第2話 暗がりの明晰夢
悪夢の中で目覚め、任されたのは神様のお手伝い…そんな状況は煌矢の現実では有り得ない事態であった。
「どーしよ…」
改めて周りを見渡すが、窓も電気も無い部屋だ。陽の光は一片すら無い暗闇である。
手元にあるロウソクの頼りない灯りだけの部屋には生き物の気配一つすらない。
(…僕は夜目がかなり利く方だから良かったが、普通見えないだろ)
昼夜逆転が日常茶飯事となっている煌矢はロウソクを片手に暗闇を歩き始める。
(…衣食住は提供するとか言ってたが、倉庫とか何処かに…あ)
ファトゥールから渡された小さなベルの存在を思い出し、ポケットから取り出す。
(確か眷属を呼ぶとかなんとか…)
軽く鈴を揺らすと、カランカランと音が鳴り…
淡い光と共に何かが姿を現した。
「お呼びでしょうか、煌矢様…む?」
喋るカラスだ。どこからかやって来た様だが、辺りが暗すぎてキョロキョロとしている。
「ここだよ」
「クワァッ!?」
驚きのあまり、カラスらしい声が出てしまっていた。
「えー…失礼致しました。
ワタクシはファトゥール様の眷属、帷鴉とばりがらすのカルシノクでございます。」
「ご丁寧にどうも…驚かせて悪かった」
「いえ…ファトゥール様は話を端折り過ぎる所が有りますから」
(部下から見てもあの女はポンコツって訳か…)
「さて、部屋が暗いままでは落ち着かぬでしょう」
そう言うと、彼は翼を広げて構えを取る。
「むん…!」
カルシノクの足下から魔法陣が現れ、光の球体が空間に灯る。
「おぉ〜…」
思わず溢れた感嘆の声に、カルシノクは照れくさそうに話す。
「大した術ではございませんよ、理屈を一つずつ紐解いてけば煌矢様も簡単に出来る様になりますよ。」
「そうは言っても、僕の世界じゃあ魔法なんておとぎ話の中にしか見られなかったからなぁ…実際にこの目で目撃すると、やっぱり嬉しくなるよ。」
正直な所、ファトゥールが僕に使った力は分かりづらかった。
カルシノクの使った光の生成は、視覚的に魔法という概念を体感させてくれた。
(…あの女神様はもしかして単なるアイドルなのか?)
大広間の椅子に腰掛け、話を再開する。
(さて…何から聞いたものか)
「ひとまず、仕事の内容を再確認させて貰いたい」
「かしこまりました」
「女神様からは、エヴァナテウスを探し出せと命じられたけれど…」
「…それ以外については何も聞いていないのですか?」
「えっと…それ以外にも何かあるのかな?」
それを聞いたは翼で頭を抱える様にうなだれる…
「ファトゥール様…!言葉足らずなんて次元じゃありませんよ…!?」
(…なんか普段から大変そうだな)
「…失礼致しました。しかし、そうでしたか…概要から改めて説明致します。
煌矢様はファトゥール様に選ばれた現人神あらひとがみとして、ファトゥール様の役割を代行する事になります。人々の捧げた供物などに応じて神託や恩寵を与える事などが主な仕事となります」
(…やり方とかさっぱりなんだがね?)
「…そして、大罪人エヴァナテウスについてです。
エヴァナテウスは友であった戦神スクルフィアス様を殺し、転魂てんこんの炉ろを盗んでこのアズラトゥスへと逃げて来たのです」
(ファトゥールの話と大体同じだな…)
「スクルフィアス様はアズラトゥス六角神ろっかくしんという、アズラトゥスの神々の中でも頂点に位置する高位の神格です。その一角であるスクルフィアス様が亡くなられた事で、アズラトゥス六角神の座に一つ空席が出来たのです」
「成程…エヴァナテウスを捕まえて、神器を持ち帰ったら昇級って訳か…」
「はい、煌矢様は今回の作戦の一員としてスカウトされた形になります」
話は思っていたより単純だった、要は賞金首を取っ捕まえて昇級って事だ。
(神様も現金なものなんだな…)
「それにしても、顔とか特徴が分からなくっちゃな…写真とかあるかな?」
「絵でしたらこちらに…」
虚空から開かれた空間から一枚の絵が渡される。
「おおお…え〜と…どれどれ?」
肖像画には、険しい表情でこちらを睨む中性的な白髪の若者が描かれている。
「コイツが…エヴァナテウス…」
続




