第8話 気を病む者、気に留めぬ者。
悪夢。それは何処となく既視感のあるものだ。混沌の中に映る光景に果ては無く、されど閉ざされた暗き世界。
(これは…?)
それは…怨念、貪欲、苦痛、絶望の全てが混じり合った汚濁が脳内を埋め尽くした…
生きたまま皮膚を剥がされ、臓器を抉り出される感覚…全身の血を絞り出し、恨みを記す記憶…数え切れぬ死の記憶が夢の中を埋め尽くしたその時…
「む…」
目が覚めた、今は何時だろうか。小鳥のさえずりや光差さぬ部屋の光景が昨日までと違う様に感じられた。
(変な夢…そういえば、昨日は何をしていたんだっけ…ん?)
喉の渇きと空腹に身体に誘われてベッドから身体を起こす…
「うわぁッ!?起きてる!?」
「おはようございます、少し声量を抑えて下さい…朝から耳が痛くなるんですよ」
「え?大丈夫なの?意識あんの…!?」
「…?ええまぁ、今日は調子いい方だと思いますよ…」
「えー?マジかぁ…アンタすごいわね」
「???」
首を傾げる煌矢にファトゥールは言う。
「アンタは禁書に刻まれた魔術や怨念を全部その身に吸収したのよ、普通死ぬわ」
「…俺って今人間なんですか?」
「?どっちかっていうと神様に近い存在だけど…」
「そうですか、ならいいです」
「どうしてそんな事聞くの?」
「神ってのは、何だって出来る存在ですから」
「えと…神様にどういうイメージ持ってるの…?」
「意志を持った理不尽です」
その答えにファトゥールはえぇ〜と声を出す。
「…まぁいいわ、これから仕事するから降りてきてよ」
「何をするんです?」
「厄祓いよ」
寝室を出て大広間に向かうと、奇妙な道具がごろごろと乱雑に積まれている。
そしてその横には眠る前に見た二人の女性がいた。
「ファトゥール、彼は……!?明彗煌矢…!?何故…!?」
「…だ、大丈夫なの…!?」
(確か……名前何だっけ…?)
「もうちょっと眠ってたかったんですけど、腹減りましてね…」
「…凄いなぁ〜普通は死んでもおかしくないのに…ハーロック?」
「……あ…!し、失礼しました…説明をさせていただきます…」
ハーロックは仕誤魔化す様に話し始める。
「こちらは禁書同様、封印された数々の呪物です。
知恵や力を持たぬ一般人に英雄の如き才能を与える代償として魂や肉体、又はそれら両方を蝕む特性を宿した危険物…」
「呪いを解くのは基本的にすごく面倒な手段を取らなきゃいけないの、けど…」
「禁書の持つ力を吸収した様に、貴方なら危険性を取り除く事が出来る筈です」
(朝っぱらから仕事かよ…面倒くせぇな〜)
その時、煌矢の腹の虫はぐぅ〜と鳴いて食事を催促した。
「…どうかしました?」
「いや、腹を鳴らした本人がそれを言う!?」
「まぁ、腹は減りましたけど飯なんて後にすりゃいいんですから…」
「駄目よ?新人君、朝ごはんはちゃんと食べないと!」
「そういや、私らも朝ごはん食べてないわね…なんかたべるわよ!」
そう言って二人の女神は何処かへ駆けていく。
「全く…いつまで子供気分なのやら」
皆は食糧庫に集まる、そこにへ冷蔵庫らしきものに食料が詰められている。
「中のものは食べちゃっていい感じですか?」
「食べ過ぎちゃ駄目よ?」
煌矢は中からゼリー飲料を取り出し、すぐに飲み干して先程の奇妙な道具が積まれた部屋へ戻っていく。
「ち、ちょっと?まさかそれで朝飯だって言うつもり!?」
「…腹は減りましたけど、食べる気分じゃないんですよ」
そう言って彼は食堂から出て、山積みの呪物と向き合う。
「…武器が多いな?」
(昨日、本の山から色々力を吸収したって話だが…そのせいか?
何となく身体の感覚が冴えてる…今までに無い何かが身体に刻まれた気分だ…)
「よし…」
まず目にとまったのは…処刑用の断頭剣だ。剣についての知識は煌矢には無い…だが剣そのものが主張している。"私は首を断つ為に造られた存在だ…" と。
「む…」
剣に触れ、内に宿る力を引き抜かんとしたその時…刃にこびり付いた記憶が内側へと入り込む。
[ククク…罪人の首を…!私が断たねば…!フハハハハ…!]
[ふざけるな…!私を誰だと思って…嫌だ…!嫌だぁ!?やめ─
殺す者と殺される者、両者の記憶が煌矢の身体に流れ込む。
「面白くないな…」
しかし、その記憶は彼には響かず…剣は刻まれた力を喰らい尽くされた。
「さて、まずは一つ…」
次に目に入ったのは、乾いた何かのミイラ…触れようとした時、それは少し震えた。
「…気持ち悪いなぁ、触りたくねぇなぁ…」
「また、呪いを解いた様ですね…」
「はい…というか、居たんですね?」
「あの二人は仕事熱心ではないのですから…」
煌矢はその言葉に対して分かる、という表情をした。
「貴方は凄いですね…呪いの影響を恐れない、私は恐ろしくてたまりません…」
「影響ゼロって訳では無いですよ?力を喰った時に記憶が視えたり…染み付いた感覚を自分も体感したり…」
「…死の苦痛すらも、ですか?」
「えぇ…でもまぁ所詮は他人の記憶、この程度は悪い夢で済むことですよ」
その時、ハーロックは煌矢に宿る狂気を理解して警戒と恐れを露わにする。
(死の苦痛を…恐怖を…まるで他人事の様に…!?)
かつて呪縛に苛まれたハーロックには理解出来なかった。死の苦痛を幾度も味わい、死した者達の遺した恐怖の記憶をその身に刻まれた彼女には…
「…あぁでも、それはあくまでも僕の感想です。無理して恐怖に立ち向かう必要は無いでしょう、少しくらい僕に押し付けてもも怒られやしませんよ」
「…ありがとうございます、では解呪を続けてください。」
続




