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龍王の卵に転生した俺は各地の天才をスカウトして王国を築く  作者: バナナ


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18/61

第18話 殻を破る龍王

水蛇の牙が壁を貫いた。


転生二十九日目。卵殻城へ黒い水が噴き込み、炉前の石皿を押し流す。二本の牙の間から巨大な鼻先が現れ、外壁を左右へ押し広げた。昨日切り離した下段を狙ったのだ。


「第一罠へ誘導!」


俺の声で全員が動く。


ガンツが石槌で床板を外し、顎罠の縄を露出させた。ミーナは水蛇の左目へ風刃を撃ち、頭を炉側へ向ける。グラウは高い棚から風袋を一つ転がし、ポロは水流弁へ続く退避革を腰へ結んだ。


水蛇は一度目の風刃を瞼で弾いた。二度目を首の鱗で受け、ミーナへ頭を振る。牙が床を削り、石片が翼猫の腹をかすめた。


「こっちよ、鈍い蛇!」


ミーナは傷の治った前脚で壁を蹴り、顎罠の上を跳ぶ。


水蛇の口が追って開いた。


ガンツが縄を引く。床下から石噛みの牙を使った二本の枠が立ち上がり、上顎と下顎へ噛み合う。水蛇の牙が枠の溝へ入り、頭が床へ固定された。


「止まった!」


ポロの声。


だが喜ぶには早い。


水蛇の尾が壁の向こうで大きく振られた。次の瞬間、内側から石壁が爆ぜる。長い尾が横薙ぎに入り、顎罠の支柱へ直撃した。


一本目が折れる。


ガンツは予備杭を打ち込もうとするが、二撃目の尾が床を跳ねた。石槌を持つ腕へ破片が当たり、身体がよろめく。


「ガンツ、下がれ!」


「顎はまだ片方止まっている!」


水蛇が首をひねる。右の枠だけが牙へ食い込み、左は外れた。決めた条件では、片牙だけなら第二段へ進まない。


「罠縄を切れ! 一度退く!」


俺が命じる。


ミーナが振り返った。目には「本当に言えた」という驚きが一瞬浮かぶ。


ガンツが縄を切る。右枠が外れ、水蛇の頭が自由になる。俺たちは内壁の後ろへ下がった。


だが水蛇は追わず、口を大きく開けた。鱗の表面が白く曇り、古い皮が頭から剥がれ始める。


「脱皮です!」


ポロが叫ぶ。


罠で傷ついた顎の薄皮ごと、水蛇は外皮を脱ぎ捨てた。新しい鱗は青黒く濡れ、罠の擦り傷も消えている。


【鑑定結果】

種族:深層水蛇(個体ランクB)

Lv:28

HP:287(ランクB)

MP:261(ランクB)

攻撃:80(ランクD)

防御:91(ランクD)

速度:63(ランクD)

技能:水圧操作:ランクC Lv3

技能:脱皮防御:ランクD Lv8

技能:熱源感知:ランクD Lv6

技能:竜脈嚥下:ランクC Lv1

状態:脱皮直後、鱗硬化前


「傷は消えていない。体力を三十七削った。新しい鱗はまだ柔らかい!」


俺が共有すると、ガンツは折れた支柱を見た。


「第一罠は終わりだ」


「なら、罠の場所を変える」


ミーナが脱皮殻へ風を当てた。巨大な皮が持ち上がり、水蛇の顔へ張りつく。


「今!」


グラウが二つ目の風袋を裂く。横風が脱皮殻を巻き、水蛇の視界を塞いだ。ガンツは残った顎枠を一本だけ持ち上げ、首の下へ楔として差し込む。顎を挟む罠ではなく、頭を持ち上げさせない支えへ変えたのだ。


水蛇は殻を噛み破り、牙へ切り替えた。右の牙がガンツの肩を狙う。


ミーナが横から体当たりし、軌道を逸らす。牙はガンツの尾を浅く裂いた。赤い血が石床へ飛ぶ。


「ガンツ!」


ポロが弁から離れかける。


「役目を守れ!」


ガンツ自身が怒鳴った。


「尾は動く! 弁を閉じろ!」


水蛇が三度息を吸う。


「呼吸一!」


グラウが数える。


ポロは水流弁の柄へ飛びついた。灰を撒いた足場でも、黒水が流れ込めば小さな脚は滑る。


「呼吸二!」


ポロが柄を押す。動かない。水蛇は前回の囮戦で弁の位置を覚え、尾を水路の奥へ差し込み、逆流させていた。弁の向こうから水圧がかかっている。


「閉まりません!」


「縄を引け!」


ガンツが叫ぶ。退避杭へ結んだ補助縄をミーナが咥え、グラウが両脚で踏む。俺も担架の固定革へ殻を押しつけ、重みをかけた。


「呼吸三!」


全員で引く。


弁が半分閉じた。


水蛇が水球を吐く。完全には止まらない流れが球へ集まり、内壁へ迫る。


グラウは三つ目の風袋を使わなかった。決戦後の退路用だ。


「右へ逃がす!」


彼は壊れた外壁の斜面を示す。ミーナが風刃を水球の左端へ当て、ガンツが石板を盾のように斜めへ立てた。水球は板へぶつかり、右の排水溝へ流れる。


全部は逸らせない。


散った水圧がポロを弁から剥がした。腰の革が伸び、退避杭へぶら下がる。小さな身体が水面を二度跳ね、壁へ打ちつけられた。


「ポロ!」


俺の視界が熱くなる。


水蛇はそれを見ていた。頭を弁側へ向け、動けないポロを狙う。俺を守る仲間から一人ずつ崩すつもりだ。


ミーナが水蛇の鼻先へ飛び乗った。爪を新しい鱗の隙間へ入れる。水蛇は頭を振り、彼女を壁へ投げつけようとする。


「ポロを離せ!」


ミーナは爪を抜かず、肩を鱗へ押し込んだ。尾が横から来る。


グラウが高台から飛び降りた。飛行ではない。傷んだ翼を閉じたまま、重力と風袋の革紐で軌道を変える短い滑空。嘴でミーナの襟を掴み、尾が通る直前に二人で床へ落ちた。


尾撃は高台の支柱を砕いた。グラウの固定帯が切れ、古傷から血が滲む。


「全員、まだ動けるか!」


「肩を切った。でも動ける!」


ミーナが答える。


「打撲です。脚は動きます!」


ポロは退避革を辿り、弁の足場へ戻った。


「尾の傷だけだ」


ガンツが木槌を構える。


「翼は悪化した。だが一度なら跳べる」


グラウが嘴の血を拭う。


俺も怖い。殻の亀裂は固定帯の下で開き、温かな液が漏れている。共鳴を使えば、今度こそ割れる。


「第三段へ進む」


ミーナが俺を見る。


「理由は?」


拒否権を使うか判断している。


「弁は半分閉じ、水球の量が減った。水蛇は脱皮を一度使い、鱗は硬化前。全員が動ける。顎下の隙間は見えている。だがポロがもう一度流されたら撤退する。共鳴は一回だけ」


ミーナは息を整え、頷いた。


「進む。十息で終わらなければ退く」


水蛇は二本の牙を床へ突き立て、首を持ち上げた。新しい鱗が硬化し始め、青から黒緑へ変わる。時間がない。


ガンツが残った顎枠を木槌で叩く。一本目は鱗に弾かれた。二本目で首の下へ滑り込み、頭が一瞬浮く。


「隙間が見えた!」


顎下には、脱皮で薄くなった乳白色の鱗が一列ある。前回ミーナが見た弱点だ。


水蛇は身体を捻り、まず牙をミーナへ向けた。彼女が左へ跳ぶと、すぐ尾へ切り替える。ミーナは読んでいた。床へ伏せ、尾の上へ風を当てて軌道を数指分だけ上げる。


尾はガンツの角をかすめ、壁を砕いた。


次に水圧。眉間が白く光る。


「今だ、アルド!」


俺は竜圧を放たなかった。


水蛇の圧へ殻響を合わせる。敵の鼓動、水門の振動、眉間の結晶が魔力を吸う周期。全てが一本の波になる瞬間へ、自分の震えを重ねた。


痛い。


殻の亀裂が上下へ走る。


それでも一呼吸だけ、波を保つ。


水蛇が止まった。


「一!」


ミーナの風刃が顎下へ入る。薄い鱗が一枚割れた。


ガンツの木槌が同じ場所を叩く。二枚目が砕け、赤黒い肉が覗く。


グラウが最後の風袋を傷口へ押し込み、留め具を嘴で引いた。蓄積した風が内側で爆ぜる。水蛇の首が膨らみ、傷口から血と水が噴き出した。


「二!」


共鳴が切れた。


水蛇は止まらない。傷ついた首を振り、グラウを壁へ叩きつける。嘴から血が飛ぶ。


「十息まで退かない!」


ミーナが叫び、傷口へ爪を入れ直す。


「三!」


水蛇の右牙が彼女の肩を裂く。ミーナの身体が赤く染まる。それでも離れず、風を傷の奥へ送り続ける。


「四!」


ガンツが二撃目。水蛇の首が床へ落ちる。


尾が来る。ガンツは避けず、石板で受けた。板が割れ、尾が彼の脇腹へ当たる。大きな身体が三歩飛ぶ。


「五!」


ポロは弁を離れた。


一瞬、俺は止めようとした。だがポロが向かったのは水蛇ではない。半開きの弁へ絡んだ脱皮殻を、石小刀で切っている。殻が水圧を受け、弁を押し戻していたのだ。


「六!」


脱皮殻が切れる。弁が最後まで閉じた。


水蛇の水圧が消え、巨体を支えていた流れが止まる。腹が石床へ落ちた。


「七!」


グラウが壁から起き上がり、傷んだ翼を一度だけ開いた。風ではなく、自分の体重を乗せた突進。嘴が顎下の裂け目へ深く刺さる。


水蛇が絶叫した。


「八!」


ミーナが傷口を横へ裂く。ガンツが最後の力で木槌を振る。


「九!」


水蛇の尾が床を打ち、全員を浮かせた。俺の担架が横倒しになり、孵化床の縁へ転がる。


「十! 退いて!」


ミーナの撤退命令。


ガンツが俺を拾い、グラウがポロを引く。ミーナは最後尾で水蛇の頭を見ていた。


水蛇は追おうとした。


だが首が持ち上がらない。閉じた弁の向こうで水だけが轟き、顎下から流れた血が床の溝を赤くする。尾が一度、二度、弱く石を叩いた。


金色の目が俺を見た。


敵意か、悔しさか、もう分からない。


三度目の尾は動かなかった。


【鑑定結果】

種族:深層水蛇(個体ランクB)

HP:0(戦闘不能)

状態:死亡


勝った。


歓声を上げる者はいなかった。


ミーナの肩から血が流れ、ポロは右脇を押さえ、ガンツの尾と脇腹には裂傷、グラウの翼は固定帯ごと垂れている。俺も殻が上下に割れ、意識が遠い。


「傷を先に」


俺はそれだけ言った。


薬は三包。ミーナの肩へ一包、グラウの翼へ一包。ポロの打撲は冷水布、ガンツの裂傷は圧迫止血で抑え、最後の一包は翌日の再処置へ残す。水流弁を少しずつ開くと、黒い濁りの後から澄んだ温水が流れた。いきなり貯水槽へ入れず、最初の流れは腐食水処分槽へ捨てる。


水位が下がると、水蛇の尾の後ろにあった横穴が膝の高さまで現れた。入口の泥には、薄い三本爪の印がもう一つ残っている。ポロは飛び込みそうになったが、負傷者の治療と水質確認が終わるまで待つと、自分から薬箱を置いた。


戦利品の配分も、その場で決めた。


肉は解体し、六日分の食料へ。鱗は外壁と新しい荷台。毒牙は薬棚で封印し、薄めて解毒剤の試験に使う。眉間の竜脈結晶は孵化床へ置く。


「アルドが全部吸うの?」


ミーナが肩を押さえながら問う。


「結晶は孵化に使う。だが残った欠片は炉と水路へ回す。俺一人の勝利ではない」


「ようやく分かってきたわね」


彼女は笑おうとして、痛みに顔をしかめた。


反省も残した。第一罠は一度で壊れた。敵の脱皮を想定していなかった。弁は脱皮殻で戻され、ポロが現場で気づかなければ失敗していた。共鳴後に水蛇が動いたのも予想どおりだったが、十息で倒せなければ全員がさらに傷を負った。


勝てたのは作戦が完璧だったからではない。壊れた後に、役割を捨てず、目的だけを守ったからだ。


竜脈結晶を孵化床へ置いた瞬間、俺の殻が内側から光った。


【鑑定結果】

孵化条件達成

龍王卵 レベル7 → 幼竜 レベル10

決定的経験:格上個体・深層水蛇への辛勝により達成

付随経験:共同体防衛、水脈回復

孵化床の熱支援:達成

孵化床の栄養支援:達成

孵化床の安全区画支援:達成

変態移行:開始


身体が熱い。


殻の亀裂から光が漏れ、孵化床の栄養液が蒸気になる。俺は喜びを叫ぼうとしたが、声が出ない。殻響の感覚も一時途切れ、ミーナたちの足音が急に遠くなった。


感覚を失う。


分かっていたはずなのに、恐怖で暴れそうになった。内側の爪を動かしても、自分の身体なのか分からない。殻の中が柔らかな熱で満ち、意識が溶けていく。


「アルド、聞こえる?」


ミーナの声がかすかに届く。


「返事しなくていい。ここにいるから」


ポロが栄養液を足す音。ガンツが内壁の損傷へ板を当てる音。グラウが交代表を読み上げる声。


「最初の一刻、俺が水蛇側。ミーナは治療。ポロは水と床。ガンツは壁。次は交代する」


人間側の石鈴が一度鳴った。


「動きあり」


グラウの声が緊張する。


外では三人の観測者が、倒れた水蛇を見て岩棚から降りかけていた。ミーナが傷ついた身体で赤布を振り、近づくなと示す。人間は弓へ手を伸ばしたが、孵化床を囲む四人を見て止まった。


俺にはもう見えない。


闇の中で、時間だけが過ぎた。


腹が減る。喉が渇く。骨が内側から組み替わり、皮膚の下を熱い針が走る。背中に二つ、肩に二つ、尾の付け根に一つ。今までなかった場所が痛む。


途中、外壁へ小型の甲殻獣が寄ってきた。水蛇の血の匂いを追った群れだ。グラウが風袋の空革を振って音を出し、ミーナが一匹だけ倒す。ガンツは追わず、侵入口を鱗板で閉じる。ポロは俺の床を離れず、温度が下がるたび炉管の弁を調整した。


四人は負傷している。それでも誰も眠らず、一人ずつ座って休み、残る三人が守った。


どれほど経ったのか。


俺の内側で、手が動いた。


手だ。


爪だけではない。指があり、掌があり、腕へつながっている。


次に後ろ脚。長い尾。背中には小さく折り畳まれた翼。胸の奥へ空気が入り、肺が痛いほど膨らむ。


俺は右の前脚を伸ばした。


殻が割れる。


白い破片の隙間から、赤金色の爪が外へ出た。


もう一度押す。


頭上の殻が二つに裂け、冷たい空気が顔へ触れる。眩しい。竜印炉の赤、白灯茸の青、ミーナの灰色の毛、ポロの薄茶色、ガンツの岩色の鱗、グラウの黒い翼。


初めて、自分の目で皆を見た。


俺の身体は小さかった。鼻先から尾まで、ミーナより少し長い程度。赤金の鱗、腹側は淡い白。額には角の芽が二本。背の翼は濡れて身体へ貼りつき、四本の脚は震えている。


それでも卵ではない。


俺は立とうとした。


前脚が滑り、顔から殻の欠片へ突っ込んだ。


「アルド!」


ミーナが駆け寄る。


俺は痛みも忘れて笑った。口がある。牙がある。声を出せる。


「見たか! これぞ龍王家の真の――」


咆哮しようと息を吸った。


「きゅ」


幼い声が一つ出て、喉が途切れた。


炉前に沈黙が落ちる。


ポロが泣きながら笑い、ガンツは顔を背けて肩を震わせた。グラウの嘴から奇妙な音が漏れる。ミーナは俺を抱きしめたまま、涙で頬を濡らしていた。


「何を笑う! 今のは孵化直後ゆえに声量を抑えたのだ!」


「はいはい」


ミーナの腕に力が入る。


「ちゃんと出てきた。それで十分よ」


俺は反論しようとして、彼女の肩の包帯を見た。ポロの打撲、ガンツの尾、グラウの垂れた翼。皆が傷つきながら、俺を守った。


胸の奥が熱くなり、言葉が出なくなった。


四本の脚で立てなくてもよい。火を吐けなくても、飛べなくてもよい。


今はただ、この手で仲間へ触れられる。


俺は震える前脚を伸ばし、ミーナの腕へ爪を立てないよう、そっと置いた。


殻を破った最初の日、俺が得た一番大きな力は、牙でも翼でもなかった。


助けてくれた相手へ、自分から触れられることだった。


挿絵(By みてみん)


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