第7話 穢濁を嚥む者
「お前ーっ!禁書の封印解いたんか!?」
「…何の話…です?」
「な、なんて事だ…!これを封印し直すには何ヶ月掛かると…ん?」
ファトゥールは書庫の本棚から魔力が消え失せている事に気が付いた…
「ファトゥール様!何故土てす…か…」
禁書とは、消えぬ呪法と身体を蝕む程の魔力を持つ…しかし、ファトゥール達はその禁書の山から何も感じとることが出来ないのだ。
「まさか…禁書の呪いが何処かに逃れた…?」
(神様は何言ってんだ…?…ていうか…滅茶苦茶眠い…魔法を無理矢理止めたりしたせいか?それとも魔力の制御が…うぅ…頭が痛い…)
あまりの眠気に煌矢は立つことも困難である。
「…ねます」
煌矢は毛布を被ってソファに横になった。
「なあァんで!!?今ァ!?寝始める!?」
「カァ…フググ…カァ…」
カルシノクも言葉を忘れてしまった。
「…ハッ!?そうだ急いで何とかしなきゃ…カルシノク!付近の幽体を片っ端から探して!大至急!私は援軍を呼ぶ!」
「は、ハイ!」
そうして、ファトゥールは旧友を訪ねることとなる。
「たのもーっ!」
「あら!久しいわね!ファトゥール!」
「やぁインダクス、ちょっと頼みたいことが…げ!?」
「何ですか?他者の顔を見て、その様な反応をするのは宜しくないと思うのですが…わざわざ優しいインダクスに会いに来たという事は、大きめの面倒事を持ち込んで来たのでしょう?」
「何も聞かずに怒らないでやりなさいよ、ハーロック…[錠の女神]なら《《情》》を持ちなさいよ、フフフ」
「つまらないですよ、インダクス…[情報の女神]なら、もっとマシな洒落を索引出来るでしょう?」
叱られる事を確信している子供の様にファトゥールは俯いている。
「まぁ、多少のことでは今更驚かないわよ。それで、私に何の用でしょう?」
「その…アズラトゥスの神殿で管理してた禁書の封印が解けちゃって…」
「あらまぁ、ついてないわねぇ…」
「大方、封印の管理不足でしょう…幾つです?」
「…管理してたの全部」
「………???」
インダクスは普段の微笑みのまま硬直してしまう。
「…………ハァ?」
ハーロックの厳かな佇まいは崩れ、顔は青ざめ、思考が歪んで正気が保てなくなる。だが、額のサークレットに着けられた錠がガチャリと閉まる。
(うわぁ…!あの禁書を封印はまだ労働がかなりキツイ時の奴だ!まずい…!)
「…あの禁書の山を封印するのは骨が折れました、狂った労働環境の中で私がどれだけ苦痛を受けて苦労したか…それを貴方は知っているはずでしょう?なのに何故?」
冷静さを取り戻したとしても、怒りが静まるわけではないのだが…
「わ、私じゃない!」
「…真実の女神が言い訳するのですか?」
(まずい…!目が…目がヤバい!)
「……ハッ!?お、落ち着いて?原因がファトゥールにあるとは…」
「そ、その通りだよ!新人が書庫でとんでもない魔力ぶっ放したせいなんだよ!?」
それを聞くと、ハーロックは何か考え始めた。
「…先程アズラトゥスで発生した大規模な魔力暴走ですか?」
「はいっ!ソレですソレ!」
「…ファトゥール」
「ひゃい!」
「…その新たな神とやらが無事で済むと思わないで下さいね?」
「はいぃ…!」
……
ファトゥールらはアズラトゥスの神殿書庫へやって来た。
「…まさかとは思いますが、これで禁書を管理していた…と言うつもりで?」
(え!?これ私悪くないって!絶対に煌矢に責任押し付けたのは間違ってないって!)
ハーロックが憤るのも当然である…書庫の施錠すらして無く誰でも書庫に入る事が出来る上、肝心の禁書は堂々と本棚に並んでいる。
「…こればっかりはファトゥールのせいじゃないかな?」
「インダクスまで!?」
(あわわわ…二人とも滅茶苦茶怖い顔に…!?)
「頑丈な金庫はセキュリティあってこそ輝くもの…誰でも触れる位置に雑に設置していては、破綻して当然なのですよ…!」
「新人くんは魔力すら存在していない世界から来たんでしょう?」
「う、うん…」
「無知な子供が危険な火薬庫に入れる様なものなんだよ?」
ハーロックの錠はカタカタと揺れ始め、今にも千切れ飛びそうだ。
「…でもおかしいわね、禁書から力が完全に抜け落ちているわ」
「…なんですって?」
「禁書に込められた魔法や呪法が喰らい尽くされて、抜け殻に…まさか!?」
「多分逃げたから…部下に探してもらって」
バキン!
ハーロックの錠は爆散した。
「貴方は!何を!したか!分かってるんですか!?」
「…ハーロック、争ってる場合じゃないわ……ファトゥール、彼は何処に?」
「あそこにいる…」
ファトゥールの指差した方向にあるソファに煌矢は眠っている…
「…ぅ…ぁ…」
二人の表情はもはや動く事はなく、威圧感だけが増していた。
「彼からも色々と聞く必要がありそうね…」
「煌矢!起きてぇ!」
「…なん…で…す…?」
殆ど寝ぼけている煌矢は寝っ転がったまま答える。
「起き上がれ!私の同僚が居るんだよ!」
「…いま…は……少し……」
「マジで起きろォ!」
「ゔっ…!?」
ファトゥールの飛び膝蹴りが煌矢の腹部にクリティカルヒットする…
「起きてぇ!頼むからぁ!」
涙目で懇願するファトゥール…
「…………」
(何なんだよ、マジで…頭に響く…!勝手に連れてきておいて…!)
煌矢の肉体から異常な魔力が漂い始める…漆黒の魔力が空間から光を喰らい尽くし、空間を暗黒に染めていく。魔力が目に見えるほどに濃密な《《瘴気》》となり、抑えきれなくなった肉体から溢れ出した。
「…!?」
「…とっとと…終わらせ…て…ください」
怒りを抑えているが、隠せぬ殺意と怒気が見るものの恐怖心を針の様に貫く。そして握り締めた手は爪が喰い込んで出血してぼたぼたと血が地面に垂れる。目は血走っており、瞳孔がぎょろりと開いている。正気の沙汰ではない。
「…初めまして、私は錠の女神ハーロックと申します。禁書に施されていた封印が大規模な魔力暴走で異常が発生したとの報告があったのですが…それを起こしたのは貴方ですか?」
「………あれが……何か…?」
「…あれによって危険な禁術の記された禁書の封印が破壊されてしまったのです」
それを聞き、煌矢の悍ましい瘴気から薄れていく…
「……あ……すみません…多分…俺の…せいです」
瘴気の隙間から生気の失せた表情を見せる煌矢は何処か弱々しい声だ。
「…いいえ、禁書の危険性は貴方の魔法で消えていったと考えられます。責めるつもりはありません。席を外していただいても構いませんよ。」
「…失礼…します…」
煌矢は部屋に向かってふらふらと戻っていく…それと同時に空間を埋め尽くそうとしていた漆黒の帳が煌矢に吸い寄せられ、晴れていく。
「……怖ぁ…!?」
「うん、ハーロックより怖かったかな」
「…ファトゥール、あんな化け物を何処で見つけて来たんです?」
「え?私達の世界から下界に続く回廊に漂ってて…」
ハーロックは考えを巡らせ始めた。
「これほど膨大な魔力…それこそ瘴気に変質する程の力を全て喰らい尽くすなんて、魂が耐えられる筈が無いのに…」
「…ファトゥール、とんでもない厄ネタ拾ったもんだね」
「いやぁ…それ程でも…へへ…」
続




