第9話 狂気の片鱗
先日、あのトラブルメーカーがまた面倒事を持ってきた。その内容は禁書全ての封印を誤って解除したというものだ…新しい部下がやらかした、と言う彼女だが…半殺しで済ませられるか不安だ。そう思っていた。
(何なんだ…この怪物は…!?)
それまでの怒りを全て忘れる様な存在感。世間知らずの寝ぼけた小僧という印象から真反対の怪物へ変貌した。怨嗟と穢れに満ち、光を喰らい尽くす様なドス黒い魔力。
(禁書に刻まれた呪いを吸収したの…!?)
普通であれば、ここまで強い怨念の類は魂を削り壊す。だが正気を捨てた怨念達すら貪り喰らわれる恐怖の渦に怨念達は掴み取られ、飲み込まれた。
(ひ…)
だが、彼はまるで気にも留めていない様子だった。…怖い…怖い。
……
「……ック…ハーロック?」
「…問題ありません」
「もしかして煌矢が何かやらかした?」
「そういえば、まだファトゥールには教えてなかったね」
「いいえ…仕事は順調そのもので、呪物による影響も見られません…」
「なるほどねぇ…影響がゼロってのもある意味怖いものだよぇ?」
「えぇ…何せ…」
呪物による影響…それは封印に携わるハーロックだからこそ理解できるものだった。
封印する際に工程を一つでも間違えれば、その呪物の感覚や記憶を鮮明に刻まれる…肉を裂かれ、傷を蝕む苦痛の数々が鮮明に、消えぬ傷跡となって刻まれる…しかし。
「彼には恐怖心がないのですか…!?」
…私は小さな呪物一つの思念に心を崩され、未だに恐怖の呪縛に怯え続けている。
自分の心に錠を掛けなければ、ここに来ることさえ出来なかった。煌矢はあの苦痛を…何重にも連なった苦痛の連鎖を気にも留めていない…
「彼は一体何者なのですか…?」
「あれは野良神だよ」
「「!!」」
ファトゥール以外の二人はその事実に戦慄する。
「…それは上には報告しているのですか?」
「いいえ、隠してるわ」
「…真実の女神がよくもまあ」
「…おかしな事言うのねハーロック、真実は嘘があるから存在するのよ?」
その時のファトゥールの表情は、私の知る活発な彼女の姿は無い。隠されぬ危うさ、それでも目を離せぬ妖しい色気…
「真と嘘は表裏一体、嘘が無ければ真実なんて大層な言葉である必要は無いのよ…」
「っ…」
「…なーんて!私らしくない事言ったかしら?」
その顔は一瞬で普段の明るい彼女に戻った…先程の昏い色気は消え失せた。
「そういえば、貴女は生意気にもこの中で最年長でしたね…」
「そしてハーロックちゃんは最年少!」
「最年少は俺じゃないですか?」
突如三人の会話に入ってきたのは煌矢だった。
「あれ?アンタは解呪の作業やってたんじゃ…」
「終わりました。」
「………は?」
「一応初めての作業なんで、確認よろしくお願いしますよ」
「馬鹿な…!?」
いち早く確認に向かったハーロックは呪いの苦痛を知る者であるが故に、呪いというものを過敏に感じ取る事が出来た…だからこそ、集められた呪物から呪いが消えたと理解出来た。
「次のお仕事は何でしょう…」
「えと…今日はこれで終わりだけど…」
「え、これだけでいいんすか?」
三人は彼の言葉に一瞬停止する。特にハーロックは呪いで精神を病んだ経験があるからこそ、その言葉を理解出来ずにいた。
「…呪いに刻まれた苦痛を体験したのではないのかしら?」
いち早く思考を再開したインダクスが言う…
「特に辛いとかは…まぁ、あんまり長いと退屈ですけど…」
彼はその身に体感したであろう苦痛…それを結局他人事として気にも留めていない…
「それでは、失礼しまーす」
「え、えぇ…ご苦労様」
「…いやいや!?普通呪物の記憶なんて見たら食欲失せるでしょ!?」
「不味い肉料理を食う記憶がありましてね、口直しがしたいんです」
それを聞いてファトゥールは呪物の山に目を向ける。
「あ…!?"食人鬼ジャック"の食器…!?」
「へ〜…人間って食おうと思えば食えるくらいの味……あっいえ何でもないです」
「はぁ…!?」
「そ、そうだ何かいい食い物…あ、ビフテキだ」
煌矢は平然としており、あまつさえ冷蔵庫から肉を持っていく始末。
「人肉の後に肉料理食うとか頭おかしいんじゃないの…!?」
「いや僕は食べてませんけど!?」
「いや、他人の記憶でも人肉の味を知ったんだろ!?」
「はい、旨味が少ない割に塩辛くて脂身と筋ばっかの肉な上、変に柔らかいし…」
「うぉえっ…!人肉食レポとか気持ち悪いからやめろ…!」
「それでもまぁ、美味そうに食ってたから俺も肉食いたいんですよ…それじゃ、お先失礼しまーす」
三名は煌矢の狂気に戦慄した。
「…あの新人君、頭のネジ締める穴すら付いてないよ」
「あれをウチの信徒達に会わせて大丈夫かな…?」
続




