第四十一回
瑠璃色の虚無、地図の終焉
ジブラルタル海峡の荒々しい潮目を越えると、不気味なほど穏やかな瑠璃色の海が広がっていた。
マヨルカ島。かつて数多の航海士がこの島で海図を買い、未知の海へと挑んでいった。だが百名の幽霊のような船員を乗せた四隻の船団を迎えたのは、楽園の歌声ではなく、完成されすぎた都市の沈黙だった。
(下書き:ここは、すべてが清書され尽くした「完成された物語」の中だわ)
恐怖を失ったビアンは、嵐も岩礁も厭わずに接岸した。マヨルカの美しい街並みは映らない。石材の密度と人の流れのベクトルが、冷徹な格子状のデータとして認識されているだけだった。
港の近くにある古びた工房を訪れた。伝説的な地図制作者の末裔が営む場所だ。老いた主人がビアンを見て驚愕に目を見開いた。言葉の意味は分からないが、驚愕の振動が鉛筆を通じて脳に突き刺さる。彼はビアンが手に持つ、雷に焼かれ真っ黒に歪んだ鉛筆を、畏怖の眼差しで見つめていた。
震える手で、一枚の空白の地図が差し出された。どの銀のペンでも、どの王の法でも書き込むことができない、この世の真理を映し出すための羊皮紙だった。
地図を広げた瞬間、周囲の空気が歪んだ。銀の仮面を被った騎士たちが工房を包囲する。ビアンの鉛筆がこの地図に触れれば、彼らが作り上げてきた支配の記録が下書きへと格下げされてしまう。
(下書き:邪魔をしないで。私は、この旅を「完結」させなければならないの)
もはや握っている感覚さえないまま、最後の一欠片となった消しゴムを地図の表面に叩きつけた。
キュリ、キュリ……!
代償として剥がれ落ちたのは、時間の連続性の記憶だった。過去・現在・未来という順序の概念がすべて消え去る。今この瞬間がパタゴニアの冬なのか、釜山の出発の日なのか、それとも遠い未来なのか。すべての記憶が同時に存在し、同時に消えていく。
引き換えに、空白の地図にビアンの三年の航跡が、まばゆい光の線となって浮かび上がった。どの海図よりも正確で、どの王が欲した記録よりも深淵な、真実の地球の姿だった。
その光が放たれた瞬間、騎士たちの銀の鎧がボロボロと崩れ落ちた。時間を超越した視点から、彼らの存在の綻びが消去されたのだ。
豊山犬がビアンの足元で立ち止まり、工房の入り口を向いて低く唸った。それが過去の唸り声なのか今のものなのか、ビアンにはもう分からない。それでも犬はそこにいた。
ヨンギがビアンの腕を掴んだ。何かを叫んでいるのは分かる。だがそれが三年前の別れの声なのか、今の労いなのか判別がつかない。
味、色、匂い、温もり、言葉、恐怖、そして時間さえも捧げた。残されたのは、世界という球体を完璧に把握した、透明な魂だけ。
船団はマヨルカを離れ、最後の一周を閉じるために動き出した。東へ、あるいは西へ――彼女にはもうどちらも同じだった。




