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魔物に育てられた人間  作者: イリス


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第二章 夏 第9話 最初の友達

第二章 夏


第9話 最初の友達


ユナが村へ来てから数日が過ぎた。


怪我は少しずつ良くなっている。


ルナの治療は丁寧だった。


食事も十分に与えられた。


痩せていた身体にも少しずつ元気が戻ってきている。


けれど。


別の問題は残ったままだった。


村人たちとの距離。


大人たちはまだ警戒している。


ダルクほどではない。


けれど完全に安心しているわけでもない。


それは子供たちも同じだった。


興味はある。


話してみたい。


でもどう接すればいいのか分からない。


ユナも同じだった。


だから最近のユナは一人でいることが多かった。


治療所の近く。


木陰。


静かな場所。


そこに座っていることが多い。


その日もそうだった。


夏の風が吹いている。


広場ではフィアたちが遊んでいた。


追いかけっこ。


鬼ごっこ。


いつもの光景だ。


フィアが転ぶ。


ソラが笑う。


フィアが怒る。


セリナが呆れる。


ミィは木陰で寝ている。


リリィは木彫りの竜を抱いて見ていた。


平和な時間。


その時。


イリスは木陰のユナに気付いた。


一人で座っている。


膝の上には本。


読んでいるように見える。


でも。


ページが全然進んでいない。


「ユナだ」


フィアも気付いた。


耳がぴくりと動く。


ソラも振り返る。


「一人だね」


「うん」


フィアは少し考えた。


そしてイリスを見る。


「どうする?」


イリスもユナを見る。


少し寂しそうだった。


一人でいることに慣れている顔。


でも。


本当は慣れてなんかいない気がした。


「話してくる」


イリスが言う。


フィアは頷いた。


「いってらっしゃい」


「一人で?」


ソラが聞く。


「まずはね」


フィアは少しだけ笑った。


「友達になる時って、いきなり大人数で行くとびっくりするでしょ」


セリナが珍しく感心した顔になる。


「たまには良いこと言うわね」


「たまにはって何!?」


いつものやり取りが始まる。


イリスはそれを聞きながらユナの方へ向かった。


ユナは足音に気付く。


顔を上げた。


そして少しだけ表情が柔らかくなる。


イリスだったからだ。


「こんにちは」


「こんにちは」


ユナも返す。


少しぎこちない。


でも前より自然だった。


イリスは隣に座る。


しばらく沈黙。


風が吹く。


木の葉が揺れる。


やがてイリスは本を指差した。


「面白い?」


ユナは本を見る。


それから少し困ったように笑った。


「読んでない」


「え?」


「読んでるふり」


正直な答えだった。


イリスは目を瞬かせる。


ユナは本を閉じた。


「みんな見てるから」


小さな声。


「なんとなく」


イリスは周囲を見る。


確かに見られている。


悪意はない。


でも。


距離はある。


ユナは続ける。


「嫌な人はいない」


少し考える。


「でも」


「どうしていいか分からない」


その言葉にイリスは頷いた。


たぶん。


村の子供たちも同じだ。


ユナは人間。


皆にとって初めての存在。


ユナにとっても魔物の村は初めて。


分からないのはお互い様だった。


その時だった。


広場の方から声がする。


「あっ!」


フィアだった。


次の瞬間。


ドテッ。


派手に転んだ。


何もない場所で。


完全に。


見事に。


ユナは思わず吹き出した。


「ふっ」


笑った。


本当に自然に。


自分でも驚くくらい自然に。


そして。


それを見逃すフィアではなかった。


「笑った!」


フィアが叫ぶ。


ユナが固まる。


「えっ」


「今笑った!」


全力で走ってくる。


ソラも来る。


セリナも。


ミィも。


リリィも。


結局全員来た。


ユナは少し慌てる。


フィアは胸を張った。


「笑うなら一緒に遊ぼう!」


ユナが固まる。


「え?」


「遊ぼう!」


「え?」


「遊ぼう!」


フィアは一歩も引かない。


ユナは困惑していた。


たぶん。


予想していなかったのだろう。


その時。


小さな声で言う。


「でも」


フィアが首を傾げる。


「私、人間だし」


沈黙。


そして。


フィアが言った。


「うん」


「え?」


「人間だよね」


「うん」


「知ってる」


ユナがさらに混乱する。


フィアは本気だった。


「それで?」


ユナは言葉を失う。


フィアには本当に関係ないらしい。


人間だから何だという顔だった。


ソラが吹き出す。


セリナも笑いを堪えている。


ミィは眠そうに言う。


「フィアだから」


イリスも少し笑った。


そしてユナを見る。


「大丈夫」


ユナの視線が向く。


「フィアはそういうやつだから」


「そういうやつ?」


フィアが聞き返す。


「そういうやつ」


ソラ。


「そういうやつ」


セリナ。


「そういうやつ」


ミィ。


満場一致だった。


フィアが抗議する。


「なんで!?」


皆が笑う。


ユナも笑った。


今度は少し大きく。


自然に。


イリスは言った。


「遊びたいなら遊べばいいと思う」


ユナは皆を見る。


フィア。


ソラ。


セリナ。


ミィ。


リリィ。


誰も嫌そうな顔をしていない。


皆待っている。


友達になりたい。


そんな顔だった。


ユナは少し考える。


そして。


小さく頷いた。


「……遊ぶ」


フィアが飛び上がった。


「やったーーー!!」


次の瞬間。


抱きつく。


ユナは驚く。


「わっ!?」


「仲間だー!」


「ま、まだ仲間っていうか……」


「もう仲間!」


フィアは断言した。


誰も反論しない。


ソラも頷く。


セリナも。


ミィも。


リリィも。


そして。


イリスも。


その日。


ユナは初めて。


霧の村で友達を作った。


それは小さな出来事だった。


けれど。


彼女にとっては人生を変えるほど大きな出来事だった。

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