第十回
再会の火花、潜入の掟
「不合格だ。直ちにここを去れ」
監察府の広場に冷徹な宣告が響いた。嘲笑の中、ビアンは震える手で古びた書物を掲げた。
「監察府規則、第十七条。――試験の結果に疑義がある場合、王妃殿下もしくは提調尚宮の認可があれば、一度に限り再試験を申し立てることができる、とあります」
「な、何を……!」
「銀のペンで記されたこの規則に従い、正当な権利を主張します」
どよめきの中、奥からチョン尚宮と仁顯王妃の使者が現れた。異例の再試験が決定する。
「次は負けられませんよ。あなたの鉛筆が、この国の記録を正すものだと証明しなさい」
ビアンは夜を徹して書物と向き合う決意を固めた。
猛勉強の最中、ビアンは行方不明のジョンチョルの足跡を追っていた。だがその背後に、ヒジェの刺客が迫っていた。
「銀の筆致を乱す羽虫め。ここで消してやろう」
虚空を切り裂く重圧がビアンを襲い、手にしていた鉛筆が真っ二つに折れた。
(下書き:私の命は、ここで終わらな――)
鋭い剣閃が銀の文字を打ち砕いた。
「六年経っても、危なっかしいのは変わらんな」
逞しく成長したチャ・ジョンチョルが立っていた。
「ジョンチョル……おじさん……!」
「立て、ビアン。お前の下書きはまだ続いている」
再会を喜ぶ間もなく、二人は闇の中へと消えた。
同じ頃、都に清国の使節団が到着した。その行列の陰で不穏な噂が流れる。通訳のキム・ユンダルが、宮廷の秘宝を密輸しているというのだ。
「女官が関与している疑いがある。監察府の手で拭い去れ」
最高尚宮の厳命が下り、慕華館への潜入捜査が始まった。ビアンにとって、再試験の合格を証明する最初で最後の実地任務だった。
「失敗すれば、二度とこの門を潜れない。いいわね」
冷ややかな視線を浴びながら、ビアンは女官の衣装に鉛筆を隠し持った。
夜の慕華館。華やかな宴の裏で、ビアンはキム・ユンダルの私室へ忍び込んだ。表向きの帳簿とは別に、水で濡らさなければ見えない秘密の記録が隠されていた。
(下書き:この余白に、消された取引の跡がある)
鉛筆の芯を砕き、粉を紙面に振りかける。浮かび上がったのは、密輸品の名だった。
「……編馨の石? なぜ、楽器の石が密輸されているの」
廊下から重い足音が近づいた。
「誰だ、そこにいるのは」
扉が開く。現れたのはキム・ユンダルと、「蝶の鍵飾り」を持つ女官の影だった。
ビアンは息を殺し、暗闇で消しゴムを握りしめた。見つかれば、再試験どころか、彼女の存在そのものが歴史の余白に葬り去られてしまう。




