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魔物に育てられた人間  作者: イリス


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第二章 夏 第12話 赤い鷹

第二章 夏


第12話 赤い鷹


丘の上には風が吹いていた。


草が揺れる。


遠くには人間の街。


高い城壁。


石造りの建物。


そして。


赤い鷹の旗。


ユナはそれを見つめていた。


顔色は悪い。


拳は震えている。


フィアも何も言えない。


ソラも。


リリィも。


イリスはユナの隣へ移動した。


何と言えばいいのか分からない。


励ます言葉も知らない。


慰め方も知らない。


だから。


ただ隣に立った。


それだけだった。


ユナは少し驚いた顔をする。


そして。


ほんの少しだけ肩の力が抜けた。


ガロンは街を見ている。


しばらく沈黙が続いた。


やがて。


フィアが我慢できなくなった。


「赤鷹騎士団って何?」


皆がガロンを見る。


ガロンは少し考えた。


そして答える。


「あの国の騎士団だ」


短い説明。


だがフィアは納得しない。


「騎士って良い人じゃないの?」


素朴な疑問だった。


絵本に出てくる騎士は大体良い人だ。


悪い魔物を倒し。


困った人を助ける。


そんな存在。


ガロンは鼻を鳴らした。


「良い奴もいる」


そして続ける。


「悪い奴もいる」


フィアは首を傾げる。


「騎士なのに?」


ガロンは少し遠くを見る。


「あいつらも人間だ」


静かな声。


「力がある」


「だから守ることもできる」


「傷付けることもできる」


イリスはその言葉を聞きながら街を見る。


人間の街。


自分と同じ種族が暮らしている場所。


なのに。


ユナはあんな顔をしている。


不思議だった。


同じ人間なのに。


こんなにも違う。


その時。


ユナが小さく呟いた。


「隊長」


全員が振り向く。


ユナは旗を見たままだった。


「隊長がいた」


静寂。


ガロンが聞く。


「見たのか」


ユナは頷いた。


「見た」


声が震えている。


「燃やした」


拳が強く握られる。


「村を」


フィアが息を飲む。


ソラも。


セリナも。


誰も何も言えなかった。


ユナは続ける。


「顔を覚えてる」


その言葉に。


ガロンの目が細くなった。


重要な情報だった。


とても。


村が襲われた。


誰が襲ったか分からない。


それならどうしようもない。


だが。


顔を覚えている。


それは違う。


いつか。


見つけられるかもしれない。


その時だった。


リリィがそっとユナの服を引っ張った。


ユナが見る。


リリィは少し考える。


そして。


小さく言った。


「ひとりじゃない」


ユナの目が揺れる。


リリィは続ける。


「わたしも」


木彫りの竜を抱きしめる。


「お兄ちゃんいなくなった」


静かな声。


「でも」


周りを見る。


フィア。


ソラ。


ミィ。


セリナ。


イリス。


皆を見る。


「みんながいる」


ユナは何も言わなかった。


言えなかった。


ただ。


少しだけ目が潤んだ。


その時。


フィアが突然胸を張った。


「そうだよ!」


全員が振り向く。


嫌な予感がした。


フィアは全く気付いていない。


「もし悪い人が来ても!」


どんっと胸を叩く。


「私たちが追い返す!」


沈黙。


数秒。


そして。


ソラが言った。


「無理」


「なんで!?」


「勝てない」


「まだ戦ってない!」


「たぶん負ける」


「ひどい!」


セリナが額を押さえる。


ミィは眠そうに言う。


「でも少し嬉しい」


フィアが止まる。


「え?」


ミィは目を閉じたまま続けた。


「守ろうとしてる」


静寂。


フィアは少し照れた。


「まぁね!」


「やっぱりフィアね」


セリナが呆れたように言った。


笑いが起きる。


ユナも少しだけ笑った。


本当に少しだけ。


けれど。


さっきまでの顔よりずっと良かった。


その時。


ガロンが空を見上げた。


日が傾き始めている。


帰る時間だった。


「戻るぞ」


皆が頷く。


そして丘を下り始める。


最後尾を歩きながら。


イリスはもう一度振り返った。


遠くの街。


赤い旗。


赤鷹騎士団。


まだ何も知らない。


けれど。


あの街が。


あの旗が。


これから先の未来に大きく関わってくる。


そんな気がした。


そして。


その予感は間違っていなかった。

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