第二章 夏 第7話 村の会議
第二章 夏
第7話 村の会議
広場の中央には大きな円が作られていた。
村の重要な話し合いをする時に使われる場所だ。
普段は祭りや集会で使われる。
けれど今日は違う。
空気が重い。
誰も笑っていない。
村人たちが集まる。
狼獣人。
狐獣人。
オーク。
ハーピー。
兎獣人。
様々な種族が円を囲んでいた。
その中心にはユナ。
そして村長バルド。
イリスたち子供も後ろの方で見守っていた。
フィアは落ち着かない様子で尻尾を揺らしている。
ソラは珍しく静かだった。
リリィは木彫りの竜を抱えている。
ガロンは腕を組み、村長の近くに立っていた。
そして。
ダルクもいた。
鋭い目でユナを見ている。
村長が口を開く。
「始める」
それだけで広場が静かになった。
皆が耳を傾ける。
「この子はユナ」
村長が言う。
「森の外れで発見された」
ユナが小さく頭を下げる。
村人たちの視線が集まる。
怖い。
きっとそうだろう。
イリスですら緊張しているのだから。
その時。
最初に声を上げたのはダルクだった。
「反対だ」
静かな声。
だが広場中に響いた。
ユナの肩が震える。
ダルクは続けた。
「人間だぞ」
誰も反論しない。
「何をされたか忘れたのか」
その言葉は重かった。
アレン。
皆の頭に浮かぶ。
リリィは木彫りの竜を強く握った。
フィアも俯く。
ダルクはさらに続ける。
「子供だから何だ」
「人間は人間だ」
空気が張り詰める。
イリスはダルクを見る。
怒っている。
だが。
それだけではない。
どこか悲しそうだった。
その時。
反対側から声が上がった。
「怪我人よ」
狐獣人の女性。
マリナだった。
優しいことで有名な村人。
「しかも子供」
マリナはユナを見る。
「追い出せば死ぬかもしれないわ」
ダルクが眉をひそめる。
「だから?」
「だから助けるの」
マリナは即答した。
二人の視線がぶつかる。
広場の空気が揺れる。
意見は真っ二つだった。
その時だった。
村長がガロンを見る。
「お前はどう思う」
広場が静まる。
ガロン。
村で最も信頼される狩人の一人。
その意見は重い。
イリスも聞きたかった。
ガロンは少し考える。
そして答えた。
「分からん」
予想外だった。
フィアも驚いている。
ソラも。
イリスも。
ガロンは続けた。
「俺は人間を信用していない」
静寂。
「だが」
そこでユナを見る。
「この子を知らない」
ユナが顔を上げる。
ガロンの目は真っ直ぐだった。
「知らない相手を勝手に決めつける気もない」
広場が静まる。
ダルクも黙った。
反論できない。
ガロンらしい答えだった。
その時。
村長の視線が動く。
そして。
意外な人物へ向けられた。
「イリス」
広場中の視線が集まる。
イリスは固まった。
「え?」
突然だった。
六歳の子供。
そんな自分に意見を求めるとは思っていなかった。
フィアが目を丸くする。
ソラも驚いている。
セリナも本から顔を上げた。
村長は真面目だった。
本気で聞いている。
ユナも見ている。
ガロンも。
ルナも。
皆が待っている。
イリスは戸惑った。
何が正しいのか分からない。
ユナのことはまだ知らない。
人間も怖い。
ダルクが警戒する理由も分かる。
でも。
ユナを見る。
震えている。
不安そうだ。
一人だ。
そして。
泣きそうだった。
イリスはゆっくり口を開く。
「よく分からない」
正直な言葉だった。
広場は静か。
誰も笑わない。
イリスは続ける。
「人間のことも分からない」
「ユナのことも分からない」
村長が静かに頷く。
イリスは拳を握った。
「でも」
ユナを見る。
「困ってるなら助けたい」
静寂。
広場がさらに静かになる。
「怪我してるし」
「一人だし」
「怖いと思うから」
ユナの目が揺れる。
イリスは続けた。
「だから」
少しだけ緊張しながら。
「助けてから考えたい」
言い終わる。
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
ルナが少し笑った。
フィアも笑う。
ソラも。
セリナも。
ガロンは何も言わない。
だが否定しない。
村長が立ち上がった。
「決まりだ」
広場が静まる。
「少なくとも怪我が治るまでは保護する」
ユナが顔を上げる。
「その間に話を聞く」
「危険が無いか調べる」
ダルクは不満そうだった。
けれど反対しない。
村長の決定だからだ。
その時。
ユナの目から涙が溢れた。
ぽろり。
一粒。
そしてまた一粒。
今度の涙は少し違う。
恐怖だけではない。
安心。
安堵。
それが混ざっていた。
ユナは震える声で言った。
「ありがとう」
小さな声だった。
でも。
広場にいる全員へ届いた。
そしてイリスは気付かなかった。
この時の一言が。
ユナの人生で初めての希望になったことを。
それを知るのは。
ずっと後のことだった。




