた半円形の岩棚だ。幅は二十歩、左右は切り立った壁、正面には膝ほどの草が生えた斜面が続く。その斜面を人間三人が駆け下りてくる。


先頭は長身の男。革鎧の上に割れた胸当てを着け、短剣を抜いている。二人目は弓を持つ女で、矢筒は空。最後の小柄な男は右脚を引きずり、二人に支えられていた。


その頭上、赤い尾羽が円を描く。


翼を広げれば荷台二台分。鉤形の嘴、灰褐色の胸毛、岩を掴める四本の爪。第九日目、俺たちはあれに保存食を差し出し、狭い裂け目へ逃げた。グラウは俺を守って傷を悪化させ、今も飛べない。


飛行魔獣が片脚を開いた。


掴んでいた頭大の岩が落ちる。


「右へ走れ!」


俺の声が人間へ通じたかは分からない。三人は喋る幼竜に驚き、一瞬だけ足を止めた。


岩が迫る。


ミーナが斜面へ飛び出し、前脚で先頭の男を突き飛ばした。人間たちが右へ崩れた直後、岩は今いた場所へ落ち、土と草を吹き上げる。


飛行魔獣が鳴いた。獲物を奪われた怒りに満ちた、金属を擦るような声。


俺は鑑定を使う。


第九日目には「赤尾飛行魔獣」としか読めなかった輪郭が、今は正式な種族名まで開く。同じ個体だ。あの時のレベル12から18へ成長し、以前は「投石狩り」と見えた技能も、岩落としを核にした狩猟技術だと分かる。急降下と鉤爪捕縛も、前回より明らかに強い。


【鑑定結果】

種族:赤尾岩狩り鳥(個体ランクC、旧鑑定名:赤尾飛行魔獣)

レベル:18(第九日目:レベル12)

HP:218(ランクC)

MP:205(ランクC)

攻撃:52(ランクD)

防御:49(ランクE)

速度:67(ランクD)

技能:岩落とし:ランクD Lv6(旧鑑定名:投石狩り:ランクE Lv5)

技能:急降下:ランクD Lv4(第九日目:ランクD Lv2)

技能:急上昇:ランクD Lv4

技能:尾羽安定:ランクD Lv5

技能:鉤爪捕縛:ランクD Lv7(第九日目:ランクE Lv4)


「C級、速度六十七! 岩落とし、急上昇、尾羽で姿勢を直す。爪に掴まれたら運ばれる!」


俺は叫び、人間にも聞こえるよう翼を指した。


長身の男が短剣をこちらへ向ける。視線は俺、ミーナ、入口のガンツたちを順に移り、敵か味方か決められずにいる。


「魔物が……喋った?」


「驚くのは後だ!」


俺が一歩前へ出ると、男の短剣が上がった。


ミーナが間へ入る。


「その武器を下ろして。私たちはあなたたちを食べない。でも、上のあれは食べる気よ」


「翼猫まで……」


弓の女が息を呑む。


赤尾が二つ目の岩を掴むため、斜面上の露岩へ降りた。


交渉する時間はない。


「交換条件だ」


俺は人間たちへ告げた。


「今は互いに攻撃しない。お前たちは負傷者を中央の窪地へ運び、俺たちの指示で伏せる。我々はあれを退ける。戦いが終わるまで武器をこちらへ向けるな」


長身の男は短剣を握ったまま問う。


「なぜ助ける?」


「困っている者を見捨てれば、王の名が廃る」


「王?」


「説明は後だ!」


赤尾が岩を持ち上げる。


男は迷い、やがて刃を下へ向けた。


「分かった。戦いが終わるまでだ」


「それでよい。ガンツ、中央へ鱗板! ポロ、泥床! グラウ、ミーナと下降風を作れ!」


ガンツは前哨中央の浅い窪地へ、水蛇の鱗板を三枚立てた。人間たちがその陰へ入る。ポロは貯水袋の水を全部使わず、斜面下の土へ細く流す。白灯茸の粘液を混ぜ、足を取る滑る泥を作った。


「水は半袋だけです!」


「十分だ。落とす場所を三歩幅に絞れ!」


グラウは高台へ登り、傷んだ翼を開かず風袋の管を上へ向けた。ミーナは前哨の反対側へ立ち、自然に吹き上がる谷風を読んでいる。


「下降風なんて作れるの?」


ミーナが問う。


「俺の風は弱い。お前が上の流れを切り、俺が袋で下へ押す」


「失敗したら、あいつを速くする」


「分かっている。尾羽が右へ開いた瞬間だ」


二人は目を合わせ、頷いた。


俺は空を見上げた。


飛べない。


昨日、翼を開いただけで背が痛み、跳躍では身体が回った。空にいる敵へ牙も爪も届かない。レベルが上がり、卵から幼竜になっても、できないことは山ほどある。


以前の俺なら、そこを認めるのが怖くて威圧を放っただろう。


「俺は着地点を守る」


声にすると、不思議と恥ずかしくなかった。


赤尾が岩を落とす。


狙いは俺ではなく、鱗板の陰の人間たちだ。俺たちが庇うと見抜き、動けない獲物を狙っている。


「散れ!」


人間たちが左右へ動く。負傷した男だけが遅い。


俺は跳躍した。


一歩半。昨日の試験で決めた限界を越えず、岩の軌道と男の間へ入る。岩を砕く力はない。身体で受ければ潰れる。


尾を左へ出し、空中で肩を右へ向ける。前脚で岩の側面を押した。


軌道がわずかにずれる。


岩は背の鱗をかすめ、地面へ落ちた。鋭い角が皮膚を裂き、熱い痛みが走る。


「アルド!」


ポロの声。


「浅い! 続けろ!」


実際には息が止まりそうだった。だが脚は動く。俺は無理に敵へ突進せず、着地点へ戻った。


赤尾が降下する。


ミーナが上向きに風刃を放つ。敵は左翼を畳んで避け、尾羽を右へ開いた。


「今!」


グラウが風袋を放つ。ミーナが谷風の上端を切る。二つの流れがぶつかり、赤尾の背へ下向きの渦が乗った。


高度が下がる。


俺の頭上まで十歩、七歩、五歩。


「ガンツ、着地点!」


ガンツが泥床の左右へ石杭を立て、その間へ水蛇革の縄を渡す。赤尾は泥を避けようと翼を広げた。


尾羽が反対へ開く。


姿勢を戻した。


「上がるぞ!」


グラウの警告どおり、赤尾は下降風を利用して翼へ力を溜め、一気に急上昇した。縄の上を抜け、俺の爪が届かない高さへ戻る。


最初の作戦は破られた。


「尾羽で渦を逃がしたわ」


ミーナが歯を食いしばる。


「同じ風は通じない」


「次は尾羽を開かせない」


俺は言った。


「あいつは姿勢を直す前、必ず岩を捨てて両脚を畳む。岩落としの直後なら、尾で安定する前に風を当てられる」


「でも、また人間を狙う」


ポロが鱗板を見る。


「なら、狙わせる」


長身の男が陰から出た。


「俺が走る。あいつは傷ついた仲間より、動く大物を先に狙う」


「信用できん」


俺は即答した。


「お前が囮のふりをして逃げれば、こちらの陣が開く」


男の顔が強張る。


「助けてもらっているのは分かる。だが俺も仲間を守りたい」


弓の女が男の腕を掴んだ。


「隊長、脚をやられたら三人とも帰れない」


「このまま隠れても、岩で潰される」


言い合う二人の間で、負傷者が息を荒くしている。俺は彼らの目的も関係も知らない。命令へ従わせる資格はない。


「条件を決める」


俺は男を見る。


「走るのは泥床の外周だけ。三歩ごとに石印を置く。その内側へ入るな。岩が離れたら伏せろ。ミーナが退けと言ったら理由を問わず鱗板へ戻る」


「分かった」


「お前の名は?」


「まだ教えられない」


警戒は当然だ。


「なら隊長と呼ぶ。俺もお前を信用していない。だが今は同じ敵を落とす」


隊長は短く頷いた。


二度目の攻防が始まる。


隊長が斜面を横切る。赤尾の目が追う。人間一人なら爪で掴めると判断したらしく、今度は岩を持たずに降下した。


「岩落としではない!」


ポロが叫ぶ。


敵も作戦を変えた。四本の爪を前へ出し、隊長を直接攫うつもりだ。


「隊長、伏せるな! 泥床へ沿って走れ!」


俺が指示を変える。


赤尾の爪が男の背へ迫る。ミーナが横から風を当てるが、敵は翼を畳み、速度を増した。


グラウは風袋を使わない。


「まだだ!」


隊長が泥床の端を踏む。片脚が滑り、身体が低くなる。赤尾の爪が頭上をかすめた。


「今、上へ!」


ポロが水袋の残りを泥床へ一気に流した。泥が跳ね、赤尾の腹と爪へ付く。空気抵抗が増え、敵の速度が落ちる。


ガンツが縄を引く。二本の石杭の間から、低く張った水蛇革が持ち上がった。


赤尾の左脚が絡む。


巨体が横へ傾く。右翼で地面を叩き、縄を切ろうとする。ガンツは杭を抱え、尾で補助縄を巻いた。


「重い! 長くは持たん!」


ミーナが右翼へ風刃を撃つ。一撃目は羽毛に弾かれる。二撃目で外側の羽が三枚切れた。


赤尾は脚を捨てるように身体を回し、革縄を爪で裂いた。拘束から抜け、泥床を蹴って上がる。


「急上昇する!」


グラウが風袋を開く。ミーナも同時に翼の上へ下降風を重ねた。


尾羽が開きかける。


だが泥が付着し、右の赤羽二枚が動かない。姿勢を直せず、高度は三歩で止まった。


俺の跳躍が届く。


「アルド、翼根!」


グラウの声。


俺は走った。直進五歩。方向転換なし。泥床の手前で後ろ脚を縮め、尾を下へ置く。


跳ぶ。


飛べはしない。だが落ちてくる敵へ、一歩半の高さを足せば届く。


前脚が赤尾の胸毛を掴んだ。爪が滑る。噛みつく場所は羽ではない。翼と胴がつながる、薄い皮膚。


牙を立て、肩ごと引く。


赤尾が絶叫し、空中で身体を回した。


俺は振り落とされまいと噛み続ける。嘴が背へ届き、昨日岩で裂いた場所をさらに抉った。激痛で顎が緩む。


「離すな!」


自分へ命じた。


赤尾の爪が脇腹を掴む。鱗が軋み、身体が持ち上がる。


ミーナが反対の翼へ飛びついた。グラウは飛べない身体で高台から滑り、尾羽を嘴で咥える。ガンツが切れた縄を赤尾の脚へ巻き直し、ポロが泥を爪の下へ投げる。


一度目の拘束は外れた。


二度目、赤尾は嘴でガンツを狙う。ガンツが鱗板で受ける。板に穴が開き、嘴の先が肩をかすめた。


三度目、敵は片翼だけで羽ばたき、ミーナを壁へ打ちつけようとする。彼女は自分から爪を離し、風で着地をずらした。負傷した肩を守りながら、すぐに尾側へ回る。


「右翼三枚損傷! 左の付け根をもっと裂け!」


グラウが叫ぶ。


俺は顎を一度だけ離し、同じ傷へ噛み直した。連続三回まで。試験で決めた限界を守る。


一回。


皮膚が裂ける。


二回。


翼骨が軋む。


赤尾の嘴がまた背へ来る。俺は尾で敵の首を押し、直撃を避けた。嘴は肩の鱗を削る。


三回。


翼根の腱が切れた。


左翼が力を失い、赤尾の胸が泥床へ落ちる。


「頭を上げさせるな!」


ガンツが鱗板を首へ載せ、全体重をかける。ミーナの風が嘴を横へ押す。グラウは尾羽を地面へ固定し、ポロが水蛇革の輪を両脚へ掛けた。


赤尾はまだ暴れた。


爪で泥を掻き、尾を振り、右翼を三度床へ打つ。一打目で鱗板がずれ、二打目でポロが転ぶ。三打目は俺が前脚で翼の関節を押さえ、動きを止めた。


「もう飛べん。降伏するなら」


言葉が通じる相手ではない。


赤尾は最後まで嘴を開き、負傷した人間へ首を伸ばした。


俺は躊躇を捨て、喉へ噛みついた。


ガンツの木槌が嘴の根元を打つ。ミーナの風刃が薄い喉皮を裂く。グラウが頭を固定し、ポロが革輪を締める。


巨体は何度か痙攣し、やがて動かなくなった。


【鑑定結果】

種族:赤尾岩狩り鳥(個体ランクC)

HP:0(戦闘不能)

状態:死亡


昨日の怪物が、今日の獲物になった。


それでも俺は勝ち鬨を上げず、その場へ腹這いになった。背中の傷から血が流れ、四本の脚は震え、顎は三度の噛みつきで閉じにくい。


「人間の傷を先に見ろ」


俺が言うと、ミーナが険しい顔をした。


「あなたも二日戦闘禁止よ」


「分かっている。今度は勝手に火を吐かん」


「火だけじゃなく、跳躍も噛みつきも禁止」


「王に食事まで禁じる気か」


「柔らかいものなら許す」


ポロが人間の負傷者へ近づく。弓の女は警戒して短刀を抜いたが、隊長が腕を押さえた。


「待て。こいつらは俺たちを庇った」


「魔物よ」


「分かってる。だが、あの幼竜は岩を背で受けた」


彼らはまだ武器を捨てない。俺たちも牙と爪を見せたままだ。助けたからといって、すぐ信じ合えるほど簡単ではない。


「薬はない」


ポロが申し訳なさそうに告げる。


「でも、澄んだ水と止血布ならあります。右脚を見せてもらえたら、洗えます」


人間側で言葉が通じた。負傷者が隊長を見上げる。


「お願いします」


初めて、明確な同意があった。


ポロとミーナが傷を洗う間、ガンツとグラウは赤尾を解体した。肉は保存庫へ運べば五日分。長い風切羽は保存庫の風路を広げる。尾羽は下降風の試験具。中空の骨は、俺とグラウの滑空訓練具へ使える。爪は荷台の固定具、嘴は石を削る工具になる。


「前は肉を捨てて逃げた」


ミーナが赤い尾羽を見つめた。


「今回は水半袋と縄一本、鱗板一枚で倒した。傷はあるけど、誰も運べなくなってない」


「俺が強くなったからだ」


胸を張ると背が痛み、顔が引きつった。


「それだけ?」


「……下降風、泥床、杭、縄、人間の囮、全員の判断がつながったからだ」


「よろしい」


ミーナが満足そうに頷く。


反省点も多い。最初の下降風は尾羽で逃がされた。人間が止まったせいで岩の回避が遅れたが、こちらが言葉の通じ方を確かめず叫んだことも原因だ。隊長の囮案を疑いすぎれば機会を失い、逆に無条件で受け入れれば陣を開けていた。交換条件と走る範囲を決めたことで、互いに警戒したまま協力できた。


俺の跳躍も、単独なら届かなかった。敵を下げ、泥で尾羽を止め、縄で脚を引き、ようやく翼根へ届いた。強くなったとは、何でも一人でできることではない。以前失敗した場所で、仲間の力を受け取って自分の一手を置けることだ。


戦いで経験を得て、レベルが十一へ上がった。筋力も速度も増えたが、背部裂傷のため二日間は戦えない。飛行と火炎は依然として不可。短距離跳躍だけが、実戦で狙った場所へ届く水準になった。


負傷者の処置が終わる頃、斜面の上空を別の影が横切った。


赤尾よりはるかに大きい。


雲の下を一度旋回しただけで、谷の風が止まった。翼の輪郭すら霞むほど高いのに、胸の奥へ圧が届く。


鑑定を向けようとした瞬間、頭に鋭い痛みが走った。


見えたのは、個体ランクAを示す一文字だけ。


「見るな」


グラウが俺の頭を翼の陰へ押した。


「あれは今の俺たちが戦う相手ではない」


影は降りてこず、北の空へ消えた。俺たちを獲物と見なさなかったのか、観測しただけなのか分からない。経験も何も得ていない。


昨日の怪物を越えても、その上には次の空がある。


緊張が戻る中、人間の隊長が短剣を鞘へ収めた。


こちらを完全に信じた顔ではない。だが刃先はもう俺へ向いていない。


「俺たちは、仲間を捜している」


隊長は慎重に言葉を選んだ。


「この洞窟の奥へ連れていかれた。名はエド。空路と仕掛けに詳しい若者だ」


ポロが群れの進路を刻んだ石札を抱え、俺の横へ出た。


「ぼくも仲間を探してる。三本爪の印か、咳をしてる地耳獣を見なかった?」


隊長はすぐには答えず、石札の形を確かめた。


「今は分からない。通った場所を地図にしてから答える。それでいいか」


「うん。ぼくも奥の水路を見せる」


互いの捜索情報が、次に交わす条件の一つになった。


俺たちも武器を下ろし切らないまま、その名を聞いた。


知らない人間。知らない目的。まだ加入も協力も決まっていない。


それでも外の世界へ続く最初の会話が、ようやく始まった。


挿絵(By みてみん)


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