第ニ十ニ回
麗島沖の掌上国
眩い陽光が、閉じた瞼を刺した。
ビアンが目を覚ますと、そこはただの砂浜ではなかった。鬱蒼とした熱帯の植物が巨大な壁のように周囲を囲み、遥か上空では極彩色の鳥たちが甲高い不協和音を響かせていた。
(下書き:この場所は、朝鮮から遠く離れた南の果ての島だ)
台湾の沖合。古の記録に「フォルモサ」と記されたその海域は、王宮の銀のペンが定めた理法が届かぬ、野性的な記録に満ちた場所だ。
「動くな、異邦の巨影よ!」
足元から響く声は驚くほど鋭かった。珊瑚を削り出した精巧な戦車を腕ほどの小動物に引かせた小人の将軍が、ビアンの爪先をペンの剣で突き立てていた。
彼らが築く国、『珠瑠国』。波打ち際のサンゴ礁に構えられた精密国家だ。海流の動きも潮の満ち引きもすべて記録される法であり、漂着したビアンは、その完璧な計算を乱す「巨大な誤字」に他ならなかった。
「お前の存在が、我が国の海流計算を三歩狂わせた」
将軍が小さな貝殻に刻まれた潮の運行表を突きつけた。そこには銀のインクではなく、太陽の光を浴びると色を変える感光インクで文字が並んでいる。
ビアンは懐から鉛筆の芯を取り出し、砂の上に走らせた。
(下書き:この島の風には、もうすぐ訪れる「大渦」の予兆がある)
「我らの記録に、そのような予兆は記されていないぞ!」
将軍が嘲笑おうとしたその瞬間、鉛筆が引いた綻びの線の先に、不気味な黒い雲が湧き上がった。
「記録がすべてではありません。鉛筆は、まだ書かれていない次の頁を予感させるもの」
ビアンは巨大な体を屈め、将軍と視線を合わせた。
「あなたの国の精密な記録を守るために、私の下書きを貸しましょう。その代わりに、この海域を通る船の、本当の航路を教えてください」
小さくも誇り高い珠瑠国の民が持つ「海図の原典」と、ビアンの「綻びを見つける知略」。二つの記録が重なり合った時、王宮をも揺るがす陰謀の影が、波間から姿を現そうとしていた。




