第二章 夏 第13話 銀髪の旅人
第二章 夏
第13話 銀髪の旅人
丘から戻った翌日。
村の空気はどこか重かった。
理由は分かっている。
赤鷹騎士団。
ユナの過去。
誰も口には出さない。
けれど皆の心に残っていた。
特にユナは静かだった。
以前より笑う回数が少し減った気がする。
フィアはそれが気に入らなかった。
「笑った方が可愛いのに」
本人に向かって堂々と言う。
ユナは真っ赤になる。
ソラが呆れる。
「そういう言い方だから困るんだよ」
「なんで?」
「なんでも」
そんなやり取りをしながら広場を歩いていた時だった。
村の入口が騒がしくなった。
ざわざわと声が聞こえる。
大人たちも集まっている。
フィアの耳がぴくりと動く。
「何かあった!」
そう言うと全力で走り出した。
ソラも追う。
セリナも。
ミィも。
リリィも。
結局いつものメンバー全員で向かうことになった。
村の入口。
そこには見知らぬ女性が立っていた。
イリスは思わず足を止める。
綺麗だった。
今まで見たことがないほど。
銀色の長い髪。
透き通るような白い肌。
長い耳。
エルフだった。
背には杖。
旅装束。
そして不思議な雰囲気。
村人たちが警戒するのも無理はない。
見知らぬ旅人。
しかもエルフ。
珍しすぎる。
その時だった。
女性の視線が動く。
イリスを見る。
そして。
固まった。
本当に。
驚いたように。
信じられないものを見るように。
数秒。
沈黙。
フィアが小声で言う。
「知り合い?」
「知らない」
イリスは即答した。
本当に知らない。
会ったこともない。
だが。
女性の反応は明らかにおかしかった。
その時。
ガロンが前へ出た。
自然な動きだった。
しかし。
完全にイリスを庇う位置。
イリスは気付く。
フィアも気付いた。
ソラも。
ガロンは低い声で聞く。
「何者だ」
女性は我に返る。
そして深く頭を下げた。
「失礼しました」
声は落ち着いていた。
綺麗な声だった。
「驚いてしまって」
ガロンは表情を変えない。
「質問に答えろ」
女性は頷く。
「私はエルフィナ」
少し微笑む。
「旅の魔術師です」
フィアの目が輝いた。
「魔術師!?」
ソラも同じだった。
「すごい!」
セリナはさらに反応が大きい。
本好きだからだ。
魔術師という響きに弱い。
エルフィナは説明を続ける。
「数日前から森を調査していました」
村人たちの表情が少し険しくなる。
隠れ里だからだ。
見つかること自体が問題になる。
ガロンも聞く。
「誰かに話したか」
「いいえ」
即答。
迷いはない。
ガロンはしばらく彼女を見る。
嘘を見抜こうとしているのだろう。
その時だった。
村長バルドが現れた。
村人たちが道を開ける。
バルドはエルフィナを見る。
そして言った。
「客人だ」
短い言葉。
それだけで決まった。
村長が認めたのだ。
エルフィナは再び頭を下げる。
「ありがとうございます」
その時だった。
エルフィナの視線がまたイリスへ向く。
今度は驚きではない。
観察するような目。
何かを確かめるような目。
そして。
静かに聞いた。
「その子は」
ガロンが見る。
エルフィナを見る。
「ここで生まれたのですか?」
空気が止まった。
フィアが首を傾げる。
ソラも意味が分からない。
セリナも。
リリィも。
ユナも。
だが。
ガロンだけは違った。
ルナも違った。
二人の表情が変わった。
本当に僅かに。
しかし確かに。
イリスは見逃さなかった。
エルフィナも気付いたらしい。
少しだけ目を伏せる。
「失礼でした」
すぐに頭を下げた。
それ以上は聞かない。
けれど。
イリスの胸の中に小さな違和感が残った。
なぜそんなことを聞いたのか。
なぜガロンとルナはあんな顔をしたのか。
そして。
なぜエルフィナは自分を見るのか。
その答えはまだ分からない。
ただ一つだけ確かなことがある。
このエルフは。
ただの旅人ではない。
そんな気がした。
そしてその夜。
エルフィナの歓迎会が開かれることになる。
誰も知らないまま。
イリスの運命に関わる人物が。
静かに村へやって来ていた。




