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魔物に育てられた人間  作者: イリス


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第二章 夏 第14話 魔術師エルフィナ

第二章 夏


第14話 魔術師エルフィナ


その夜。


村の広場には灯りが並んでいた。


旅人が来るのは珍しい。


だから歓迎会が開かれる。


規模は大きくない。


けれど村人たちは客人を大切にする。


肉を焼く匂い。


スープの香り。


笑い声。


昼間の緊張感は少し薄れていた。


フィアは最初から大興奮だった。


「魔術見たい!」


エルフィナは苦笑する。


「ご飯の前にですか?」


「うん!」


「元気ですね」


「よく言われる!」


ソラが横から言う。


「それ褒められてるとは限らないよ」


「なんで!?」


いつもの流れだった。


エルフィナは少し笑う。


本当に自然な笑顔だった。


その姿を見ると、とても危険な人物には見えない。


けれど。


イリスは昼間のことが気になっていた。


自分を見た時の反応。


ガロンとルナの様子。


何かがおかしい。


その時だった。


エルフィナが立ち上がる。


「では」


フィアの耳が立つ。


「では?」


エルフィナは杖を取り出した。


「少しだけ」


魔力が集まる。


イリスには見えない。


けれど空気が変わったのは分かった。


風が動く。


灯りが揺れる。


そして。


小さな光が生まれた。


一つ。


二つ。


三つ。


やがて数十。


光の蝶だった。


青い光。


白い光。


金色の光。


幻想的な輝き。


蝶たちは空へ舞い上がる。


夜空をゆっくり飛ぶ。


まるで星が降りてきたみたいだった。


「わああああ!!」


フィアが叫ぶ。


ソラも見上げる。


セリナは完全に見入っていた。


本を読む時と同じ目だ。


ミィですら起きている。


リリィも目を輝かせていた。


ユナは呆然としている。


イリスも同じだった。


綺麗だった。


ただそれだけだった。


強いとか弱いとか。


難しいことではない。


綺麗だった。


本当に。


エルフィナは子供たちの反応を見て笑う。


そして。


ふと。


イリスへ視線を向けた。


「イリス」


突然名前を呼ばれる。


フィアが反応する。


「名指し!?」


ソラも反応する。


「名指し!」


セリナがため息を吐く。


「そこ反応するところじゃないでしょ」


イリスは前へ出た。


エルフィナは少ししゃがむ。


目線を合わせる。


優しい目だった。


「魔術に興味はありますか?」


その瞬間。


イリスは周囲の空気が変わるのを感じた。


ガロン。


ルナ。


村長。


大人たち。


全員ではない。


でも何人かが緊張した。


なぜ?


ただ魔術の話だ。


そう思った。


だが。


明らかに違う。


エルフィナも気付いている。


それでも聞いた。


なぜだろう。


イリスは少し考えた。


そして。


質問で返した。


「なんで僕だけ?」


静寂。


フィアが頷く。


「確かに」


ソラも頷く。


「確かに」


セリナも同意した。


「それは気になる」


エルフィナは少し驚く。


そして苦笑した。


「賢い子ですね」


少し考える。


何を話すべきか迷っている顔だった。


やがて。


静かに答える。


「似ている人を知っているからです」


イリスは首を傾げた。


「似てる?」


「髪ではありません」


エルフィナは言う。


「顔でもありません」


さらに続ける。


「雰囲気です」


フィアが首を傾げる。


「雰囲気?」


「雰囲気」


ソラも同じ顔をした。


エルフィナはイリスを見る。


真っ直ぐに。


「優しさ」


静かな声。


「考え方」


そして。


少しだけ寂しそうに笑った。


「目が似ています」


その瞬間。


ガロンの手が僅かに動いた。


本当に僅かに。


だが。


イリスは見逃さなかった。


エルフィナも見た。


二人の視線がぶつかる。


一瞬だけ。


何かを知る者同士のように。


その空気を。


フィアがぶち壊した。


「つまり!」


嫌な予感がした。


全員が思った。


フィアは元気よく言った。


「隠しお姉ちゃん!?」


沈黙。


数秒。


そして。


エルフィナが吹き出した。


ルナも笑った。


ソラも笑った。


セリナは額を押さえた。


ミィは眠そうに言う。


「雑」


リリィも少し笑った。


フィアだけが納得している。


「違うの?」


「違うと思う」


イリスが答えた。


歓迎会は続く。


笑い声が戻る。


けれど。


イリスの胸には違和感が残ったままだった。


似ている人。


優しさ。


考え方。


目。


エルフィナは何を知っているのだろう。


そして。


ガロンとルナは何を隠しているのだろう。


その答えに近付く夜が。


もうすぐやって来ようとしていた。

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