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魔物に育てられた人間  作者: イリス


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第二章 夏 第10話 新しい日常

第二章 夏


第10話 新しい日常


それからの日々は、驚くほど早く過ぎていった。


ユナは少しずつ村に馴染んでいく。


最初は遠巻きに見ていた子供たちも、今では普通に話しかけるようになっていた。


特にフィアは遠慮がなかった。


朝になる。


ユナが起きる。


すると治療所の外から声がする。


「ユナーー!!」


毎日だ。


本当に毎日だった。


最初の数日は驚いていたルナも、最近は苦笑するだけになっている。


「お迎えが来たわよ」


ユナも少し笑う。


以前なら考えられなかった。


朝から誰かが会いに来てくれる。


そんな生活。


フィアは扉が開くのを待っている。


待てない時もある。


「まだー!?」


「待ちなさい」


ルナに怒られる。


それもいつもの光景になっていた。


そして。


フィアに引っ張られるように外へ出る。


そこにはイリスがいる。


ソラもいる。


セリナも。


ミィはたまに寝ている。


リリィも木彫りの竜を抱えてついてくる。


いつの間にか。


それが当たり前になっていた。


ある日。


村の川辺。


夏の日差しが水面を照らしている。


子供たちは石投げをして遊んでいた。


フィアの石は一回しか跳ねない。


「なんで!?」


ソラの石は三回跳ねる。


「ふふん」


フィアが悔しそうな顔になる。


セリナは五回。


「すごい」


ユナが素直に感心した。


セリナは少し照れる。


「本で読んだから」


「本で読んでできるものなの?」


イリスが聞く。


「たぶん才能」


ソラが言った。


セリナは満更でもなさそうだった。


その時。


フィアが立ち上がる。


「よし!」


嫌な予感がした。


全員が思った。


フィアは川を指差す。


「競争しよう!」


「何を?」


ユナが聞く。


フィアは胸を張った。


「向こう岸まで!」


ソラが即答した。


「無理」


「なんで!?」


「流される」


「大丈夫!」


「大丈夫じゃない」


いつもの流れだった。


ユナは思わず笑う。


最初は驚いていた。


フィアの無茶苦茶な発想。


ソラとの言い争い。


セリナの冷静な突っ込み。


でも。


今は少し好きだった。


見ているだけで楽しいから。


その時だった。


フィアが足を滑らせた。


「あ」


ドボーン!!


盛大な水しぶき。


沈黙。


数秒後。


川の中からフィアが顔を出した。


「たすけてーー!!」


ソラが言う。


「立てるよ」


フィアが周囲を見る。


本当だった。


水深は膝くらいしかない。


「……立てる」


「立てるね」


「立てる」


「立てるわね」


全員一致だった。


ユナが笑う。


本当に楽しそうに。


それを見てイリスも少し嬉しくなった。


数週間前。


ユナは一人だった。


本を読むふりをしていた。


笑うことも少なかった。


それが今では違う。


皆と一緒にいる。


笑っている。


楽しそうにしている。


その変化を見ていると、何だか自分まで嬉しくなる。


その日の夕方。


遊び疲れた子供たちは川辺に座っていた。


風が吹く。


空が赤く染まる。


夏の終わりが近付いていた。


フィアは寝転がっている。


ソラも隣。


ミィは本当に寝ていた。


セリナは本を読んでいる。


リリィは木彫りの竜を抱いている。


そして。


ユナがぽつりと言った。


「変だよね」


イリスが見る。


「何が?」


ユナは空を見上げた。


赤い空。


流れる雲。


少しだけ寂しそうな顔。


「魔物って怖いって聞いてた」


静かな声だった。


皆が聞いている。


ユナは続けた。


「人間の村ではそう教わった」


風が吹く。


「見つけたら逃げろって」


「食べられるって」


フィアが即座に反応した。


「食べないよ!?」


「うん」


ユナは笑った。


「知ってる」


少し間を置く。


そして。


本当に小さな声で言った。


「みんな優しい」


静寂。


誰もすぐには答えられなかった。


褒められたからではない。


その言葉が重かったからだ。


ユナにとって。


ここへ来る前の世界は終わっている。


故郷も。


家族も。


大切な人たちも。


失った。


それでも。


彼女は今こうして笑っている。


フィアが照れたように言う。


「まぁね!」


「お前じゃない」


ソラが突っ込む。


「なんで!?」


笑いが起きる。


ユナも笑った。


でも。


その笑顔の奥には、まだ話していない過去があった。


故郷で何があったのか。


なぜ一人だったのか。


なぜ森を彷徨っていたのか。


まだ誰も知らない。


そして。


その過去はもうすぐ。


再びイリスたちの前へ現れることになる。


夏が終わろうとしていた。

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