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魔物に育てられた人間  作者: イリス


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第二章 夏 第11話 遠くの街

第二章 夏


第11話 遠くの街


夏の終わりが近付いていた。


朝の風は少しだけ涼しくなり始めている。


森の匂いも変わった。


まだ夏だ。


けれど秋が近付いている。


そんなある日の朝だった。


イリスが目を覚ますと、ガロンはすでに起きていた。


珍しく狩りの準備をしている。


弓。


短剣。


水袋。


旅用の装備だった。


「父さん?」


ガロンが振り返る。


「起きたか」


「どこか行くの?」


ガロンは少し考える。


そして言った。


「お前も来る」


イリスは目を瞬かせた。


「僕も?」


「ああ」


その時。


ルナが少しだけ心配そうな顔をした。


「遠くまで行くの?」


「半日程度だ」


「ならいいけど」


ルナはそう言ったものの、少し気になる様子だった。


イリスは嬉しくなる。


狩りだろうか。


探索だろうか。


それとも別の何か。


朝食を急いで食べる。


そして外へ出た。


当然のようにフィアが待っていた。


「イリス!」


「おはよう」


「どこ行くの!?」


耳がぴんと立っている。


完全に興味津々だった。


ガロンは少し考える。


そして言った。


「来るか?」


フィアが固まった。


「え?」


「来るかと聞いている」


数秒後。


フィアが飛び上がった。


「行く!!」


その声でソラが飛んできた。


「何!?」


セリナも来た。


ミィも起きた。


リリィまでいる。


そして。


少し遅れてユナも現れた。


結局。


いつものメンバー全員だった。


ガロンは深くため息を吐く。


「予想していた」


「最初から誘えばよかったのに」


セリナが言った。


ガロンは何も答えない。


図星だったらしい。


そうして一行は出発した。


森を歩く。


村の周辺ではない。


もっと遠く。


イリスも来たことのない場所だった。


草原を抜ける。


丘を越える。


さらに進む。


やがて。


視界が開けた。


フィアが立ち止まる。


「わぁ……」


ソラも息を呑む。


セリナも本から顔を上げた。


ユナも。


イリスも。


皆が見ていた。


広大な景色。


遠くまで続く草原。


青い空。


白い雲。


そして。


その向こう。


石造りの壁。


高い塔。


煙。


人の営み。


一つの巨大な街。


イリスは初めて見た。


人間の街だった。


「すごい……」


思わず呟く。


ガロンが隣へ立つ。


「初めて見るか」


「うん」


フィアも目を輝かせている。


「大きい!」


「村よりずっと」


ソラも驚いていた。


ユナだけが違った。


顔色が悪い。


明らかに。


イリスは気付く。


「ユナ?」


ユナは街を見つめていた。


まるで。


何かを思い出したように。


怖い記憶を。


苦しい記憶を。


その時。


風が吹いた。


街の城壁に掲げられた旗が揺れる。


赤い布。


描かれた紋章。


鋭い鷹。


そして。


ユナの顔から血の気が引いた。


「違う……」


小さな声。


イリスは聞き返す。


「え?」


ユナの目は旗を見ていた。


一点だけを。


震える指がそれを指差す。


「それ……」


声も震えている。


「知ってる」


静寂。


ガロンが振り返る。


セリナも。


フィアも。


全員がユナを見る。


ユナは息を飲んだ。


そして。


絞り出すように言った。


「私の村を燃やした人たちの旗」


風が止まった気がした。


誰も喋らない。


フィアの耳が伏せる。


ソラも固まる。


イリスは旗を見る。


赤い鷹。


遠すぎて細かくは見えない。


でも。


ユナは覚えているのだ。


忘れられないのだ。


故郷が燃えた日を。


家族を失った日を。


その時。


ガロンの表情が変わった。


知っている顔だった。


知らない紋章を見る顔ではない。


ユナは震えながら言う。


「間違いない」


拳を握る。


「覚えてる」


涙は出ない。


でも。


その声には恐怖が残っていた。


そして。


怒りも。


その時。


遠くの街道を馬車が通った。


護衛の騎士たち。


彼らの鎧にも同じ紋章が描かれている。


赤い鷹。


ユナは一歩後ろへ下がった。


無意識だった。


身体が覚えているのだ。


恐怖を。


イリスはそんなユナを見ていた。


そして初めて思う。


人間は本当に怖いのかもしれない。


少なくとも。


ユナにとっては。


その時。


ガロンが静かに言った。


「あれは人間の街だ」


皆が聞く。


「そして」


少しだけ目を細める。


「あの旗には名前がある」


風が再び吹く。


赤い旗が揺れる。


ガロンの声は低かった。


「赤鷹騎士団」


その名前を聞いた瞬間。


ユナの拳がさらに強く握られた。


物語は。


少しずつ動き始めていた。

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